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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第三章、不良に好き勝手に町を作らせたら、想像以上に自由過ぎる町になっちゃった結果がコレだよ!
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74、ユニークししょー

「ししょー! 本当は強かったんだな!」

「お、おいっ!? アン、もう動いても大丈夫なのか!? もうちょっと寝てた方がいいんじゃないか!?」


 師匠としての面目など何処へやら……。


 治療して一日も経たない内に元気に動き出したアンを見て、浩助は慌ててそれを(たしな)める。


 娼館の一階でアンの無事を祈って詰めていた浩助ではあったが、思った以上に元気なアンの姿を見て狼狽えたようだ。


 そんなアンの背後からは、際どい格好をしたリリィとベティが疲れた顔をして、階段を降りてくるのがみえた。


「アンちゃん、すごい」

   「アンちゃんに魔力を殆ど吸われた」

      「こんなの初めて……」

         「治療で使っている魔力を吸収するなんて……」

            「御蔭で早く治ったみたい……」

               「私達はガス欠だけど……」

                   『でゅわ~』

「やれやれ、これはもう一度自分が魔力供給をしないとならないようだね」


 首を振り振り、キルメヒアはサキュバス従姉妹たちへと近づいていく。


 だが、椅子から立ち上がり、アンを受け止めた浩助としては、アンの状態について気が気ではないのか、上擦った声を出していた。


「――っていうか、アンは本当に動いて大丈夫なのか!? キルメヒア!」

「ふむ。魔族は基本的に大なり小なり自然治癒能力を持つのが普通なのだが、彼女の場合はそれが特別に図抜けているのかもしれん。いや、自然治癒能力だけじゃないな……。戦闘能力の伸び方もアリーマの教えが上手いのか、非常にハイペースのようだし、もしかしたら、彼女は魔族の中でも特殊な個体なのかもしれないな……」

「特殊な個体? それって、キルメヒアさんみたいに強くなるってこと?」


 沙也加が思わず聞き返すとキルメヒアは鷹揚に頷く。


「うむ。このまま、順調に育てばもしかしたら、自分の代わりに四天王になってくれるかもしれん。そうなったら、自分はアリーマとラブラブランデブーの旅行に行ける……。うむ、悪くない!」

