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2-18

 ギルドに戻ると、シルファがグティの住む屋敷へ帰ると言った。シルファが乗る為の馬車も用意されており、護衛など必要ないとシルファは固辞し、帰って行った。


 そんなやりとりを他所に早速本日の集計に入った。

 運営はヴァンデン・プラスが取り仕切っている。


 あまりの手際の良さに、することは何もないといった印象を受けた。

 何もすることがないので、椅子に座っていた。

 他に帰ってきた人もそうしていた。


「では始めようか」

 

 ヴァンデン・プラスがそう言うと、昨日同様(みな)からの報告が提出されだした。

 俺も集計を済ませた。


 全員に集計が揃うとヴァンデン・プラスが小さく咳払いを1つした。

 皆の順位を読み上げていく。

 ソングさんは2位だった。俺にあれだけ付き合ってくれたのに350万シルヴィも稼いでいた。恐るべきソングさん。


「では次、第5位。ヒロト! 120万シルヴィ」


 会場から歓声とどよめきが起きた。

 レッドウコーンはノーマルウコーンに比べて値段が膨れ上がるようだった。

 全員の稼いだ金額が読まれた。

 

「2日目は7,300万シルヴィですな」


 ヴァンデン・プラスが皆にそう告げた。

 

「とういうことはだ。2日合わせていくらになる?なあクライフ」


 ハンマーフォールさんが頭を掻きながら、面倒臭そうに言った。

恐らくこの人は計算とか苦手なんだろ。


昨日(さくじつ)が4,900万シルヴィ。本日が7,300万シルヴィなので、1億2,200万シルヴィですね。3億5,000万シルヴィを返済するには、あと2億2,800万シルヴィ足りませんね」


 一同が静まり返る。

当然だ。この2日間恐ろしい程の働きを皆やってくれているのだ。これ以上の働きを強いることは難しい。

 

「クライフ。妙案はないのか。妙案は。残り1日で大逆転できるような妙案は」


 ハンマーフォールさんが苛立った様子で組んだ足を揺らしている。


「先にもらっている5,000万シルヴィを供出します」

「足りんなぁ。なあヴァンデン・プラス」

「はい。それを入れたとしても1億7800万シルヴィ程足りません」


 ハンマーフォールさんらしくない。

 なぜそんなクライフを責めるようなことを言うんだ。


「クライフ」

「…………」


 ハンマーフォールさんが立ち上がった。

 ゆったりと、しかし力強く歩き、クライフを通り過ぎる。

 通り過ぎた所で歩を止める。ちょうど背中合わせのような状態だ。


「意気地が足りねぇな。よおクライフ。そんなに仲間を危険に晒すのが怖いか。お前もしかして始めから諦めちまってんじゃねぇのか?」

「そ、そんなことはありません……!!」


 クライフが(うつむ)く。悔しそうだ。こんなクライフは見ていられない。

 俺が……、俺が言うんだ!!


「ハンマーフォールさん、クライフ。少しだけ話を聞いて下さい」

「駄目だ。今は黙っていろ」

「黙りません……!!」

「なんだと?!」


 ハンマーフォールさんが近付いてくる。覗き込むようにして、あの鋭い眼差しが俺に向けられた。

 今までの俺だったら、こんなの絶対耐えられない。おしっこ確実にちびる自信がある。

 だけど……、だけど、俺は守られてばかりじゃ駄目なんだ……!!


「ハンマーフォールさん、1度だけ。1度だけでいいんです。ヒロトの話を聞いてやって下さい」

「ソングさん……」

「ソングまで。分かった。1度だけだ。もし、しょうもない話でもしてみろ。サラの小娘に殺されるまえに俺がその細首へし折ってやる」

「はい……」


 俺はウコーンの身体的特徴について説明をした。そして、下り坂に弱いことも。

 皆は半信半疑のようだ。だが、ソングさんも一緒に説明をしてくれた。

 ただ、ソングさんの場合擬音が多すぎるので、その熱量が伝わるだけだった。

 ソングさんの話を聞いていた皆は、内容を理解するよりもその熱量で「本当の事なんだ」と納得した。


「なるほど。それでソングは狩場で山へ行くと。そういうことだな? ヒロト」

「はい、ハンマーフォールさん。今日中に二人で検証をしようと思っていました」

「検証をするにも二人では危険だ。今日の所は帰ってきて正解だった」

「ハンマーフォールさん。確証はできないですが、ブラックウコーンを大量に狩れる方法はこれしかないと思います。ここまでみなさんに頑張ってもらったんだ。俺はみなさんの為にも絶対に諦めたくはない」


