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2-1

2章開始!

 夕食の材料を買いに町に出ていた。


 おつかいはこうやってしているし、依頼もまだおつかいみたいなものばかりだが、この世界に来て、「自分自身の買い物」をしていないことに気付いた。

 この世界の人は温かく、なんでもくれる。ありがたいことなんだが。

 衣食住の内、『食』と『住』はギルドに住み込みで働かせてもらっていることで、問題にならない。『衣』もギルドの人たちがもう着なくなった服をくれるから不自由していない。

 元々、服には無頓着だったので、どんな服でも抵抗なく着られる。


 だが、資本主義の消費社会の中で育った俺としては、消費する喜びも味わってきた。

 今ここで何か消費したいと思っている。

 

 人は初めてと終わりにはこだわりを持ちたがる。俺もご多分に漏れず、初めての自分の物の買い物には特別なものを考えたい。

 ただ、如何せん所持金が少ない。アットヴァンスの依頼以降、5件の依頼をこなしてきたが、現在所持金5,600シルヴィ。円で言えばほぼ5,600円。

 ちょっと高めの飲み会をすれば終わる金額…………。

  

 これじゃ何も買えねぇな。どうするか。

 こんなに稼ぎが少ないとは……。


いや、確かに安全な依頼しかしてこなかったからってのは分かるよ?

 俺の能力の場合、チートはチートなんだけど、受け身だよね。「死んでも生き返るよ」って。しかも1日に1回だけだし。そして、一度死ぬとめちゃくちゃ痛さが続くし。


 食べ物や服の物価は変わらない。欲しいと思うものは、存在しないか、高いものが多い。

 例えば、スマホなんてものはあり得ないし、電気もそれこそない世界だ。

 加工品もすくなく、米やパンはあっても他はただ焼いた肉だったり、魚だったりといったものしかない。菓子類なんかもすくない印象がある。

 無い物をねだっても仕方がない。ある物の中から特別感のあるもの……。

 

 ポケットに手を突っ込んだ。何か当たるものがある。

 取り出すと、それは神と名乗るじじいからもらった小さな刀だった。

 柄は丁寧な作りで、片手で持てる長さだ。長さとしてはそれこそ大き目のスマホぐらいか。こんな使い物にならない剣?のようなモノを持ち続けている俺も馬鹿げていると思ってしまう。

 

 剣?そうか剣か。やっぱり武器を持ちたいな。


 この世界では比較的安価に武器が買える。武器が安いってことは、それと比例して治安も良いとは言えないのかもしれない。

 自分の身は自分で守る。まるで前の世界のある国のようだ。


 いくら1日に1度生き返られると言っても護身用として、そして依頼のレベルを上げる為にも武器は必要だろう。


 ギルドに戻ると、ハンマーフォールさんとクライフそれにソングさんがいた。

 ハンマーフォールさんが俺に気付き、手招きをしてくる。ニカッと屈託のない笑顔が眩しい。


「おい、ヒロト。お前の教育係が決まったぞ」

「はあ」


 そういえば、そんなことを言っていたな。

 この状況でそう言われるってことは…。


「ソングに任せることにした」

 

 そうでしょうね。ソングさんは兄貴肌な所が多少苦手なんだけど、まあ性分として教えてはくれるだろうな。教え方までは分からないけど。むしろそこが一番心配。

 ハンマーフォールさんの向こうでララーさんが何かソングさんに話しかけている。

 ソングさんは軽く返事をし、ララーさんを体の良い対応であしらった。まるで自分の彼女に対するかのような態度だ。

 腹の奥から何か込み上げてくるものを感じたが、じっと我慢した。

 

「知っているとは思うが、改めてよろしくな。俺はソング。ソング・アルマーだ」

「あ、はい。小牧長久手ヒロトです」

「コ、コマ……? お前そんなファミリーネームだったのか」

「はい、ですから、これからもヒロトでお願いします」


 ソングさんが頷き、肩に手を置いてきた。

 肩に手を置くのは、ハンマーフォールさんの癖のようなものだったのかと思っていたが、ここでの握手のようなものなのかもしれない。


「で、どうしたい?」

「え?」


 ソングさんが希望を聞いてきた。これは、俺を試しているのかもしれない。

 

 前にハンマーフォールさんに「教育係」について話を聞いてから、考えていた。

 俺のように得体の知れない。もしかすれば、アンデットとの噂が立っている可能性のある新人に教育係を付ける意味、それは恐らく「監視」が考えられる。

 

