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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第一章、調子に乗って闇魔法使っていたら、知らない所で恨みを買っちゃった結果がコレだよ!
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7、テッペン取ったれや拓斗

 生徒会室と書いてあったプレートの上には、藁半紙で『冒険者ギルド ―ギルドマスターの部屋―』という正し書きがなされていた。


 浩助はそれを半眼で眺めながら、聖也に続いて生徒会室の中へと乗り込む。


「会長! お帰りなさい、ま、せ……?」

「お、忍ちゃんじゃない? 何してるの? そんな格好で?」

「み、水原先輩……、えっと、これはその……」


 何だか長いマフラーを首に巻いたショートボブの少女の動きが固まる。


 少女の名前は、大道寺忍(だいどうじしのぶ)


 前副生徒会長にして、現生徒会長であるという優秀な少女――。


 ――ということに教職員の間ではなっている。


 正確には、前生徒会長である聖也にベタ惚れしていて、ちょっとドジなところがあったりする可愛らしい少女なのだが、それは聖也の前では言わぬが花か。


 まぁ、前期の副生徒会長に続いて、今期は生徒会長まで務めているのだから、優秀な人物には違いないのだが……。


 ちなみに、沙也加とは中学の頃から剣道部での先輩後輩の間柄で、未だに頭が上がらないらしい。


 そんな忍が恥ずかしそうに、沙也加から視線を逸らす。


 聖也を恋人が出迎えるように熱烈に出迎えた上、自分の良く分からないファッションに少しだけ羞恥心があるのだろう。


 そんな忍を見かねてか、聖也は「彼らにお茶を用意してくれないか。ポットの保温機能が終わる前にね」と、スマートに助け舟を出していた。


 頼れる元生徒会長様である。


「みんな、適当に座ってくれたまえ。あぁ、大道寺君も、お茶を淹れ終わったら座ってくれ」


 忍が短く「はい」と答え、五つの湯呑みが生徒会室のテーブルの上に用意される。


 何の変哲もないスチール机ではあるが、異常事態に巻き込まれた現状では、変哲のなさが逆に浩助たちに安心感を与えてくれる。


「それで……、ギルドマスターについて、だったかな?」

「あぁ――、というか、表の冒険者ギルドってのも何なんだよ?」

「ふむ。では、判りやすく一から説明していこう。現状、我々は、我々の知る世界とは別の世界――いわゆる異世界というものに遭難した可能性が高い」

「可能性が高いじゃなくて、異世界そのものだ。しかも、八つの世界が融合しかかっている世界だ」

「有馬ぁ~、それ言っても時任君が信じるか分かんないよ?」


 水原が一瞬止めに入ろうとするが、聖也は片手を上げてそれを制する。


「いや、面白そうだ。続けて」


 聖也の言葉を受け、浩助は語る。


 自分たちが今居る場所――アグリティアが、八つの世界の部分部分を切り取って融合した世界であること。


 八つの世界にどのような種族がいて、特徴があるのかということ。


 そして、八つの世界を融合したであろう犯人らしき人物が、人間界以外の七つの種族の中にいるであろうこと。


 全てを聞き終えた聖也は、ゆっくりと瞼を閉じ、そして深々と息を吐き出す。


「…………。状況は、私が考えていた以上に最悪だったか……」

「あぁ、最悪だよ。その犯人を見つけてぶっ飛ばさない限り、例え帰れたとしてもまた同じような目に合う可能性がある。決着はきちんとつけねーとならねー」

「……いや、有馬君が想定している通りなら、まだ救いようがある」

「と、言いますと?」


 忍が、聖也の次の言葉を待つようにして動きを止める。


 それは、何度も生徒会室で繰り返された光景なのだろう。


 聖也も慣れたように言葉を繋いでいた。


「単独犯でなく、種族単位で行っていた場合だ。そうなった場合、最悪、我々学生で戦争をしなくてはならなくなる」

「そいつは確かに最悪だね。……うん?」


 苦虫を噛み潰したような表情をした拓斗が、何かに気付いたかのように晴れやかな表情を浮かべる。


「いや、ちょっと待ってくれないか、マスター。その場合は、俺たち以外の他種族にも手伝ってもらって共同戦線を張ればいいんじゃないか? そうすれば、犯人の種族は実質七対一で戦わざるを得ないし、これなら多分、楽勝で勝てると思うんだけど……」


 だが、聖也は短く黙考した後、頭を振る。


「いや、そう上手くいくものでもないだろう。他の七種族に癖があり過ぎる」


 まるで、値踏みをするように他種族の特性を思い出し、聖也は続ける。


「魔族は智謀策謀を好む性格からして、協力しても裏切る可能性があるだろうし、霊などは話し合いになるかどうかすら怪しいだろう。仙人はまだ話せるかもしれんが、神や天使は恐らく動かんだろうな。能力が高く、知性が高い輩というのは総じてプライドが高い。敵対でもしない限り、高みの見物だろう。妖精は排他的だし、幻獣はそもそも統制が取れているのかすら判らん。機甲に至っては論外――。上手く運んでも、三対一ぐらいが限度だろうな」

