2-19
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ブラックウコーンダンジョンも佳境となってきました。
3日目。とうとう運命の日がやってきた。
皆がギルドの広間に集まっていた。
朝特有の冷えた空気が部屋を包んでいた。
俺はクライフと一緒に部屋から出て行った。
昨日宴中に、クライフに呼ばれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クライフが顔を横に向けたまま近付いてきた。
な、なんだ? アイツどうしたんだ? 急に寝違えたか?
「ひ、ヒロト……」
「な、なんだよ」
眉を歪めて、長く息を吸っている。本当にコイツ、どうしたんだ? 変だぞ。
うなじを掻きながら、話し始めた。
「ひ、ひろ……ヒロト。作戦についてなんだがな、一緒に考えないか?」
「俺が?」
「まあ、そのなんだ。ウコーンの身体的特徴を利用した倒し方を実践したのは、お前とソングしかいない。ソングは馬鹿だから、作戦会議なんてしていると即効寝てしまうだろうからな」
「それは想像に困らないな」
「こんなことになって、俺はお前がもっと泣き喚くと思っていたよ。なぜ俺を助けないんだってな」
「なんだよ、それ」
「ああ、俺が誤解をしていた。すまない」
今日一日でクライフは自分の事を「馬鹿」と言い、感謝までして、さらに謝罪までした。
ただ、謝るクライフの表情は真剣そのものだった。
クライフはプライドが高い。だが、何かを成す為にプライドが邪魔をするであれば、平然とそのプライドをも捨て去ることも厭わない思いっきりの良さも合わせて持っている。
今日そんな新たなクライフの一面を見れた気がした。
俺も変な意地を張らずにクライフの心意気に応えないといけないんじゃないだろうか。
「俺はな、ウコーンを捕まえる為なら、なんでも協力するよ。 クライフ」
「ああ。頼む」
ルービーの入ったジョッキで乾杯した。
初めてクライフと心を通わせた気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「クライフ。眠れたか?」
ハンマーフォールさんがそうクライフに聞いていた。
「全く寝れませんでしたね。あなたもでしょ? ハンマーフォールさん」
「お前があんな無理難題を俺に押し付けやがるからな」
無理難題?なんだい?それは。なんつって。
「ヒロト。俺たちばかりが頭を使って、この人はのうのうとしている。そんなのおかしいと思わんか?」
「はあ」
「それで、今日のパーティをハンマーフォールさんに決めてもらったんだよ」
「それで、眠れなかったと言ってたのか」
クライフが吹き出すように無邪気に笑った。クライフはこんな笑い方もするのだ。
昨日作戦会議の為、二人で部屋にいた時に気付いたことだ。
「あの人は、いつも豪快だ。だが、それだけではギルドの長は務まらん。誰にだって優しさを忘れずに接してきたんだ。俺に厳しくなれと言ったものの、あの人自身ギルドのメンバーには甘々だからな。お灸を据える意味でも1つ悩む苦しみを与えてやったという訳だ」
作戦会議と言っても、昨日は俺が先に眠らせてもらった。クライフはその後も起きていたようだった。
眠たいはずのクライフは微塵もそんなことは見せず、他のメンバーに指示を出している。
こんなに逞しい奴だとは知らなかった。
「昨日話した通り、20人程揃えておいたぞ。ランクC以下しかやったことのない奴等だ。そしてお前が注文した条件にも合っている。この20人は好きに使っていい」
「ああ、助かるよ」
「あと、ソングだけではやはり心もとないんで、ハンマーフォールさんの手配でヴァンデン・プラスも付けるからな」
「ヴァンデン・プラスも!? 良いのか?」
「俺たちはお前の作戦に賭けることにした。それだけじゃ足りない範囲をハンマーフォールさんと俺とでカバーしてやる。自信持ってやってこい!」
「言われなくても、そのつもりだ」
ギルドのメンバー全員で上級モンスターが棲む山へ向かった。通常の山は緑を基調としているが、この山は全体的に黒い。生い茂る葉も黒い。地面も黒い。
俺たちの狙いは、ブラックウコーン。
最弱モンスターと言われるノーマルウコーンの色違いだ。黒が厄介で、山と同化するので、見つけるのにも苦労するという。
このブラックウコーンがあまりにも俊敏で捕まえることに困難するらしい。なにしろ俊敏さはレッドウコーンの3倍ときた。
誰が測ったのか、とツッコみたくはなるが、それを俺たち全員は死に物狂いで捕獲することにした。
俺はウコーンの弱点をシルファのおかげで知った。そのおかげか、ウコーンの弱点を存分に活用する作戦をクライフと練った。
ギルドのメンバー20名は、その作戦を実行する為に扱わせてもらうことになった。
こんなにトントン拍子で進められたのもソングさんがハンマーフォールさんに昨日、狩りの帰りにベラベラと喋ったからなのかもしれない。
それにソングさんの「あの笑み」。こうなることを予測していたのか?
