冒険者ギルド
僕はミと共に外を歩いていた。
「ご主人様、冒険者ギルドに行くのですか?」
「うん、そうだよ」
「冒険をするのですか?」
「いや、ポーションの発注があったから卸に行くんだ」
「とうとうギルドと取引するまでになったのですね、流石ご主人様です」
「いやぁ、ハーネスさんの下請けなんだけどね」
ハーネスさんと懇意になったおかげで仕事を紹介して貰ったのだ。
ある意味、奇跡の水のお礼とも言える。
僕の力で取った仕事では無い。
冒険者ギルドとはこの大陸の大きな街ならどこにでもある"なんでも屋"的な組織である。
RPGにお約束の組織だ。
荒事、雑事を問わず仕事を募集し、その掻き集めた仕事を職が必要な人々に割り振る。
一種の職業安定所みたいなものだが、扱う仕事には現実世界とは違い、命のやり取りを必要とするモンスター退治等もある。
当然、回復アイテムや安全保持に必要な雑貨等を仕入れる。
この街の冒険者ギルドにはハーネス商会が商品を卸していたのだが、便宜を図ってもらって割り込ませてもらったのだ。
まぁ、ハーネスさんには格安で奇跡の水を下ろしているからこれくらいはしてもらってもいいだろう。
僕の商売はあくまでも趣味だし、いろいろな人と取引出来た方が楽しい。
「でもでも、やっぱりご主人様は凄いですよ。
普通は偉い人とすぐ知り合いになって仲良くなるなんて事は出来ませんよ。
流石ご主人様ですぅ」
「そうかな、普通にしてるだけなんだけどね」
実は内心、リュシアを僕の奴隷にした事で何か言われるんじゃないかとドキドキしていたのだ。
だが、仕事の話をしている最中も特にそのことについては何も言われなかった。
ただ、"娘をよろしく頼むよ、よろしく頼む"、と何度も念を押されたが……
「ところで、僕を呼ぶ時はカイエンで良いと言ったのに、結局ご主人様に戻っちゃったね」
「はぅ……すいません、そちらの方がいいやすいので」
「いいんだよ、ミーちゃんの好きに呼んでくれて」
冒険者ギルドについて、すぐに仕事は終わった。
「はいよ、赤ポーション、青ポーション、それぞれ100個受領ね。これ領収書」
受付の人に領収書を貰い、礼を言う。
「有難うございます、またよろしくお願いしますね」
「ああ、そうなると思うよ。……ところであんた、あのハーネス商会の会長と知り合いなの?」
「え」
「いやね、うちみたいな小さいギルドにまさかあの大商人ハーネス御老が訪れて来たからさ。びっくりしちゃったよ」
「ご主人様はハーネス会長と直接取引をしているのです」
と、ミが口を挟んでくる。
「本当かい? にわかには信じられないなあ……だとすれは君はただ者じゃないね」
「何の変哲もない商人ですよ」
やれやれ、このままでは目立ってしまう。
目立てばまた勇者だのなんだの祭り上げられて魔王討伐に行かされる恐れもある。
はやいとこ退散した方が良さそうだ。
その時である。
「やんのかコリャァ!」
「あにすんじゃぁ!」
「約束が違うだろうが!」
んん?
何やら、ギルド内部の隅っこが騒がしかった。
「冒険者の方達が喧嘩しているみたいですね」
見ると、三人の冒険者が一人を取り囲んでいた。
ミの言う通り、何やら揉め事が起きているようだ。
やれやれ、こういう場所は本当によくトラブルが起きるんだな。
「フッ、だから言っただろう? 平等に報酬を分けたんだよ。初めに約束した通りさ」
「何が平等だ!」
「お前が半分取って、それを俺達3人で分配したらほとんど儲からないじゃないか」
「これのどこが平等なんだ」
とってもキザな冒険者と、ちょっとガラの悪い冒険者三人が対峙していた。
どうやら報酬の取り分で揉めているらしい。
周囲の人達は関わり合いになりたくないとばかりに遠巻きに見守っている。
「怖いですねご主人様」
「まぁ、よくある事だよお嬢ちゃん。うちのギルドに限らず、取り分で揉めるのは普通のことさ、ただ、うちの建物の中でやってほしく無いんだけどなあ……ここで刃傷沙汰にならなきゃいいんだが」
当然、僕は勇者という立場で世界中を冒険していたのでこの手のトラブルについては知っている。
冒険者達は冒険者組合を通してモンスター退治等の仕事を引き受けるが、難しい仕事の場合、見ず知らずの者同士で即席の冒険団を作る事がある。
難しい仕事は報酬も大きい。
だから、見ず知らずの他人と命を預け合うような事になっても、即席のパーティーを組んで仕事に挑戦する人達も多いのだ。
ただし、やはり他人同士、報酬絡みのトラブルは起きやすい。
普通は事前に報酬を取り決めておくのだが、いざ出発すると何かとアクシデントや上手くいかないことが起き、事前に取り決めた約束を反故にする者も現れるのだ。
そうなると勿論、揉め事が発生する。
高額の報酬につられて命を張った者同士、取り分については譲れない。
なので抜き差しならない事態に発展する事もあるのだ。
場合によっては、殺し合いに発展する事も……
「この野郎、ゆるせねぇ! ぶっ殺してやる!」
三人の内の一人が刃物を取り出した。
そうとう興奮しているようだ。
他の二人も続いて長剣やら短槍やらを構える。
……いけないな、このままではこの冒険者ギルド内で流血沙汰になる。
「やれやれ、身を持って知ると良い。君達に5割も報酬を渡したのはこの私の温情だったということを」
「3対1で勝てると思ってるのか、死にやがれ!」
3人の冒険者がキザな男に襲い掛かる。
「愚かな、このシルバークラスの青騎士レオンに勝てると思ったか!?」
「舐めやがってこの若造がぁ!」
3人組がレオンと名乗る若者に飛び掛かる。
しかし、彼はあっという間に三人をのしてしまった。
そしてさらに……
「逆恨みされても困る、腕の筋を切らせてもらおう」
と言って、剣を振り上げた。
これはいけない、すぐに止めなければ!
目立ちたくないなどと言っている場合では無い。
何よりミに凄惨な物を見せたくなかった。
「君、止めなさい!」
僕はそう言って前に出た。