プロローグ
ある日、僕はトラックに轢かれ異世界に転生した。
その世界は中世ファンタジーそのままの世界だった。
そして僕に助けを求めていたのだ。
元の世界では何もできなかった僕だが、困っている人達を見捨てるわけにはいかない。
手を貸す事にした。
……中略
異世界に勇者として召喚されてはや数十年。
16歳に成長した僕は生まれ育った村を出て、魔王討伐の旅に出た。
全ての敵を倒し、問題を解決し、数多のアイテムを手に入れて僕は成長した。
成長し続けた。
しかし……
魔王を倒す度に世界がリセットされてしまうのだ。
何度倒しても、そのたびに旅立つ直前の朝に戻ってしまう。
だが、時間が巻き戻っても僕の実力は魔王を倒した時のままだった。
成長した実力そのままに、最初に戻ってしまう。
これではまるで"強くてニューゲーム"だ。
冒険で得た経験、成長、数多のアイテムを持ったまま、最初の旅立ちの日に戻り続けた。
魔王を倒す度に実力と財産を持ち越し続け、ループする度に僕は莫大な成長を続けた。
おかげで現在100週目。
今では魔王など一撃の元に葬り去れる実力を得るまでに成長してしまった。
そして僕は理解した。
魔王を倒す事に意味は無い。
どんなに倒してもその瞬間には最初に戻る。
どれだけ頑張っても家に帰る方法だけは見つからない。
「しょうがない。諦めてこの世界に骨を埋めよう」
僕は魔王を倒して世界を平和にする事を諦めた。
元の世界に帰る事も諦めた。
この世界を、楽しむ。
それが僕が見つけた新たな人生の目標だった。
血生臭い戦いを捨て、今度は強くなった自分の能力を使って異世界での生活をエンジョイしよう。
---勇者、いち抜ける
もう限界だった。
最初の街を目指している道中、僕は耐えきれずに叫んだ。
「もういい、戦いにはもう飽きたよ。もう十分だ!」
僕は仲間に対して宣言した。
この魔王討伐の旅から降りる、と。
「え、カイエン。何を言っているの?」
「そうだぜカイエン、まだ俺達は何も始めちゃいないじゃないか。
まだ村を旅立って1時間も経っていないぜ?」
仲間達は不思議そうな顔をして僕を見る。
だが僕はもう飽きていた。
なぜならば……
「君達にしてみれば初めてかもしれないけど、僕はもう99回魔王を倒しているんだ。
君達の体感時間ではまだ1時間しか経っていないが、僕からして見れば魔王討伐の旅に出てから数十年以上経っているんだよ」
「え?」
僕の言っていることが全く理解できない女僧侶のリム。
君は何時だって純真だ。
2週目の時も3週目の時も、僕の話を理解出来ないながらも一生懸命聞いてくれた。
だけど……結局僕を本当に理解する事は出来なかったんだ。
この自分達が最初の街に向かうために乗っている馬車も、この美しい朝焼けも、今の僕にとっては色褪せて見飽きた物に過ぎない。
「僕はこの戦いから降りるよ。これ以上旅を続けるのは時間の無駄だ。さようなら皆」
僕は馬車を降りた。
目の前には見渡す限りの草原が広がっている。
僕は自由だ。
もう僕を縛る者は居ない。
転生してからどれだけの時が経ったろう。
この世界にカイエンという赤ん坊として生まれなおしてから何年が経っただろう。
数限りない戦いの連鎖で、僕は何体のモンスターを倒したのだろう。
そして魔王レギオン、お前を何度倒した事だろう。
僕は気が付いたんだ。
僕をこの縛っていたのは魔王でも仲間でも世界でもなく、自分自身だったということに。
「僕は自由だぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕は駆け出した。
「カイエン、待って!」
「あいつ、なんて速いんだ!」
仲間達が僕を追いかけてくる。
ごめんよ、今の僕に君達は追いつけないよ。
限界を超えて強化された僕の足に仲間達は付いてこれない。
走る。
走る。
走り続ける。
さわやかな草原の風が僕の頬を通り過ぎて行く。
僕は戦いの螺旋から降りた。
開放感で一杯だった。
もう戦わなくていい、誰も殺さなくていいんだ。
どこまでも続く草原を猛スピードで走る。
風を切り、大地を踏みしめ、僕はどこまでも走り続けた。
およそ100週目の魔王討伐の旅を始めるところだった。
そこで僕は、ゲームを降りた。
これから僕は自由な生活を始めるんだ。
誰にも邪魔する事は出来ない。
魔王討伐も、世界の秩序も忘れよう。
既に住む土地は決めてある。
国際貿易都市アオヤマ。
そこで土地を買って生活しよう。
戦いの無い、平和なスローライフを送るんだ。
新しい生活を、この百週目の世界で始めるんだ!