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2-12

 したり顔のクライフ。もうどこまでも乗っかってやろう。俺の変なプライドで進まないってことは無くそうぜ。

 俺は自分にそう言い聞かせた。俺は大人だ。

 

「クライフくん。じゃあ、どんな方法なのかな? 教えて欲しいなぁ」

「ふふふ、教えてやるか……。ヒロトは何も考えられない馬鹿だからなぁ……」

 

 クライフが壁を叩く。

 後ろの方で寝ていた奴もそれで目を覚ました。座って話を聞くのが苦手なんだろう。


「狩りだ! モンスターを狩る! 他の依頼は後回しにして、モンスターのみを狩るんだ。モンスターなら余分に狩った分は売れる!」

 

 偉そうに……。なんとも偉そうに普通のことを平然と言いやがって……!!

 俺の捨てたプライドを返せ!!


「自分が容易に倒せると断言できるレベルの中で最大のレベルのモンスターを倒してもらう。倒せるか分からないモンスターには手を出すな。最大公約数というか、自分の手の届く範囲で数をこなすんだ!」


 ここまで大人しく聞いていたハンマーフォールさんが立ち上がった。

 さすがに大きい。


「野郎ども! 答えは出た!狩りに狩るんだ! 題して『モンスター討伐最大公約数作戦!!』」

「「おおーー……!!」」

 

 皆、ネーミングセンスにしっくりきていないのか拍手がまばらだった。

ハンマーフォールさんが斧を軽く、床に置く。


ドスン!!!


なにか岩石が落ちたような音がした。

この光景を見ていなかったら、斧を置いた音とは思えないであろう。


「いいな? お前ら!!」

「「「おおおおおーーーーーー!!!!!!」」」


 ほぼ脅しと強制で歓声と拍手が沸き起こった。


「分かったら、さっさと行けー!!」


 自分で作り上げたまやかしの興奮を自ら断ち切る荒業(あらわざ)でハンマーフォールさんがギルドのメンバーを追い出していった。


「ヒロトは残れ」


 俺だけ呼び止められた。

 笑いは必死に抑えたはずだが……。


 ハンマーフォールさんがいそいそと何かを書きなぐる。

 何かを書いた紙を封筒に入れ、シーリングスタンプをこれまた豪快に押す。

 顔を上げたハンマーフォールさんの顔は笑っていた。


「奴ら、お前の為に必死にモンスター倒してくるだろうな」

「はい。俺も急いで行ってきます」

「ああ。だがな、奴らが怪我をしたらどうする?」

「俺がアットヴァンスの偏屈じじいの所へ連れて行ってやります」

「あの偏屈じじいが協力してくるか?」

「俺が首を縦に振らせてみせますよ!」


 ハンマーフォールさんが目を瞑り笑った。

 目尻に皺ができた。この皺も含めて、俺はハンマーフォールさんが笑った顔が好きだった。


「分かった。それはお前に頼もう。なあ、ヒロト。みんなが狩ってきたモンスターをどうやって、金にする?」

「そんなの素材屋か道具屋、あとは鉱石屋に売ればいいじゃないですか。俺もそれぐらいは分かっていますよ。ハンマーフォールさん」

「素材屋や道具屋らはいつも協力的にやってくれているか?」

「それが奴ら人と足元を見て商売するんですよ」

「だろうな。で、奴らを協力的にさせる為にお前ならどうする?」

「そ、それは……」

「ほらよ」


 ハンマーフォールさん先ほど封をした封筒を3通渡してきた。


「その封筒には、奴らが喜ぶ内容が書かれている。中身は見るなよ。油断と隙が生まれるからな。相手が一度でも断ってきたら、これを出せ」

「ハンマーフォールさん……」


 胸と目頭も熱くなってきた。予め用意してくれてたんだ


「何ボーっとしてやがるんだ。とっとと行け!」

「行ってきます!!」


 走り出そうとすると、ハンマーフォールさんがまた声をかけてきた。


「ヒロト、その封筒は出し所が肝心だ。相手を見て出すんだ」

「はい! ありがとうございます!!」


 人生でこんなにも深々とお辞儀をしたことがあっただろうか。

 今の俺には感謝の意を伝える為にはこんなことしかできない。だが、必ず形で返してみせますよ。ハンマーフォールさん!!


