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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第四章、新魔王争奪戦が開幕したと思ったら、俺の妹にそっくりな娘が狙われてブチ切れた結果がコレだよ!
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79、一次組と二次組

 ――浩助が目覚めた時、そこは全てが黒い空間であった。


「なんだこれ? 前も見えねぇ」


 自分の体さえ、どこにあるのか分からなくなるほどの漆黒の空間。


 その空間の中に、反響するようにして耳障りな声が響く。


「ようやく目覚めたかぁ……。人間の救世主とやらよぅ……」

「――あ? 誰だテメェ?」


 斜に構えて空間を見渡すが、漆黒に塗り潰された空間の中では当然のように相手の姿は見えない。


 不安を煽るその光景に、浩助は内心で舌打ちする。


 不安を煽りたかったのはこちらだったのだが、どうやら上手くいかなかったようだ。


「私は大魔導師スネア様の第一の部下、ケーネルライトォ……。人間の中でも最も厄介だと言われている、お前の動きを封じに来たぁ……」

「喋り方がまだるっこしいんだよ! 封じに来たって、この黒い空間か! 一体、何をしてやがった!」

「お前の精神を、我の精神空間で囲って檻とさせてもらったぁ……。我の許可がなければ、お前は二度と目覚めることはないぃ……」

「ほう……」

「そして、その間に人間たちはぁ……。全滅するぅ……」

「…………」


 ケーネルライトの言葉に、浩助の肩がぴくりと震えたのだが、漆黒を満たした空間を作り出したケーネルライトには、その様子を知覚することは出来なかったのであった――。


     ●


 その日――、つまるところの浩助の目覚めがいつもよりも遅かった日の早朝。


 ……朝靄が出る中を、一組の冒険者が警戒するように歩いていた。


 湖畔の町は、湖が近いこともあって日が登り切っていない時間帯は霧や靄が出ることが多い。


 その視界不良な中で足を滑らせて、怪我、または湖に落ちることもあるため、朝早くに出発する冒険者の多くは慎重に行動することが求められていた。


 勿論、本来ならあまり無駄口を叩かない方が良いのだが、こう手探り状態で歩き続けるのは気が滅入るのが必定。


 警戒は先頭の射手へと任せ、パーティーの士気を鼓舞するかのように中央の戦士風の男が声を上げる。


「しっかし、こっちの町に来て正解だったな~。あんまり稼ぎの良くなかった俺達もバンバン強い魔物を倒せてるし!」

「……それもこれも、全て破格の装備が安くレンタルされてるからだよな。何か、一次組はタダで装備を貰ったとか噂だぜ?」


 戦士風の男の声に答えるのは、後列に控える軽装の男だ。


 腰に杖のようなものを指しているところを見ると、魔法職なのかもしれない。


「マジかよ! だったら、俺も一次組に混ざれば良かったわ~」

「いや、死ぬかもしれないところに絶対行かないってお前言ってたじゃん……」

「あん時はそう思ったんだよ! でも、選択ミスったわ~。本当、選択科目以来だわ、選択ミスったって思ったのー……」

「やれやれだ。……そういや、一次組は有馬先輩からスキルの講習を受けてたって話知ってるか?」

「いや、知らねぇ。……っていうか、有馬先輩って誰? それ?」

「あの町を一番初めに開拓したとんでもない冒険者だよ。知らないのか?」

「……ギルドでそんな人見たことあったっけ? ランクはいくつぐらいなん?」


 浩助は基本的に冒険者ギルドで依頼を受けていない。


 暇な時は旅館を経営したり、キルメヒアからの連絡が入った場合にのみ、高難易度クエストを請け負うといったような感じだ。


