彼は眠る、永久に
数百年前
世界を闇が覆い
太陽の光りを失い
作物が枯れ
木々が枯れ
魔王と呼ばれる者達が君臨し
魔物が突如として現れ
人々を襲った
人々は逃げまとい
数を減らし
結果人類の貴重な
叡智
文明
過去の遺産等は崩壊し
衰退は加速した
それを憐れんだのか
数居る魔王の中から突如
独りの者が反旗を翻した
彼の者は
この世界の女神ザアファラーンに愛され
他の魔王を畏怖至らしめ
人の世界と他の魔王と契約し
世界に平和をもたらした
その名を魔王アドニス
漆黒の髪と漆黒の瞳を持つ王者也
パタンっと手にしていた本を閉じ、溜め息を吐く。
この世界の文字ははっきり言って何が書いてあるのか読めないのだが、読めるように漢字と平仮名で翻訳されたメモが挟まっていた。
そのメモに、上記のお伽噺のような事が書かれていた。
「文字学ばないと不味いだろうな…」
再度溜め息を吐く。
本の表紙の文字さえ読めないのだから、今後この世界で生きて行くには必要だろう。
それに貨幣価値。
生活して行くには一番必要なことだ。
他にもこの世界について学ばないといけない事が多すぎる。
魔法やスキル、ステータスに書いてあったこと、そして何よりも自身の弱体化のこと。
弱体化を掛けた奴のこと。
先日のモンスターの襲撃のこと。
何もかも知らなすぎる。駄目だ、こんなのは駄目過ぎる。
…考えればきりがない。
ふむ、とハクは天井を眺め思い返す。
今はやけに頭がすっきりとしている。
この世界に来た当初、訳がわからない事態ばかりで流されていて、頭に靄が掛かったようで行き当たりばったりで過ごしていた感じがするが、今は何故だか明確に意思が持てて居る気がする。
…魂の定着化…
この身体は借り物。
もしかしたら最初の頃は慣れておらず、頭に靄がかかったように感じていたのも入ったばかりだからかもしれない。
「少しは慣れたのかな」
ふと、何故この本は読めと言わんばかりに、枕元に日本語訳のメモが挟まった状態で置いてあったのだろう。
まるでハクが異世界から来た日本人だと知っているかの様に。
…正確には少し違うけれど。
身体は日本人らしい信田あきと言う人物のもの。
中身の魂は記憶が無い(マクスウェルは別)人では無いもの。
先日の戦闘の一件で生前?の姿らしいマクスウェルを自身の中で見たのだが、その時は細身の人間の様な感じを受けた。
だが髪と瞳が別物、銀髪と真っ赤な血の様な瞳であった。
…他にも確か、戦闘中で「獣人」とか「二尾」とか。
うーん…
…わからなすぎる。
それとメモに書いてあったこと。
魔王アドニスの漆黒の髪と瞳、これ、日本人じゃないかな。
少なくともこの街に来てから、自分の様な黒髪と瞳等見たことは無い。もしかしたら居るのかも知れないが。
そうして、まるで見ておけと言わんばかりに本はハクの枕元に置いてあった。
意図して置いてあったとしか思えない。
それにーーここは何処だ?
泊まっていた部屋ではないようだし、何よりも静かだ。
宿屋ならば壁が薄かったこともあり、人の気配が何かしら感じられたのだが、今は全く気配という気配がない。
「モチ、居ない?」
真っ白なモフモフな毛皮を撫でたら少しは落ち着くかもしれないし、何より状況がわかるだろう。
おまけに寂しく無くなる。
だがしかし、呼び掛けてみるが答える声は無い。
ハクは白いベットの上でもそもそと状態を起こし、辺りを伺ってみる。
白い壁に木の床。
天井は床と同じ材質の木。
材質はわからない。
宿屋の床より上質なような気がするが、決して贅沢と言うわけではない。
部屋の中にはベットと小さな机に椅子、壁には大きくもなく小さくもない、普通の大きさの窓。
白いカーテンが掛かっている。
ベットは窓際ではなく、どちらかと言うと入り口があるドアの方側に足を向けた状態で部屋の中央に二つ置いてある。
患者と介護する者用な感じだ。
何となく病院の様な気がする。
シーツとベットは洗濯したてのような石鹸の仄かな香りがし、清潔に保てて居る。
そう言えば、マクスウェルが傷みを引き受けて居ると言っていたが、本当だろうか?
