2-9
「でも乗ったことが無いなら、一度乗ってみようか、ヒロト」
やっぱり乗るのかよ!
でも、動物ってあんまり触れ合ったことないんだよなあ。
家は、犬も猫も買ってもらえなかったし、育てたって言えば、縁日で捕った金魚ぐらいかな。金魚も上手く育てられなかったけど。
馬に繋がった綱をグティが手渡してきた。
「安心していい。乗り方から教えよう」
グティは丁寧に馬の乗り方を教えてくれた。
この世界では馬をほとんど触ったことが無い人間も珍しいのかもしれない。
グティが教えてくれる言葉でわからないフレーズがあると、俺はとりあえずフリーズしていた。すると、グティはあからさまに驚きの表情をした。
俺がここに来て感じたものと一緒ぐらいに、グティは今、俺に対してカルチャーショックを受けているのだろう。
だって、驚く度に大きく口を開けるんだもん。すんごく開ける。開けすぎだって、あれは。
あんなの誰でも笑う。
一通り教えられると、並足ぐらいで走れるようになってきた。
ただ、尻が少し痛い。この痛みがずっと続くのだろうか。
「この尻の痛みって無くならないのかな」
またグティが大きく口を開けた。
よくもまあ、驚く度にそこまで大きく口を開けられるもんだ。
俺はそっちにまず驚くよ。
「馬の動きに合わせて、上半身を弾ませれば、痛みも軽減するさ」
それができれば、やってるさ。要は慣れてくれば、この痛さからも解放されるのかな。
「ありがとう、やってみるよ」
「敵に斥候も、今日はやってこないだろう。その間に馬ぐらいには慣れてもらおう。このまま帰路に着く。いいな? ヒロト」
それはあんまりに過酷……。
今日乗り始めたところだよ……。
それにしてもグティの表情が読めない。
ただ、こっちをすんごく見つめてくる。ジーって。
「いいな? ヒロト」
あれ? なんで2回言われたの?
これは確認なのだろうか……。それとも命令に近い何かが……。
まだ見てきてるよ。
「返事が無いってことは了承とみなすが。いいな? ヒロト」
「はい……」
「では行こう!」
抗え切れなかったーー…。
あの表情なんなんだろ。なんか怖かったな。感情を抑えてるっていうか。
「ヒロトさ~ん、頑張って~」
シルファが手を振っている。
君は気楽でいいよ。俺なんか、帰ったらお尻二つに割れちゃうよ?
■ ■ ■ ■ ■ ■
無事、グティの屋敷に到着した。意外と時間を掛けずに着いたものの、俺のケツは当分の間使い物にならないだろう。
何の使い物かって、ご想像にお任せするさ。ははは。
「ヒロト。君が良いのなら、残り数日となってしまうかもしれんが、我が屋敷にいないか?」
そうだ。目まぐるしくて、忘れていたが、俺はギルドに売られたんだ。
そうは思ったが、グティの屋敷に行く気にもなれず、俺は首を横に振った。
「ギルドに帰っても辛い思いをするだけじゃないのか?」
空を見つめた。ハンマーフォールさんやソングさんの顔を浮かんだ。たった1泊2日の旅だったが、いやに懐かしい気分になった。そして、ララーさんにとても逢いたくなった。
「いや、俺はギルドに戻るよ。この世界では、あそこが俺の家みたいな気がする」
「この世界?」
「あ、ああ。いや、この国だったな。ははは」
頭を掻いてごまかした。
馬は貰えることになったが、置き場所もないので、屋敷で管理してもらうことになった。
「ヒロト。君の馬はこちらで管理することにするが、次会うまでに馬の名前でも決めてやってくれ」
「名前か……、考えておこう」
そう言って、屋敷を後にした。
今まで馬に跨っていたので、自分の足で歩きだすと、いつもと違い歩きにくかった。
それにこんなに歩くのって遅いのか? と疑いたくなる自分がいた。
いや、歩行速度が遅いのはまだボウガンによる痛みが残っているからだ。そうに違いない。
意識していないと、馬に乗り駆けていた余韻がぶり返してくる。
アイツの名前を考えておいてやらないとな。
すっかり、この世界の住人のようだ。
どんどん、この世界に馴染んできてるなぁ。俺……。
………… ……。
はっ!! そんなこと考えてる場合じゃない!
