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2-16

 急ぎシルファを探さなくては……!!!

 こんなモンスターだらけの所で一人になってしまうと、いくら命があっても足りない。

 ましてやシルファは闘うことなんかできないんだ。


 俺とソングさんは草原を駆け回りシルファを探した。


「ソングさんいましたか?」

「いや、いない。お前は?」


 首を横に振った。こんなに探しても見つからないのなら、もう駄目なのかもしれない。

 俺は足手まといで3万ぽっちしか稼げない。それに加えて理解者だったシルファまで失おうとしている。


「おい」


 ソングさんに呼ばれて振り向くと、思いっきり頬を殴られた。

 殴られた拍子に吹っ飛んだ。口に手を当てると、奥歯が2本抜けていた。


「ヒロト! お前が諦めてどうするんだ! 探せ! 探し出せ! 例え結果が望んだことでなかったとしても、お前はあの子をこんなモンスターしかいない所に置いていくのか?!」


 そうだ。これまでどれだけシルファの世話になってきた? 絶対諦めないぞ。彼女を見つけ出すまでは!! 例えどんな状況でも。

 3万しか稼げず、シルファまで見つけられない。そんな自分が悔しい。せめて彼女だけでも!!


 モンスターを倒すことはそっちのけで、俺とソングさんはシルファを探し続けた。

 いない。どこにいるんだ。


 その時、丘の向こうから悲鳴が聞こえた。

 声だけで分かる。間違いない、シルファだ!


 よかった、まだ生きてるっ! どうか間に合ってくれ! 声の聞こえた方に全速力で駆けだした。


「ヒロト焦るな! 俺が先に行く! 」


 ソングさんがそう言って、追い抜いて行った。

 シルファが見えたと思ったら、レッドウコーンに追いかけられていた。

 シルファは必死に走っているようだったが、レッドウコーンとの距離は縮まる一方で、突き殺されるのも時間の問題といったところ。


「ソングさん! シルファがっ!」

「くそっ! 間に合えぇぇ……っ!!」


 前を行くソングさんの背がさらにスピードを上げ離れていくが、あと一歩シルファのところまで届かない。

 シルファがレッドウコーンに追いつかれる…。そう思った時、シルファが急勾配な下り斜面に差し掛かった。

 シルファは止まることもできず、斜面で座り込んでしまった。ただ、走って来た勢いがあった為、正座の状態で滑って行く。


 レッドウコーンはシルファを突こうとした瞬間、シルファがしゃがみこんだ為、バランスを崩す形で斜面に突入した。駆けようとするも、前脚が空回りして転びながら滑り落ちた。


 そこへソングさんが到着。座り込んだシルファの横をレッドウコーンが横転した状態で滑り落ちてきた。

 シルファを抱きかかえ、自分の後背に移した。その間もレッドウコーンは起き上がらなかった。

 ようやくレッドウコーンがモゾモゾとし出した瞬間、ソングさんがレッドウコーンの首元に剣を刺した。

 ソングさんも焦っていたようで、血が噴水のように噴出した。頭から血をシャワーのように浴びる。

 それに気付いたシルファがソングさんの顔を持っていたハンカチで拭った。


「お助けいただき、ありがとうございます」

「と、ととと当然のことを、し、したまでだ……!!」


 ソングさんの声が上ずっていた。ハンカチで顔を拭ったはずなのに、顔が赤いような気がする。

 シルファが微笑むと、ソングさんが顔をより一層赤くし、身体ごと(そむ)けてしまった。


 先程の緊迫感から一転、どこか微笑ましい光景を前に、俺は声も無く立ち尽くしていた。先ほどの光景がチカチカと繰り返し脳裏をよぎる。



 ――――シルファ……


 気付いたら俺はシルファを呼んでいた。その後、自分でも想像をしていなかった言葉が口をついて出た。


 ――――もう一度、モンスターに追われてくれないか?


 ソングさんが噴火する程、顔を紅に染めた。と思ったら、胸倉を掴まれていた。


「ヒロト! お前シルファさんをなんだと思っている!? やっと助かったんだぞ」


 なんでこんなことを言ってしまったのか。自分でも解らなかった。解らなかったが、ナニカ(・・・)を感じた。そして、その感じたナニカ(・・・)は、もう一度見ることで、解るような気がした。

 俺はソングさんに胸倉を掴まれながらも、また言わずにはいられなかった。


「頼むシルファ。あと一回だけ。あと一回だけでいいんだ」

「また、くだらないことを……!!」


 ソングさんが右の拳を天高く上げた。

 殴られるのかもしれない。また奥歯が抜けちゃうのか。嫌だけど仕方がない。


「わ、解りました……!!」


 シルファが声を絞り出すように言った。顔には不安の色が満ちている。


「あと1回、同じことをすれば、ヒロトさんはウコーンを倒せるようになるん、ですね……?」

「ああ、そうだ。シルファ」


 シルファは意を決した表情で頷いた。


(わたくし)はヒロトさんのお手伝いをする為に、お(いとま)をいただいております。これはきっとあなたのお役に立てることなんでしょう。ヒロトさん、よろしくお願いします」

