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学園入学




 「君達には学園に通ってもらいます」


 僕は自分の奴隷達に告げた。



 「「「ええ!?」」」


 三人は素っ頓狂な声を上げる。


 

 「てっきりこの学園には商品を卸に来ただけかと思ってました」



 今日は学園に商品を届けに来たのである。

 僕達は広大な敷地の休息所で休んでいた。


 周囲にはレンガ造りの重厚な建物群が広がっている。

 大陸でも屈指の大型教育機関だ。




 「うん。それもあるんだけど。特にミーちゃん、君は一度も学校に通っていないだろう?」


 「でも、お家の仕事がありますし」


 「それはミが居ない日は他にお手伝いさんを雇うから、なるべく学校にも通って欲しいんだ」


 「いいんですか? ……奴隷の私なんかが……」

 

 「君達には教育を受ける権利がある」


 そういうと、ミは顔をくしゃくしゃにして喜んだ。


 「嬉しいです、ありがとうごじゃいましゅ~。まさか、学校に通えるなんて夢にも思っていませんでした」


 「私は既に飛び級で教育課程は終えているけど、分からない所があったら教えて差し上げますわ」と、リュシア。



 「自分には必要ないぞ! カイエンを護衛する大切な仕事もあるしな!」


 青い髪を揺らすニーナ、彼女は僕が上げた姫騎士鎧を着て胸を張っていた。

 



 「ニーナ、君も行った方が良いよ」


 「い、嫌だっ! カイエンと離れたくない……」


 そう言ってニーナは僕の服の裾を掴んだ。

 ここ数週間で判明したが、ニーナは凄く寂しがり屋だ。

 常に僕の後を追ってくる。

 本人は護衛だと言い張っているが……その正体は甘えん坊の小さな子供みたいだ。

 僕に依存するのは悪くない、むしろ歓迎したいぐらいだがやはり一切自立できないままだとよろしくない。 

 彼女もまた社会生活に触れるべきだ。


 「僕も通おうと思ってね。

 と言っても、仕事が無い時に限るけど」


 「じゃあやっぱり行く」


 僕が行くと言い出すと、

 ニーナはあっさりと自分も行く事を承諾した。



 「でも、途中から入るなんて、私に務まるでしょうか」


 「大丈夫だよ、この学園は社会人も多く在籍しているんだ。

 働きながら通ってる人の方が多いんだよ。

 冒険者と兼業したり、日常の仕事をしながらとかね」


 「そうなんですか」


 「なんだか楽しみですわね、市井の者と机を同じくする事はした事が無いんですの、基本的な学習は家庭教師で済ませてましたから」


 「自分も一緒だ。庶民と共に学ぶのは楽しみだぞ」




 こうして、僕達はアオヤマ学園の生徒となった。


 




---




 「ご主人様に全てを差し出すのは奴隷の義務ですのに……」


 リュシアはぶつぶつと文句を言っていた。

 

 何故ふくれっ面をしているかというと、僕はリュシアの申し出を断ったからだ。



 リュシアが僕達4人の学費を払うと提案したのである。

 でも、僕は固辞した。

 奴隷に掛かる費用は主人が支払うのが筋だろう。


 リュシアは奴隷なのにお金をたくさん持っていた。

 ぶっちゃけ、現金だけなら僕より多い。

 主人よりお金持ちな奴隷ってどうなの? という気もするが、リュシアは元々何で奴隷になったか分からないぐらいお金持ちの出だ。

 



 「リュシア様、当学園に入学していただき有難うございます」


 「久しぶりですわね学園長」


 「ハーネス会長は、お爺様はお元気ですか?」


 「学園長に宜しくと言っておりましたわ」


 学園長は好々爺とした人だった。

 どうやらハーネス会長と知り合いらしい。

 

 にこやかに僕らを出迎えてくれる。

 学園長室で僕らは入学式と説明を受けることになった。


 「この学園に入るためには魔力計測を行う必要があります」


 「どうしてですか?」


 「簡単に言えば、悪党が入り込めないようにするためですな。

 テロリストや最近はモンスターも人間に化けてきますから。

 その人の魔力の質でどういう人物かがある程度見分けられるのです」



 僕らは順にテストを受ける事となった。

 最初はミが受ける番だ。




 「ご主人様、流石です!」

 「まだ僕は受けてないよ、最初はミの番だよ」

 「はぅ……ごめんなさい」


 「ははは、ミーちゃんはうっかり屋さんだなぁ」



 魔力測定器は壁に設置してあった。

 恐らく石造りの大きな顔が大口を開けている。

 地球のローマにある"真実の口"みたいだ。

 

 「ご主人様、これ怖いです。噛まれないですか?」

 「手を噛みちぎられたら僕が責任もって一生面倒を見るよ」


 「ひっ! ……あ、でも、ご主人様と一生一緒にいられるなら、私……」ミは何故か顔を赤らめた。


 「大丈夫です噛みませんよ」学園長がフォローする。


 ミが手を口の中に居れると


 『……ひゃくにじゅうっ!』


 と魔力測定器から低い声が響いた。

 こいつ……喋るぞっ。


 

