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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第四章、新魔王争奪戦が開幕したと思ったら、俺の妹にそっくりな娘が狙われてブチ切れた結果がコレだよ!
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94、湖畔の町防衛戦15 side??? ~俯瞰~

「……ぃつはよぉ、どういうことだ?」


 湖畔の町の程近く、湖に程近い場所に陣立てを行ったベリアル・ブラッドは大して実のない報告に苛立ちを隠そうともせずに、幕下(ばくか)の一人に視線を向ける。


「……やれと命令したよなぁ? ……んで、一時間経っても誰も勝利の報を持ってこない。……どういうことだよ、竜軍師ファルカオ? ……馬鹿な俺にも分かるように説明してくれや」

「思っていた以上に、カイン・キルメヒアがやり手だったということでしょう」


 ファルカオは現状を分析し、ただ事実のみを客観的に抽出した結論を述べる。


 ベリアルは過度にあげつらうことを嫌う。


 おべっかを使うよりも、ありのままの報告をした方がへそを曲げないと思ったのだろう。


 現にベリアルは肩透かしを食ったようにきょとんとした表情を見せている。


「……言い訳はしないのか?」

「そういったものを何よりも嫌うのが、親父殿だと思っていますからね。それに、まだ負けたわけではありませんから」

「……ほう?」

「親父殿、知っていましたか? あの町には全部で八つの入口があるのです。守る者たちはその八つの入り口全てを守るために兵を裂かなければなりません。ですが、我々は一つでもその入口をこじ開ければ勝ちとなります。カイン殿も良く粘ってはおりますが、戦力的な差を鑑みればそろそろとなることでしょう」