「何を馬鹿な事を言ってやがる。なぁヒロト。本当に大丈夫なのか? おい。シルファさんに怪我は絶対ないんだろうな!?」

「そんなに心配ならソングさんはここに居て下さい。いや、ここに居てもらわないと困ります。俺一人でレッドウコーンを倒せることを証明しないとなりませんから」

「なに!? たった一人でレッドウコーンを倒すだと?!馬鹿も休み休みに言え!!」

「倒せます! たぶん」


 歯切れの悪い俺の言い方にソングさんが必死に我慢してきた堪忍袋の緒が切れた。


「たぶん?! そんな危険な作戦にシルファさんを巻き込むのは絶対許さねぇぞ!!」

「ソングさん、ここはヒロトさんを信じましょう」


 シルファがそう言い切るものだから、ソングさんもとやかく言い難くなり、不貞腐(ふてくさ)れてしまった。しゃがみ込み、枝を持っていじいじと地面に丸や三角を書いている。


 すみません。ソングさん……。


 シルファにレッドウコーンに追われる際の注意点を教えた。

 シルファはぎこちなく笑った。やはり恐さがあるのだろう。身体が強張っているようにも見える。

 

「シルファ、嫌ならやらなくてもいいんだ」

「いえ、やらせていただきます」


 一度決心した女性は強い。シルファの意外と頑固な一面を垣間見た気がした。


「じゃあ、頼む!シルファ」


 シルファが頷き、去って行った。

 程なくしてシルファがこちらに向かって駆けてきた。

 後ろにはレッドウコーンが2羽もいて、シルファを追い回している。


「ああ。シルファさんレッドウコーン2羽にも追いかけられているよ。見てらんねぇ。俺は行くぞ」

「大丈夫です。シルファは無事です」


 シルファがまた斜面に差し掛かった。案の定へたり込んで、座った姿勢で滑って行く。

 シルファを追いかけていたレッドウコーンが足を宙に浮かせた後、バランスを崩し滑り落ちてくる。


「今だ!」


 俺はシルファたちが滑り終わるであろう地点まで走っていった。

 それと時を同じくしてシルファとレッドウコーンたちが滑り落ちてきた。

 滑りきっても立ち上がれずにいるレッドウコーンの首を剣で掻っ切った。

 一度、痙攣するように4本の足をピンと伸ばした後、レッドウコーンの瞳に光の色がなくなった。

 もう1羽も同じように首を掻っ切った。


「ほら、倒せました」

「こ、こんなにあっさりと。さっきと一緒じゃねぇか。なんでウコーンは転んだんだ?」


 ソングさんが近寄りながら、問いかけてきた。

 俺はウコーンの後ろ足、そして前足を交互に伸ばしてみた。

 

「ソングさん、これを見て下さい。後ろ足は前足の2倍以上長いんです。前にテレビで見たんですけど……」

「テレビ? なんじゃそりゃ?」

「ああ、ああ! ひ、東の国にある、こ、こっちでいうところの掲示物みたいなものですかね」


 テレビって掲示板みたいな役割でもあるよな?間違っていない。嘘は付いていないぞ。


「動物は、比較的こういったウコーンのような生物は斜面を下るのが苦手だそうです。俺も本当か怪しかったのですが、試してみて良かったです」

「ヒロト。お前今、試したって言ったな。結果が良かったからいいようなものを」


 やはり、ソングさんはシルファを危険な目に負わせたのを怒っている。

 だが、やはりシルファに追いかけられ役をやってもらって良かった。

 ソングさんがやっちゃうと、馬鹿だから恐らく追いつかれる前にレッドウコーンを殺してしまう。馬鹿だからなぁ。愛される馬鹿だからなぁ。


「ソングさん、山で狩りをしませんか?」

「山?ヒロト、お前レッドウコーンを倒したぐらいで粋がってんじゃねぇぞ。山は死人が出るぞ」

「俺も山で色々なモンスターを相手にしようとは思っていません。ブラックウコーンただ1種の討伐です」

「お、お前ブラックウコーンはウコーンと名前が付いているが、レッドの3倍は早いぞ」

「なんとかなりますって」


 俺が追われ役をすればいいんだ。俺は1度だけなら失敗が許される。


「お前、どこからそんな自信が……。まさか……! ハッ! もしかしてお前馬鹿か?」


 あんたに言われたくねぇよ!

1-1

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/1/

この物語の1話目です。

是非こちらからも見て下さい。


2-1はこちらから!

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/12/

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