27: 神域の審判
本日六話目です。
順番にご注意くださいませ!
タナトスの側近だったという男エピの案内で昼すぎに神域にたどりついたアンラ王子の遠征隊だったが、数歩先もかすむほどの濃い霧にさすがに戸惑っていた。
だが、すかさずエピが言う。
「タナトスは霧の中でも洞窟にたどりつけるよう、支柱をたてて縄を張っておりました。その縄にしたがっていけばよいのです」
「おお、おお、なるほどな。さすが抜け目ないタナトスめ、悪知恵が働くものだ。では早速その縄に案内せい」
「殿下。腹が減っては宝の山を運び出す力も出ますまい。ここでいったん小腹を満たすための休憩をおとりなさいませ。洞窟まではもう間もなくでございます」
こうして小休憩をはさんだ後、一行は出発した。霧は進むほどに濃くなり、やがて何も見えなくなった。視界が閉ざされた中を手探りで進むのは恐ろしかったが、思いはすでに宝の山へと飛んでいる。一行はそろそろと霧の中を進み続けた。ところが進めど進めど洞窟へたどり着かない。その内にあたりを闇が包み始めた。
「ど、どうなっているのだ! エピはおらぬか!」
「殿下、なにやらおかしくありませぬか。先ほどから同じところをぐるぐる回っているような」
「な…なにを言う、クラン!」
「先ほどから、縄の結び目が同じようにほどけかけている箇所を何度も通りました。それに道がゆるく左に曲がりつづけておりませんか」
「ばっ、ばかな!」
「殿下。しばしここでお待ちくださいませ。先に行った私が後ろから現れれば…」
「おっ、恐ろしいことを言うな!」
果たしてクランは後ろから現れ、一行を絶望の淵に叩き落したのだった。
アンラ王子の絶叫が響く。
「どっ、どういうことだ!」
「欲の皮を突っ張るだけ突っ張らせたらどうなるか…」
聞いたことのない声が、闇の中から低く響いてきた。
心臓を凍りつかせるような悪魔の声だ。
「だ…誰だお前は…。で…出てこい…」
「ふっ。小さいのは器だけでなく度胸もとは情けない」
うっすらと鬼火のような炎があちこちに浮かんだかと思うと、あたり一面の濃い霧が一瞬にして払われた。
そこに現れたのは黒髪の見目麗しい男。そして、ぼうっと青白く光る侍従のような若者と足元に寝そべる一匹の犬。その目が爛々と赤く光っているのが恐ろしい。
「張りすぎた欲の皮は、はじけて内臓が飛び出すんですよ。
ちょうどあなた方が今からそうなるようにね。…おっと、名乗りもせず失礼しました。私はウラ領参謀タナトスです」
「なっ、なっ…」
「あなた方の背後は、下を見るのも恐ろしいほどの崖なんですよ。そこから落ちれば大した神力を持たないあなた方の肉体は見るも無惨な」
「やっめっ…やめるぉっ」
アンラ王子の声が裏返る。
「いや! 近衛には強い神力持ちもいたはずだ!」
クランの声が力強く響く。
タナトスがおや、というように眉をあげた。
「どうしてあなたが選別から漏れたのか。惜しいことをしましたね」
「選別だと?」
「エピがただ何もせず帝都からの毎日を過ごしていたと思いますか。あなた方の素行や性質、能力や国への忠誠心などあらゆる要素を鑑み、ここで終わる者と未来へ命を繋ぐ者を選んでいたのですよ」
アンラ王子はもう声も出せない。
「うまい具合に強い神力持ちは死なせるには惜しい人材ばかりでね。選別にあまり苦労はありませんでしたよ」
皆が握っていた綱が一瞬で燃え尽きタナトスの姿が霧の中に消えると、若者と犬がじりじり前に進み始めた。
「だが、お前たちは生きているだけでこの世の害悪だ。己の欲に目をくらませ周りの迷惑も民のことも考えやしない。さっさとあの世に逝って己の過去を悔い改め、少しはまともな人間になって生まれ変わってくるがいい!」




