2-7
腹は減っていたが、食べ物に手を付けようとは思わなかった。
毒が盛られているかもしれない。
何があるか分からない……。
そういう思いが頭を巡り、警戒心だけが研ぎ澄まされていた。
晩餐会を楽しむ連中を見渡した。
大広間にいた騎士階級の者もいるのだろうが、その上の階級にあたるであろう領主のような風情の貴族たちも来賓として来ている。
各々が落ち着いた面持ちで談笑をしている。
なんだこの雰囲気は……??
和やかなムードで笑いかけてくる者や、「呑んでるか?」と聞いてくる者もいた。
俺のことが分かっていないのか……?
こんなタキシードを着ているから、俺がどういう奴かってことを分かっていない奴ばかりなのかもしれない。
「ヒロト。せっかくの料理が冷めてしまうぞ」
とうとう名前を呼んで話しかけてくる者が現れた。
そう思い、視線を移すと、見憶えのあるような無いような金の長髪のイケメンがいた。
「ぐ、グティ……?!」
グティは甲冑を身に纏っていた時とはずいぶんと雰囲気も違い平装? 平服? というのか黒のスーツを着ていた。
赤い甲冑を着ているグティはその苛烈さが目立っていたが、こうやってスーツを着ていると、スマートな紳士に見える。
それでも赤が好きらしく、スーツに赤いラインが細く入っており、ネクタイも朱に近い赤色のものを付けていた。
あんなことがあったのに、意外にもグティはフランクに話しかけてきた。
いや、そう装っているのかもしれない。俺がこの晩餐会に馴染みやすいようにする為の彼なりの気配りか。
「傷を治す為にも食事は大事だ」
「ああ、そうだな」と適当に相槌だけ打った。
それよりも俺の視界には別のモノが入っていた。
サラである。あんなに会うことを待ち望んだサラがまた俺の前に現れた。待ち望んでいたはずなのに今は、もうそんな感情を抱いていたことがまるで、嘘かのようにうすら寒くすらある。
サラが何事も無かったかのように、薄らと高飛車な笑みを湛えている。
「晩餐会には来ぬかと思ったが」
「俺は君に1つ言ってやろうと思って来た」
「ほう、私に抗議と申すか」
サラが金色の溶けるように透き通った髪の毛に触れた。
「で、何と申したい? ヒロト」
「お前たち貴族は貴族以外の人は人とも思っていない……!!」
「まぁ、そう思う者もおるかの」
「俺はお前を絶対許さないからな!」
場が騒然としたように感じた。
構うか!
俺はコイツに殺されかけたんだ。言いたいことは言ってやる!
サラが急に声をあげて笑い始めた。
声は子どものように澄んだ声をしている。いや、実際に子どもなのだが。この変な威圧感。子どもとは思えない。
「ヒロト。お主は何か考え違いをしておらぬか?お主は私がギルドから買うのじゃ。1億シルヴィでな。ご主人に従順でない犬は生きるのが辛いぞ?」
「犬……だと……?!」
そうだった。こいつは、俺をギルドから買ったと言っていた。クライフとやりとりをして……。
くそ……!! クライフの野郎。俺をハメやがったか。
どいつもこいつも舐めやがって……!!
「今日は思う存分食べ、残り数日はギルドへ戻り、残り少ない自由の身を謳歌することじゃ」
サラがそう言い放つと、グティが後ろからサラの両肩にそっと手を置き、どこかへ連れて行った。
グティのサラに対する丁寧な対応がより一層腹立たしく思えた。
あのサラとかいう子どもがそんなに大事なのか?! 人を人とも思わないクソガキだぞ!?