 俺は内心怯え続けていたが、ハンマーフォールさんを睨むように見つめた。俺が本気だということを分かってもらわないとならないからだ。

 ハンマーフォールさんが俺の髪をグシャグシャと撫でた。俺もこの人も笑っていたように思う。

 俺はこの人を兄、いや父のように慕っている自分がいることに気付かされた。

 

 ハンマーフォールさんがクライフにまたも歩み寄る。

 

「クライフ。ヒロトの話聞いたな?」

「確証が持てないことには……」

「お前が決断しなくても、この2人は明日必ず山へ行くぜ。コイツ等どうしようもねぇ馬鹿だからよ。しかも頑固ときた。俺ももう止める気も起きねぇな。でもよ、この馬鹿2人に賭けてみねぇか?」

「それをここで断言することは……」

「もう腹を据えちまえよ!! なあクライフお前も男見せろ。こいつらはお前に守ってもらわなきゃならねぇ程弱いか?!」


 俺はクライフに近付いた。


「クライフ。俺は例えライトブリンガー家の舐めた小娘の所に行かされようと文句は言わない。ただ、こんなに頑張ってくれたみんなと最後までやり切りたいんだ!! 頼む。頼むよクライフ!!」

「俺は馬鹿だからよ。またヒロトを大変な目に遭わせちまうかもしれねぇ。俺はヒロトを信じて最後までヒロトと一緒に狩りしてやりてぇんだ! 後生だ。決断してくれ」


 クライフが俯いたまま唇を噛んだ。眼に涙が浮かんでいる。今にも零れ落ちそうだ。

 その時、ハンマーフォールさんがクライフの両頬を掴み引っ張った。そして顔をもみくちゃに触りまくった。


「や、止めてください。ハンマーフォールさん!」

 

 それでもハンマーフォールさんは止めようとしない。


「止めろって!!」


 クライフがとうとう怒って、ハンマーフォールさんの手を振り払った。


「あんたは、いっつもしつこい!」


 ハンマーフォールさんは目を丸くした後、いつものようにガハハハと豪快に笑いだした。


「覚悟は決まったか?」

「ええ。ハンマーフォールさん。こんな馬鹿野郎どもを心配した自分が馬鹿でした」

「おお? クライフが自分のことを馬鹿って言ったぞ。聞いたかソング」

「へへへ。クライフも馬鹿なら俺のお仲間ってことだ」

「ソング。馬鹿と認めて言った訳ではない。それぐらい分かれ。ただ、今回ばかりはお前の馬鹿さ加減に助けられた。感謝する」


 ソングさん、そしてギルドのメンバーが静まり返った。驚いているようだ。


「おいおい、クライフが自分の事を馬鹿と言っただけでは飽き足らず、とうとう俺に感謝までしたぞ。こりゃ明日なんかあるぞ!」

「何かを起こしてもらわなければならん。ヒロト、お前も助けてもらおうなんて一瞬でも考えていたら、俺がぶっ飛ばしてやるからな」

「クライフ。俺は自分が売られる不条理に激怒した。だが、今は違う。俺は少しでも長くここのみんなと精一杯狩りがしたい」


 クライフが頷いた。俺もなぜか頷いた。少し前までクライフのことがあれ程許せなかったのに……。人は変わるものだ。

 ハンマーフォールさんが豪快に笑っている。一足先にルービーも煽っているようだ。


「作戦は俺が考える。いいかお前ら! 明日に備えて、喰えるだけ喰え! 支払いは全てハンマーフォールさんにツケる!!」


「「「おおおーーーーー!!!!!」」」


「おいおい俺にツケるのかよ」

「当たり前でしょ。あなたが変なことを言うからこんなことになってしまったんだ。これでも安いぐらいだ」

「言うじゃねぇか!!」


 ハンマーフォールさんがクライフの髪をグシャグシャにし、大きく口を開け、笑い出した。


「すまねぇな。俺もソングと一緒で馬鹿でよ」

「知っていますよ」


 ガハハハ。


 絶望的状況だけど、必ずなんとかなる。こんな良いギルドなんだ。絶対なんとかなるよ。


 宴会の準備が瞬時に整った。こうなることをララーさんは分かっていたのかもしれない。

 皆がどんちゃん騒ぎを始めた。ルービーも浴びるように呑みだした。

 

――――最後の晩餐……


ふとその言葉が脳裏を()ぎった。直後ソングさんにルービーを頭から掛けられた。人を馬鹿にするように笑っている。

この人に馬鹿にされること程屈辱的なことはないけど、それで不安が少し消えた気がした。


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