11: 里の暮秋 (九年前:異世界)
本日7話投稿のうちの3話目です。
順番にご注意ください!
「槐さま。今日は澄んだ青空のいいお天気ですよ。床を離れられそうですか?」
恐る恐るといったふうに障子の向こうから罔象がぴょこりと顔を覗かせる。
「朝餉は…といってもたいしたものをこさえられないんですけどね…こちらにお持ちしますか?」
槐の病が進退をくりかえす中、里に飢えが忍び寄る。森のきのこは採りつくされ、肥やしを怠った田畑は、雨の少なさもあって例年にも増して稔りが悪い。贅沢を知ってしまった里の民はつましい暮らしに戻りたがらず苛立ち、ますます神への畏敬の念をおろそかにしている。社への施しも雀の涙だ。
忠利のもとには名主らが年貢の引き下げを請いに足繁く通っていた。用人たちは角突き合わせて何がしかの対策を講じようとするが、所詮付け焼刃にすぎない。
冬が近づき忠利は槐を館に呼んで智慧を請うが、ますます力の衰えてきた槐にも如何ともしがたい。
重たい足を引きずりながら館を辞した槐は、いきなり花街いちの楼閣の主から話しかけられて驚いた。罔象を禿として引き取りたい、というのだ。
「墓参りのときにちょっとだけ世間話をさせてもらいましたけどねぇ、あの子はよろしいですなぁ。こう、しゃーんとまっすぐなところがなんともそそりますわ」
「いや、お待ちください…。その、罔象をそのようにするつもりはまったく…」
「この先、あの子らのことが心配でございましょう? お体のほうがあんまりよろしないて聞いておりますし。なんやったら三人まとめて面倒見させてもらいますよ? 大きい子はじきに用心棒にいけそうですしなぁ。小さい子は頭よろしいてことやから、勘定を仕込んでやれば商いの道にもいけるかもしれませんて」
しつこく食い下がる主を何とか振りきったものの、槐はいよいよ追い詰められた心地になる。
この先子供たちだけで暮らしていけるのか…。そんな心配、もう飽きるほどくり返している。
社の小さな痩せ地を開墾して森からよい土を運ぶなど、子供には厳しい力仕事をこなす男手がどうしてもほしい。親のいないあの子たちに悲惨な末路をたどらせたくない。