いやいやあの馬鹿ソングの兄貴にそこまでの知能など存在するはずがない。
しかし、意外と冴えた所があるのかもしれない。
「ソングさん」
「なんだ?」
「狩りからの帰り際、ソングさん無駄にベラベラとハンマーフォールさんに山へ行くことを話ししたでしょ?」
「お前は『無駄に』とか『ベラベラ』ってなぁ。もっとマシな言い方はできねぇのか?」
「じゃあ、あれはハンマーフォールさんをその気にさせる為にワザと……?」
「はあ?! 何のことだ。お前、やっぱり頭おかしいんじゃねぇのか?」
ソングさんは相変わらず、馬鹿そうな顔をしている。やはり、俺の考えすぎなのか。
まぁ、ソングさんにそこまでの知能があれば、もっと簡単に事が進んでいたことも多々ある。気のせいだったんだろう。そういうことにしておこう。
俺は、20人とヴァンデン・プラスそしてソングさんと作戦会議をした。
20人には思い思いに座り込んでもらい、俺とソングさん、ヴァンデン・プラスは立った状態で話し始めた。
「そ、そんな方法で……」
「ノーマルとレッドウコーンに効いた方法が本当にブラックウコーンにも通用するのか」
昨日はソングさんの熱量に漠然と納得した彼らだったが、見もしていないことに疑念の影が付き纏っているのだろう。
こうなれば、事実を見せるしかない。
「ソングさんとヴァンデン・プラスに一度やってもらう」
俺がそう言うと、また騒がしくなった。今度は疑念でなく、不満や憎悪といった感情が波のように押し寄せてきた。
「ヒロト。お前はどこまでこの作戦に本気なんだよ。俺らだけで、ブラックウコーンなんて倒せるはずがねぇ。雑魚ばかりを集めて、結局は俺たちを囮にする作戦なんじゃねぇのか?」
そう話していた一人をソングさんが殴った。いや、俺には殴ったことすらほとんど見えなかった。相手が吹っ飛んで、ソングさんが拳を前に出していたので、そう思えた。
「お前ら、この作戦が信じられねぇのか!?」
俺はソングさんを手で制した。そして、待ってもらうよう目を見て頷いた。ソングさんも察したのか、顔を背けて舌打ちをした。
ありがとう、ソングさん。
だが、皆の感情も無理はない。俺だって策なくブラックウコーンなんかに立ち向かいたくない。
策があったとしても信用できないようなものじゃ、尚更だ。
ここは俺が自分の言葉で話さないと駄目だ。
そうしないと彼らもこの作戦を信じて戦えない。
俺が話そうとしても数人は俯いたままだった。別の数人は明らかに嫌そうな顔をした。
「ライトブリンガー家に招かれた時に俺は貴族にボウガンを射られた。それは俺がどれだけ簡単に傷を治してみせるのか見物してみたかったからという理由からだった」
当時を思い起こすだけで、身体の中からどす黒い感情が込み上げてくる。
ただ、今はそれをぶちまける時ではないので、グッとその感情に蓋をした。
「俺は奴隷のように買われることになっている事まで、その場で聞かされた。なぜ俺がこんな目に遭わないといけないのか。そればっかり考えていた」
つい最近起きた忌まわしい記憶。痛みもまだ残っている為、消し去ることなど不可能だ。だが、自分の伝えたい事だけに俺は集中した。
「ハンマーフォールさんを中心にギルドのみんなが資金集めをしてくれると聞いた時、正直ほっとした。これで俺は売られなくて済むんだって。でもその考えは間違っていた」
俯いていた数人が顔を上げた。しかめっ面をした数人は目を瞑っている。
「初日の稼ぎが発表されて、ちなみに俺は3万しか稼げなかった」
嘲笑うような嗤い声が聞こえた。無理もないだろう。
「俺は悔しかった。自分の不甲斐無さに。そして、ギルドのみんなに助けてもらっている状況に……。俺は例え自分が売られることとなろうと、このギルドのみんなと精一杯闘いたい。この国に来て何も成し遂げず、死んでいくのは嫌だ! だから俺に協力して欲しい!!」
1-1
https://ncode.syosetu.com/n1211ff/1/
この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
2-1はこちらから!
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