エルフ奴隷
「カイエン様、おはようございます」
「ああ、ミーちゃんおはよう」
朝。
僕はミに起こされた。
既に奴隷に起こしてもらう事にも慣れた。
昔は野宿上等、起床タイミングはモンスターが起き出す明け方と相場が決まっていた物だが、今は天国である。
「うふふ、ご主人様。寝癖がついていますよ」
ミは蒸しタオルで僕の頭を軽く拭き、櫛で寝癖を直してくれる。
彼女はもうすっかり僕専用の奴隷だ。
僕も今では彼女無しでの生活は考えられない。
「朝食を用意しています」
「ありがとう、ミーちゃん」
ダイニングで朝食を取る。
テキパキと家事をこなすミに僕は感心する。
ミはもうすっかりこの家に慣れた。
しかし……
「ふああ、メイドはどこですの?」
リュシアが欠伸をしながら部屋に入ってくる。
どうやらまだ寝ぼけているようだ。
「りゅ、リュシア」
「あ、あああ! 御免あそばせ旦那様!」
新たな僕の奴隷であるリュシアが裸同然の姿で部屋に入って来てすぐ出て行った。
うーん。
やはり元お嬢様、前の生活の癖が抜けないみたいだ。
しかし、そもそも何で僕の奴隷になりたいなんて言い出したんだろう……謎だ。
僕としてはリュシアが居てくれて全然構わないのだけど。
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「さぁ、昼食を食べよう」
昼は、僕が作って奴隷達に振る舞う事にした。
「これは何ですの?」
「卵焼きに、納豆に、焼き魚、御飯と味噌汁付きだ」
古き良き和食。
この世界に転生しても、日本人として和食の味は忘れられない。
たまにこうやって材料を用意して作るのだ。
異世界でそろえるのだから当然値が張った。
だが、ここは拘りたいところだった。
たまにこれを食べる事で元の世界に思いを馳せるのである。
「美味しいです、ご主人様!」
「このソース、知っていますわ。大豆を原料にした風味の強いものですわね」
ミもリュシアも僕の料理に喜んでくれた。
「旦那様は何でも出来ますのね」
「流石です、ご主人様!」
「ははは、そんな事無いよ」
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その日、僕は暇なので市場をぶらぶらしていた。
すると、市場で奴隷商人を見かけた。
「さぁ! 世にも珍しい青髪のエルフだ」
「買った」
「毎度!」
見た瞬間に即決した。
購入決定。
だって可愛いんだもん。
透明感のある青髪にピンと立った長い耳。
美しい顔立ちに気品が乗っている。
一目で気に入ってしまった。
どうせ買うなら可愛い方が良い。
丁度人手も欲しくなってきたところだ。
でも、その奴隷のエルフちゃんは口が悪かった。
「おのれ、奴隷の身分に堕ちたとは言え自分は騎士である。
例え主人ヅラしようが決して許すことは無いぞ! 必ず寝首を掻き切ってやる!」
確かに本人の言う通り、騎士らしい鎧を着ていた。
薄汚れてはいるが、磨けばさぞ凛々しいエルフの女騎士に見えそうだ。
しかし、いやに安いと思ったら、行動に問題ありの子らしい。
「こいつ、滅茶苦茶反抗的なんでさぁ」奴隷商人が説明する。
「別にいいよ」
「なんで安いか分かりますか? 前に自分を買った主人を殺そうとしたんですよ、その日のうちにね」
「よく無事だったね! ……その子が」
奴隷が主人に手を出すなど許されない事だ。
その場合、徹底的に痛めつけられるのが普通である。
「以前のご主人様は痛めつけて再教育するより売る方を選んだんですよ。幸い顔は良いですから、逆に傷つけたら値が下がります」
「そんな事まで教えてくれるんだ、随分親切なんだね」
不動産に例えるなら事故物件である。
なるべくなら避けたいところだ。
「客に嘘をつかない、誠実がうちの方針ですから!」
奴隷商人なのに実に職業倫理には誠実。
商品の欠点も隠さない。
そういうところが顧客の心を掴んでいるのかもしれない。
僕も駆け出しの商売人として見習おう。
こうして、僕は青髪の女エルフであるニーナを買った。
これで三人目の奴隷だ。
しかし……
「フハハ! 馬鹿者め、自由になれば貴様に用など無いわ、さらばだ!」
縄を切って自由にした瞬間、ニーナはすぐに逃げてしまった。
まぁ逃げたいならそれでもいいさ。
元々奴隷として我が家に居てくれるかどうかは交渉するつもりだったし。
残念ではあるがしょうがない、僕は本人の意思を尊重するんだ。
だけどニーナは三日後に戻ってきた。
「……国に帰りたいがよく考えたら滅んでいた。帰る場所が無い、お前の屋敷に泊めてくれ」
「いいよ」
「自分は働かないぞ。これでも姫だったからな」
「騎士じゃなかったの?」
「姫騎士だ、自分は騎士団を率いていたのだ。偉いんだぞ」
話を聞くところによると、自分の国ではお姫様だったがある日攻めて来たオークの軍団に国を滅ぼされたらしい。
よくある話である。
「国を再興しようと思って金貸しに金を借りた。
傭兵を中心に軍を揃えたが裏切られて奴隷商人に売られてしまった。」
これも稀によくある話である。
この子なりに結構苦労しているらしい。
「そっか、じゃあ働かなくても良いよ。僕の都合で君を買ったんだ、無理強いはしないよ。でも、気が向いたら僕の仕事を手伝ってくれると嬉しいな」
「気が向いたらな!」
その後しばらく姫騎士ニーナは遊んで暮らしていた。
毎日小遣いをやって、夜になったら帰ってくるのであった。
全く奴隷に対する扱いではないが、僕はニーナとの信頼関係を醸成するため気長に待つ事にしたのだ。