第三夜:糸
まわりまわる。くるりくるり。
いつまでたっても終わりは見えず、くるりくるりら目が回る。
小指に結んだ赤い糸。
たわんだ其は頼りなく、ぴんと張ればぷつりと切れる。
同じように切れてしまえばいいのにと、きつく巻き付けながら矛盾した想いを抱く。
どうして運命だと思うのか。
幾度巡っても恍惚の中で終わることなどないのに。
どうして逢った瞬間に気づいてしまうのか。
一度として周りに祝福されたことなどないというのに。
どうして男と女に生まれてしまうのか。
親子ならいいのか。
兄妹ならいいのか。
貴方は風で、私は舞う花弁ならいいのに。
貴方は水面で、私はその上で砕ける月影ならいいのに。
水に揺れる赤い糸。
水の精が戯れにほどいてはくれまいか。
水を含んだ糸はさらに強固に食らいつく。
色を失った体の上で鮮やかに存在を示すだろう。
もう幾度廻った。
幾度貴方に恋し、貴方に愛され、互いに息の根を止めあったのか。
どうしてこの小さな世界の同じ時代に産まれ落ちるのか。
出逢うまで探し求めて、見つけては歓喜と絶望を繰り返す。
それでも、他のお人を探すことなど思いつきもせず、求め求められ繰り返し。
きっと来世でも巡り会う。
「そう思うでしょう?」
女は男の血走った瞳を隠し、怨嗟の言葉を吐いた口に口付けをし、冷たい水の中にゆっくりと身を浸した。
水泡が水面を揺らす。
池の底では赤い糸を纏った無数の骸が、恨めしげに天を見つめていた。




