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そんな?! 剣が簡単に手に入るのか…?
「元々、剣が折れたり、愛用の武器が使い物にならなくなったりした奴に新しい武器が見つけるまで貸し出す為にハンマーフォールさんが剣を保管するようになったんだ。やっぱりすげーよ。あの人は」
そう言ってから、ソングさんが剣を探し始めた。
剣がもらえるのはありがたいが、今じゃないんだよ。今じゃ……。
ソングさんが剣を一振り掴んだ。埃をかぶっている。
「これはなかなか良い剣だ。埃は被っているが、軽く研げば切れ味も戻るだろう。研磨の料金は、俺が出しておこう。俺が狩ろうって誘っちまったんだからな」
ソングさんが屈託のない笑顔を向けてきた。
先に歩き出したソングさんが、付いて来いと手を振った。
や、やばい。流されてしまう……!!
俺リードで進められない。1度ソングさんに認めてもらってから、狩りに同行するなら良かった。
これじゃ俺からの先制パンチが打てないじゃないか。
ソングさんに背中を押され、鍛冶屋に行った。
今日の夕方取りに来いと言っていた。研磨は500シルヴィでしてくれるようだ。
前の世界で研磨の値段がどれくらいだったのか全くもって知らないが、恐らく安い気がする。
手間を考えたら、普通は500シルヴィじゃ割りに合わなそうだ。
恐らくその分、数をこなすなのだろう。この世界じゃ、剣を買うのも研ぐのも売るのも日常の中の出来事で、前の世界でいう所のクリーニングやコインランドリーを使うのと同じ感覚なのだろう。
「時間もあるし、依頼書を取り直してくれ」
依頼書の取り直しは、申請書(変更所)への簡易な記入で行える。
アットヴァンスには申し訳ないが、アットヴァンスの依頼は後回しにするか。
「わかりました」
急いで依頼書を取り直した。新しい依頼は狩りの依頼の中でもランクの低いものから選んだ。
≪ウコーン白を1羽討伐。報酬3,000シルヴィ≫
ランクFの依頼でも報酬が3,000シルヴィも手に入るのか?!
ソングさんが近付いてきた。
「お、依頼書もらってきたか。どれどれ」
そう言って、俺の手から依頼書を取り上げた。
「ウコーン白か。モンスターとも言えないような低俗な奴だな。だが、3,000シルヴィはいい。この仕事アタリだな」
やはり、3,000シルヴィは割りが良いんだ。
「夕方には少し早いが、研磨された剣を取りに行こう」
「大丈夫ですか?」
「あの店の店主、俺がせっかちなのを知っている。夕方ってことは2時ぐらいには昼過ぎには仕上げているはずさ」
「なるほど」
鍛冶屋に行くと案の定、剣は研磨されていた。
「旦那、助かるよ」
「ソング様の依頼はいつも急かせてますんで。本来1,200シルヴィですが、500シルヴィで結構です。それと、この剣に合う鞘も見繕っておきました。その代わりハンマーフォール様にはくれぐれも」
「ああ、分かってるよ。ありがとうな」
この人、ハンマーフォールさんの名を借りて……。
鞘に入った剣を渡された。
ズシリと重い。ナイフや包丁とは違う。人やモンスターを殺す為に作られた刃物……。
トカゲ男に馬乗りになり、剣で刺されたことが走馬灯のように蘇った。
「うっ」
吐き気がした。嫌な記憶が蘇ってしまったようだ。
「おいおい。大丈夫か? 白色のウコーン1羽だぜ?余裕だからホント」
「あ、はい……」
ウコーンってどんなモンスターなんだろ。
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指定された場所へソングさんと歩いて行った。
ウサギのような動物が数羽いた。
ただ、ウサギのように小さくはなく、大きさはカピバラ大。色は白く、赤い目が少し大きめでそれが不気味ではある。
なにより蜷局を巻くように長く一直線に伸びた角が額辺りから生えている。この角が彼らの武器なのかもしれない。
ウコーンって名前は、まさかウサギとユニコーンから…。ってまさかな。そんな安直な……。
「ヒロト。このウコーン白で気を付けないとならないのは、あの角だけだ。それほど俊敏でもないし、相手の攻撃を避けた後、剣を叩き込むのがベストだろう」
「は、はい。やってみます」
一度跳ねると、少し間をあけまた跳ぶ。ぴょん、ぴょんと跳んでいる。遠目で見ると愛くるしくもあるが、やはり大きさと赤い目の異様な大きさから不気味さが勝ってしまう。
「ヒロト、来るぞ!」
「え?」
1羽のウコーンが素早く跳ねながら、突進してきた。
「横に避けるんだ!」
言われなくても!!