「……テメェは、穴が開くと思っているのか?」

「どうでしょうね? 十二柱将(かれら)は親父殿に似て気分屋ですからね。開かないかもしれません」

「……おい」

「ですが、ご安心を。この私が居る限り、穴は意地でもこじ開けますので」

「……ふむ」


 その目が自信を失っていないのを見て、ベリアルはファルカオの策がまだ終わったわけではないことを知る。


 ならば、最後まで任せてみるのも一興か。


「……いいぜ。見せてみろ、テメェの力とやらを」

「御意に」


 恭しく畏まるファルカオは、獲物を前にした獣のように目を細めて厭らしく嗤うのであった。


     ●


「……戦況はどうなっているかね?」

「鈴木隊は現在十二柱将の一人と接敵! 交戦中も苦戦中の模様!」

「洛隊は隊長の暴走により戦場を混乱させて混戦へと持ち込んでいます! 敵、十二柱将の引き抜きに成功したとの報もあり、現在事実を確認中です!」

「ウエンディ隊は、十二柱将の一人バルムブルクと交戦中! 隊の要請を受け、北山先生を戦場に投入したことで戦況が好転! 八大守護優位に戦闘を継続中!」

「…………。キタヤーマはこちらの奥の手のひとつだったのだがな。相手がバルムブルクでは致し方ないか……」


 無念そうに唇を噛むキルメヒア。


 湖畔の町の中央部にある有馬旅館の宴会場には、急遽、椅子や机が運び込まれ、即席の作戦会議室(ブリーフィングルーム)が作られていた。


 そこには、念話使いのオペレーターが数多く集められ、各戦場の様子をリアルタイムで把握できるよう体勢作りがなされている。


 その中心に位置するのは、この町の代表者でもあるカイン・キルメヒアだ。


 彼女は崩れぬスーツ姿のままに、刻一刻と変わる戦況の報告に耳を傾ける。


「田中隊は戦闘開始後、小競り合いは起きているものの大きな動きはなし! 敵、十二柱将も積極的には仕掛けてきていない模様!」

「国崎隊は――、えーっと……、戦闘開始から一時間! 既に十二ロットを回した模様!」

「……ロット?」


 キルメヒアの疑問には誰も答えず、尚も報告は続く。


「伊角隊は、現在八大守護である伊角先生が敵、十二柱将と直接交戦中とのこと! 敵が全力できていないため、一進一退の攻防を続けているようです!」

「マサーコのステータスでは、十二柱将を抑えるのは厳しい……。キタヤーマはここに投入すべきだったか……?」


 キルメヒアは思わずそう呟くが、全ては後の祭りだ。


 何処かしらの戦場に余裕が出てくれば、真っ先に援軍を向かわせることを心に決めながら、次の報告を促す。


「仲町隊、敵巨大戦力を撃破! 引き続き警戒に当たらせます!」

「おぉ! 彼らを援軍に――」

「お言葉ですが、仲町隊はたった四人の戦力です! それに元々戦闘力自体は高くなく、敵脅威の薄い場所に配置致しました! それを前線に送り込むのはかなり無理があるかと!」

「むぐぐ……。仕方ない……」


 残念だとばかりに諦めるキルメヒアだが、今までの報告の中で一番近しい友人の報告が抜けていることに気がつく。


「アスタロテ隊はどうなっている?」

「アスタロテ隊は戦況膠着状態! 戦闘開始からずっと睨み合いが続いています!」

「相手の十二柱将が慎重派なのか。それとも、アスタロテの策なのか……」

「あと、代表に連絡です!」

「ふむ? ……アスタロテは何と?」

「タクティクス・セブンのカードを切って下さいな、だそうです」

「タクティクス・セブン……」


 キルメヒアはスーツの内ポケットからカード状の紙片を取り出す。


 それは全部で二十七もの枚数にも及び、その紙片の表面には分かり易いように魔界の数字で一から二十七もの数字が記載されていた。


 キルメヒアは、その中から七と記載されたカードを取り出すとその裏面に記載された文字に目を通す。


「これは……、いや、だが……、これが成功すれば戦局は……?」


 顎に手を当て考え込むキルメヒア。


 だが、結論は程なくして出たようだ。


「仲間を信じずに今の自分はない! 伸るか反るかの大博打――、そのベットが仲間を信じることだというのならば、自分は喜んでそちらに賭けよう!」


 彼女はそう宣言すると開戦後より崩れなかった姿勢をついに崩すのであった。


     ●


 さて、湖畔の町が難敵の脅威に晒されている中、湖畔の町と学園とを結ぶ林道の中をゆっくりと進む人影がある。


 彼らは遠くに聞こえる喧騒をまるで他人事のように聞き流しながら、悠々と草地を踏んで歩いていた。


 その人影の内の一人が感心したように声を出す。


「朗くんの言う通りだったわね。一時間経っても喧騒が止む様子がない。湖畔の町の住民は最大戦力(ありまこうすけ)を欠いたとしても、魔王軍相手に十二分に戦える……」

「とはいえ、戦力差は歴然としている。長期戦になったのなら湖畔の町に勝ち目は薄いよ。……まぁ、魔族としての矜持(プライド)が邪魔をして人間相手に長期戦をしようなんて、考えつきもしないだろうけど」


