2-15
ソングさんとギルドに戻った。
1日目の各々の成果を報告している。
俺も紙幣サイズの紙を1枚提出した。
この紙は素材屋らがメンバー別に買い取り金額を記してくれたものの写しになる。
素材屋らは、ギルドのメンバーから買ったモンスターの皮や牙などを元に商売をしていく。ただ、今回に限っては量が膨大な為、仕入れ費用が多くなってしまう。
元手がそこまでない為、費用の工面が難しいようだ。
まぁそりゃ、ハンマーフォールさんに借金をするぐらいだ。大変なんだろう。
しかし、素材屋らは今回の商売が支払の見込みのある為、借金をしてでも仕入れ費の支払いをすると言ってくれている。
ギルドとしては、後日紙に書かれた全金額分をもらうことになっている。
ライトブリンガー家に対してもこの紙があれば、金銭と同様の法的効力があるようだ。
小切手のようなものらしい。俺はあまり分かっていないが。
「ヒロトくんも狩ってきたんだね。じゃあ、もらっておきますねぇ」
ララーさんが集計の手伝いをしている。
集計を取り仕切っているのは、ファビオ・ヴァンデン・プラスという中年の男性だ。執事のように落ち着いている。
黒髪に白髪がラインのように数本入っている。いつも品の良いオールバックでフォーマルな場面でも着ていけそうな高価な服を着ている。
ギルドの人間というよりどこぞの執事のような紳士で、ヴァンデン・プラスは荒々しいギルドにはあまりそぐわないように思えた。
それでいて、皆に慕われている。不思議なおっさんだ。
「ヒロト。君も3万シルヴィも稼ぎましたか。ありがとうございます」
「ありがとうも何も、これは俺の為にみんなが頑張ってくれていることだし。たかが3万じゃ役にも立てていないしな」
「おやおや。いつも元気なヒロトが弱気発言ですか。でもみなさん頑張っていますからね。嘆くのは本日の成果を見てからでもいいんじゃないでしょうか」
そう言って、ヴァンデン・プラスが肩に手を置いてきた。
次々に報告が集められている。報告した者から、アットヴァンスに治療をしてもらったり、食事を始めたりしている。
アットヴァンスも言葉では嫌がっていたが、医術に関しては手抜きなど何一つなく、労わりながら一人一人に言葉をかけている。
最後の一人の報告が終わり、集計も終わった。
ハンマーフォールさんが大きな体を起こし、脚を机の上に上げた。
ドシン!!
「待たせたな諸君。では、本日の稼ぎの結果をヴァンデン・プラスから報告してもらおう!」
ヴァンデン・プラスが紙を手に取り、1つ小さく咳払いをした。
「本日の狩りの結果、およそ4,900万シルヴィ。4,900万シルヴィです。1日の過去最高額ですな。圧倒的です」
ギルドの皆がざわついた。
1日でおよそ5,000万シルヴィも稼いだ。これは凄まじい数字だ。
しかし、3億5,000万シルヴィには程遠い数字だ。
その両方が合わさったざわつきだったのだろう。
「みなでやればデカい金額になるじゃねぇか! おいヴァンデン・プラス個人順位を読み上げろ」
「はい」と答えたヴァンデン・プラスが淡々と発表していく。
1位はソングさんだった。1人で600万シルヴィを稼ぎ出していた。
2位以降も発表されるが、中々ハンマーフォールさんとクライフの名前が呼ばれない。
「最後に118位ヒロト。3万シルヴィ」
やはり俺が一番少ない金額だった。しかし、ハンマーフォールさんらは何をしていたのだろうか。
「その他として、2,500万シルヴィがありますな」
「その他ってどういうことですか?」
思わず聞いてしまったが、皆がこっちに視線を向けてきた。聞いちゃいけないことを聞いてしまったのかもしれない。
慌てたようにソングさんが近付いてきて、耳元で囁いた。
「その他ってのは、ハンマーフォールさんと、クライフ、それにヴァンデン・プラスの稼ぎ分だ。あの人たちを入れると絶対誰も1位を取れなくなっちまうからな」
「そんなにすごいんですか……?」
ヴァンデン・プラスが小さく咳払いをした。
「では、ヒロトの為に私たち3名の金額も申し上げておきましょう。私が500万シルヴィ。クライフ様が800万シルヴィ。ハンマーフォール様が1,200万シルヴィです」
金額を聞いて室内が沸いた。3人とも考えられない程の金額だが、ハンマーフォールさんが3人合計の半分近くを稼いでいることに、ギルドの皆は驚きと同時に改めてハンマーフォールさんを尊敬の念で見ることとなった。
「ヴァンデン・プラス報告ご苦労だった。それで、クライフ。今日を踏まえて、明日はどうするんだ?」
