学園に入学したと思ったら初日から教鞭を取る事になってしまった件について2
「フフフ、商人。この間は偶然私に勝てたようだが、今回はそうはいかんぞ!」
レオン君には僕と同じ教壇に立ち、剣を差し向ける。
とんだ初授業となってしまった。
だがこれを凌げば皆僕の事を信用してくれるだろう、しっかりやらねば。
「じゃあ、かかって来て」
「カウンターを狙っているのか? お前が来い」
うーん。
口とは裏腹に、レオン君は大分僕の事を警戒しているみたいだ。
皆からは見えないが、汗が出ている。
しょうがない。
僕から攻撃しよう。
だけど……
「はい」
僕に勝てるわけが無いんだよなぁ。
「んがっ!!??」
レオン君は剣を構えたまま思いっきり仰け反って吹っ飛んだ。
そのまま窓ガラスを突き破って外へぶっ飛んでいった。
「しまった。加減を間違えた……」
僕は魔力を自分の目からレオン君に飛ばしてぶつけたのだ。
牽制に使う弱い魔法なのだが、レオン君は防ぐ事が出来ず一撃で倒されてしまった。
言い訳をすると、レオン君が弱すぎて力の程度を間違えた。
ショベルカーや重機で砂のコップを持ち上げるようなものだ。
レオン君みたいに半端に力を持っている相手だと加減が失敗する。
僕の巨大過ぎる力故の欠点である。
「す、すげぇ! シルバークラスを……」
「あいつはこのクラスで一二を争う実力者だぞ!」
生徒達が口々に騒ぐ。
どうやらこの若者はクラスでトップレベルの実力を持っていたらしい。
皆、尊敬の目を僕に向ける。
教室の後ろに居た僕の奴隷達は「流石ですご主人様!」という顔をしていた。
「はい、今、レオン君を倒した魔法これが魔法気弾です。
魔力を視線で飛ばして相手にぶつけます、では皆さんも練習しましょう」
「先生……もっと簡単な技をお願いします。そんな高等魔法使えません」
生徒の一人が困ったような顔をして言った。
うーん、じゃあもうちょっと優しい魔法から覚えようか。
「流石ですご主人様!」
「流石ですわー!」
「流石だな、カイエン!」
僕の奴隷達が後ろの席の方で僕を褒め称えた。
やれやれ、人に教えるってのも大変だ。
---後日
「あいつ、カイエン教授め! たかだか商人風情でこの私を傷つけるなんて……許せない!」
シルバークラスのレオンが机を叩く。
カイエンにやり込められてからと言うもの、プロの冒険者でブイブイ言わせていたレオンの株は下がるばかりであった。
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「シルバークラスと言っても大したこと無いんだな」
「やっぱり教授ともなると違うのね、カイエン先生の方が格好いいし授業も分かりやすいわ。この学校に来て正解だったわね」
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生徒達はレオンを一撃の元に打ち倒したカイエンを見直し、尊敬し始めた。
何時の世も実力者はもてはやされる。
誰でも褒められるのは嬉しい。
レオンは今まで若くしてシルバークラスという地位に立っている事により自分のプライドを満たしてきた。
今までその地位に居たレオンにとって、ポッと出の商人にその場所を奪われたのは許せない事である。
「おかげで私のプライドはズタズタだ! なんとかあいつに目に物を見せてやりたい!」
額の絆創膏を抑えながらレオンは吠えた。
だが、実力で敵わないことは嫌と言う程思い知ってしまった。
ああまで圧倒的な力を見せつけられてはどうしようもない。
だが、このまま何もせずに引っ込む事も難しい。
レオンは独り言を言っているわけでは無い。
低く、野太い声がレオンの愚痴に返答する。
「ゴールドクラスより一段劣るとはいえ、シルバークラスはそれなり以上の実力と実績が無ければ就くことは出来ない」
レオンは空き教室で一人の男と共に居た。
学生でありながら大きな体躯を持つ男。
威圧感のある風貌は学生にして既に王者の風格を漂わせていた。
学生服を着ているが、発達した両腕の筋肉は袖口に達し、今にもはちきれんばかりである。
一見して強力な戦士であることが伺える。
そして明らかに、レオンの方が格下に見えるのであった。
それはレオンの態度にも表れていた。
何となく、この学生に対して気後れしているのが遠目に見ても分かる。
「そ、そうなんだ。シルバークラスの私があんな奴に負けるはずが――」
「要するにだ、お前よりそのカイエンという男の方が実力が上だった。
それだけの事だろう」
「うぐ……そう……かもしれないが……」
「俺が試してやる、この学園には親父に無理やり入れられたが飽き飽きしていたところだ」
「ライザー。あ、あんたがやると流石に不味いんじゃ。
カイエンでもあんたには到底かなわないだろう」
「教授なんだろ? 生徒に痛めつけられる方が恥なのさ!
同年代には詰まらん奴しか居なくて退屈していたところだ
まぁ、楽しませてもらおうか」