新奴隷
---ハーネス・ブルトンの邸宅
「私は決めたぞ。リュシア、お前はカイエン様の嫁にして貰いなさい」
「お、お爺様。突然何を仰いますの」
「あの若者は素晴らしい、ぜひ我が血族に迎え入れたい」
ハーネスとリュシアは豪華なテーブルを囲みながら会話していた。
孫娘との大切なランチタイムであり、語らいの時間。
そして、次期ハーネス商会を背負っていく後継者に対する教育の時間であった。
ハーネスの精神、ハーネスイズムを叩き込むための事実上の帝王学の時間である。
ハーネスの息子でありリュシアの父親、今では事実上のハーネス商会のかじ取りを任されているシフトネス代表も通った道である。
「確かにカイエン様は底知れぬ物を持っているとは思いますが……今はただの露天商ではありませんか」
「私の決断が信じられないのか?」
「お爺様の決断力の高さは存じていますわ。
豪商ハーネス、一代にして全土に商店を持つ大商人」
「私は生まれてからこの型大事な決断は外した事が無い、運があるのだ。その直感が告げている、あの少年は何か"持っている"。同世代の若者とは明らかに異質だ」
「確かに、カイエン様はあの一件だけでも規格外の御方だとは思いますわ、
でも、いきなり結婚だなんて……それに新支店はどうなりますの? それにそれに、カイエン様のお気持ちだって」
「新支店などどうにでもなる。それにリュシアよ、忘れたか、我が家の家訓を」
「殺してでもうばいとる」
「私も若いころは無茶をした。盗賊に奪われた商品を取り返すために荒事も行った、この手を汚さずに今まで生きていたわけでは無い」
「今よりも世の中が荒れていた時代だとは聞いていますわ」
「無論カイエン様を殺す事などとんでもない。要するにだ、手段を択ばずカイエン様に気に入られればいいのだ」
「お父様、それって……」
「手段はお前に任せる。ただ、お前の美しさが役に立つ事もあろう」
沈黙が流れる。
リュシアはは祖父の無言の期待、圧力を感じ取った。
乳母日傘で育てられたお前がどこまで出来るか。
そう問われているような気がした。
「分かりましたわ、私もハーネス・ブルトンの娘です。どんな手を使ってでもカイエン様の心を射止めて見せます、例え、例えどんな手段を用いてでも!」
---カイエンの屋敷
「いらっしゃいリュシアさん。何もありませんがどうぞ寛いでください」
僕は慣れない手つきでお茶を客間に居る来客に差し出した。
僕の奴隷であるミは今、外に買い出しに行っているのでこの屋敷には僕とリュシアさんしかいない。
「え、ええ有難うございますカイエン様」
ハーネスさんのお孫さんであるリュシア嬢が突然僕の屋敷を訪れたのだ。
何しに来たんだろう。
次の"奇跡の水"の取引はまだ先のはずだけれど。
「今日は暖かいですわね。
はー暑い暑い、あっついあっついですわ」
リュシアさんはソファーに座っている。
そして胸元のドレスを空けて手でパタパタと顔をあおぎ始めた。
別に今日は暑くないんだけどなあ。
「なんだか今日はとても暑いですわねぇ」
ついでに足を組み始めた。
長い脚の隙間から何か繊維が見える。
下着のようなインナーのような、まぁ要するにパンツが見える。
「……カイエン様? 何も感じませんか?」
「え、何がです?」
「私の胸とか……いえ……なんでもありませんわ。
それより、この屋敷を見学させてくれませんこと?」
「ええ、良いですよ」
---
今日のリュシアさんは何か変だ。
いや、知り合って間もないしほとんど何も彼女の事は知らないけど。
それでも彼女らしくない気がする。
僕にとって彼女は凛として美しい、クールな女性という印象だったからだ。
大商会の娘さんというだけで僕とは身分が違うという事は分かる。
一人で僕の家に来るという事自体がおかしい。
僕は以前は勇者として世界中を旅したけれど、今はただの露天商だ。
王様に謁見もしていなければ街を襲う魔物を退治した事も無いただの一市民である。
そんな僕に彼女が関心を持つだろうか?
