届かない想い、気づいてほしい想い
伊館桃葉…学級会長、仁が好き
明石香苗…副会長、名前だけ
仁…副会長、誰が好き?
佳子…桃葉の友達、初恋もまだ
中学2年生。初めてのクラス替えで私は君と、仁くんと同じクラスになった。
仁くんは笑顔がかわいくて、頭が良くて、表に目立って活動していることはなかったけど、いつも陰ながら支えてくれていた。
まっすぐ目を見て話してくれる仁くん。
距離間がいつも近くて、すごくどきどきしていた。
そして、気づいたら。
仁くんが好きになっていた。
話しかけてもらえる度、優しくしてくれる度、私の言ったことに笑顔になってくれる度。
好きって気持ちが大きくなっていった。
席は離れているし、委員会の仕事以外で話すことなんてなかったけど。
それでも私は仁くんが好きなんだ。
私はそのことを友達の佳子に話していた。
「ねえ、佳子。私さ、仁くんのこと好きになっちゃった」
「えっ、ほんと?実はさ、桃葉が部活休んだ日、部室に仁くん来たんだよ。先生に用事があったんだけどね。」
「嘘、なんで部活休んだんだろう最悪。」
「でね、私がトイレ行くとき仁くんに話しかけられちゃってさ。去年助けたことがあったっていうのと、私が香苗に面白いことを言ったのが記憶に残ってたから話しかけたんだって。
今から一番すごいこと言うよ?仁くんがさ、明石の友達っていい子多いよね。俺、クラスに好きな子いるからって言ったの!」
「えっ、ほんと?」
「ほんとほんと」
好きな人、自分だったらいいな。なんて淡い期待を抱きながら、私は佳子に
「仁くんにさ、誰好きか聞いてみてくれない?」
と頼んだ。
「ただでさえ男子に話しかけるのに緊張するのにー。でもいいよ、まってて」
自分じゃないだろうけど、好きな人を知りたい。その一心で佳子に頼んだ。
実は、この時から少しだけ違和感があったんだ。
なんで、佳子に急に話しかけたんだろうって。
この違和感の正体は、次の日、すぐに分かった。
「桃葉、聞いたよ」
「ありがと、聞かせて聞かせて」
「好きな人は教えてもらえなかった。でもね、ヒントはくれたよ。
鈍感で、自分よりも相手を優先する人だって。
それと、さん付けで呼んでるみたい。
その好きな人のことは、1年生のころから気になっててまさか同じクラスになれると思ってなくて、驚 いたみたい。で、好きになったんだって。
私は仁くんの好きな人、桃葉だと思う。
仁くんにさ、その人のこと好きか聞いたの。そしたら、うん、大好きって笑顔で言ってた。
かわいかったなあ。
相手が気付かないってことは仁くんアタック足りないんじゃない?とも言ったの。そしたら、そんなわ けないって答えた後に無表情になって、鈍感すぎて嫌になるって言ったの。」
え、何それ。
一瞬、かっこいいなって思った。でも、おかしくない?どう考えても、佳子に言っているようにしか聞こえないよ。
「そのあと、俺だけ言うのは不公平だ、佳子さんはどうなのって聞かれたから
いないですって答えたら、だからダメなんだよって言われて会話終わっちゃった」
怖かったな、と言う佳子。
ああ、気づいちゃったよ。
仁くん、佳子のことが好きなんだ。
なんで、佳子は気づいてないの?
鼻の奥がツンとして、目が熱くなってきた。
「佳子、私仁くんの好きな人分かった」
「えっほんと?」
「佳子だよ」
「え?いやいや、流石にないでしょ」
笑いながら否定する佳子にむかついた。
「だからダメなんだよって、佳子が、仁くんの気持ちに気づいてくれなかったから言った言葉でしょ。
鈍感っていうのは、仁くんが佳子に話しかけたのになんも気づかなかったから。
大して話したこともない人に、急にこんな話するわけないじゃん。
昨日教えてくれた会話だって、遠回しかもだけど佳子のこと気になってるって言ってるようなものじゃ ん。
態度とか、言葉とか。どう見ても、どう聞いても、佳子のことが好きってわかるよ。
なんで気づかなかったの?」
思った言葉、きつい口調で佳子に言った。
八つ当たりだってわかってる、でも。
仁くんは、アタックしてたのに、なんで気づかないんだよ。
佳子が思いつめた表情で
「ごめん、なんも言えないよ。
でも、私って決まったわけじゃないしさ。」
は?
「佳子以外ありえないじゃん、そういうのやめてよ」
人を好きになったことなくても、これくらいわかるんじゃない?
好きな人が自分じゃない、仁くんは、佳子が好き。
その小さいようでとても大きい事実が私を苦しめた。
溢れ出そうな涙を出さないように必死に我慢して私はその場を走り去った。
桃葉!
佳子の、私を呼ぶ声を無視して。
案の定、仁くんの好きな人は佳子だった。
佳子に告白をしたらしい。
心のどこかでは期待していたんだ。本当は自分なんじゃないかって、ありえないけど、そうじゃないのかって。
こういう時、自分が嫌になる。
やめてよ、自意識過剰なわけ?
私は、両想いになれないんだから。
そんな期待しても、自分が辛くなるだけじゃん。
気を紛らわすために好きな曲を聴いた。
自分と似ている状況にある曲だった。
我慢していたはずの涙がどんどん止まることなく出てきた。
好き、好きだよ。
私を好きになってよ。
ずっと好きでいるよ、つらい想いなんかさせないよ。
少しでもいいからさ、私を見てよ。
好きだよ。
好きだよ。
仁くん、好きだよ。
失恋がこんなにも悲しいなんて、知らなかった。
恋って本当につらい。