 パーティーメンバーは、沙也加、ねこしぇ、アンといった、冒険者ギルドには全く顔を出さない面子ばかりなので、冒険者間の知名度が低いのは今に始まったことではない。


「聞いて驚くなよ。Sランクって話だ」

「S!? マジで!? 改定された冒険者ランクに合わせてそれなの!? 凄くね!?」


 当初、魔物の脅威度を計るために導入された冒険者ランクであったが、人間側の装備やスキルの成長に伴って、この辺の基準値が改めて見直されることになったのである。


 どちらかというと、当初は魔物の脅威を計る指標だったものが、人間側の強さの格付けをする指標へと変貌を遂げたといったところだろう。


 ちなみに新しい基準としては――。


 Gランク……総合能力:五十以下。召喚されたばかりの一般人レベル。


 Fランク……総合能力:五百以下。オークとタイマンで勝てるレベル。


 Eランク……総合能力:千以下。オークとゴブリン編成の一部隊を一人で殲滅できるレベル。


 Dランク……総合能力:三千以下。ハイオークとも渡り合えるレベル。


 Cランク……総合能力:五千以下。狼人並の戦闘能力を有するレベル。


 Bランク……総合能力:八千以下。冒険者の中でも腕利きのレベル。


 B+ランク……総合能力:一万以下。魔王軍の正規兵レベル。


 B++ランク……総合能力:二万以下。宝貝を装備した仙人レベル。


 Aランク……総合能力:五万以下。複数の中位スキルを習得しているレベル。


 A+ランク……総合能力:十万以下。稀少個体の魔物レベル。


 A++ランク……総合能力:十五万以下。魔界の貴族レベル。


 A+++ランク……総合能力:二十万以下。上位龍や魔界四天王レベル。


 Sランク……総合能力:二十万以上。アグリティアでも極一部にしか辿り着けないレベル。


 ――となっている。


 この総合能力の算出方法としては、攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、速度、幸運の六つのパラメータを単純に足した値であり、基本的な戦力を計るための指標であった。


 勿論、ランクが低くても、スキルやHP、MP次第で上のランクを倒すことは十分に可能であり、実際の強さを計る基準としては、やや欠陥があるシステムではある。


 それでも、有馬浩助はこのシステム上、Sランクに配置されている。


 ……ステータスの半分が、ゼロであるにも関わらずだ。


 彼の力がどれだけ図抜けているのか――。


 それを知る者の大半は今や過去の人なので、その脅威を知る者は少ない。


「俺達がスパイダー装備を着けて、ようやくCランクってとこだしな。有馬先輩は凄いよ、本当」

「装備整えた小日向先輩でも、Bランクって言ってたしなぁ。Sかぁ……」

「……それ、引き合いに出すなら仲町兄妹の方を出した方が良くないか? アイツら、一応ギリギリだけど、B+だろ?」

「いや、何か、アイツら他の冒険者と絡みたがらねーじゃん? アイツらだけで依頼を受けることが多いから、あんまり強さの実感がなくてさー」

「あ、それ分かるかも」


 今まで息を潜めて辺りを窺っていた回復役の女子まで話に乗ってくる。


 これで、この冒険者パーティーで喋っていないのは、前方を歩く射手だけになってしまった。


 ちょっと乗り遅れた感を覚えたのか、射手は僅かに顔を顰める。


「この間も軽く会釈したんだけど、お兄さんの方は答えてくれたんだけど、妹さんは逆に無視する感じだったし、協調性がない感じなのかも知れないわね」

「確かに、兄貴の方は割と物腰が柔らかくて人当たりが良い感じだよな」

「そうかぁ? 俺は何かスカしている感じがして逆に苦手だわ。裏で何考えてるのか分かんねーし」

「はいはい。イケメンだからって嫉妬は見苦しいわよ」

「嫉妬じゃねーし! 俺はそういう非協力的な奴が二次移住組の代表として扱われるのが気に入らねーって言ってんの! 代表者面すんなら、ちゃんと共同で依頼こなしてからにしろって話だ!」

