表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/34

領主


 「えへへ、お買い物楽しみですね!」


 「ごめんよ、暫く忙しかったから買い物もあまり連れて行ってあげられなくて」


 商人なのにショッピングが出来ないとはこれ如何に、である。


 「とんでもありませんわ旦那様。私達、とっても嬉しいんですのよ」

 「私は護衛でカイエンといつも一緒に外出していたが、こうして休日に出かけるのは久しぶりだな」



 僕は三人の美しき奴隷達と共に休日のショッピングに出かけていた。



 一人ならともかく、三人もの美少女が僕を取り囲んで共に歩くと流石に目立つ。

 街の人々はすれ違う度に少女達をもう一目見ようと振り返るのであった。


 「カイエンは私と腕を組むのだ」

 「私ですわ!」

 「あ、あのう。私も……」

 

 三人の美少女は僕の腕を取り合う。

 腕は二本しかない。

 人間である以上腕は増やせない、だからしょうがなく三人は代わる代わる僕と腕を組んだ。


 僕の両腕は店につくまで塞がれっぱなしだった。




 

 「さぁ、つきましたわ!」


 アオヤマの商店街にある服飾店に来た。

 今日は綺麗なおべべを彼女達にプレゼントしたかったのだ。


 

 「これはお嬢様方」


 店員がへつらいながらご機嫌を伺いに来る。

 が、ミを見た瞬間に彼女に対する態度を変えた。

 


 「失礼ですが奴隷は入店出来ません」


 恐らく、ミの傷を見て彼女を奴隷だと判断したのだろう。



 「あ……はい……」

 

 ミが俯きながら退転しようとする。

 僕はそれを遮った。


 「いいんだよ、ミ。君には買い物をする権利がある」



 「お客様、困ります」


 「ミは僕の家族だ! 文句があるのか!?」


 大声で怒鳴り、店員をしかりつける。


 「る、ルールですので……」

 「なら、そのルールが間違っているんだ」


 「も、申し訳ありません。どうぞお入りください」


 僕の剣幕に押されて店員はすごすごと引き下がった。


 「ご主人様ぁ」

 「流石ですわっ!」

 「うむ、感心したぞカイエン」


 まぁ、店のローカルルールを破ったのはモンスタークレーマーぽかったけど問題ないだろう。

 この時代の倫理観なんて僕には関係ない。

 ミは人間なのだ、ならば、同等に扱われて当然なのである。


 

 「好きな物を選んでいいよ」


 「まぁ旦那様は太っ腹ですわ!」


 「よく分からんがこれにしよう」


 リュシアとニーナは流石元上流階級だ。

 自分に似合う服飾を心得ている。

 

 美しい着物を次々と選び、自身を着飾る。



 だが……



 「ミーちゃん、君は選ばないの?」


 「あ、あの。私よく分からないのでこれと同じ物で構いません」


 ミは擦り切れたメイド服と同じ種類の物を選んだ。

 一番安い奴だ。



 「君にはもっと似合う服があるよ」


 僕はミのために綺麗な服を選んだ上げた。



 「わぁ、素敵です。有難うございますご主人様!」



 「わ、私も旦那様に選んでもらおうかしら」

 「うむ、自分もカイエンに選んでもらいたいっ!」



 しこたま服を買った。

 一ヶ月分の利益が吹き飛んだが、まぁ良いでしょ。


 皆こんなに喜んでくれたんだもの。

 





 その時、広場で何か轟音が響いた。


 「ゴァァァァァァァア!」


 キャー!

 うわー大変だ、モンスターが現れたぞ!



 外に出て確認すると、確かにモンスターが街で暴れまわっていた。



 大型魔獣タイプのモンスターだ。

 頭はライオン、体は爬虫類、尻尾は蛇。

 見事なキメラである。


 このまま放っておいたら大変な事になる。

 目立ってしまうのはしょうがないので退治した。



 「す、すげぇ! あいつ、あの大型モンスターを一撃で!」

 「一体何をしたんだ、まったくわからなかった」

 「何か魔法を使っているのは見えたわ」



 簡単な魔法である。

 目でガンを飛ばして気絶させた。

 僕位の実力になると眼力だけで相手の気を失わせる事が出来るのである。



 



 「やれやれ、街の中にモンスターが現れるなんて。警備兵は一体何をやっているんだ?」


 僕が毒づくと


 「そうだ、高い税金を払っているのに一向に警備が増強されない」

 「領主様の馬車は立派になったのにねぇ」


 皆、モンスターの死体を前に口々に不満を述べる。

 まぁ気持ちは分かる。


 実際、最近税率が上がった。

 商売をするにしても買い物をするにしても何かと税金を取られる。

 最近は買い物税という消費税みたいな物まで導入され始めた。


 名目上は治安維持増強のため、とされているが。

 実際ご覧の通り、町中にモンスターの侵入を許してしまう有様である。

 治安を守る衛兵達は何処に居るのか?


