表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/34

傷だらけの奴隷2


---翌日




 「大丈夫かい?」



 僕はまだ大事をとってミをベッドに寝かせていた。

 体は大分よくなってきたと思うが……

 問題は心の方であった。


 「……はい……有難うございますご主人様……」


 ミは虚ろな目をしている。

 どうやら、まだ僕は本当に信用されているとは言い難い。

 まぁ当たり前か、所詮僕もミを金で買った主人でしかない。

 信頼関係を築くにはまだ時間が必要だろう。

 

 ためにしに頭を触ってみると


 「ヒィィィ!」と、悲鳴を上げた。


 「大丈夫だよ。大丈夫僕は君を傷つけないよ」


 この間はこの子もテンションが上がって触れてもなんとも無かった。

 だが冷静になって落ち着いてくるとやはりまた恐怖が沸き起こってきているようだ。


 ミはそれはそれは酷い目にあって来たらしい。


 自分の主人に殴られたり痛めつけられただけではなく、主人の命令で色んな人間に痛めつけられたらしい。

 会う人間ほとんどが自分に危害を加える。


 一体どれだけの地獄に居たのだろう。


 これでは精神に異常を来すのが当然だ。


 大丈夫だよ、と何度もなだめてミの頭を撫でる。

 1時間ほどすると落ち着いて眠る。

 

 これを数日間繰り返した。




---数日後





 僕はミを外に連れ出して飲食店に入った。

 奴隷服しかないので粗末な服のままで申し訳ない。

 女の子の服もいずれ用意しなければならないだろう。

 

 「ご主人様、私なんかが入っても良いのですか?」


 ミが質問する。

 最初の頃よりは打ち解けた方だと思う。

 何度も頭を撫で、僕がミを傷つける行為を行わない事を説明し続けた。

 ある程度は僕に対する警戒心を解いた……と思う。



 「ミーちゃんはこういう所に、前のご主人様に連れて行ってもらったことは無かったの?」


 「基本的にずっと家の中にいました……食べ物は麦の粥しか食べたことがありません」


 「そうか、嫌な事を思い出させちゃってごめんね」


 「いいえ。とんでもございませんご主人様」


 ミは無表情に答える。

 まだ、完全に信頼されたわけでは無い。

 僕にとって不愉快な行動を取らないよう細心の注意を払っている感じがする。

 ミにしてみれば当然の自衛かもしれない。


 まだ僕が"優しいご主人様"だと決まったわけでは無い。

 その時の気分によっては暴力を振るうようになるかもしれない。

 ミにしてみれば今は出来るだけ僕を刺激したくないのだろう。


 少し寂しいが、そういった誤解を一つ一つ解いていきたいと思う。


 今日はその一環である。



 「お待たせしました」


 店員がケーキと紅茶を僕らのテーブルに置く。


 紅茶の良い香りが立ち込める。


 「……」


 ミが鼻をヒクヒクさせる。


 「食べようか」


 「はい」


 はい、とは言うが、決して手をつけようとはしない。


 

 「どうしたの?」


 「いえ……私が先に手をつけるわけには……」


 僕はケーキを口に放り込んだ。


 「ほら、ミも食べて」


 そうする事でようやくミもケーキに手を付けた。

 可愛らしい手でフォークを握り、クリームのついたお菓子を口に一口。


 すると、ミの表情が変わった。



 「美味しい……です。本当に美味しい」


 「そう、良かった」


 ミは一心不乱にフォークを使ってケーキを口に運ぶ。

 この時ばかりは年相応の少女に見える。

 連れてきて良かった。


 




---さらに一週間後






 「これは君の部屋だ、ちょっと散らかってるけどね……」


 養生ようじょうし、体調が戻って来たミに僕は部屋をあてがった。

 奴隷とは言っても一人の人間(獣人)だ、それに可愛い女の子だ。

 それ相応に扱う必要があるだろう。


 ミは本当に可愛かった。

 栗色のショートヘアに大きな瞳、犬タイプの獣人なのか、三角に立った耳がアクセントとなっている。

 体格は小さく、小柄だがまるで体操選手のような均整の取れた体付きをしている。

 顔や体についた傷ですら何か退廃的な美を引き立てているように思えてしまう。

 それぐらいの美少女であった。



 「……」


 少女は若干の戸惑いを覚えながらも、僕の目を真っすぐと見る。


 ミが目を覚ましてからの一週間は気を使った。

 暴力を振るわない事、傷つけないと誓い、紳士的に振る舞った。

 そのおかげか、多少は信用されてきたと思う。





 「ご主人様、私、あの……」


 ミが言葉を濁す。

 しまった、忘れていた。

 本当は目が覚めたらすぐに言おうと思っていたんだった。

 タイミングを逃してダラダラとあやふやな状態を維持してしまった。


 

 「あ、あー……ここに居たくないならそれでもいいんだ。無理強いはしないよ。だけど、お給金を払うから出来れば暫くの間家の掃除の手伝いをしてくれないかなあ……」




 「……」


 ミは黙り込む。

 やっぱり、奴隷なんか辞めるに決まってるよね。

 あーあ、結局家の掃除は自分でやるしかないかな?


 だが彼女の返答は予想外のものだった。


 「こんなお部屋、本当に住んでいいんですか!?」


 ミは今まで聞いたことのない明るい声で返事をした。

 目がキラキラと輝いている。

 

 「え?」


 「こんな広くて凄い部屋に住めるなんて思っていませんでした。

 ご主人様有難うございます!」


 喜んでもらえて何よりである。

 どうやら、僕の元に居てくれるようだ。



 この日から僕とミの本当の共同生活が始まった。









 屋敷の掃除はとてもはかどった。

 ミは掃除洗濯料理何でも出来た。

 ゴミ屋敷はあっという間に綺麗になってしまった。

 全くもって素晴らしく働き者の子である。

 買って本当に良かった。



 

 「ご主人様、どうぞ召し上がって下さい」


 大理石のテーブルの上に、料理が置かれる。

 スープにパンに主菜副菜。

 

 外の屋台で買ってきた簡単な物しか食べていなかった僕にとっては感動物であった。

 




 「ミは食べないの?」


 「え、あ、あの。私は奴隷ですから……」

 

 ミはリビング兼食堂の隅っこ立って待機していた。


 どうやら奴隷身分が主人と食卓を共にするのはおかしいらしい。

 だが僕はこれでも現代人だ、奴隷を差別するのは間違っていると理解はしている。


 「一緒に食べようよ、主人とか奴隷とか、そういうの気にしなくていいからさ」


 そういうと、ミはポロポロと泣き出した。


 「う、うぅー。有難うございますご主人様、ご主人様のような方に買ってもらってミは幸せです」


 そしてこの日からミは僕の家族となった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