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霧の彼方の虹  作者: 鷹 樹
28/37

28: 狼の復活

本日一話目です!


エピと名乗っていたのは、タナトスの信奉者エドだ。


彼が選別した近衛隊の者たちは、別の縄を辿って洞窟にたどりついていた。だが、人数が半分にも満たず、王子がいつまでも現れないことに次第にざわめきが大きくなる。


「だいたい宝の山なんてどこにある? なにかの術で隠してあるっていうのか?」

「俺は初めからおかしいと思ってたんだ。話がうますぎる。欲張りの王子を誘い出すための罠だったんだ」

「なら、王子にそう言えばよかっただろう!」

「あの王子が聞く耳もつと思うか? 諫言(かんげん)なんぞした日にゃ即近衛から飛ばされて閑職行きだ」

「ヘタしたらオーリンとの前線に放り込まれて無駄死にかもな。まあ、王子に仕え続けるのも無駄に生きてるようなもんだから、なんとも言えないけどな…」


一同はあんまりな現実に言葉もなくうなだれる。



そのとき洞窟の入り口から腹に響く野太い声が響いてきた。


「お前らの気もちはよくわかるぞ」


ハッと顔をあげた隊員たちの前に現れたのは、ウラ領の山荘に籠もっているはずの“北の狼”だった。


「ジヴェ将軍! ジヴェ将軍ではありませんか!」

「こんなところでお会いできるなんて!」

「もう引退されたのかと残念に思っておりました!」

「もしかして、また指揮を執っていただけるのですか?」


将軍は鷹揚に頷いた。

「お前らのやる気しだいでは、また指揮を執るのもやぶさかではない」

途端に皆の顔が期待に輝く。


「ぜひお願いします! 将軍には引退なんて早すぎます!」

「将軍の元で過ごした一年は最高に充実した日々でした!」

「帝室の行き当たりばったりな醜態にはうんざりなんです!」

「将軍の下で、存分に力を発揮させてください!」


口々に出る気合の入った言葉に将軍も満足げだ。


「お前らを見込んで、俺は最後の覚悟を見せるぞ」

将軍が一同を見渡して厳かに口にした。


「わしはウラ領とともに、フォボス帝国から独立する」


*×*×*×*×*


こうして、湖のそばにあるオーリン侵攻前線基地とは別の山あいに作られた秘密の独立予備軍基地に、元近衛隊の彼らは移った。


とりあえずの戦力は、二人の王子が連れてきた中から選抜された五十名ほどだが、神力に優れた者や武術に長けた者というだけでなく、やる気や将軍への忠誠心という点でも選び抜かれた精鋭ばかりだ。


彼らは早速、タナトスの作戦に従って次の行動に移った。


*×*×*×*×*


帝都の宮殿にて。


「近衛を連れて神域の宝を探しに行った王子が二人とも戻らんというのは真か!」


「…はっ、はぁ。それぞれ近衛の精鋭五~六十名を伴ってウラ領の前線基地に立ち寄ったところまでは確認がとれておりますが、それ以降の消息がまったくつかめずすでに三日が過ぎたと鳥の連絡が…」

