1-3
「ガチャターイム!!!」
「!?!?!?!?!?」
「RPG神からのせめてもの餞じゃ。感謝するのじゃな。じゃが、リセマラはないぞ。フォフォフォフォ。ガチャ☆ ターイム!!」
神の手にはちょうどその掌に収まるサイズのガチャポンがあった。
「な、なんですか?! それは」
「ふぉふぉふぉ。お主が、一番分かっておるじゃろい。このこの」
この神は時折、中学生みたいなノリをしてくる。
「お主が大好きなガチャじゃよ。リセマラは無いからの」
ガチャが好き……? スマホゲー的なヤツのことかな? てか、さっきからリセマラリセマラうるさいなぁ。
「ガチャ☆ ガチャ☆ ターイム!!!」
「ほれ」と促されるがままにガチャを回した。
コロリと出てきたカプセルが一瞬光った。そしてカプセルは銅のような茶のような色が付いた。
神がノリノリでカプセルを回し開ける。開け慣れているのかいとも容易く開けた。
「おお!! これは!!」
そう言ったまま、こちらをチラチラと伺ってくる。あきらかに勿体ぶっている。
ここは乗るべきか乗らざるべきか。思案した末、俺が出した答え……それは。
「な、なんですかっ?! き、気になるな~」
神が肩を揺らしながら笑う。神じゃなかったら……、おっと、これ以上は思わないようにしておこう。心が読まれる。
「ガチャの結果は『1日に1度生き返れる能力』とのことじゃ!!」
「え……うん? 不死身って訳じゃないんですか?」
「ご利用は計画的にな! ホレ」
そう言って、ガチャに同梱されていた紙を手渡してきた。
そこにはこう書かれていた。
『1日に1度生き返れる能力』とは?!
・1日に2度目は死ぬと生き返らぬぞ! ご利用は計画的にな☆
・この紙は武器へと形を変えるぞ! ご利用は計画的にな★
・ご利用は計画的に。じゃぞ☆
何も説明になっていない。恐らく「ご利用は……」の件を言いたかっただけだろう。
そう思って、紙をポケットにしまい込んだ。
「ちなみに聞きたいんですが、この能力のレア度は?」
「は?」
「ガチャだから、レア度とかあると思ったんですが」
「う~ん。それ聞く? へこまない?」
「ああ、いや、いいです」
たぶん、そんな良い能力じゃないんだろう。残念なことだが。
「それじゃあの。お主が行くのはゲームの世界ではなく、リアルな世界じゃ。努々クリアよろしくの」
「え……? ちょっ、あの、それだけ……。え?」
急に床が無くなった。何かに吸い込まれるように落ちていく。
真っ白だった世界が一転、暗闇になった。
何も見えない。ただ、まっ逆さまに落ちている。怖くてとりあえず眼を瞑った。
バン!
どこかに落ちたようだ。木目の感触があった。
今日は色々な所に飛ばされる。もう疲れたよ!