「ここが寝室です」
とは言え、彼女が現実に一人で僕を訪ねたのは事実だ。
駆け出し商人として、取引相手のお孫さんとして持て成す義務があるだろう。
僕は屋敷内をざっと案内し、最後に寝室を訪れた。
「わぁ、広いんですのね」
部屋はミが掃除してくれたので今は綺麗だ。
彼女が戻ってくるまでまだ時間が掛かるだろう。
「カイエン様、こちらへいらして?」
リュシアさんがベッドに腰かけ、僕を呼ぶ。
ますます変だ。
ベッドの上でどんな話を?
「何でしょう」
「あ、あの……あのですね……その……ワタクシと……」
???
リュシアさんはなんだか要領を得ない。
それに、顔が真っ赤だ。
スゥハァと深呼吸し
「カイエン様。と、取引をしませんか?」
と言った。
なんだ、取引の話か。
「新規の取引ですか?」
「ええ、自慢の商品が御座いますの。
私だけが持っている、自慢の商品です」
「僕は独自の仕入れルートがあるので買い取りはしてないんですよ」
「お、お金は要りませんわ。
た、ただ、受け取って欲しい物があるんですの」
リュシアさんはなんだかとてもソワソワしている。
なんだろう、本当に様子が変だ。
とても熱っぽい。
「なんだか本当に暑そうですね、窓を空けましょうか」
「お待ちください! しょ、しょ、商品とはこれですわー!」
リュシアさんは自分のドレスをオープンした。
胸が露になり、豊満な胸と白い肌がドレスの中からあふれ出す。
僕はドギマギした。
「ええ!? リュシアさん、一体何を!?」
「い、要りませんか? 私、これでもとても自分には自信がありますの……」
「暑さでおかしくなってしまったんですか? 今水をお持ちしますよ」
「私の頭脳はフレキシブルマックスですわ! よくよく考えての提案ですのよっ」
「ええと、いきなりの事で僕も戸惑っています」
「今なら処女もついていますわ! ワンオフセールですわ! これを逃したらもう買えませんわよっ!」
リュシアさんはドレスを脱ぎながら僕に迫ってくる。
「落ち着いてくださいリュシアさん。冷静になって」
「ブルトン家の人間はここぞという場面で決断を間違える事はありませんわ! 神に愛された運を持っていますの。その豪運が告げていますわ、私にはカイエン様以上の殿方現れません、絶対にですっ。
お願いします、私を"貰って"ください!」
リュシアさんは引き下がりそうにない。
それに、よくよく考えての事らしかった。
「分かりました、リュシアさんがそこまで思い詰めていたとは」
「分かってくださいましたの!?」
リュシアさんの熱意は分かった。
まさか、そこまで熟慮していたとは。
しかし、大それた決断をしたものである。
「ええ、まさか奴隷になりたいだなんて……」
「へっ?」
「でも、安心してください。リュシアさんが僕の奴隷になっても、決して不自由はさせませんから」
「あ、あの……」
僕はリュシアさんのドレスを掛けなおし、優しく彼女を抱き締めた。
なんだかよく分からないがリュシアさんは僕の奴隷になりたいのだと言う。
大商人の娘さんがそこまで言うとは、余程の事情があるに違いない。
「でも、ミの手前もありますから僕の事は一応ご主人様と呼んでくださいね」
「あ、あの……あの……は、はい……ご主人様」
「じゃあ、これからよろしくお願いするよ、リュシア」
僕は手を差し出し、僕の新しい奴隷となったリュシアと握手した。
「よ、よろしくお願いしますわ、ご、ご主人様」
目が点になっている、余程嬉しかったのだろうか。
僕も嬉しい、こんなに可愛い奴隷が手に入ったのだから。
「これはこれで前進なのかしら……とりあえず一緒に居られるわけですし……」
リュシアは俯いて何かぶつぶつ言っていたが、僕にはよく聞き取れなかった。