「言われてみると、確かに厳しそうね。でも、時任君は今の有馬の言葉を信じたの?」

「あぁ、信じたよ」

「えらいあっさりね」

「そりゃあね。【称号】の欄に救世主とかいう見たこともない称号があるからね。信じざるを得ないよ」

「はぁ!?」


 沙也加が、浩助の顔をまじまじと覗き込む。


 そういえば、沙也加には自分のステータスを説明していなかったかと思いながら、浩助はその言葉の意味するところを察する。


「元生徒会長も、鑑定スキルを持ってんのか」

「まぁ、スキルレベルは7しかないけどね。ある程度は鑑定できるかな」


 生徒会長就任時の挨拶も「人間観察が趣味です」とか言っていた人物である。


 高レベルの鑑定スキルを持っていたとしても、不思議ではないか。


 そういえば、先程少し不快感を覚えたなぁと思いながら、浩助は茶を啜る。


 ……ぬるい。


 電気ポットに電源も供給できないのだから、当然といえば当然だが。


「まぁ、この世界に関してのことは、今はこれぐらいしかわからねぇ。そっちでも犯人の割り出しのために、何かできることを考えてくれると有り難ぇんだが――」

「勿論、協力するよ。犠牲者をあまり出さない内に帰りたいしね」


 浩助の脳裏に、体育館裏で倒れ伏していた五人の後輩の姿がフラッシュバックする。


「では、こっちの話も聞いてもらおうかな?」


 空気を読んだのか、逆に読まなかったのか、聖也はそう言って進める。


「現状の我々の問題は、電気と水道が使えず、食料も不足していることにある。一応、屋上にある災害時用貯水タンクで水は少しだけ供給できるが、それも三日ともつまい。そうなれば、我々に待っているのは死という結末だけだ」

「購買とか、学食とかにある飯とか飲み物は使えねーのか?」

「それももって二日あるかないかだな。どのみち、食に関する問題がクリアできないと我々は全滅する」

「あの豚のバケモノとかは? 食えねーの?」

「嫌悪感から避けたいところだが……、一応、調理スキル持ちの女子中心で調理できないか試してもらっているところだ。結果はまだ出てないが……。何にせよ、この非常時に、個人個人が好き勝手やっている場合ではないと私は考えている」


 まるで、演説のように力強く、聖也は言葉を積み重ねていく。


「このままでは、大勢の人間が飢えと渇きで死ぬ。だから、私は大勢を生かすために共同体を作ろうと思ったのだ。それが、この冒険者ギルドというわけさ。……ちなみに、何故冒険者かというと、未開の地を探索して、食料と水を探してもらおうと思っているからだね。これを冒険と言わずして、何を冒険というのか、といったところだ」

「マスターは、俺たちのような攻撃系のスキルがない奴らでも、きちんと生きて、元の世界に帰れるようにやってくれているんだ。その姿勢を知っているからこそ、俺たちもマスターって呼ぶことにした。それで、少しでもテンションが上がってくれるなら有り難いことだしな」

「そういうことだったの……」


 拓斗の言葉に納得したのか、沙也加の目が少しだけ見開かれる。


 最初に聞いた時は、何をトチ狂ったのかと言っていたのは、なかったことにしたらしい。


「一応、今は先生たちに集めて貰った各個人のスキル情報を元にパーティーを三十組程編成して、水場と食料、それに地形の調査を進めて貰っているところだよ。良い場所が見つかれば、最悪、学校を捨てて、そこに街でも作ろうかと思っている」