「――ッ!」


 ――と、先頭を歩いていた射手の足が止まり、即座に背後にハンドサインを出す。


 軽口を叩いていた冒険者たちも、その状況に対応して、一瞬で息を潜める。


 ……だが、遅かったのかもしれない。


 先頭に立っていた射手が額に脂汗を浮かべながら、霧で霞む前方を注視してやまない。


「……何か居る」


 その言葉は後方に佇む冒険者たちに緊張感を思い出させるには十分であった。


 各々が音の出ないように得物を抜き放ち、姿の見えない魔物に対して備える。


 空気が張り詰め、冒険者たちの肌にじわりと滲むような汗が浮かんだ時、ぶわっと一陣の風が吹いて辺りの霧を散らした。


 そこに居たのは――。


「あ、あぁ、あぁぁぁぁ……」


 ――息を潜め、気配を潜め、整然と並んだ魔族の群れ、凡そ五千。


 それを見た時、冒険者たちは心底の恐怖を覚え、膝を震わせて、その場に崩れ落ちる。


 そんな冒険者たちの目の前に立つのは、優男風の面相に角と爬虫類のような尻尾を生やした長身の男だ。


「やぁ、こんにちは。キルメヒアの部下たちよ。君達は実に幸運だ」


 優男はそう言って、彼らの恐怖を和らげるため、優しく微笑むのだが、その後ろに控える魔族の軍勢がその心遣いを無に帰してしまう。


 冒険者の中で戦士風の男が、震える声を絞り出し、何かを答えようとするのだが、その吐息は言葉にはならずに宙へ溶けて消えた。


 その代わりに出たのは、下半身より垂れ流れる粗相である。


「おやおや、驚かせてしまったようだね。だが、安心して欲しい。我々は君達を殺しにきたわけじゃないんだ。君達の町にいる一人の人物を迎えにきたのだけど、誰か話し合いをする気はあるかい?」


 だが、誰も答えない。


 そんな光景を見据え、優男はやれやれとばかりに首を振る。


「これは交渉は難しそうだね。だったら、仕方ない。親父殿の言っていた通りに第二案でいくとしようか」


 そう言って優男はとても柔らかな笑みを見せて――。


 ――自身の爪を長く伸ばすのであった。


     ●


「いやぁ、今朝も良い汗をかいた! やはり、特訓は最高だな!」

「その毎度の特訓に付き合わされる身にもなって欲しいでござるよ……、とほほ……」


 朝日が登る早朝から、異世界武道館で剣戟を交わしていたウエンディと則夫は、二時間程の朝練を終え、公園のベンチで寛いでいた。


 そもそも則夫の方は汗をかいているのだが、ウエンディは鎧姿であるために汗をかいているのかさえ良く分からない。


 そこを突っ込むのは無粋なのだろうかと則夫は思うが、本人は甚く満足しているようなので何も言わなかった。


「それにしても、こうして日も登らぬ内から訓練を行っているのは、どちらかと言うと一次移住組が多いような気がするが、やはり有馬殿の指導の癖が抜け切っていないということなのかな?」

「……有馬殿には、一ヶ月という短い間でござったが、拙者たちの力を底上げしてもらったでござるからな。それに加えての無償のレア装備の配布も相まって、皆、自分たちの力で自分の町を守るという意識が高いのでござるよ。……国崎殿もあぁやって早朝は仕込みの作業に追われているでござるが、皆が寝静まった後でひっそりと特訓していたりするでござるからな」

「……そいつは、言わねぇ約束だろ」


 公園のベンチの目の前でせっせと今日の仕込みを開始する屋台の中から、慶次が渋い顔でそんな声を出す。


 だが、則夫は皮肉げな笑みを顔に貼り付けると、「ウエンディ殿の特訓の相手を拙者に押し付けたのだから、それぐらいは言わせて貰うでござる」と返していた。


 それには、流石に慶次も何も言えなくなってしまう。


「しかし、驚いたぞ。装備込みとはいえ、一次移住組の人間は強いな。二本に一本は私でさえも不覚を取る。それに何だったか……。冒険者ランクと言ったか? それも大分高いのだろう?」

「ムフー……、その辺にあまり拘りはないのでござるがなぁ……」

「そうなのか?」


 ウエンディが聞き返すと、今度は屋台の中から返事が返ってくる。


「……基本的に一次組は、無料で建物を作ってもらった御蔭で手に職を付けている連中が多いからな。冒険者としてやっていく意味がねぇんだよ。だから、冒険者ランクにも大して固執してねぇ。むしろ、冒険者として活動している奴の方が珍しいぐれぇだ。そっちの田中だって、冒険者というよりは回復職として金稼いでいるくらいだしな」

「いや、それにしては手合わせをしていて、剣の技能が大分高く感じたのだが……」

「……色々と出来るようになっているのは、有馬殿の御蔭でござるな。そして、ウエンディ殿の全力の打ち込みを耐えられるのも、有馬殿から貰ったレア装備の御蔭でござるよ。だからこそ、有馬殿の作った町を守りたいという気持ちは湧いてくるでござるが、冒険者稼業で儲けたいという気持ちはさっぱりなのでござる」


