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奴隷商人



 「「「有難うございました!!」」」


 僕は店中の金貨を袋に詰めた大袋を貰って店を去った。


 僕が立ち去る後姿をオーナーを始め従業員すべてが頭を下げて見送っていた。



 

 ジャラジャラジャラジャラ。


 持ちきれない程の金貨。

 僕の服のポケットや財布は金貨で一杯になった。


 店に置いてあった僕に合う貴族服を一緒に貰ったので見栄えもよくなった。

 



 ……さぁ、これで新生活を始める資金が手に入った。

 それにしても聖剣一つでこんなに価値があったんだなあ。


 僕は無限にアイテムが入る魔法の袋を覗いた。


 アーティファクトアイテム"魔法の大袋"。

 袋に入る大きさの物なら無限に物を保管する事が出来る優れ物だ。

 これも周回ループによって今回の旅に持ち越された僕の財産だ。


 「聖剣はまだ98本もある、一本ぐらいなら売っちゃっても良かったよね」


 そう、僕は周回勇者だ。

 この世に唯一無二のアイテムでも、同じ世界を何週もしているので売れるだけ持っているのだ。


 




--- 一ヶ月後





 「うーん、暇だなぁ」


 スローライフを始めて一ヶ月が経った。

 僕は豪華なベッドの上でゴロゴロしていた。


 僕は聖剣を売ったお金でアオヤマに土地を買い、豪邸を建てたのだ。

 豪華な洋風の建物だ、と言っても、この世界の建物は皆中世的な洋風であるが……


 突貫工事であっという間に家は完成した。


 庭付きプール付き2階建て。

 水道を通して水洗トイレまで完備している。

 実に快適な家だ。



 そして僕は引き籠った。



 最初は楽しかった。


 戦いを強要されない、返り血を浴びる事も無い。

 ハードな他人の人生に介入させられる事も無い。


 安楽気楽あんらくきらくな生活だ。


 一生こんな生活を送ろうと思っていたのだが、人間とは飽きる生き物である。


 この生活も一ヶ月続けるとだんだんと色褪いろあせて来た。

 あれだけ憧れていた毎日食っちゃ寝の生活だというのに。


 それに一つ問題が発生した。


 「家の中が汚い」


 広い屋敷に僕一人である。


 使用人などは雇っていない。

 雇い方も分からない。


 今までは冒険冒険で一般人が送る生活などとはほとんど無縁だった。


 掃除なども宿に泊まっていたのでやった事が無い。


 当然、広い屋敷を掃除する方法も分からない。

 

 豪邸は数ヶ月でゴミ屋敷となってしまった。





---





 街を当てもなくブラブラする。


 ゴミだらけの家の中に居ても気が休まらない。

 アオヤマの土地を散策する方が気分転換になる。

 

 だが、それも気休めである。

 僕が買える場所はもうあのゴミ屋敷しか無いのだ。

 魔王討伐をドロップアウトしてしまったから、生家にも戻れない。

 恐らくこの世界の僕の両親はカンカンだろう。


 家、どうにかしないとな。

 いくらお金に余裕があると言っても、流石に家をもう一軒買うのは憚られる。

 しょうがない、帰宅したら覚悟を決めて掃除しよう。



 等と考えながら公園の椅子に座ってボーっとし始める。

 そろそろ一ヶ月か、何時もならこの当たりで魔王軍の幹部、魔将軍と激突していた頃だ。

 99週目の頃はワンパンチで倒せるほど実力差がついていたが最初の頃は苦戦したなあ……



 そろそろ日が暮れかけ、家に戻ろうかと椅子から腰を上げた時、遠くから何か呼びかけるような声が聞こえて来た。


 



 「――ぁ、よってらっしゃい見てらっしゃい」


 見ると、公園の広場に流れの商人が来ていた。

 ……奴隷商人が奴隷のたたき売りをしていた。


 「さぁ! 獣人の女の子だ、若いし何にだって使えるよ!

 孕ませようが暴力を振るおうが誰も文句は言わないよ!」


 奴隷商人は道行く人々に何とか商品を売ろうと声を張り上げていた。

 最低の売り文句である。


 商品は一つ。いや、"一人"だけだった。


 見ただけで分かる。

 獣人の女の子だ。

 

 獣人と言っても毛むくじゃらな訳じゃない。

 しっぽが生え、耳が人間と少し違うだけだ。

 人間と違い、顔の横に普通の耳がある他に頭にも兎か犬みたいな耳が生えているのだ。


 人間タイプの耳が無い場合もあるが、あの子の場合は外からは判別付かなかった。


 「ほらっ! お前もお客さんに買ってもらえるよう愛想をよくしろ!」


 奴隷商人が籠の中の少女に罵声を浴びせるが、少女は俯いて顔を上げない。

 そりゃぁそうだろう。

 少女は粗末なボロを身にまとっているだけだ。

 大事なところがほとんど隠せていない。


 見ちゃいられない。

 身なりがちゃんとしていないのに買ってもらえるわけがない。

 如何にも売れ残りといった体の感じもよくない。


 ……まともに勇者をやっていた頃は見て見ぬふりをするしかなかった。

 冒険の旅に奴隷を買っていたらキリが無い。

 

 だが今は違う。

 僕は自由だ、僕の行動を縛る使命は無い。

 奴隷一人ぐらいどうにでもなる。


 「おじさん。その奴隷幾ら?」


 僕が声を掛けると奴隷商人はニコニコと揉み手しながら


 「へ、へっへ。1000デナリウスでさ旦那」と言った。


 安っ! 日本円に例えると大体10万円ぐらいだぞ。

 こりゃ何かあるな。


 遠くで見てたら分からなかったがよーく見ると体のあちこちに外傷や斑点はんてんがあった。

 この娘は病気なんだな、それももう長くない。

 そして一目でわかった、この子は今まで滅茶苦茶に暴力を振るわれていたと。


 売れなくて当たり前だ。

 買ってすぐ死んでしまう奴隷など普通は欲しくは無い。

 埋葬に掛かる手間や費用の分だけ損というものだ。

 

 「あんたもアコギな事をやってるね」


 「なんでぇ、冷やかしかいっ! ならどっか言ってくれ! 商売の邪魔だ!」


 「いいや、その奴隷を買うよ、うちの汚い家を掃除をしてくれる人が欲しいんだ。ほらお金だ」


 僕は商人にお金を渡した。


 「!? さ、3万デナリウスも!? こ、こりゃぁ、へへへ。旦那、すいませんねぇこんなに頂いて」


 「女の子に1万払うんだ」


 「へ? じゃあ残り2万は?」


 「あんたへの治療費と慰謝料」


 僕は奴隷商人を殺さないよう、自分の力を1%ぐらいにセーブした。

 そして慎重に……右ストレートを顔に叩き込んだ。


 「ぐぶふぇっ!」


 顔面に拳を叩き込まれた奴隷商人は派手に空中にぶっ飛んで噴水に着水した。

 バチャーン! と派手に水しぶきが上がった。



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