緋色に空は染まり、夜の帳は落ちて 2
「本当に銀髪になってるな…」
ケンネルは驚いた様に屋根の上で丸まり、すやすやと安らかな寝息を立てて寝ているハクを見詰め、目を同じように丸くする。
月夜に映えるハクの銀色の髪の毛は時々吹く風にサラサラと流れ、見る者の意識を攫う。
月の光が艶やかに煌めき、その白き貌の横顔は、其処らに居る美人と言われる物達をも遥に凌ぐ。
「ケンネルさん触っちゃだめですっ」
モチは慌てて制し、手を伸ばそうとしたケンネルを止める。
「あ、ああ」
無意識に出して居た手を遅し、身震いする。
自分は一体何をしてるのだ?と、驚いて自身の両の手を見詰める。
訳が分からない。
ただ、この夜風と共に自身の肌にざわめく悪寒の様なざわざわとしたモノは、モンスターと対峙した時でさえ感じる事の無かった、抗うことが出来ぬ『畏怖』にさえ似た気配。
無論違うとは頭で分かっているのだが…
『ほう?ケンネルでもそれかの?』
ミトラはクスクスと口許に笑みを浮かべ、空中で一回転する。
すると金色の鱗粉をハクに振り撒き、自然とケンネルの肩から力が無くなる。
我知れず力が入って居た様だ。
何だ?この妙な惹き付ける力は?
『ハクから傾国のスキルを少しの間抑えておいたがの、ケンネルは触るのは止めといた方がよいのじゃ。先程同様、触れれば妙な衝動が押さえきれ無くなるからの』
ーー自分のモノにしたくなるぞ?
と、恐ろしい言葉を聞き、ケンネルは唖然とした顔をする。
『何、驚くことはないのじゃ。ケンネルは自制が効くからそこまで酷くはならなかったがの、アホゥな輩は犯罪者になる位はあっという間になるしの。それだけ【傾国】と言うスキルは凶悪なのじゃ』
ハク自身は迷惑がっておるようだがの、とミトラは苦笑し、それでも今は必要なのじゃから迷惑な話ぞ。と、述べる。
「それならこんな所で無防備に寝てたら不味いんじゃないか?」
『モチが居るからの、信用されとるのう?の、モチ』
ニコニコとミトラがモチに笑い掛けると、モチはてへへと照れ臭そうに笑う。
『モチ~~っ可愛いのじゃーっ!!』
ビターーンッ!
本日三度目のミトラの顔面アタック!
モチは卒倒した!
『ぎゃあああっ!誰がこんなことを!』
「お前だよっ!」
むきゅ~と変な声が出てるモチは再度、いや、三度もケンネルにベリッとミトラを剥がして貰い、「ミトラさん止めて下さいっ!」と強く訴えていたが、絶対またやるだろうなと思って居るとーー…
「おーい何してんの?」
下からアレフの声がした。
『む?』
「むきゅ?」
『むむむむむ』
「きゅ」
部屋の一角でミトラとモチが顔をお互い付きだし、妙な形相(にらめっこをして遊んで居るらしい)をしているのを眺め、ケンネルは「平和だ」と呟く。
そのケンネルの手にはお茶。
先程モチが淹れたモノだ。
ちなみに、今はハクが脱け出した治療院の部屋である。
その部屋のベットの上でハクは寝かされ、先程同様丸まって寝ている。
時々ごそごぞ動いて居る様だが、起きる気配は無い。
そのハクの前ではアレフが機材を持ち込み、何やらブレスレットに様々な術式を複雑に掛け合わせて組み込んで居る。
横からケンネルは眺めてみるが、何を組み込んで居るのかさっぱり理解出来ない遣り方に頭を傾げる。
ちなみに、ここまでモチ以外が触れる事が出来ない為にミトラが空間移動を使い、あっという間にこの部屋に飛んできた。
しかも全員がである。
勿論下に居たアレフは自力で来て貰ったが、その魔力の高さにケンネルは感心した。
したのだがーー…
普段の言動がアレでアレがアレなので、ケンネルは思った。
痛い系精霊、と。
どんな属性だ………。
『何だかものっすごっく、不名誉な事考えて居らんかの?』
どうやって感ずいたのか、ミトラがジトリと睨んで来るがケンネルはスルーした。
と言うより、アレフの高等な術式に感心していた為、目を離したく無かったのである。
『無視かの』
むむむっと唸って居る声が聞こえてきたが、モチの「ミトラさん遊んで下さい」と言う声で(しかもミトラの腕をツンツンとつついてである)即座にミトラの機嫌は上機嫌になり、「モチ、何して遊ぶかの?」とデレッデレッの表情で。
ミトラ、若いオナゴにデレルオッサンか。
モシクハ孫にデレル……自主規制。
そこでふと、気が付いた。
誰か忘れて無いだろうか?と。
「街中探したんだけど、ハク君見つからなか………………」
ドタドタと足音と共に部屋に流れ込んで来たカリナタを見詰め……
「みんなひっどぉぉい~~っ!」
カリナタの絶叫が周囲に響き渡ったのだった。
予想外長くて困った…
もう少しお付き合い下さいっ!