「イテテテ」
弱い明るさは感じるが眼は閉じたまま、うつ伏せの状態であたりを弄った。
すると、小さな暖かいものが手に触れた。確かめるとそれが小さな手であることが分かった。
伏せたままで顔だけを上げ、眼を開けた。
その小さな手は少女のものであった。
歳は10歳ぐらいであろうか。
俺は自分の色彩感覚が錯覚を起こしているのではないかと思い、目を数度擦った。
薄暗く閉ざされた場所であるのに、少女の髪の毛が黄金に輝いているかのように見えたのだ。
いや実際に少ない外からの光を集めてキラキラとしている。幼子特有の髪のキューティクルであろうか。
触ってみればより、分かるのだろう。
溶けるように1本1本が細く、水分に満ちた髪がサラサラと靡くに違いない。
次に俺を驚かしたのは、その少女の大きな瞳だ。
エメラルドグリーンの宝石のように輝く瞳は、瞬きをしなければそれが完成度の高い人形かと思う程である。
美しいものを見ると人は、「見つめる」ことから「観察」へと知らぬまに移行するらしい。
彼女の瞳のキレイさは、まるで一流の彫刻家が仕上げたような瞼。
そして下瞼の造形美が一層瞳の美しさを際立てている。
全体を観察していると違和感があった。
白の刺繍が多く施されたドレスは見るかに高価そうではある。しかし、袖や肘、裾や膝あたりが汚れているのだ。
彼女が人形でないことを確認する為にも話しかけようとした。その時、後方からの怒鳴り声が聴覚を刺激した。
「お前、どこから降ってきた!!!」
慌てて振り向くと俺はまたまた驚くこととなった。
怒鳴ってきた輩は、二本足で立ってはいるものの、顔がトカゲだった。甲冑から通した腕も爬虫類特有の皮膚である。
その後ろには、ネコ科の獣の顔をしたこれまた二足歩行の生物が甲冑を着てこちらを睨んでいる。ネコ科なだけあって、甲冑からはみ出した部分は全て毛に覆われていた。
2人とも西洋風の両刃剣を腰にぶら下げている。
獣人……!!
少女がこの獣人二人にひどく怯えているように思えた。
こんな可愛らしい健気な子を護らずしてなんとするのだ。
この宝石のような少女を護る。直観的にそれが俺の使命だと感じた。
両手を広げ、獣人と少女の間に立ち塞がった。
正気が戻ってきて分かったのだが、ここは馬車の中らしい。
この箱が移動していることと、程よい振動。そして時折聞こえてくる馬の嘶き。状況判断をすれば、自ずと答えは導き出される。
よし、俺の頭冴えているぞ!
「お前、何者だ? どこから降ってきた?!」
ネコ科の男が聞いてきたが、俺は一切答えなかった。この子を護るんだ!! それしか考えなかった。
しかし、護ると言っても、どうやって護ればいいのか。俺は武器なんか……、そうだ! 神が武器を与えてくれていた! あの紙が武器に変わると言っていたじゃないか! やはり今日の俺は冴えている!
ネコ科の男がトカゲ男に指図した。
「やれ。邪魔だ」
トカゲ男が剣を抜き払う。俺はズボンのポケットの中を探した。
手応えがあった。これはまさしく刀の柄だ! 柄を掴み、勢い良く引っ張り出した。
とくと見よ! これが、神が与えし、伝説の剣だ!
「アハハハ!! なんだそれ? もしかしてそれが剣だと言うんじゃないだろうな」
獣人二人が俺の伝説の剣を指差しながら嗤った。
俺は自分が持つ柄を見た。伝説の剣と呼ぶに相応しく、金色で蔓や花、太陽のような装飾が施されている。
しかし、問題の柄より先の部分だが、瘤のようなものがあるだけだった。ただ、その瘤の装飾も厳かではある。
瘤を引っ張ってみた。引っ張ってみるとそれは瘤ではなく、鞘であることが解った。
鞘の中から5㎝程の刃物のような物が現れた。
「ギャハハハ!! なんだその剣は? 小人族の形見かなんかか?」
二足歩行の獣たちが俺を馬鹿にして嗤う。
俺はなんとなく、自販機であるアイス。そう、あのアイスを食べ終わった後のプラスチックの棒を思い浮かべた。
それと同時に小学生の頃通っていた水泳教室で、好きな女の子の前でフル勃起してしまったエピソードまで思い出してしまった。オウ、黒歴史……。
「はあ、笑った。じゃあ、殺すか」
獣人たちは、ゴミを捨てるぐらいの感覚で俺を殺そうとしている。
こんな所で死んでいられない。ましてや、この少女を俺は護ると今、心に誓ったのだ。
抵抗してやる。どんだけ不様であろうと、俺は抵抗してやるんだ……!!
5㎝程の刃を無我夢中で振り回した。
トカゲ男は、今度は笑うこともなく、感情の無い真顔で剣先をこちらに向け、突進してきた。
グサッ!!!
2019年1月21日改稿済