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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第四章、新魔王争奪戦が開幕したと思ったら、俺の妹にそっくりな娘が狙われてブチ切れた結果がコレだよ!
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87、湖畔の町防衛戦8 sideウエンディ ~白銀 対 漆黒~

 湖畔の町に通じる道は全部で八つあり、開戦当初は敵本陣に一番近い湖側の入り口が最大の激戦区になるであろうことが予想されていた。


 事実、その場を受け持った鈴木拓斗とジーニャの戦いは熾烈を極めており、今尚激しい戦闘行為が繰り広げられている。


 だが、激戦が予想されていたのはその入り口ばかりではない。


 拓斗が受け持った入り口の両隣――。


 敵本陣に二番目と三番目に近い位置に設置された入り口でも、同じように激戦が予想されていたのである。


 当然、その入り口を受け持つのは八大守護の内でも強い戦闘能力を持つ二人だ。


 田中則夫と、そして――。


「悪いが此処から先は何人たりとも通すことは出来ん――」


 戦場を銀光が駆ける。


 白銀色の板金鎧を身に着けた首なし騎士は、それこそ一条の閃光となって戦場を縦横無尽に駆け抜けていた。


 彼女が駆け抜けるところは決まって血風が舞い、魔族の首や肢体が派手に跳ね飛んでは宙を舞う。


 その姿は、まるで帰ることを知らぬ白銀の矢――。


 門を守る冒険者との連携は無いに等しいのだが、遊撃として強力に機能しているため、門の守備に回っている冒険者たちの負担は総じて軽くなっている。


「すげぇ、すげぇぜ、ウエンディさん……!」


 いや、負担が軽くなっているのはそれだけが原因ではないだろう。


 白銀の矢こと、ウエンディは魔族の軍勢の中でも際立って強い者を狙って屠って回っていた。


 それが、魔族の軍勢に混乱を引き起こさせ、その出足を狂わせているのだ。


 単騎の戦いであるのなら、魔界四天王と肩を並べる強さであると評される実力は、こうした遊撃の役割でこそ真価を発揮する。


 その結果、激戦が予想された地域でありながら、此処の門の被害は驚く程少なく済んでいた。


「この調子なら……、この調子で守れるなら……、――行ける!」


 ウエンディの獅子奮迅の活躍を何とか目で追いながら、娼館三人組の一人、緒方は小さく、それこそ誰にも気取られないように呟く。


 気を抜くにはまだ早い時間帯ではあるが、ウエンディが戦場をかき回してくれている御蔭で戦況的には湖畔の町側が優位に立っている。


 それに、ウエンディには多彩な技があり、それがまた前線の魔族を混乱させているようだ。


 常に優位になるように型や技を変えながら突き進む姿は、最前線を張る戦士としては最高峰の役割を果たしていると言っても良いだろう。


 後は、このまま何事も無ければ、この入り口に関しては凌ぎ切れるはず――。


 祈るような思いで緒方は剣を振り続ける。


 こういった心配性なところが抜け毛が多い原因だったりするのだが、こればかりは性分なので仕方がない。


 ……だが、緒方の祈りも儚いものであったか。


 金属同士がぶつかり合うけたたましい音が響いた次の瞬間、ウエンディはその足をゆっくりと止め、好敵手を前に顔つきを引き締めてみせていた。


「私の剣を受けるか。貴公の名を――」


 だが、ウエンディが余裕を持って問えたのはそこまでだ。


 次の瞬間には、警戒する猫のように俊敏な動きで相手から一足飛びで飛び退る。


 失態にも映るような動きを見せたウエンディだが、その動きが失敗ではなかったと、全身から吹き出す冷や汗が証明してくれていた。


 その原因を作ったのは、剣をぶっきらぼうにぶら下げながら佇む漆黒の甲冑の騎士である。


「久し振りだな。我が弟コーウェンの忘れ形見、ウエンディ・アルフトマンよ」


 その姿を見て、ウエンディは顔色が青褪める思いを抱く。


「バルムブルク……、叔父上……」


 まさか、彼ほどの人物がこの戦に参加しているとは思ってもみなかった――、その顔には正直にも程があるとばかりにそう書かれている。


 ……剣を握るウエンディの手が震える。


 目の前の黒甲冑は泰然としているだけだというのに、それだけの圧力をウエンディに向けて発しているとでもいうのか。


 ウエンディは萎えそうになる気力を何とか奮い立たせて剣を握る手に力を込める。


「何故、叔父上がこんな所に……? 戦場は引退したはずでは……?」

「数百年程前に、御主の父上……詰まるところの儂の弟が現魔王に殺されて以来、戦うことが虚しくなってな。戦場からは遠ざかっていたのだが……、儂の腕を高く買ってくれる者が現れた為に今はこうして一軍の将を務めているというわけだ」

「十二柱将……、ということですか? ……ベリアル・ブラッドについたと?」


 信じられないといった表情でウエンディは呟く。


「――現魔王と死闘を繰り広げ、あと一歩というところまで追い詰め、最も魔王に近付いた男と言われた私の父の一番の好敵手と言われていた叔父上が、現魔王の――、しかも四天王の下についたと言われたのかッ!」

