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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第四章、新魔王争奪戦が開幕したと思ったら、俺の妹にそっくりな娘が狙われてブチ切れた結果がコレだよ!
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80、湖畔の町防衛戦1 ~作戦会議~

「さて、関係各所の皆様に集まってもらったのは他でもない――、緊急事態だ」


 最大で八十名程が収容できる有馬旅館の宴会場。


 そこに今、三十名ほどの人員が集まっていた。


 いずれもが、湖畔の町で何らかの力を持つ者であり、彼らがいなければ成り立たないと言っても過言ではない面々が集まっている。


 集めたのは、この町の代表者でもあるカイン・キルメヒア。


 彼女はいつもの下着にマント姿という巫山戯た格好ではなく、ビシっとした黒のタキシードの上下を着用している。


 ファンタジー世界において在るまじきフォーマルっぷりだが、吸血鬼と考えれば、こういった格好がデフォルトなので致し方ないとも言えよう。


「緊急事態? 何が起きたんだ?」


 そのタキシードの作成者である拓斗は、朝早くに洛に起こされて会場まで辿り着いたため、まだ何が起きたのか正確には把握していないようであった。


 いや、この宴会場の中に居る人間で正確に情報を把握している者が何人いるのか。


 宴会場に集まった面々の視線には、不安の入り混じったものが多い。


「今朝方、クエストに出ようとしていた冒険者のパーティーが魔族に襲われた」

「魔族に……?」


 その言葉に表情を変えたのは、アスタロテだ。


 折角、人類との友好の架け橋たる湖畔の町を盛り上げようとしていた最中(さなか)に、とんだ横槍を挟まれた気分である。


 表情が険しくなるのも無理からぬ事であろう。


「会敵した魔族は冒険者パーティーの肌にメッセージを刻み込み、早朝の公園で寛いでいたウエンディたちの上空より投下した」


 どよりと場がざわめくが「静粛に!」というキルメヒアの一喝で場は静けさを取り戻す。


「幸い、現場に『腕利き』が居てくれた御蔭で大事には至っていないが、その冒険者がもたらしてくれた情報と、届けられたメッセージというのが問題でな……」

「何が書いてあったんですか?」


 拓斗がそう尋ねると、キルメヒアは表情の一切変わらぬ顔のまま、一同を見渡して続ける。


「アン君を差し出せ、と――。そうしなければ、本日の日の入りと共に、この町に攻め込んでくると書いてあった」

「この町に……!?」

「あぁ。そして、襲われた冒険者たちが言うには、数千の魔族がこの小さな町を既に包囲しており、逃げるのも難しいそうだ」

「数千って……」


 拓斗が絶句するのも無理はない。


 現在の湖畔の町の住人の数が凡そ二百五十といった程度だ。


 それに比べて、相手の数があまりにも多過ぎる。


 多勢に無勢というだけでなく、相手が魔族の――、しかも規律の取れた集団であることも彼らには不利な条件となっていた。


「そんな数で町を襲わずに待っているっていうんですか? あまりに組織立っていません?」

「恐らく、この町を囲んでいるのは、魔王四天王が一人、ベリアル・ブラッド殿の軍勢だろう」


 答えたのはウエンディだ。


 彼女は、公園上空から去っていく有翼の魔族の姿をはっきりと目撃している。


「ベリアル殿の軍勢は、膂力や生命力に長けた存在が多く、異形種も大勢いる。確か、彼の軍勢の中には有翼魔族だけで構成された空戦部隊もあったはずだ。今回の件、十中八九、ベリアル殿の仕掛けと見て間違いないだろう」

「しかも、冒険者パーティーの話では、この非道の仕打ちを行った者の特徴が、自分の良く知る魔族の特徴に酷似していた。竜軍師、ファルカオ・マッキネイ……。ベリアルの側近である十二柱将の一人だ。彼が来ていることからも、まずベリアルの手勢と見て間違いないな」

「……良く分かんねぇんだが」


 そう言って、一同の中から声を発したのは慶次だ。


 彼はこの場に流れる空気に気圧されることもなく、いつも通りの調子で胡座をかいていた。


「何で、そんな大層な輩が軍隊まで率いて、嬢ちゃんを狙う? そこまで嬢ちゃんに価値があるものか?」

「それは……、自分にも分からない……」


 残念そうに呟くキルメヒアが睫毛を伏せる。


 せめて、敵が何を考えてアンを狙っているのかさえ分かれば、交渉のしようもあるのだろうが、こうも一方的な通告では相手を推し量ることでさえ難しい。


 だが、一つ分かっていることもあった。


「だが、如何に強大な戦力で脅されようと、相手にアン君を渡すわけには絶対にいかない。それだけは、皆心得ていて欲しい」

「はぁ!? その女を差し出すだけで、俺たちは助かるんだろ!? 何でそうしねぇ! 一人が犠牲になることで百人以上が助かるんだ! 感情論じゃなくて、現実を見て、その発言なんだろうな!」