 俺はまず、アットヴァンスの所に行った。

 いつも変わりなく、不機嫌そうな表情をして出てきた。


「ああ? ギルドの低能猿どもを優先して、治療しろだと?! ここの患者を放っておいてか?」

「そんなに怒るなよ。なあ、アットヴァンスのじいさん。一生のお願いだ」

「お前の一生なんかに付き合うつもりもないわ。馬鹿は休み休みに言え。患者を放ってなんか絶対やらんぞ」


 あいかわらずの頑固で偏屈なじいさんだ。

 しかし、俺も諦める訳にはいかない。


「時間がないんだ。頼むよ。そうしないと俺は……、俺は…!!」

「ワシが看病せぬとヒロト、お前がどうなるんだ」

「俺が……」


 アットヴァンスに事情を説明した。


「お前、簡単に目を付けられ過ぎだ。その特異な身体は、見せびらかしてもなんの得になることは何一つない」

「ああ、これから気を付けるさ」


 アットヴァンスが目を細めた。そして嘆息した。


「患者を優先することは絶対に譲れん。だが、診察時間外ならギルドの馬鹿猿を見る時間にあててやろう」

「ホントか?」

「嘘をついてどうする」

「助かる! 助かるよ! アットヴァンスのじいさん!」


 その後、ギルドのメンバーの診察のやり方について、細部まで話し合った。

 早ければ、今日手当てが必要な者が出てきてもおかしくない。

 打ち合わせが終わると、俺はそそくさと出て行った。

 アットヴァンスに手を振ると、少し照れた面持ちで顔を背けた。


 次に素材屋に向かった。

 ハンマーフォールさんから、交渉は素材屋から行けと言われていたからだ。


「おっちゃ~ん」


 素材屋の店主が出てきた。

 生粋の商人と呼ぶにふさわしそうな笑顔で出てきた。


「へいへい、なんでございましょうか? ――って、ギルドの新入りのヒロトか。どうしたんだ。ついさっきまでこの辺りも慌ただしかったから何かイベントでもあるのか? ええ?」


 固まった笑顔が一気に崩れ、露骨に横柄な態度だ。

 これも商人らしいといえばそうなのだろうが。


「イベントっちゃイベントなのかもしれないが、今からギルドのメンバーが大量にモンスターを狩ってくる。それをできる限り高値で買って欲しいんだ」


 素材屋が鼻で笑った。


「何ができる限り高値だ? 物も見ずにそんなことができるかよ。お前誰かに頼まれたな? あのデカいだけの脳みそなしのハンマーフォールあたりの指示だろ。おお?」


 話しが進みそうにないので、とっておきのカードを出すことにした。

 封筒を素材屋に差し出した。


「これ、ハンマーフォールさんから」

「なんだ? あの脳筋デカブツからだって? しっかりと封までしてやがる」


 素材屋が封筒を手で雑に開けていく。

 封筒の中に折りたたんで入っていた紙を振って広げる。


「なになに……」


 素材屋が文字通り固まった。

 もしかして、ハンマーフォールさんは脅し文句の1つでも書いているのかもしれない。

 素材屋が手で鼻に押しあてて啜った。目尻に涙を浮かべ泣いているようにも見える。


「ヒロト。俺はこれからあんたの所の頭領に足を向けて眠れやしねぇや」


 え? どういうことだろ。


「えーっと、それはどういう……」

「やってやろうじゃねぇか! ハンマーフォールさんの頼みだ。恩人の頼みを断っちまったら、素材屋として誇りが廃るぜ。じゃんじゃん持ち込んで来な! 他の奴らにもそう言ってやれ」


 なんなんだ。この変わり様。ハンマーフォールさん何を書いていたんだろう。


「ヒロト、お前この封筒は他に何通貰ってるんだ?」

「えーっと、あと2通だ。道具屋と鉱石屋分だ」

「なるほどな。俺に渡した物と同じ内容なら、きっと奴等も喜ぶぞ。早く行ってやれ」

「え? 中身って何って書いてあったんだ?」

「それはおめーよ……。いや、お前は商人としてはまだまだ全くもって甘ちゃんだ。この封筒の中身は知らない方が却って良い」

「はあ」


 言われたままに道具屋でも交渉後、封筒を渡すと泣いて喜ばれた。

 そして、道具屋にも封筒の中身は知らない方が良いと言われた。


 鉱石屋に着くと、俺も慣れた調子で話し始めた。

 商人というよりも学者のような鉱石屋の主人は頷きながら聞いていたが、途中で眠りこけてしまった。

 

「おい、おやじさん! 聞いてんのかよ!」

「なんとも退屈な話だ。それをして、ワシに何のメリットがあるんかいな」


 白髪で爆発に巻き込まれたかのような髪の毛を揺らしながら、首を傾げている。


「損得ばっかで動きやがって。ほれ、ハンマーフォールさんからだ」


 封筒を渡した。

 鉱石屋や見た目とは反して、小さなカッターのような刃物で封を切った。

 折りたたまれた封筒を丁寧に広げる。

 

 人は見た目には寄らないな。変に几帳面な奴だ。


 いきなり鉱石屋が紙に向かって怒鳴り出した。

1-1

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/1/

この物語の1話目です。

是非こちらからも見て下さい。


2-1はこちらから!

https://ncode.syosetu.com/n1211ff/12/

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