 そこで、監視する人は教育係になる前にどういったアクションをとってくるか。俺は考えた。

 あまり関係のないことに首を突っ込んでくるのではないか……。

 それは、アットヴァンスの依頼の最中に起きた。ソングさんがお得意の兄貴肌な感じで話しかけてきたのだ。教育係(監視役)に選ばれたのはソングさんだったんだ。

 

 ソングさんは兄貴肌で性格が男前だ(俺調べ)。そのソングさんが監視に向いているようには今の所思えないが、ソングさん一人で監視する訳ではないのかもしれない。

 ソングさん自体は、監視の為の教育係という事実を教えてもらえておらず、ただ教育係として接し、それを別の者が監視するのかもしれない。


「おい、ヒロト聞いているのか?」

「あ、ああ」

「俺が教育係として同行しようと思うが、お前は今から何をしていきたい?」


 ソングさんのような人は、他人を評価する時に2段階の評価をする(と俺は思っている)。

 第一の評価は、ソングさんの男前な性格が邪魔をする。相手に2択から答えを選ばさせているように見せて、本当はソングさんの中では答えが出ているんだ。

 今回の場合、「同行する」と言っていることから、俺の仕事を一緒に進めてくれるように思えるが、本来は「俺の仕事に付いて来い。色々と教えてやる」という感情が隠れている。

 これを踏まえると、ソングさんが理想とするやりとりは以下のようになる。


 「どうしたい?」

 (お前に選ばせてやっているんだぞ。と、兄貴のらしさを見せる)

 「まだ新人なんで、ソングさんの仕事に同行したいです」

 (従順で健気な後輩)

 「おいおい、お前の依頼でもいいんだぜ?」

 「いえ、先輩の依頼に同行して色々と学びたいんです」

 「しょうがねぇな」

 これが恐らく理想とするやりとりなんだろう。


 だが、俺はあえて、自分の仕事にソングさんを引き込む。

 それは、第二の評価があるからだ。

 監視役がソングさんで無いにしても、どういった理由から監視が付けられているのか分からない今、ソングさんと仲良くなっておけば、いざという時の対応策も見つかるかもしれない。

  その為にはソングさんの評価を短期間で上げられる方法をとるべきだ。

 

 そこで大事になってくるのが第二の評価だ。ソングさんのような人の第二評価ポイントは、仕事の達成方法にある。

 仕事を遂行する時にソングさんの予想を越える、予想外の方法で達成すると、好評価を下すのだ。

 俺の場合、チート能力がある。これを活かせれば、仕事をいい感じに達成できると思う。そうなると、仕事はソングさんの土俵ではなく、あくまで俺の土俵でだ。仕事は俺が選ぶ。


「ヒロト?」

「ああ、すみません。ソングさん。俺まだ新人なんで、ソングさんに俺の仕事を付き添って欲しいと思います」

「あ、ああ。え?」

「ソングさんからすれば、楽な仕事かもしれませんが、俺がステップアップする為に力を貸してくれませんか?」

 

 ソングさんは一瞬悩んだような表情をしたが、数度頷き了承した。


「で、どんな仕事内容だ?」

「はい、それが……」


 俺は、ソングさんに依頼書を見せた。

 この依頼書は予め、アットヴァンスにお願いして、作ってもらったものだ。

 ソングさんでも知らない、あの山の麓での薬草取り。

 あの偏屈なじいさんと仲が良く、誰も知らないような麓での薬草取得ミッション。ソングさんを驚かせること間違いなしだろう。


「おい、ヒロト。お前こういった依頼ばっかりやってるのか?」

「へ?」

「いや、こういう『おつかいの仕事』も馬鹿にできねぇし、この医者からの依頼をお前が進んで受けているのも俺は正直驚いている。でもな、やっぱり仕事といえば狩りだろ」

「い、いや、あのその」

「なんだ? 不満か?」


 不満があっても、不満なんて言えない。恐らくこの人はそういう言い方が一番嫌いだ。

 

「お、俺剣もろくに持ってなくて……」

「剣? ああ、その辺にあるよ」

「いや、実は金が足りなくて……」

 

 これは、事実だ。実際に俺は金を貯めて、剣を買おうとしていた。


「違う違う。このギルドには蔵と呼ぶほど大それたものじゃないが、武器庫がある。そこで一振り見繕ってやるよ」

「!?」


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