2: 聖騎士の隙
説明成分多しです。
神力の名称などは覚えなくて大丈夫。
雰囲気 雰囲気。
いろいろめんどくてすみませぬ。
イリスの所属するオーリン王国騎士団聖騎士隊は、剣だけでなく神力にも優れた隊員で構成される王国自慢の小数精鋭部隊だ。なぜ小数かというと、神力持ちはそもそも珍しい上になぜかほとんどが貴族出身で、さまざまな優れた能力をもつ息子や娘を騎士団などという危険な場所に差し出したくない親がほとんどだからだ。
神力には、稔りの力、癒しの力、氷雪の力、水の力、炎の力の五つがあり、五つすべてを持つものはさらに風と雷の力も使えることから虹色持ちと呼ばれる。
若干二十二歳で聖騎士隊長を任されるだけあって、バルド・ヤヌスは強い氷雪の力と癒しの力と水の力を誇る三色持ちだ。生家であるヤヌス辺境伯爵家は隣国と諍いの絶えない場所柄、伯爵みずから兵団を率いて戦場を駆け回る荒っぽさで有名だ。
バルドは大柄な体格で振り回す大剣の威力も凄まじいが、豪放磊落と思わせておいて隊員の細かな挙動にも気を配るおかん的繊細さから、隊員の信頼も厚い。
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小数精鋭の聖騎士隊からさらに選り抜かれた水の力持ち六名の隠密部隊は、隊長のバルドに率いられて王都から南の王領をめざす馬上にあった。報告によると盗賊団の人数はたいしたことがないようだが、一人だけ強い炎の力を持つ者がいるらしい。そいつが建物の扉をまたたく間に燃やして侵入し、駆けつけようとする警備の者たちも炎の壁に遮られて手が出せないらしい。
やつらの狙いは王領に点在する租税の収納庫で、収穫して納められたばかりの米をごっそり奪って逃走する。手口はいつも同じだし、次に狙いそうな場所もだいたい見当がついている。そこへ先回りして一網打尽にする作戦だ。
星の瞬く深夜。イリスはバルドと共に、収納庫に入ってすぐの物陰に身を潜めていた。他の二名は裏口の近く、残り二名は外の小屋に隠れている。
馬の蹄と車輪のきしむ音が聞こえた気がした。しばらく息をひそめて待つと、堅い木でできた分厚い扉がバリバリという音とともに眩い炎に包まれた。
思わず息を呑んだイリスだったが、バルドにぽんぽんと肩をたたかれ、慌てて深い息を吐いて気を取り直す。
あっという間に燃えおちた扉の燃えかすをジャリジャリと踏みしめて入ってきた男たちの数は四人。予想より少ない。彼らが奥にいくのを見送り、外から合図がくるのを静かに待つ。やがて、馬が暴れて嘶く声が聞こえた。外の見張りを確保し、馬をおさえた合図だ。
男たちが米を放り出して駆けてくる。イリスは出口を塞ぐように飛び出して叫んだ。
「無駄な抵抗はやめろ! 王国騎士団聖騎士隊だ!」
中の米を傷めないよう気を遣いながら、男たちとの間に水のカーテンをひろげる。
「アグニ、頼む!」
男たちが口々に叫び、細身で小柄な少年が一歩前に出た。
「邪魔するなっ!」
アグニというらしい少年が甲高い声で叫び、その手から炎の矢が次々に放たれる。イリスは彼らの目を引くために、わざとギリギリのところで矢を逸らしていった。
「もう少しだアグニ! 頑張れ!」
固唾をのんで見守る彼らの背後にそっとバルドら三人が忍び寄り、氷やら蔦のツルやらであっという間に動きを封じる。ハッとアグニが気づいて振り向いたときにはもう遅い。慌てて炎を出して仲間の拘束を解こうとするアグニの首に、水をまとったイリスの腕がまわり、全員に神力封じの枷がはめられた。
*×*×*×*×*
「どうせお前たちには、飢えに苦しむ俺らの気持ちなんかわかりっこねぇだろうよ」
捕らえられた男たちが口々に呟く。
「聖騎士さまなんて、お貴族さまの集まりなんだろ? 必死に育てた畑のもんがひでりで枯れちまって、嫁さんの乳が出なくなって赤ん坊はギャンギャン泣いて。情けなくってたまんねぇ俺らの気持ちなんかよ」
「あほな領主は、見栄はって王様になんも言わねぇくせに、俺たちから搾りとることしか考えてねぇしよ」
荷馬車に彼らを放り込みながらイリスは心の中で反論した。
知っている。私はいやになるほど知っている。
飢えの苦しみも、ひでりの辛さも、大切な人に満足に食べさせられない哀しさも、領主の恐ろしさも。
こんなときほど騎士団づとめがいやになることはない。貧しい民が幸せに暮らせる世界は、ここにもないのか。
最後の一人を荷馬車に乗せ、ため息をつきながら数歩あとずさったとき、荷物のすきまから小さな影が飛び出した。
「アグニにいちゃん! 今だよ、早く馬を出して!」
少女の小さな手からとは信じられないほど強烈な炎の幕がイリスの目の前で轟々と燃えさかった。
イリスは立ちすくんで動けない。
「ばかっイリス! さがれっ!」
バルドが駆け寄りイリスを左腕で抱きかかえながら、右手をかざして滝のような水を炎に浴びせる。
枷をはめたままのアグニの鞭で荒っぽく走り出した荷馬車だったが、いくらも進まないうちに車輪を氷漬けにされ、いやな軋みを響かせて止まった。
「いや! いやだ! いやだ---っ!」
少女の叫び声を聞きながら、イリスの意識は遠くなっていった。
ああ、あのときとおんなじだ。
狭霧が炎に包まれて…
私はあのときも今も、なんにもできないまま…