 森を行くのは、湖畔の町から姿を消していた夏目朗と女生徒――加藤久美子である。


 彼らは湖畔の町が襲われていることを承知で、学園方面に向けてその進路を取っていた。


「結果、二つの勢力同士で潰し合ってしまうのね……」

「おいおい、何を他人事みたいに――」


 夏目朗は呆れたとばかりに肩を竦める。


「――全ては君が書いたシナリオ通りじゃないか」


 その言葉を受け、久美子は彼女の生涯でも浮かべたことがないのではないかと思われるほどの凶悪な表情を浮かべてみせる。


 それは凡そ人の顔と呼べる代物ではなかった。


 それこそ、まさに悪魔のような――。


「それを知ってなお、私に力を貸してくれる朗くんは何なのかしら?」

「おいおい、違うだろう?」


 朗が細めた眼差しの奥から、深淵が詰まったようなどろりとした瞳で久美子を睨めつける。


「力を貸すのは僕じゃない。……キミだ」

「それ……、本当に本気でやる気なの……?」

「むしろ、逆に聞きたいぐらいだ。やらない理由がないだろう?」

「そう、朗くんは本当に……。いえ、私は貴方のそういう所に惚れたのだから今更よね」


 久美子が自嘲気味に笑う、


 そんな彼女の声に応えるようにして、森の奥の草むらが揺れる。


 指定の時刻、指定の場所、そして……。


「ようやく来ましたわね、マリアベール」

「お久しゅう御座いますわ。スネア様」


 指定の人物――。


 そこには、魔王軍四天王が一人、スネア・フェメリの姿があった。


 勿論、彼女一人というわけではない。


 彼女の背後には気配を殺して潜む彼女の軍団がおり、そのただならぬ気配は朗を以ってしても気を引き締めさせる程のものであった。


(ベリアルとやらは数を率いたが、こちらの四天王はクセのある精鋭を率いるか。まぁ、隠密行動をしているのだから、当然のことだろうが……)


 朗が頭の中で相手の人物像を分析する合間にも、スネアは人を嘲るような酷薄な笑みを浮かべてマリアベールと呼んだ久美子の前に立つ。


「今回のベリアルに対する強襲作戦の立案見事でありましたわ。お前の種族【ドッペルゲンガー】の名に恥じぬ働き……、誇ると良いですわ」

「有り難きお言葉」

「それと――、もうその姿も良いでしょう? 本来の姿を現しなさい、マリアベール」


 スネアの言葉に従って、久美子の姿がグニャリと歪む。


 燃えるような赤い髪に、挑戦的につり上がった瞳――。


 その姿は、凡そ日本人が持つ姿ではない。


 そんな久美子の変貌に朗は驚きを漏らすことはない。


 それこそ、その正体を最初から知っていたかのように……。


「ふぅ、この姿も久しぶりですわね……」

「ふふっ、貴女が機甲種に(かどわ)かされたと聞いた時は耳を疑ったものですが、まさか、人間種に化けて危地を乗り越えますとわね。それに、大層なお土産まで用意したようではありませんか」


 スネアの視線が朗へと向く。


 彼は恭しくスネアの前に片膝をつくと頭を垂れる。


「人間の冒険者で、夏目朗と言います。以後、お見知り置きを――」

「聞きましたわよ。何でも、人間側を裏切って、こちら側に付きたいとか? その手土産が現状の戦況の膠着なのですってね? ベリアル軍と人間軍の戦力で勝負になるかと心配していたのだけれど、なかなか面白いことをやってみせたようね。……貴方一体どういう手品を使ったのかしら?」

「手品と呼ばれるようなことはとても……。ですが、あえて言うならひとつ荒療治を致しました」

「ふぅん?」

「人間は追いつめられた方が普段以上の力を発揮できる生き物です。ですから、人間側の最大戦力を封じて無理矢理その状況を作り出しただけです。今、戦局が膠着しているのはその心理的作用が働いているだけに過ぎません」

「難易度の高過ぎるゲームには挑戦しようとする気力すら湧かない……、だから炊きつけたというわけね」

「はい。スネア様の理解が早く助かります」

「ふふっ、面白いわね、貴方。……マリアベール、貴女、良いモノを拾ったかもしれないわよ」

「はっ、お褒めに預かり、恐悦至極に御座います」

「では、そろそろ行きましょう」


 スネアはゆっくりと足を向ける。


 その行き先は魔王城ではない。


「生き残ったベリアルの部隊とやり合うには、今は少しでも戦力が欲しいわ。だから、少しは強くなっているという貴方の情報を信じるわよ? アキラ?」

「はい。学園の連中は奴隷にするのに、十分な資質があるかと存じます」


 ニヤリと笑う朗の表情は、それこそ人のものと表現するにはあまりに禍々しすぎるのであった。

伏線を回収しつつ伏線を張っていくスタイル。

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