「明日ですか。一発逆転を狙いたい所ですが、何も策は思い浮かびませんでしたよ。ハンマーフォールさん。ただ……」
「ただなんだ?」
「ブラックウコーンがやはり1番高値で取引をされていたようです。人数をかけてでもブラックウコーンに向かう方がいいんじゃないでしょうか」
「ほう、いくらだ。クライフ」
「1,000万シルヴィです。ただ、あまりにも俊敏で。依頼ランクもA。弱点といえば、転べば起き上がるのに多少時間が掛ることぐらいでしょうか」
「ブラックウコーンだけなら、後30羽捕まえるだけで、達成だ。お前ら行けるか!?」
「「「おお!!」」」
ハンマーフォールさんがクライフを見た。クライフは目を瞑り頷いた。
明日の方針が決定したようだ。
「ただ、勘違いするなよ。相手はランクAだ。必ずランクB以上の仕事をこなせる奴と組んで向かうように」
クライフが皆に釘を刺した。それ程にブラックウコーンは手強いのだろう。
「ヒロトは絶対近付くなよ。他の奴等の仕事が増えるだけだ」
クライフがそう言うと、笑いが起きた。
心配しての発言かもしれないが、何もこんなに人の多い所で言わなくても……。
やはり、俺はクライフの事は好かんね。
■ ■ ■ ■ ■ ■
翌日、朝から皆が狩場へ出かけていく。
俺も遅れまいと出て行った。
草原に着くと白のノーマルウコーンの討伐を続けた。
ノーマルウコーンなら何匹でも倒せそうだ。だが、大した金にはならない。
俺にかけられた金額は1億シルヴィで、依頼を中途キャンセルするには、全額で3億5,000万シルヴィが必要なのだ。
気持ちは焦ってもなかなかに良い金額のモンスターを倒すことはできない。
強いモンスターは草原よりも丘、丘よりも森にいる為、何度か丘での戦闘を試みたが、ソングさんがいないと丘での生存について怪しい所があった。
なんとか1度だけ赤のレッドウコーンを倒せたけど、運が良かっただけだった。
今、死んでしまうと俺の為に皆が頑張ってくれているのに、俺のアンデット疑惑が再浮上する可能性も出てくるので、できる限り無茶な戦闘は避けるべきだった。
俺ができることは、皆に迷惑を掛けずに小銭程度でもいいから少しでも多く稼ぐことだった。
そうなれば、やはりノーマルウコーンが適当だ。ランクGの割には買い取り金額いい。
「ヒロトさん、様になってきましたねぇ」
シルファは暢気なものだ。
今日が2日目なので、帰る日でもある。シルファは俺の戦闘を応援しているが、もしかしたら、他に何か任務があるのかもしれなかった。
それはグティからのものなのかクライフからのものなのか。
考えても仕方がないことなので、あまり深く考えないでいた。俺も無茶はしようとは思っていない。
今の実力なら、ひとまずノーマルウコーンには殺されることはないからな。
10羽目のノーマルウコーンを狩って、売り先別に捌いていると、ソングさんが現れた。
「今日は早いんですね」
「ヒロトに早く丘に行ってもらいたくてな」
ブラックウコーンの討伐に相当手こずっているのかもしれない。
できる限りの対策は取っておこうという意向なのだろう。
「ソングさんがいれば丘でも闘えますけど、一人だとまだ難しい気がします」
「それだ、ヒロト。お前は少し守りに入ってしまっている。もっとチャレンジしていこうぜ」
そう言われ、丘で共闘をした。
やはりソングさんは身のこなしが軽やかで、踊っているかのようにモンスターの急所だけを斬っていく。
モンスターの毛皮も売れるようで、少しでも傷が少ない方が高く売れるのだという。
俺に至っては、おこぼれをもらうような闘い方だ。
モンスター等がソングさんの軽い身のこなし、鋭い斬撃に翻弄されている最中にバレないように近付き、相手の急所を貫く。
二人だからこそ成せる技だと思われる。ただ、俺の役割がなんとも恥ずかしい。
十数匹モンスターを倒すと、休憩をはさむことになった。
シルファが隠れている方へ向かった。ティータイムの準備はできていたが、肝心のシルファがいない。
「シルファ。シルファいるか?」
どこからも返事などは聞こえてこない。
「ソ、ソングさん。シルファがいません!!」
「なに?! ここはモンスターの巣でもあるんだぞ?!」
1-1
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
2-1はこちらから!
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