エンディング2
「ご主人様、今まで有難うございました。ミは幸せ者でした……」
「うん。僕も君と一緒に過ごせて幸せだったよ、今まで有難う。本当に感謝しているよ」
「……」
ミは、屋敷のベッドの上で静かに息を引き取った。
享年97歳、大往生だ。
「寂しくなった……な……」
これで、リュシアも、ニーナも……
僕の愛する奴隷達は皆死んでしまった。
僕も年を取った。
近頃は目がかすみ、視界が白くぼやけている。
白内障という奴だろう。
子や孫たちはそれぞれ自立して今は居ない。
皆、世界中で活躍している。
さすが、僕達の子孫だ。
……でも、寂しい。
広い屋敷に、僕は一人ぼっちになった。
改修しながら使い続けてきたが、劣化は否めない。
「建物も、人間も、寿命ってものがあるよね」
僕はミの葬儀を済ませた後、屋敷に火を放ち、
住み慣れた土地アオヤマを後にした。
もう誰も居ない家に未練は無い。
前からやろうと思っていた事を実行に移す時が来たのだ。
---魔王城
「やっ、魔王」
「貴様は……」
魔王も驚いた事だろう。
よぼよぼの老人が部下を蹴散らし、単身自分の目の前にやってきたのだから。
「101週目に入らせてもらうよ」
「なっ、グアアアアア!」
僕が軽く攻撃魔法を放ると、魔王はあっという間に死滅した。
そしてその瞬間、僕の世界が輝き始めた。
来た、あの瞬間が……
---
「……やった! やったぞ!」
目を開くと、見覚えのある場所に立っていた。
村だ、故郷の村だ。
成功だ。
僕はループした。
100週目の人生を終えて、101週目に入ったのだ。
会いに行こう、ミに、リュシアに、ニーナに!
また一緒に暮らせるのだ、こんなに嬉しいことは無い!
---1年後
「あの、ご主人様……お口に合いませんでしたか?」
「いや、美味しかったよ。有難う、ミーちゃん……」
ミが浮かない顔で食器を下げる。
やはり、僕の気分が伝染しているのだろうか。
僕は鏡を見た。
若い……
あの皺くちゃの顔では無い。
当然だ、ループしたのだから。
僕はまだ80年以上の寿命があるのだ。
それはミや奴隷達も一緒だ。
皆若い、そうなのだ、ループして戻ったのだから、"体"も、"記憶"も元通りだ。
そう、元通りなのだ……
僕は気が付いた。
彼女達は、戻った。
僕との生活の記憶を失い、僕と出会う前の彼女たちに。
つまり、僕との日々を覚えていない彼女達に再開したのだ。
僕は気が付いた。
僕は既に失っていたのだ。
長い間一緒に暮らし、一緒に笑い、一緒に泣き、幸せを分かち合った彼女達はもう、存在しない。
二度と会えない。
今いる彼女たちは、姿かたちこそ変わらないが、別人だ。
決して僕と生活を共にした最愛の人達ではなくなっている。
「分かっていた事じゃないか……」
僕はテーブルに突っ伏し、涙を流す。
もう二度と会えない。
その事実が、現実感となって襲ってくる。
ある意味、今の彼女達は本物であるが偽物だ。
「あの、ご主人様……」
「カイエン、どうしたのだ」
「心配ですわ……」
ミ、リュシア、ニーナ達。
僕の奴隷達が、不安そうに僕を見守っていた。
「ご、御免。ちょっと疲れてたんだ」
慌てて笑顔を作る。
「元気出してくださいご主人様」
「ああ、お前の元気がないと……私まで暗くなってしまう」
「元気が出る美味しいポーション、お父様の所から持ってきましょうか?」
三人は僕を励ます。
「いや、いいんだ。もう元気でだよ、本当に有難う」
僕がそう言うと奴隷達は僕の傍に駆け寄り、嬉しそうに騒ぐ。
その様子は紛れもなく"本当の彼女達"であった。
僕は気を取り直す。
この子達は僕が愛した奴隷達じゃない。
でも、でも確かに彼女達でもあるのだ。
僕の事を心配してくれている。
別人ではあるけれど、そこには昔見た彼女達の顔があった。
僕は一人になってしまった。
でも、やっぱり一人じゃないんだ。
またやり直そう。
新たな人生を、新たな彼女達と共に。