 「ミ嬢は魔力係数120ですな、なかなか高い数値ですよ」



 次はリュシアの番だ。


 「学園長、よろしくお願いしますわね」

 「これはこれはリュシア様、何時も当学園への寄付。有難うございます。リュシア様でしたら身元は確かですので魔力計測は不要ですな」


 「一応決まりですし、私も図らせていただきますわ」


 リュシアは110だった。


 「うっ……ミーさんに負けましたわ」


 「ご希望でしたら数値を弄っておきますよ!?」と学園長。


 「結構ですわ、ブルトン家はインチキはしませんの!」


 





 「カイエン、私、これ超怖いっ! 手を握ってて!」


 ニーナは超ビビっていた。

 彼女は60だった。

 まぁニーナは"姫騎士"だ。戦士タイプだしこんなもんだろう。


 

 「さて、次はカイエンさんですな」


 学園長が僕に計測を促す。

 設置されている計測器に手を当てる。

 ただのテストだ、あまり本気を出さないようにしよう。

 どうでもいい所で目立って良かったためしはあまりない。


 

 「カイエン~手を離さないでよぉ」


 測定器の口に手を入れようとしたところ、ニーナが抱き付いてきた。


 「ちょっと! ニーナさん、貴女ちょっと旦那様にベタベタし過ぎですわよ!」

 「ひぃ! 怖いっ! リュシア超怖いっ! カイエン助けて!」

 「あ、リュシアさん、あまり引っ張っては」


 「おおっと!」

 

 一気に三人が背中に寄りかかったおかげで少しばかり力んでしまった。

 すると……


 ビービービービー!


 「ま、魔力測定器の数値が急上昇している!? 

 大変だ、こんな強い魔力見たことが無い! このままでは壊れてしまうっ!」


 学園長が慌てて測定器をいじる。

 うっ、もしかして僕、何か不味い事しちゃった?



 『きゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうきゅうっ! 数えきれないきゅうっ! ぎゅうううううううううが五つ以上ならぶぅ!』


 魔力測定器は壊れた電池式玩具みたいな甲高い声をだし悶える。


 『ブルスコァ……ブルスコァ……ブルスコァ……』


 煙がモクモクと立ち込める。

 明らかに正常に動作しているとは思えない変な声を上げる。


 そして……


 『モルスァッ!!』


 断末魔を上げると

 ボンッ!!!

 と、物凄い音を立てて爆発した。


 ガチャーーーーン!


 そして爆発の拍子に窓ガラスを突き破ってぶっとんでいってしまった。

 どうしよう、僕のせいで色々壊してしまった……



 「こ、これはぁぁぁぁぁ! ま、魔力係数99999以上!?

 99999以上は計測不能、上限を振り切ってしまっている。

 カイエンさん、貴方は一体……」


 学園長は呆然として僕を見つめる。

 まずい、また目立ってしまった。



 「偶然ですよ、偶然。ハハハ……」


 「流石ですご主人様!」

 「そうですわ、流石私の旦那様ですわ!」


 ミとリュシアははしゃぎまくった。


 「うぅー」


 ニーナはまだビクビクして服の裾を掴んでいた。






 「カイエンさん、貴方は一体何者なのですか?」


 学園長は驚愕の表情で僕を見る。


 「ただのしがない商人ですよ、今はね」


 「カイエンさん、貴方の力は学校の枠に収まるものではありませんよ。

 凄すぎる、教科書に載っている過去の英雄にも1万以上の数値を出した者は稀です」


 「ぐ、偶然ですよ偶然。ま、まさか僕が過去の英雄より強いだなんてあるわけじゃないじゃないですかぁ」


 「うーむ。まぁそういう事にしておきましょう。

 しかし、私には貴方がもっと大切な事をするべき御方に見えてしょうがないのです」

 「……」


 僕は黙して答えなかった。

 分かっている、僕には本来はやるべき事があるのだ。

 だが……






 「カイエンさん」学園長は真剣なまなざしを僕に向け、言い放つ。

 「はい」




 「壊してしまった魔力測定器の弁償お願いしますね。

 量産していない品なので30000デナリウス(大体300万円以上)以上掛かると思います」


 「はい、どうもすいません」


 当たり前ではあるがどうやら、僕が凄いのと機械を壊してしまった事は別問題らしい。

 学園長は冷徹に損害賠償を告げるのであった。







---学園長視点





 私は壊れた魔力測定器を机に置いて眺める。

 魔力測定器は何か恐ろしい物を見たような表情をしていた。

 命を持たぬただの魔法道具であるはずなのに……


 一体何者なのだ彼は。


 実は、この学園はそう簡単に中途入学出来る学び舎ではない。

 魔力試験というのもほとんど建前のようなもので、実際は余程優れた人材でないと入学を却下するのだ。


 

 ここの学長となって数十年。

 様々な生徒を見てきたが、カイエン、彼のような才気あふれる人物を見たことが無い。


 その才は現時点で既に一介の学園生に収まる器ではないとすぐに分かった。


 

 リュシア・ブルトン。

 実は彼の祖父、ハーネス・ブルトンに密かに頼まれていた。


 凄まじい人材が孫娘と共に訪れるかもしれない。

 その時はよろしく頼む、と。


 久しぶりにワクワクする生徒に出会えた。


 「彼はこの学園に新風を吹き込むと思いますよ、ハーネスさん」


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