「何か、スッゲーこと考えてるな、おい……」

「まぁ、これは、みんなが協力してくれないと実現不可能だとは思うけどね。この状況だし、心をひとつにしてまとまってくれると有り難いんだけど……」

「だ、大丈夫です! 会長ならきっと出来ます!」

「うん、大道寺君。私は今、会長じゃなくてギルドマスターで、それに元生徒会長なのだから、呼び方は正しくね」

「し、失礼しましたッ!?」


 慌てて頭を下げる忍。


 やる気はあるし、優秀ではあるのだろうが、何処か空回りしている。


 そんな様子を水原は、青いのう~、とニヤニヤと見つめていたりする。


「まぁ、これらの報告が上がってくるのは、もう少し掛かりそうだから、こっちの話を進めよう」


 そうして、聖也は切り替えるようにして拓斗に視線を向ける。


「鈴木君――、キミ、職人ギルドのギルドマスターになってみる気はないか?」

「は? え? 俺がッスか? ……ってか、職人ギルドって何するんです?」


 拓斗が聖也に対して時折口調がおかしくなるのは、彼が根っからの小心者だからだ。


 肩書きがある人間に対して、どうしてもへりくだってしまう。


 本当は同学年なのだから、完全にタメ口で構わないのだが。


「魔石に関しては知っているかい?」

「えっと、確か、浩助が倒した豚のバケモノの腹の中から出てきた宝石ですよね?」


 自分が気絶している間に、そんなものが出てきていたのかと、浩助は密かに驚く。


「それを、鍛冶スキルや錬金スキル、調合スキルなどを使って加工しようとすると、武器やら薬やらが作れるようなんだ」

「そうなんスか?」

「あぁ。そういうスキルを持っている人たちに試してもらったから間違いない。鑑定した結果もそう書いてあったしね。まぁ、それらを加工するためには、先程言った加工するためのスキルと、こういう物が必要らしくてね。そういった職人たちの仕事や、作成した道具とかの全体的な管理をやってもらいたいんだ」


 聖也がスチール机の上に投げ出した硬貨に見覚えがあって、浩助は思わず小さく声を上げる。


 それは、空中に放り捨てて、消え去った硬貨と全く同じデザインだったからだ。


 浩助は慌てて視界の片隅に意識を集中させる。


 G:12


 ――増えていた。


 どうやら、この硬貨は魔物を倒すと勝手に増えるらしい。


「この世界の共通の硬貨ってことなんでしょうか? 見たことないですけど」


 忍がしげしげと硬貨を手にとって眺めてから、拓斗に手渡す。


 彼も凝視するように眺めて、重さを確かめるようにして上下に振ったりしている。


 そんな様子を横目に見ながら、浩助は軽く手を上げて発言を取り付けていた。


「何だい? 有馬君?」

「悪ぃ。話ぶった切るが、どうやらその金はバケモノを倒すと手に入るみたいだ。俺の金が勝手に増えてやがる。どのバケモノにも共通なのかはわからねぇが、ゲームをなぞってるんなら、多分、バケモノ撃破で増えるんじゃねーかな?」

「ふむ。興味深い話だな。その仕組みと職人ギルドを上手くまとめられれば、小さな社会システムが構築できるか……?」

「一応、最初は物々交換から始めた方が宜しいのではないですか? 会……ギルドマスター」


 今、絶対会長って言おうとしたよね? という視線が忍に集まり、彼女は頬を赤らめて俯いてしまっていた。


 やはり、ドジっ子なのである。


「まぁ、確かに、しばらくは様子を見てだね。有馬君、参考になった有難う」

「別に、こっちだって死ぬ人間が増えて欲しくはねーんだ。協力できる部分があるなら協力するから、気にするこたぁねーよ」

「そう言って貰えると有り難い」


 言って、こほんと聖也はひとつ咳払いをする。


「それで話を元に戻すが、こういった魔石を使って、道具を作り出すスキルを持った人たちを職人として、ひとつの共同体を作りたいんだ。そして、その共同体から道具や武器などを作って販売したりすることで、冒険に出れなくても、引け目を無くす狙いがある。それが、職人ギルドということなんだけど……。一応、スキルレベル差による差別やいじめが出ることを予防する目的もあるかな? 特に異常な状況下に長いこと晒されているとストレスが溜まるし、そういったところに捌け口を求めてくる人間も増えるだろう。それが起こらないように、低レベルの職人たちの保護とスキルレベル向上のためにギルドを立ち上げようと思うんだけど――」

「狙いは悪くないと思うけど、何で俺なんスかね?」


 拓斗はどことなくバツが悪そうな顔を浮かべる。


 その顔には、自分なんかに務まるのか、という一抹の不安が見え隠れする。


 自信は、あんまりなさそうである。


「それは、鈴木君のスキルレベルが全校生徒の中でも高い方であるのと……、後は性格だね。面倒見が良い方だと色んな人から聞いているよ」

「そう……、スか……。でも、俺なんかに……」

「別に悩むことなんかねーよ。受けちまえよ、拓斗」

「浩助?」


 きょとんとした顔を向ける拓斗に向かって、浩助は阿呆らしいとばかりに肩を竦める。


「お前が職人ギルドのマスターにならなくても、高レベルの鍛冶スキル持ってんなら、結局、お前を頼ってくる奴が来んだろ? それから、何かあったらギルドマスターに報告とかいう流れだと二度手間じゃん。お前がギルドマスターになった方がゼッテー早ぇって」

「けど、俺は……」

「お前が自信がねぇっていうのなら、俺が信じてやる。だから、お前は俺の期待を裏切らねぇように頑張り続けろ。それで、全て解決だ! な、完璧だろ?」

「お前は――、無茶苦茶だな……。でも、そうだな……」


 拓斗は覚悟を決めたかのように、お茶を一息で飲み干す。


 喉がカラカラで、緊張して少し声も震える小心者だが、それでも幼馴染の言葉に奮起せぬほどに枯れてはいない。


「うっし……! いっちょ、やってみるよ。その職人ギルドのギルドマスターって奴!」


 かくして、またひとつ学校内に役職が増えたのであった。

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