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冒険者ギルド2


 



 なんて傲慢な若者だろう……とは思わなかった。

 こんな話は日常的にあったので、特別に酷い話では無い。

 むしろ、多少痛めつけられるだけで済んだ分マシかもしれない。


 この世には、吐き気を催す邪悪が居る。

 近くに居るだけでその毒気に当てられそうな程酷い人間や悪魔と沢山出会って来た。

 僕はそいつらをやっつけたり葬ってきたのだ。


 相手を痛めつけて金を奪う"程度"は優しい部類だ。


 

 「でも、放っておくわけにもいかないかな。腕の筋を切るのはやり過ぎだ」


 目立ちたくないのに、こういうトラブルに首を突っ込んでしまうのが僕の悪い癖である。

 だが、だからと言って見捨てるのも気が引ける。

 見てしまった以上、体が動いてしまうのだ。


 それに何よりも、ミに流血沙汰のような刺激の強い場面を見せたくなかった。




 「え、ご主人様」


 僕はつかつかと歩いて行って言った。


 「君、それ以上はよくない」


 「フフフッ、なんだね君は? 降りかかる火の粉を払っているだけだよ」


 「ただの商人だよ。今日はギルドにポーションを届けに来たんだ」


 「ただの業者か、関係ない奴は及びじゃないよ。下がりたまえ」」


 「レオン君の実力ならこの人達を軽くあしらう事も出来そうだけど」


 「私は被害者なのだよ、一方的に喧嘩を売られたのだ」


 「どっちでもいいから、早く物騒な物を仕舞って出ていきなさい。これ以上彼らを痛めつける必要は無い」


 僕がそういった瞬間、レオンの顔が紅潮した。

 まぁ何を考えているかは分かる。

 商人風情が強い強い自分に逆らった、許せない。

 こんなところだろう。


 「フフフ……フフフッ! ハァッ!」


 突然、レオンは攻撃してきた。


 僕は一瞬で攻撃を見切り、耳を狙って突かれた細身の剣を交わした。


 「紙一重……だね」


 僕の髪が何本かハラハラと落ちる。

 

 レオンは目を見開いたが


 「よく躱したな、そらっ!」


 続けて剣を突いて攻撃してくる。


 僕は剣を掴んだ。

 全く、僕にとって彼の攻撃はあくびが出るほどのスローモーションだ。

 


 「なっ!? 手で」


 「やれやれ」


 思いあがっている彼に少し、お仕置きしてやろう。

 圧倒的な力を持っている思いあがった者には、圧倒的な力を持つ人間が叱ってやるべきだ。

 この場に彼より圧倒的な力を持つ人間は僕しかいない、だから、これは僕の役割だ。



 そのまま彼の手を掴んで後ろに捻り上げる。


 「ぐぁ!」


 腕を後ろに捻られ、彼は剣を落としてしゃがみ込んだ。


 「い、痛いぃぃぃ!」


 「これに懲りたら町中で暴力を振るうのは止めておくんだね」


 おおーーー、と、周囲から感嘆の声が上がる。

 