自身の胸元を見ると清潔な状態の包帯が巻かれており、腕や首もと、脚にも丁寧に巻かれている。
「結構重症なのかな?」
上半身裸、と言っても包帯でグルグル巻きの状態で傷があると思われる箇所に手を添えると、チクッと針で刺されたような傷みが走るがそれだけ。
この包帯でそれだけの傷みと言うのはおかしい。
それに、先程から不思議な力を部屋中に感じる。
その違和感は多分これ。
ーーシステム、マクスウェル聞こえてる?
実は先程から呼び掛けて居るのだが、一向に返事が無い。
マクスウェルは力が無いと言っていたから返事が無いことも頷けるが、システムが応答が無いと言うのはおかしい。
何時もなら聞いてみると即返答があるのが常であったのだから、違和感がする。
ふと、感じている違和感が部屋の入り口からする気がし、ドアがある方を向くと、
「何これ?」
小さな光がドアの前に漂っている。
「埃?」
『なんじゃと!見目麗しいから何処ぞの貴族のボンかと思いきや、失礼なワラシであったか!』
キンッと金属音が鳴った瞬間、空間が歪み、次いで金髪をシニヨン風に結い、背には透明度の高い羽ーー蜻蛉の羽根のような物を小刻みに揺らし、小さな女の子が現れた。
赤ら顔になっているのは恐らく怒っているせいだろう。
『精霊の加護等と言う希少なもん持っとるから見にきてみればまあ、フンッ!つまらぬ!』
「え?あ!ご免なさい!!」
『ほう、我を見て即謝るか。恐れもせず良い心がけじゃ。その心がけに免じて許してやろうぞ』
口元をにーーっと吊り上げ、可愛らしい顔に厭らしい笑いを張り付け、ふと思い出した様に顔をクシャッと歪める。
『可愛そうじゃの』
「怪我のことですか?」
青い瞳をやや吊り上げ、身の丈40センチ位の女の子は身体中からティン○ーベルのように金粉を振り撒きつつ、
『怪我のこともあるがの、それのことだけではない。つくづく人間と言うものは面妖よの』
等と納得呟いて部屋中をキョロキョロと見詰めている。
「面妖?」
『わらわに任せて置けば良い。何、悪いことはせぬ。むしろそなたには良いようじゃしの』
「?」
『まあ見ておけ』
話終えた直後、グルグルと部屋中を飛び回り、
『ふむ、ここかの』
と、部屋の壁に向かいーー部屋の壁紙の一部を引き剥がし始めた。
「わっ!ちょっと!!」
すると、剥がした壁紙の中から真っ黒な、漆黒の色で書かれた禍々しい魔方陣が浮き上がって来る。
表面が黒い液体が漏れて来るように、徐々にではあるがジワジワとインクらしきものが宙に浮くんでくる。
そのインクが俺に向かって来る途中で、ちょんっと羽根の少女が触ると一気に空間で散って行く。
『やはりの、厭らしい仕掛けじゃ。ほんに穢らわしい。わらわの最も嫌いな罠じゃ。御主、魔の者に狙われとるようじゃの?』
今回はプチ入れることも無い(笑)
えー今回から章と言うのを入れて見ました。
入れなくてもそのまま、だ~ら~と続けても然程変わらない気がするけども一応区切りと言うことで。
しかし、のじゃ娘言葉が大変です。
ほっとくと津軽弁になるのは何故じゃ!
見直さないと流暢な東北弁話してたよ、のじゃ娘。
私の脳内のじゃ娘=東北弁娘なのだろうか???
不思議だなぁ~