「そうだ」


 ウエンディは言葉を失う。


 彼女の言葉が本当であるならば、ウエンディの目の前に立つのは現魔王と、ほぼ変わらない力の持ち主ということになる。


 下手をすれば、現在、湖畔近くに集結している戦力の中で最も強い力を持っている相手ではないだろうか。


 ウエンディが顔色を悪くするのも無理のない話であった。


「何故、叔父上ほどの人がベリアルの下についたのだ……。叔父上なら、ベリアルに取って代わって四天王になれようものを……」

「理由は二つある。ひとつは、儂も若い頃は御主同様に軍を率いるのが苦手だったからだ。だから、魔王殿が就任した際に、四天王を打診されて蹴った経緯がある。今更、どの面を下げて四天王に収まりたいと言えるかね。痴がましいにも程があるだろう? ……もうひとつは、四天王と言えば魔王殿の直下だ。我が弟をその手に掛けた相手の言葉に否応なく従うというのは、我慢できなかったのでな」

「だから、ベリアルの下についた、と……?」

「別に誰でも良かったのだ。儂という男を知り、儂の腕を高く買ってくれる相手であったのならな。それが、たまたまベリアル殿であっただけのこと」

「叔父上は、もう戦場には出られないと思っていたが……」

「三百年ほど前ならば、心変わりはしなかったであろう。だが、駄目なのだ。ゆっくりと怠惰な時間の中に身を置いて、我が名と伝説が風化していくのを見ると、どうしても過去の栄光に縋りたくなってしまう。儂はまだ死んでいないということを叫びたくなってしまう――。そうなってしまったら、どうしようもないのだ。……疼きが止まらずに血が騒ぐからな」

「だが、だからといって……、こんな……、こんな場所に……」

「常在戦場は騎士としての常である――。儂はそう教えたはずだ。覚悟を決めて構えよ、ウエンディ。戦場で出会ったからには、十二柱将が一人バルムブルク、例え相手が実の姪でも容赦はせん!」

「ぐっ……、うぅ……!」


 ウエンディ・アルフトマン――。


 彼女の歴史を紐解くならば、まずは彼女の父親という存在が大きく扱われることだろう。


 ――彼女が物心ついた時には、父親は既に他界していた。


 だが、彼女の父の評判や、噂だけは生きており、幼いウエンディはそんな話を聞いて、父の像というものを一生懸命に作り上げていったのである。


 そんな父の姿は、物凄い強さの首なし騎士であり、現魔王に一番肉薄した者といった英雄の像であった。


 そんな父親像は、次第に彼女の誇りとなり、自慢となり、やがて目標へと変わっていく。


 剣の腕を磨き、皆の心に残り続けるような魔族を目指す――。


 それが、幼き日のウエンディが夢見た姿である。


 そこで彼女を構成する、また大きな要素との出会いがある。


 それこそが、彼女が師事した剣の師匠こと、バルムブルクである。


 バルムブルクは、その時には既に一線を引退しており、暇を持て余していたため、ウエンディに自分の持ち得る技術の全てを叩き込むかのように容赦なく鍛え上げた。


 ウエンディが死にかけたのも、一度や、二度のことではきくまい。


 それでも、ウエンディは挫折することなく、バルムブルクの修行を耐え切った。


 その時には、既にウエンディも相当な実力を備えていたのだが、実戦経験の不足を師に指摘されていたために、流しの傭兵となって戦場を駆けずり回ったのである。


 彼女とバルムブルクにはそんな深い関係がある。


 恐らく、二人が共に、こんな所で再会することなど予期していなかった程には関係が深い。


 だが、精神的にも、気構え的にも上手であるバルムブルクは一喝する。


「どうした! 戦場で棒立ちとは! それが儂が教えた剣かッ!」


 次の瞬間には、衰え知らずのバルムブルクの怪腕が唸る。


 威圧感をそのまま物理力に変えたかのような一撃は、ウエンディの剣を激しく叩き、その衝撃にウエンディは思わず剣を取り落としかけてしまう。


 目が覚めたとばかりに、彼女はバルムブルクから慌てて距離を取り、剣先を叔父へと向ける。


 だが、まだ迷いがあるというのか、その剣先は細かく震えていた。


(怯えている、のか……? そう……、そうだな……。私は叔父上が怖い……)


 剣を習っていたからこそ分かる。


 ……バルムブルクは恐ろしく強い。


 修行を付けてもらっていた時だって、まぐれでも一撃を入れたことはないし、その当時は大人と子供ほどの実力差があった。


 今はウエンディも経験を積み、ある程度の実力差は埋まっているかもしれない。


 だが、その差がどれほど詰まったいたとしても、バルムブルクには勝てない――、そう思えてしまう。


 それは、彼女の中に植え付けられた心的傷害(トラウマ)もあるのだろう。


 バルムブルクもそれを予期していたからこそ、幼少期の彼女を鬼のようにしごいたのではないか。


 魔王に匹敵するほどの実力を有した自身の弟――。


 そのたったひとりの忘れ形見が、自分の持てる技術の全てを吸収した時、恐らくはとんでもない化物が完成する。


 そんな化物が自信を持って立ち塞がったのであれば、如何にバルムブルクであろうとも倒せはしない。


 だからこそ、弱い内に、本能に自分(バルムブルク)には勝てないと刻みこんだ。


 その因子があるからこそ、ウエンディは叔父を前にして及び腰になるのだろう。

長くなりそうだったので、ちょっと中途半端ですがここで切ります><

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