間一髪の所で右に避けられた。避けるので必死で、その間に攻撃を加えることなんかできそうもなかった。
「よし、上出来だ。次は攻撃してみろ」
そうは言われましても…。
「また来るぞ!!」
ウコーンが突進してきた。先ほど同様、右に避けようとした。すると、ウコーンも同じ方向に角を向けた。
やばい!!
咄嗟に右足で思いっきり踏ん張り、左側に跳んで避けた。
あっぶねぇ~~。
「お~、ナイスナイス。今のは串刺しにされるかと思ったわ~」
え~~~~~。なんで、そんなに悠長に感想述べてんすか。
串刺しってことは、死んじゃうんですよ?
「お~い、また来たぞ~」
突進してきた。また避けた。それが何回か続いた。
相手はそこまで疲れてなさそうだったが、俺は肩で息をし始めている。
「ソングさん、これ本当に避けた瞬間に攻撃なんてできるんですか?」
「ん~? できるよ?」
「だって、剣を振ろうとすると、もういないんですよ」
「そっか~? できるけどな」
それじゃあ、お前一回やってみろよ…!
「しゃあねぇ。一度見本を見せてやるか」
剣を抜き払う。細く長く伸びた剣で、日本刀のように反っている。軽そうな剣だ。いや、ソングさんが扱っているから、軽くみえるのかもしれない。
「見とけよ。ヒロト」
ソングさんがニヤつきながら前に出ると、ウコーンが2羽釣られて走ってきた。
「2羽も来た!! ソングさん!!」
ソングさんは表情も変えず、ニヤニヤとしている。
1羽目がソングさんを串刺しにするかと思ったその瞬間、ソングさんが右に避け、ウコーンの首部分を深く切った。包丁でネギでも切っているかのように軽く剣を落としたように見える。
すぐさま2羽目も突進してきたが、今度は左に避け、同じように斬った。
どれも首の皮一枚繋がっていて、首が胴から外れきっていない。
すごい……!!
「あちゃー、ミスったなぁ」
はい?
「ウコーンは首の部分を細かく2、3切り目を入れた方が持ちやすいんだよ。だから、首に3回剣を入れようと思ったんだけどなぁ」
ヒロトがウコーンに近付くと、首に2箇所、背の部分に1箇所深い斬り傷ができていた。
背は当然繋がっているが、首は切断寸前のところで繋がっている。
こういうのを職人技っていうのかな。
「いつもなら3回いけるんだけどな。緊張したかな…?」
そういって、ソングは恥ずかしそうに頭をポリポリと掻いた。
え? まてよ。すんなり受け入れちゃってたけど、今のって、三回も剣を振ってたの?
しかも2回は首に入れて。ってことはどんだけ剣を速く動かしてたんだよ……。
俺には1回も見えていたか怪しいのにな。
「ヒロトはまだ始めたてだから、1回で十分だ。やってみろ。今の感じでやったら、絶対上手くやれるから」
え、笑顔が眩しい……!!
この人、自分が驚異的な身体能力があってできていることを、俺にも「きっとできる」って疑っていないよ。嫌がらせとかそんなんじゃない。
だって、あの笑顔見てみてよ。すんごい爽やか。かわいい顔してるじゃない。まったく疑ってないんだよ。「きっと、きっとヒロトならできるよ」って。
「頑張れ! ヒロト。きっとできる…!!」
ああ、そうか。この人、素直なんだな。そして、それ以上に馬鹿だ。
変に勘ぐった俺の方が馬鹿みたいじゃないか。
ソングさんが俺の名前を呼びながら、溌剌とした顔で応援してくる。
辛いよ~。その笑顔とその言葉。辛いよ~。俺のノロマな動きじゃ無理だよ~。
いっそのこと、その今、斬ったウコーン連れて行こうよ!
避けて、斬る。それはこの人の驚異的な身体能力があるからできることと思って、他のやり方を考えるしかない。
それでも、やはりソングさんの屈託のない笑顔が俺に向けられた。成長への期待が眩しく、それが恐ろしかった。
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