3: オレンの行く末
異世界に鬼がいるのかってツッコミはスルーの方向で…
ぴっかちぅ
気がついたら朝で、前の晩と同じ宿のベッドの上だった。三人で一部屋とっていたので、イリスのところだけついたてで仕切ってある。その向こうから、ぼそぼそとディオとバルドの話す声が聞こえた。
「イリス、なんで動くことも反撃することもできなかったんすか。あれぐらいの炎、イリスならなんてことないっしょ」
「小さい頃、炎に囲まれて恐ろしい思いをしたらしい。くるとわかってれば覚悟ができてまあ対処できるらしいんだが、いきなりきついのに来られると固まっちまうって…。あぁ、俺の采配ミスだ。イリスのせいじゃない」
「いやそんな、イリスを責めてるわけじゃないっすよ。そっか。そういうわけで…。ま、鬼の剛力女王にも弱点があったってことっすね!」
わざと明るく言うディオの優しさが胸に痛い。
私はいつも、誰かに庇われてばかりだ。
「誰が鬼だって? せっかくいい気持ちで寝てたのに、やな目ざめったらありゃしないー!」
ついたての向こうから、二人が顔を出す。
「気分はどうだ、イリス?」
「だからー、やな気分って言ってますー」
「めちゃくちゃ元気そうだな。さすが剛力女王」
「なんか食べれそうか? 厨房から取ってきてやるよ」
ディオが一階に降りていくと、バルドがイリスのベッドに腰掛けて額に手を当てた。
「どっか具合わるいんじゃないか? まだあんまり顔色よくないぞ」
「いえ。体のほうはもう…」
「お前のことだから、あいつらのことが気になってんだろ。アグニと妹のこととか…」
かなわないなもう。なんでわかっちゃうんだろ。
「まさか死刑になったり…?」
「難しいとこだな。今までも誰かを殺したわけじゃない。ただ、場所が悪い。王領だ。王様相手の盗みだ」
「でもっ」
「わかってるよ。本当に罰せられるべきなのはアホな領主だ。そこんところをなんとか宰相さんにでもうまく動いてもらって、強制労働ぐらいにおさめられれば…ってとこかな。ちっ。また『貸し』がどうのこうの、うるさいぞあのおっさん」
自分の考えが甘いのはわかっている。王様だって神様じゃない。今の王様はすごくいい人だけど、民の一人残らずに常に心を配るなんて無理に決まってる。いや、神様こそ一人一人のことなんて気にもとめてないだろう。そうじゃなきゃ、狭霧があんな目に合うはず…
ポンっと頭に手がのって、思考が戻る。
「あんま考えすぎんな。そういうことは、隊長の俺や国のもっともっとえらーい人が悩むべきことなんだからな」
上目遣いに頭の上の手を見ると、火傷のあとが目に入って思わず手に取った。
「たいちょ…ごめんなさい」
イリスは癒しの力で治していく。
「あぁ、すまん。たいしたことなかったし気づかなかったぐらいだ。気にすんな」
そう言って、またポンポンポンと頭を叩く。
また子供扱いして。いつまでたっても私は十二の女の子ですかっての。そりゃ、あの人みたいに色っぽくも女っぽくもないですけどね。 ふん。
「ディオが戻るまでにこれでも食っとくか? 昨日の晩メシの残りだけどな」
そう言ってバルドは橙色の果物をイリスの掌にのせた。
「あ、オレンの実…でしたっけ。ここの名産ですよね! すっぱくっておいしいからたくさん買って帰ろうかなって思ってたんですよ!」
「騎士団の連中にか? あいつら、味のありがたみなんかわかんねーぞ。もったいないからやめとけやめとけ」
「じゃあ、自分用のお土産にたくさん買って帰ります!」
「ぷっ。そんなに気に入ったのか。女ってのは果物が好きだねー。でも…そうだな。すっぱい果物なら食べやすいか…。俺も買って帰るかな」
自分用じゃないよね、それ。隊長のオレンはヤヌス伯領のあの人に送るためでしょ。この間、赤ちゃんができたって空元気まるだしに言ってましたよね。
一年前のあの日、あんなに荒れたのに。やっぱりあの人のことばっかり考えてるんだ、隊長。
寂しいな。こんなに近くにいて毎日触れ合っていても、隊長の中はあの人のことでいっぱいだ。
ごめんね、狭霧。
狭霧をあんな目に合わせておいて、こんなことばっかり考えてる自分がほんとにきらい。
こんな私なんかより、狭霧が生き残ればよかったのにね。