 

 「ええーい何を騒いでおるか!?」


 衛兵隊がこの場に到着した。


 ようやくご登場か。

 と思ったら、モンスターを探すどころか


 「貴様は何か!?」


 と、僕に突っかかってきた。


 「このモンスターを成敗した者だけど? 君達がなかなか現れないものでね」


 「何者かと聞いている!」


 「カイエン。この街で商売をやっている。君達は一体どこで何をしていたんだい?」


 「商人風情が生意気な。貴様にいわれるまでも無く我々を治安を守っている、素人如きが口を挟む事では無い」


 街の人々がブーイングするも


 「ええい、お前達は散れ!」


 と、街の人々に槍を向けて威嚇する。

 人々は蜘蛛の子を散らすように消えていった。



 なんだこの衛兵達は。

 モンスターに向ける刃物を市民に向けている。

 これではあべこべではないか。



 

 「それは無いんじゃないか? カイエンは私を寂しがらせてまで怪物を倒してくれたのだぞ」


 ニーナが僕の服の袖を掴みながら衛兵に文句を言う。

 どうやら寂しかったらしい。

 そういえば今日はずっと僕から1メートル以上離れていない。



 「そうですよ! ご主人様はモンスターを倒してくれたんですよ!?」


 「うるさい! 市民が協力するのは義務だ、当たり前の事だ! 威張る事では無いわ!」


 「なんて横暴な、領民を守るのが為政者としての責務ではないか」


 ニーナが青髪を揺らして前に出る、その顔には忸怩たる物が浮かんでいた。

 それは自らの国を滅ぼしてしまった後悔からか。


 

 「侮辱罪を適用する。この者をひっとらえよ!」


 「「ははっ!」」


 しかし彼らは人々に対する責務よりも圧政を選んだ。

 衛兵隊長の逮捕命令で僕達は取り囲まれ、掴みかかられたのだ。

 


 

 「くっ、放せぇ!」


 「へへへ、なかなか良いおっぱいしてるじゃねえか」


 下品な衛兵は僕の奴隷の胸を触ろうとした。

 僕は怒りが有頂天になった。

 この怒りは衛兵を懲らしめないと収まる事を知らないだろう。


 「僕のニーナに手を出したらだめだよ? 放してね?」


 無造作に、衛兵を掴む。

 優しさは持ち合わせていなかった。


 片手でポイっと投げた。


 「ギャッ!」


 ニーナに乱暴を働いた衛兵は数十メートル飛んで行った。


 「は? なんだあの男の怪力は!?」

 

 「に、人間かお前は!? モンスターが化けているのではあるまいな」


 衛兵達は僕の力を見て恐れおののいた。


 しまった、今のは少しやり過ぎた。

 ただの人間には今の僕の力は化け物にしか見えないだろう。

 片手で人間を投げ飛ばすなんて普通じゃない。

 

 

 「臆するな、ひっとらえい!」


 「うーん。このままじゃどんどん事が大きくなってしまうな。

 よし、じゃあ君達の言う通り連行されようじゃないか」


 僕はぐいっと前に進んだ。


 ひぃ、と衛兵たちが悲鳴を上げる。



 「だからぁ、ほら。掴まえなよ」


 両手を出して手錠を掛けろと促すが……



 「ひ、ひぃぃ!」


 衛兵隊長も衛兵たちもすっかり僕を恐れて遠巻きに見守るばかりだ。

 あまりにも実力差を見せつけてしまったらしい。

 彼らは怖気づいて近寄ろうとしない。


 

 「しょうがないな。ミーちゃん、僕に手錠をかけてくれるかい?」

 

 「え、は、はい。ご主人様の事ですから、深いお考えがあるのでしょう?」

 「勿論」


 ミは完全にビビっている衛兵に手錠を借りて、僕にはめた。

 これでようやく少し衛兵が落ち着いた。


 全く。これでは完全に立場が逆ではないか。


 「カイエン、一体どうするつもりなのだ」


 「納税者として領主に一言いってやりたくてね」


 僕は衛兵をせっついて領主の館に向かうのであった。

 奴隷同伴で。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