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傷だらけの奴隷



 「もう大丈夫だよ」


 僕は籠を開けようとした。

 ……しまった、鍵がかかっているぞ。

 奴隷商人は籠の鍵を受け取る前に前にやっつけてしまった。


 やれやれ、しょうがないな。


 ギギギギギギ。


 僕は鉄製の籠を強引にこじ開けた。

 素手でこじ開けて籠を壊してしまった。

 けど、渡したお金の中に籠代も入れて置いたという事にしよう、うん。



 「……」


 奴隷の女の子は無感動にそれを見ていた。

 うつろな目、生の光を感じさせない。

 何もかもを諦めている目だ。


 そしてとても具合が悪そうだ。


 

 「今日から僕が君のご主人様だよ」

 「……お買い上げ、有難うございます……新しいご主人様……」


 そういうと女の子は崩れ落ちた。

 気絶したのだ。

 本当に体力を消耗していたらしい。


 

 やれやれ、家の掃除をするために買ったのに……

 もしかするとこの子の葬式を上げてあげるために買ってしまったのかもしれない。





--- 一週間後 カイエンの屋敷





 「もう峠は越えました、後は養生させて下さい」


 「有難うございました先生」


 俺は医者に礼を言って玄関まで見送った。







 俺は僕の奴隷となった獣人の女の子を自室のベッドに寝かせて治療していた。

 病気はすぐに直したが、まだ目は覚まさない。

 相当衰弱していたようだ。

 おかげでまだ名前すら分からない。


 とりあえず回復するまで屋敷で面倒を見る事にした。


 治療自体は僕にとっては難しい事では無い。

 勇者の頃に取得した回復魔法、それがあればどんな傷だろうが毒だろうがあっという間に治る。


 だが、この女の子は根本から体力を消耗していた。

 大小さまざまな外傷は治療したが、内部からの疲労は魔法では簡単に癒せない。

 だからこの子は病気が治った後もベッドから起き上がれなかったのだ。


 

 少女の顔の横には大きなキズが付いていた。

 昔誰かに付けられた傷跡なのだろう。

 女の子に酷い事をする奴も居たものだ。


 たまに、魔物より人間の方が悪いことをするのでは、と思う事もある。



 ただ、顔に深く刻まれた傷を差し引いても女の子は物凄い美人だった。


 汚れを拭いて綺麗にしたから分かる。

 傷を負って尚美しい肌、人目を引く顔立ち。

 この子は街をあるけば誰もが振り返る美少女だ。



 「っう……」


 「あ、目が覚めたみたいだね」


 とうとう、少女が目を覚ました。

 少女は横たわったまま目を動かし、周囲を観察する。

 とてもおどおどしていた。

 何かに恐怖しているようだ。


 そして僕を見つけると、さらに恐怖の色を濃くしながらも、口を開いた。

 

 「有難うございますご主人様……、もう、大丈夫です」

 「まだ無理しなくていいよ」


 そういったが、獣人の女の子は起き上がった。

 

 「ミ・クンリロと申します。なんでも致します。

 掃除洗濯、一通りの事は出来ます。

 一生懸命頑張ります……

 ですからどうか……殴らないでくれると嬉しいです……」

 

 ミは上目遣いでこちらをチラリとみる。

 僕に視線を合わせようとはしない。

 これは相当虐められてきた子だろう。

 僕は別に精神科医でもカウンセラーでもない。

 しかしこの子の明らかに他人に対する恐怖を持った挙動を見れば、以前はどういう扱いを受けていた子なのか容易に分かった。


 どうやら前のご主人様が相当酷い扱いをこの子にしていたらしい。

 無論、この子についた外傷だけでも十分に予想できたが。


 この子を屋敷に連れて来た時に軽く体を拭いた。

 とても汚れていたので申し訳ないとは思ったがしょうがなかった。

 そして体を見てびっくりした。


 全身が傷だらけだったのだ。

 回復魔法を使っても、恐らく一生取れない傷。


 一体前の主人はどれだけこの子を傷つけたのだろう。

 人間の所業では無い。


 


 そして、獣人の子はゆっくりと口を開いた。

 慎重に言葉を考えたのだろう、僕に暴力を振るわれないか、恐怖を露わにしながら。



 「前のご主人様は私のカラダでよく遊ばれました、ご主人様も私のカラダで遊ばれるのですか」


 「あ、あ、遊ぶって?」


 「鞭で背中を叩いたり、火であぶったり……」


 ま、まさかSMプレイ?


 「指に針を刺したり、顔をナイフで傷つけたり……ふっ……うっ……うぅー!」


 限界が来たのだろう。

 堰を切ったように呼吸が荒くなり、涙をポロポロと流し始める。

 

 僕にはこの子の気持ちが手に取るように分かった。

 目覚めた瞬間、この奴隷の少女にとっては恐怖の時間が始まったのだ。

 新しい主人、つまり僕に暴力を振るわれると確信していたのだろう。



 「もういいんだよ、僕はそんな事に興味は無い。ただ家の手伝いをして貰いたいだけさ」


 僕はミを抱いて頭を撫でた。

 彼女の体は小さく、細く、震えていた。


 「う、うぅーぐすっ。有難うございます、優しいご主人様。一生懸命働きますのでよろしくおねがいします」


 言葉とは裏腹に、僕に抱かれた少女は体をガチガチに硬直させていた。

 本当に信用してもらえるまでは時間がかかりそうだ。


 

 後で詳細を聞いたところ、彼女の前の主人は暴力に興奮を見出すタイプで、性的な悪戯などはされなかったようだ。

 しかし徹底的に彼女を破壊し、顔や体に一生消えない傷をつけた。


 そして死にそうになったところで奴隷商人に売ったという話だ。

 とんでもない話である。

 

 やはり、人間も魔物と同じように心に闇を抱えているのかもしれない。


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