「ライトブリンガー家のご令嬢のおっしゃられた事はあまり気になさらないで下さい」
シルファが呟くように言ってきた。
「分かってるよ」
不機嫌にそう言ったが、気にならない訳がない。俺が売られてしまうんだ。
俺とサラのやりとりがまるで何事もなかったかのように、他の来賓や騎士たちは談笑を続けていた。
自分の身に降りかかる火の粉以外は、見て見ぬフリか。
「やっぱり来るんじゃなかった。苛立たしさで腹も減らないな」
シルファが俯いた。
「本当はこんな風になるはずじゃなかった」そう言いたげそうにも見えた。
でも俺は俺でそこまで人を構うほど、心に余裕が無くて、黙ったまま部屋に戻った。
部屋に戻ると、腹がひっきりなしに鳴った。
身体は正直で腹が減っていると、こうやって訴えてくるんだと改めて思った。
武士は食わねど高楊枝……。
そんな格好いいものでもないか。
こんなキャラクターって、ドカ○ンとか、明日○ジョーとかに出てきそうだな。
そんなことを思いながら、微睡んだ。
眠りに入ろうとすると、今日の腹立たしい出来事がフラッシュバックのように思い起こされ、深い眠りには入れなかった。
今までの人生で、こんなに人を嫌い、憎み、怒ったことなんてあったかな……。
■ ■ ■ ■ ■ ■
朝が明けきらない内に目を覚ました。
時間にすると、朝の4時ぐらいだろうか。だが、この世界には俺らが知っているような時計はない。
そういえば、みんなどうやって時間を確認しているんだろうか。
日時計とかかな……。
部屋を出ると、支度を済ませたシルファがいた。
まだ眠いようで目を擦っている。
「どうしたんだ。こんなに早く」
「ヒロトさんこそ、早いお目覚めですね」
「ああ、眠れなくてな」
「私もです」
そう言って、小さく欠伸をした。
欠伸をごまかすかのように微笑みかけてきた。
本当はまだ眠いのだろう。
「いつぐらいに戻りますか?」
「もう帰りたいな。こんな所、長くはいたくない」
「そうですか。では準備を進めますね」
そう言うと、シルファは歩いていった。
準備が必要なものもないので、とりあえず外に出てみた。
外に出ると整備された庭があった。さらに歩いて行くと厩があった。
そこにはグティがいた。
グティは愛馬の毛並を梳いていた。
「あ、ヒロト。早いではないか」
「ああ、眠れなくてね」
「そうもそうだな。あんなことがあったからな」
そう言ったっきり、グティは熱心に愛馬の毛並をブラシで梳き続けた。
愛馬に何か話しかけてもいるようだ。
馬は人の言葉を理解するといったようなことを聞いてことがあった気がする。
どこでだっただろうか。小説だったか、テレビかネットか…。
「ヒロト、もう出るのか?」
「ここにいても危なっかしいしな」
「すまない」
「あんたに怒っている訳じゃないさ。そりゃ始めは騙されたと思いもしたが。あんたにも何か事情があったんだろう?」
グティが馬を梳く手を止め、こちらに向き直った。
「ヒロト。本当に申し訳なかった……!!」
深々と礼をしてきた。
グティの誠意はこれまでも伝わっていたが、ここまでされてしまうと、もうさすがに怒っている自分が馬鹿らしくもなってきた。
「ありがとう、グティ。君の誠意は十分に伝わった。顔を上げてくれ」
グティがゆっくりと顔を上げた。
「ありがとう、感謝する」
そういうと爽やかな笑顔を向けてきた。
ま、眩しすぎる……!!
人はこんなにも眩しい笑顔ができるのだろうか……。
シルファや他の騎士たちも集まってきて、出発することとなった。
サラも顔を出した。
「いずれまた」
サラはそれだけ言い、屋敷に戻って行った。
また何か嫌味でも言われるのかとも思ったが、意外とあっけなかった。
お嬢様のきまぐれか? まぁ、何をしても気に喰わないことには変わりないが。
来たときと一緒で、シルファと二人で馬車に乗り、グティたちに護衛をされる形で進み始めた。
進み始めると気が休まったのか、睡魔が襲ってきた。
「ゆっくり寝ていただいてよろしいですよ」
シルファがそう囁いてくれたので、眠りへの導入がさらに深くなった。
■ ■ ■ ■ ■ ■
どれぐらい眠っただろうか、辺りが騒がしくなったので、起きた。
「ヒロトさん。安心して下さい。すぐに安全な地域に行けますので」
な、何が起きてるんだ?!
「奇襲です。何者かが私たちを襲ってきました」
「奇襲!?」
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この物語の1話目です。
是非こちらからも見て下さい。
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