「前線基地から神域までは、半日あれば十分往復できるとのことで…」

「神域の霧は想像を遥かに超えるものだそうで、おそらく崖か尾根から道を踏みはずされたのでは、と…」


「だからと言って、全滅することがあるか! せめて一人や二人生き残って還ってくるのが普通ではないのか!」

「は…はぁ…」



「陛下。下町でかなり広まっている噂をご存知ですか」

「今はそれどころではないわっ!」

「いえ、それが関係ありそうなのです」

「なんだっ! 早く言え!」

「ウラ領に籠もりきりのジヴェ将軍が、反乱を企てていると」

「なっ! なんだとっ!」

「今回の殿下たちの失踪も、もしかするとなんらかのかかわりが…」


世継ぎの王子二人を失ったかもしれないという焦燥でまともな思考力を失っているところに、ジヴェ将軍謀反の噂は衝撃が大きすぎた。


「まさかガストンが…、ガストンが裏切ったというのか…」


「陛下。ジヴェ将軍はウラ領のタナトス参謀と懇意とか」

「ウラの参謀は小賢しく立ち回る侮れぬ男…」

「うかうかしていると、手を組んだやつらに帝都に攻め込まれるやも…」

「近衛の主力はほとんどが今回の失踪で失われております。騎兵団もかなりがオーリン侵攻のためにウラ領の前線基地に出ておりますから…」


「今の手薄な帝都に来られるとまずい! まずいぞ!」


「先手を打ちましょう、陛下。残った兵をかき集めてウラ領へ差し向けるのです。名目はオーリン侵攻の援軍とでも」

「う…うむ。それしかあるまい」

「一週間もあれば兵の準備は整うかと」

「う…わかった。そちに任せる」



タナトスの愛犬リヨンはこの会話をこっそり聞いていた。身軽で物陰にひそみやすく嗅覚が発達した犬の身にとって、宮殿の秘密の抜け道を探り屋根裏に潜むなどたやすいことだった。


それにしても、犬のリヨンから見てもあまりに愚かな連中だった。これがこの国の頂点かと思うと情けないにもほどがある。

リヨンは自分の主の素晴らしさを再認識し、軽やかな足取りで五日間のウラ領への帰路につくのだった。



*×*×*×*×*



ウラ領のオーリン山中腹にあるオーリン侵攻前線基地で。


「俺たちが命を張ってオーリンに攻め込んでるってときによ」

「こともあろうに宝さがしだと」

「けっ。ふざけんのもいい加減にしろってんだ」

「いちばん偉そうにしてたやつら、見たか?」

「飾りがびらびらの、どこが軍服ですかってアレか?」

「それもだけど、やつらの食事もおったまげだぜ」

「フルコースを出せだのワインが足らんだの…」

「女を出せってうるさいやつらもいたな」

「ここをなんだと思ってやがる」



帝都の貴族を守る近衛騎士団はその団員も貴族がほとんどだが、戦場に出される騎兵団はよくて下級貴族、大部分は平民だ。貴族への反感はもともと強いが、家族から届く手紙や補充されてくる兵士らの話から最近帝都で盛んに流れている噂も伝わってきていた。


「宮殿の貴族がこれだけ腐ってんだ。この前の近衛の連中にはしっかりしてそうな奴もいたっちゃいたが、しょせん近衛隊なんてろくでもないお貴族様の集まりだろ?」

「ここの指揮を執ってる佐官だってふんぞり返るしか能がねーし。自分は部屋で命令だすだけでよ」

「なんで俺ら、あんな腐った貴族連中のために前線に出て無駄死にしなきゃなんねーんだよ!」

「しっ! 声が大きい! 上層部批判だかなんだかで懲罰房に入れられるぞ!」

「もう満員なんじゃねーか? 最近のしょっぴかれっぷり半端ねーぞ」

「あーぁ、俺も懲罰房に入ろっかな。三食昼寝つきだし、わざわざ山越えして無駄死にしなくていいんだぜ」

「そ…それもそうだな。いや、まじでそうすべきかな…」


下級兵士のやる気がなくなればなくなるほど、上へ反抗的な態度をとる者が増える一方で。

前線に蔓延する厭戦感と貴族への反発は一触即発の臨界点に達しようとしていた。



一方、オーリン王国側の山腹に散開していたフォボス軍最前線でも異変が起きていた。

宿営用天幕で寝ていたはずの下級兵士が朝になるとごっそり消える事態が頻発したのだ。


独立予備軍の元近衛騎士たちが着手した作戦行動がこれだった。

夜間に天幕をこっそり回っては兵士を説得し、独立予備軍にスカウトして予備軍基地へ連れ出す。その際も『ジヴェ将軍独立』という言葉の持つ威力は大きかった。


最前線はあっという間に立ち行かなくなり、湖畔の前線基地へ次々に撤退し始めた。



*×*×*×*×*



ノーズ砦のヤヌス伯は、頭をひねっていた。


「フォボスの動きがおかしくないか?」


「斥候によると、フォボスの宿営地が次々に畳まれて撤退しているそうです」

「戦局にたいした動きがなかったってのになぜっすかねー」

「本国でなにか大きな事件でもあったのか?」


「この際、二度とこっちに攻めこむ気が起きなくなるよう、徹底的に追撃しとくのもいいんじゃないか」

「うむ。検討の価値はあるな。ヒーツ村にも鳥を飛ばしとけ」

「了解っす。…あのいちゃいちゃカップルは今頃なにしてんすかねー」

「うぉっ。そんなにいちゃいちゃしてたのか?」

「そりゃーもう。氷の剛力女王どこへやらっすよ」

「うわー、信じられん! ぜひ見てみたい!」




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