俺は契約が成立すると、売り飛ばされてしまうんだ。
ちくしょう……!! 思い出しちまったよ……。
せっかく馬で走れるようになって、ちょっと楽しくていい気分だったのによぉ。
テンション下がるし、残ったのはケツの痛みだけかよ……。
ギルドに戻ると、ララーさんが出迎えてくれた。
「あら、ヒロトくん、お帰りなさい」
「ただいま、ララーさん」
俺、自然とただいまって言っている。ここがそれだけ自分の中で家に近くなってたってことか……。
「ただいま。ララーさん」
今度は感謝の意を込めて、ララーさんに言った。
「ヒロトくん、どうしたの? 何かあったの?!」
「え……?」
ララーさんが頬を手で拭ってくれた。その時に気付いたが、俺は涙を流していたみたいだった。
「何があったの? ヒロトくん」
「お、俺……。俺!」
「うん、ゆっくりでいいよ」
「俺、ここを出て行きたくないよぉ…………!!!」
膝から崩れ落ちた俺をララーさんが優しく抱き寄せてくれた。
ララーさんは何も言わなかった。
何も聞かれないことが今、とても安心した。ただ、こうしていて欲しかった。
「ヒロトくん。みんなヒロトくんの味方だよ。みんなで考えましょっ!」
そう言って、ララーさんが俺の肩を持ち、見つめてきた。
「もう泣かないの。男の子でしょ」
ララーさんは微笑んでいた。それはとても優しく、包み込んでくれていた。
指で俺の涙を拭ってくれた。外から戻った俺にとっては、ララーさんの手がとても暖かく、頬からジワーっと温かくなるのを感じた。
「みんなに相談しましょ」
「みんな……?」
「そうよ。ギルドのみんな」
「ギルドの……、はっ!」
そうだ。忘れていた。このギルドで俺を売った奴がいることを……。
入口の扉が開いた。
話し声で入ってきたのが、ハンマーフォールさんと俺を売ったその人物であることが分かった。
「よお! ヒロト! 帰ってきたか」
ハンマーフォールさんの言葉は耳に入ってこなかった。
アイツだけは許せない……!!
「クライフーー!!!!」
俺は怒りに任せクライフに掴みかかって行った。
クライフの表情は何一つ変わらない。
クライフ……!! お前だけは許さない!!
「うおおおおーーーー!!!」
俺の拳は空を切り、反対にクライフの剣の柄の頭部分で鳩尾を小突かれた。
「ぐはっ!」
息が吸えない。
「おいおい、どうしたんだ」
ハンマーフォールさんは何が起こっているのか分からず、戸惑っている。
「何があったんだクライフ」
「さあ、俺は何も」
冷めた表情で俺を見下ろすクライフ。はっきりと認識した。俺はコイツのことが嫌いだ!
鳩尾を突かれ、乱れいていた息も少しずつ整い始めた。
「お、俺はサラの所に行って、きたんだ……。何のことか、わ、分かるだろ……?」
クライフの表情が初めて動いた。
「まさか、ライトブリンガー家のご令嬢が……?」
「ああ、そうだ。殺されかけたよ。クライフ、お前の指示でな」
「殺されかけた?! おい、クライフ、ヒロト。それはどういうことだ。俺にも分かるようにしろ!」
ハンマーフォールさんを無視するかのように、俺の言葉が気に入らないクライフが反論してくる。
「俺は指示など出していない。求められて情報を渡したまでだ」
「それが黒幕だって言っているんだろうが! クライフ」
「おい! どういうことだ!? 何の話をしている、二人とも!!」
「黒幕とは何だ?! 貴様が不死者だということは事実だ!」
「不死者?! 何を言ってやがる。俺は人間だ!」
「疑わしい奴程、そうやって必死になるからな」
「なんだと! お前なんか、こそこそと俺を売りやがって、この卑怯者が!」
「こそこそだと!? 不死者言っていいことと悪いことがあるぞ!!」
「お前らぁぁぁああああ!!!!」
ハンマーフォールさんが特大の斧を振り上げた。
禍々しいものを感じた。
恐怖……いや、抗いようの無い死。それだけがそこにはあった。
たった一つの反抗として、俺は目を瞑った。
ドスン!!!!
どデカい音がした。
ハンマーフォールさんが斧を振り下ろしたのだろう。
恐る恐る目を開いた。
見ると、ハンマーフォールさんの斧は持ち上げた所から10㎝程だけ下げただけだった。
「俺を無視しやがって……!! クライフ、お前は頭を冷やせ」
「なっ……」
ハンマーフォールさんがクライフを睨みつける。クライフはそれ以上何も言わず下を向いた。
「ヒロト。お前は俺について来い!」
「はい!」
驚く程早いレスポンスで返事をしていた。
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
2-1はこちらから!
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