商売を始めよう
僕は風呂で体を洗っていた。
大工には屋敷の風呂を広く作ってもらったので公衆浴場並みに広い。
一人で体を洗っていると、後ろの方で戸を開ける音がした。
「ご主人様、御背中流させていただきますね」
「ええっ、悪いなあ」
「あ、こちらを見ないでください。裸ですので」
「ああごめん、失礼しました」
「すいません。そういう意味ではなく、私は醜い体ですので……」
そういわれては否定しないわけにはいかない。
僕はミを直視した。
「醜くなんかないよ、ミの体は綺麗だよ」
実際、綺麗だった。
ところどころ過去の傷跡があるが、透き通るような白い肌だ。
奴隷商人から買った当初は血色も悪く土気色にすら見えたものだが、変われば変わるものである。
「ご主人様、有難うございます。私、ご主人様になら……」
「ん?」
「抱いて欲しいです、厚かましいお願いですいません。
でも私、ご主人様となら本当に……」
ミが僕の胸に寄りかかる。
やれやれ、そんなつもりじゃなかったのにな。
でも、ミは贔屓目に見なくても美少女だ。
可愛い子に寄りかかられるのは嫌じゃない。
僕は彼女を抱きしめてやるのだった。
とても良い匂いがする。
これが美少女の匂いか。
「ああ、ご主人様……」
僕達は抱擁し合う。
何か二つの丸い物の感触がとても気持ちいい。
ああ、魔王討伐を引退して本当によかった。
スローライフを始めて本当によかった。
本当に良かった。
ほんと良かった。
とても大事な事なので4回言った。
その夜滅茶苦茶セ○クスした。
最高だった。
---数日後 アオヤマ商業区
「ご主人様、商品はここにおいても良いですか?」
「うん、そこでいいよ。ありがとう」
人通りの多い商業区に僕らはやってきた。
様々な人種が何かを求めてやってくる場所だ。
この街の人間は勿論、商人や冒険者、外国から来た人間までが行き交う商売をやるには持ってこいの場所だ。
そう、僕も商売を始める事にした。
ぶっちゃけ、暇なのである。
社会生活が人には必要だという事が理解出来た。
というか、ネットも無い状態で一日中家の中に引き籠るには限界がある。
ミと共に退廃的な生活を送るのも悪くはない。
昨日もミと一日中家に籠っていたぐらいだ。
それでもたまには外の空気を吸いたくなるものである。
「前から商売ってものをやってみたかったんだよね」
「ご主人様ならきっと上手くできます!」
城まで続く大通りには道の両端に様々な露店が所狭しと並んでいた。
僕らもその仲間に加わろうと敷物を敷き、商品を並べ始める。
「よーし。ここから商売を始めよう」
僕は"魔法の大袋"の中を覗き、まさぐった。
ただの奇麗な袋にしか見えないが、
実は伝説級のアーティファクトアイテムだったりする。
機能としてはただの袋である。
ただし、その実力が凄いのだ。
無限に物が入る。
武器でも鎧でも幾らでも入る。
取り出すときは欲しい物を念じて取れば良い。
要するに四次元○ケットである。
ただし、中に何が入っているかを忘れてしまう事があるのが欠点だ。
薬草を入れた事を忘れて余分に買ってしまった事が何度あったか。
「ミーちゃん、売り物をどんどん出していくから敷物に並べてね」
「はいご主人様」
どんどん袋の中から物を取りだし、ミに地面に敷いたゴザに並べさせる。
魔将軍を倒した時に手に入れた魔力の篭った大斧。
神秘の泉を訪れた時にガラス瓶に詰めたどんな傷でも治してしまう奇跡の水。
傷ついても自動で修復される魔法の鎧。
聖剣よりレアリティーは低いが価値のある品物だ。
「はいご主人様」
「もうご主人様じゃなくてカイエンって名前で呼んでほしいな。僕もミーちゃんって呼んでるし」
「でも、ご主人様はご主人様ですし、名前で呼ぶなんてとても恐れ多いです」
「もうそういう他人行儀な仲でもないしさ」
「あ……は、はい。カイエン……様……」
ミは赤くなりながら品物を並べる。
うーん、やはりとても可愛い。
道行く通行人もミをチラチラと見ていた。
明らかに傷のついた奴隷が物珍しいとか馬鹿にするような視線では無い。
可愛いから、美少女だから、視線を引き付けているのだ。
暫くこのアオヤマで僕は暮らしていたわけだが、ミより美人な子は見たことが無かった。
優越感を覚える。
「よし、準備で来たぞ」
「はい!」
商品を並べ終わった。
これから僕の商人道が始まるのだ。