 「やるじゃんあいつ」

 「あのレオンを倒すなんて凄い奴だ」

 「前からレオンはいい気になり過ぎてたのよね、良い薬だわ」





 「へへへ、有難うよあんちゃん」


 三人組がレオンが持っていた金貨袋を取り上げようとする、

 が、僕はそれを遮った。


 「ちょっと待った。取り分の話は僕には関係ない事だ」


 「助けてくれたんじゃないのかよ」


 「ギルド内で流血沙汰は不味いしこの人がやり過ぎたから止めただけだよ。

 お金に関する話は改めて4人で話し合ってくれ。今度は暴力無しでね!」


 僕は金貨袋を取り上げると、外へ投げた。


 「ああ、金が!」


 「ぐ、ううう。覚えていろっ!」


 キザな若者レオンと冒険者達はそそくさとギルドを出て言った。




 「やるじゃん!」

 「恰好いいわ!」

 「素晴らしい仲裁だ!」


 周囲からワァっと歓声が上がった。



 「あ、ど、どうも」


 しまった。目立ち過ぎた。

 困ったなあ、やれやれ。


 「流石ですご主人様! 流石ですぅ!」ミはブンブンと尻尾を振って喜んだ。


 「帰ろう、目立ちたくないんだ」


 やはり目立ってしまった。

 周囲の冒険者達は拍手喝采である。

 受付の人も「ありがとうよ、助かったぜ!」と僕に礼を言う。


 まぁ取引相手に喜んでもらえたのは良かった。

 初めての取引としては成功だったと思う。

 後はこの場を立ち去るだけだ。



 「さ、帰ろうかミーちゃん」



 ミの手を取り、帰ろうとしたが彼女は動かなかった。


 ん?


 ミはぷるぷると震え、その場に根を生やしたように動かない。

 さっきまで大喜びだったのに、今では何故か涙ぐんでいる。

 一体どうしたんだ? 何があった?

 その答えはすぐに分かった。


 「あ……あ……御主人しゃま……御免なしゃい……ぐすっ……」


 「え?」


 見ると、ミの太ももから何か垂れてた。


 「ごめんなしゃい……ご主人様の活躍が嬉しくて……興奮しすぎて……おしっこが……」


 何て事だろう。

 ミはうれションしてしまっていた。


 地面にゆっくりと透明な液体が広がっていく。


 犬はあまりにも興奮して嬉しいと漏らすらしい。

 だが、獣人も同じ事をやるとは思わなかった。



 ……これは大変な事になった。


 周囲を見るとまだ僕の活躍に興奮冷めやらぬ感じで、皆ミには注目していない。



 「皆にばれてないみたいだから帰ろう」


 本当はふき取るべきなのだろう。

 だが、ミの女の子としてのプライドを傷つけるわけにはいかない。

 



 僕はミをつれてそそくさとギルドを出ていった。

 御免なさい、今度商品を無料で提供するので勘弁してください。


 



---

---




 カイエンが立ち去った後も、冒険者ギルドでは颯爽と現れた実力派商人の話題で持ち切りだった。


 「シルバークラスを一瞬で倒したんだと」

 「へぇ、この冒険者ギルドにそんな奴がねえ」

 

 「ただの出入り業者じゃないの?」

 「傷のついた奴隷を連れていたわ、とっても可愛かったわ」

 「物凄い美少女だったな、あんな美人の奴隷を持っているんだ、意外と富豪なのかもしれない」

 「ここらへんじゃ見た事無い奴だな、最近街に越してきた人間じゃないだろうか」





 噂は、冒険者ギルド長の耳にも入る事となった。




 「その若者は一体何者なんだ?」


 「すげえ実力者でしたよ」


 「ただ者では無いぞ。話を聞くところ、間違いなく超一流の冒険者だ」


 「それほどなんですか?」


 「シルバークラスは冒険者ギルドの中でも序列が上の者だ。実力がなければ得られない地位でもある。それを用意に倒す事など誰にでもできる事では無い」







 「会いたい、ぜひお会いしたい! 彼を探すのだ!」ギルド長は部下に命令した。

 

 「出入り業者なんでまた来ますよ」


 「そうか、分かった。ところで、あの水たまりはなんだ?」


 「おしっこですね」



 ……




 「な、なんで?」


 何故ここに小水があるのか?

 何故ギルド受付のお前は排泄物をギルドの床に放置しているのか?

 何故お前はおしっこが此処にあってもなんとも思わないのか?


 ギルド長は一度に複数の疑問が沸き混乱したため、キョドって質問してしまった。


 「美少女のですから」


 部下が答える。

 最高の笑みを浮かべて。



 ギルド長はこの変態の部下を解雇した。


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