 文句を言ったのは、二次移住組の中でも実力派と目される冒険者パーティーのリーダーだ。


 その分かってなさ過ぎる発言に、キルメヒアは思わず怒鳴りつけそうになるが、ゆっくりと深呼吸をしてから落ち着いて、相手にも分かるように説明する。


「良いかね。アン君を一番大事にしているのは誰あろう、アリーマだ。それだというのに、アン君を無抵抗のままに魔族に引き渡したらどうなると思う?」

「魔族は退いて、俺たちが助かるんじゃねぇのかよ?」

「……違うな。アリーマに全員殺される」

「はぁ!?」


 驚愕の叫び、あるいは驚愕の表情を貼り付けたのは、二次移住組だけだ。


 一次移住組は、さもありなんとばかりに、うんうんと頷いている。


「分かっていないようだから言っておくぞ? 正直、魔族五千体に囲まれていたとしても、アリーマ一人を相手取る方がよっぽど脅威度としては上なのだよ」

「い、いや、そのアリーマってのが、有馬先輩なんだろうことは分かるけど……、ちょっと怖い先輩ってだけじゃん? 全然、凄そうに見えなかったんだけど? そ、そんなにヤベェ人なの……?」

「まぁ、いつも旅館でだらだらしてたり、町中を見回りと称しちゃあ、食べ歩いてるだけだから、良く知らない人にはそう見えるかもしれないね」


 拓斗が場の空気が悪くならないように思わずフォローを入れる。


 こうでもしないと、キルメヒアがいつ爆発してもおかしくないような状態に見えたからだ。


「腐ってもSランクだよ? この場に居る全員で掛かったところで一蹴されるってことを理解しておいた方が良いね」

「マジかよ……」

「あと、君、二年生だろ? 一応、先輩に対する言葉遣いには気を付けた方が良いよ。特にこの町には怖~い三年の先輩が沢山いるからね?」

「あ――。はい、すみません……」


 高品質、低価格で武器を供給する武器屋の店主の機嫌を損ねるのはマズイと思ったのか、二年生の冒険者は素直に謝る。


 その態度を見せたことで、その冒険者は国崎慶次という武闘派と揉めることを回避できたのだが、それは本人が知る由もないことである。


「まぁ、そんなわけで、この町としては魔族と全面戦争を行おうと思う」

「本当に本気なんですね……。いや、待て……、そうか! 有馬先輩がいれば!」


 集まった面子の誰かが天啓が閃いたとばかりに口を開くが、その答えが得られるよりも早く、キルメヒアは首を横に振る。


「アリーマなら、今回の戦いに参加できない」

「な、何故ですか!?」

「敵の精神攻撃だか、魔法攻撃のようなものを受けていてな。今朝から一向に目覚める気配がないのだ」

「そ、そんな……。それじゃ、僕達は魔族相手に絶望的な戦いを……」

「……? 何か勘違いしていないか?」

『――え?』


 その場にいる殆どの者の声がハモる。


 声を上げなかったのは、慶次や則夫などの元々協調性のない者たちだけだ。


「向こうが十二柱将全員を投入してきていれば、戦局は恐ろしく不利だっただろう。だが、ベリアル軍は神の軍勢と現在交戦中だ。そっちを放り出して、この町を落とすために十二柱将全員の投入などまずないだろう。だから、そこまで絶望的な状況ではないし、それにこちらにも魔界の貴族に対抗できるレベルの戦力がいるのだから、良くて五分、悪くて四分くらいだと自分は考えているぞ?」

「魔界の貴族レベルっていうと……」


 視線の半分がアスタロテに向き、半分は真砂子に向く。


 そんな視線を受けて、アスタロテは優雅に一礼をしてみせ、真砂子はお手製のメモ帳に視線を落とす。


「えーっと、魔界の貴族レベルですと、総合能力十五万以下。A++ランクとなりますね」

「A++ランク!? そんな冒険者が活動しているトコなんて、ギルドで見たことねぇぞ!?」

「それはそうだよ。冒険しなくても食べていけるんだから、やる必要がないだろう?」


 声を荒らげる二次組に対して、拓斗の声は冷静であり、良く響く。


 その言葉にキルメヒアは鷹揚に頷き、場が次の言葉を欲するのを待って続ける。


「今から、八人の名前を読み上げる。……その八人をこの町の八大守護とし、町の中心より八方向に配置することで防衛の要にしたいと思う。名前を呼ばれたものは順次、前に出てきてくれ。顔見せも兼ねるからゴネるなよ?」


 チッと舌打ちをしたのは慶次だろうか。


 その顔には嫌そうな表情が有り有りと浮かんでいた。

総合能力十五万~二十万の間の定義が抜けてましたので、前話の冒険者ランク付けを訂正しました(汗


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