 だからこそ、冒険者ランクに拘る気もないといったところなのだろう。


 特に、その気持ちは一次移住組に強くあるらしく、町でのいざこざが起きると、一次移住組が出張ってそれを止める光景が良く見られた。


 皆、表立って浩助に言うことはないが、感謝しているのは確かなようだ。


 だからこそ、その借りというか、感謝の気持ちを町に返そうとしているのであろう。


 浩助が懸命になって作り、そして自分たちも携わってきた町なのだから、それは当然の帰結なのかもしれない。


「……今も冒険者をやっているような一次移住組といえば、夏目朗ぐらいのものじゃないか? アイツもウマい依頼しか取らねぇような奴だからな……。どうも、一次組の実力が二次組には伝わってねぇみたいで、ナメた態度が目立つなアイツら……」

「別に良いでござろう。その辺は言わせておけば……」


 実際、二次移住組の大半は冒険者という職業を選択しており、一次移住組の冒険者が大して活躍していないことを良いことに、どこか見下している感はあった。


 そもそも、やる気も人数も違いがあるので、差が出るのは当然なのだが、それを一次移住組が『使えない奴ら』と評されるのが、慶次にはどうにも我慢ができないようだ。


 元々、気の短い方で理不尽には怒り心頭になるタイプだ。


 現状の扱いに腹を立てるのも無理からぬことかもしれない。


「……相変わらず、田中は冷めてやがるな。悔しくねぇのかよ?」

「人の思い込みを正すことに疲れてしまっているのかもしれないでござるなぁ……」


 しみじみとそう言われてしまっては、慶次に言葉はない。


 どこかどんよりとした空気が流れようとしていたのを嫌ってか、ウエンディが何か言葉を掛けようと口を開きかけ――。


「! 何か、上から落ちてくるぞ! 気をつけろ!」


 ――その存在に気付く。


 その後の行動は早かった。


 則夫が一瞬でベンチから立ち上がり、上空を見上げ、それが何であるのかを視認する。


 慶次は準備中だった仕込みを放り出し、黄色い生麺を片手に屋台を飛び出していた。


「国崎殿! 人でござる! 恐らく、全部で四人!」

「危険感知も鷹の目のスキルも、ここぞという時に役に立つ……。浩助の指導は間違ってなかったってことか。後は――」


 四人の冒険者が地上まで二十メートルを切ったところで、慶次は手早く黄色い縮れ麺を上空に向かって投げ広げる。


「国崎流ラーメン術中伝、縮れ麺投網――」


 一瞬で広がった縮れ麺は、冒険者達に即座に巻き付いて絡みつく。


 それを見て取った慶次は、即座に腕を上方に振り上げることで、落下のスピードを緩和させ、そのまま公園の芝生の上へと冒険者四人を投げ下ろしていた。


 地面に直接激突していたら大惨事であったことだろうが、冒険四人は苦鳴を上げるぐらいには無事であった。


「田中殿! 彼らに回復魔法を!」

「分かっているでござる! ……む? 何で、ござる、か……、コレは……」


 則夫が冒険者たちに駆け寄って絶句するのを見て、他の二人も慌てて駆けつける。


「コイツは、ヒデェ……」


 冒険者四人の中で唯一の女性冒険者の背が露わにされ、その皮膚にナイフのような鋭い刃物で刻まれた文字が見える。


 魔法のない世界であったのならば、一生消えない傷として残り続けたことであろう。


「有翼型の魔族……、ベリアル殿の手の者か……」


 空を見上げて言うウエンディの視線は、町の上空を去っていく有翼の魔族の姿を捉える。


 恐らくは、あの魔族が上空から四人の冒険者を投げ落としたと見て確実だろう。


「チィ、翻訳スキルが低過ぎるせいか文字が読めねぇ! 田中は読めるか!?」

「文字を読むには、言語読み書きのスキルが必要でござるよ……。拙者にもちょっと難しいでござるな」

「……どれ、私が読もう」


 ウエンディが進み出て、少女の背中に書かれた傷文字に目を通す。


「アンタが言語読み書きのスキルを持ってるなんて意外だな。戦闘用のスキルしか持っていないのかと思ってたぜ」

「……そんなスキルは持ってないさ」


 ウエンディの返しに、慶次はピクリと表情筋を動かす。


「だが、これは私達の言語だからな。問題なく読めるよ」


 ウエンディの言葉通り、そこには魔族の公用言語でメッセージが刻まれていたのであった。

しばらくシリアス展開かもしれません。

ギャグ挟みたい病で死んでしまうかもしれません。

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