「いや、行かねーから! ――ん?」


 いつも通りの軽口の応酬だったのだが、今回はそこに少しばかり変化が加わった。


 浩助に抱きついているアンの腕に思わず力が篭もる。


「…………。……ししょー、行っちゃうのか?」

「いや、行かねーって」

「…………。……行かせないぞ」


 やたら決意を秘めた瞳で、アンがキルメヒアを睨む。


「…………。……ししょーはアンの師匠だ! 勝手に持ってなんていかせないぞ!」


 歯を剥いてぐるると唸る姿は、まるで獣のようだ。


 一応、アンも浩助のことを必要と思ってくれているのか……。


 モノ扱いされたにも関わらず、浩助は思わず嬉しそうに相好を崩す。


「…………。……そして、アンはいずれししょーよりも強くなって、ししょーを倒す!」

「デレてくれたと思ったら、まさかのサ○ヤ人の王子化ッ!?」


 浩助の喜びもどうやら一過性のものだったらしい。


 ガックリと項垂れる浩助に向かって、沙也加は実に上機嫌そうにぽんぽんと肩を叩く。


「まぁ、良かったじゃない。アンちゃんもどうやら元気そうだし、何事もなかったのが一番よ」

「それもそーか。……いや、そうだな」


 浩助と沙也加は互いに顔を見合わせて笑いあう。


 その姿は、長年連れ添った夫婦のようでもあり、子の成長を見守る親のようでもあり――。


 ……自然とキルメヒアとアンの視線が厳しくなる。


「…………。……マーキングされた」

「これはアレかね? 強力な恋のライバル登場と考えて良いのかね?」

「――何ですぐにそう結び付けたがるのよ!?」


 そう叫ぶ沙也加の顔は、図らずとも真っ赤になっているのであった。


     ●


「凄かったなぁ、有馬先輩の動き。見過ごすつもりはなかったんだけど、全く見えなかったよ」

「お兄様でそれでしたら、私には全く見えなくて当然ですわね」


 多様な人々が歩く湖畔の町の大通りを二人の仲の良さそうな兄妹が歩いていた。


 長身で誰もが振り向くような均整の取れた顔立ちをした兄と、小柄で利発そうな顔立ちをした妹。


 二人が並んで歩くと、その身長差により大人と子供のような印象を受けるのだが、二人が持つ得物の姿は完全にその真逆である。


 妹の方は、見た目も目立つ大型の戦斧を背負っており、男の方は両手の指十本に銀色の指輪を嵌めているだけだ。それ以外に特別な装備などはない。


 見る人が見れば、その装備は逆にした方が良いのではないかと指摘されそうなぐらいには違和感がある。


 それでも、彼らはそんなことを気にする様子もなく、通りを闊歩していた。


 ……まぁ、そもそも、通りを狼人やら魔族やら、水路を水の精霊やらが闊歩しているのだ。


 二人の姿を、特別目に留める者は少ないかもしれない。


「うーん、体術には割と自信のある方だったんだけど、見えなかったってことは有馬先輩の速度が段違いに早かったってことなのかな? どう思う、蒔菜?」


 そう言って、実に楽しそうに仲町神那は妹の蒔菜に意見を求める。


 だが、こと戦闘に関しては兄の神那の方に才があった。


 その神那に分からないものが、蒔菜に分かるはずもない。


 だが、予想することぐらいは出来る。


 可愛らしく頬に指をあて、蒔菜はあの時の状況を思い返してみてから答えを返す。


「……私たちは闘技場の観客席から見ていましてよ? あの距離から見ていて、有馬先輩の姿を見失うことなんてありまして? 幻術か、魔法の類なのではありませんこと? 私には人の動きであれができるとは思えませんわ」

「いやいや、それができるのが有馬先輩の凄いところなんじゃないか!」


 だが、浩助マニアの兄に言わせてみれば、それぐらいの奇想天外は実現してしまうのが有馬浩助という男らしい。


 過度な期待を抱く兄に対して、蒔菜はそれが逆転することがなければいいのだけど、と嘆息を吐き出す。


 過度な期待が裏切られた時、それが逆転して憎悪へ変わるのは良くあることだ。


 蒔菜はそういう意味でも、神那に一抹の危うさを覚えていた。


(……でも、お兄様のことだから、きっと何とかしてしまいますわ!)


 ……だが、それ以上に兄にぞっこんラブだったので、些末事として処理してしまっていた!


「いやぁ、本当、この町には来て良かったなぁ。蒔菜もそう思うだろう?」

「そうですわねぇ……」


 正直、蒔菜は神那が湖畔の町に移住すると言い出した時は、何をトチ狂ったのかと思ったものだ。


 だが、実際に来てみると、学園よりも土地の面積は広いし、店や業種なども沢山あり、就業も買い物も思いのままときている。


 学園ほどの厳しい規律や罰則がなく、それがこじれて、町中で良く諍いが起きている場面に遭遇することはあるが、その辺は顔の利く町の住人が仲介に入ることで上手く収めているようではあった。


 狼人と第二次移住組の人間との諍いに、ラーメン屋が割って入った時は、一体どういった状況だと訝しんだものだが、この町ではそれが普通ということらしい。


 確かに学園でいつものように冒険者稼業をやっていたのなら、体験できなかったことの目白押しではあった。


 兄が満足している理由は浩助なのだろうが、蒔菜はそういった意味でもこの不思議な町に来たことを少しだけ納得しているのかもしれなかった。


「……来ないことには分からないこと、というものもあるということですわね」


 素直に来て良かったと言わない、へそ曲がりな妹をみて、神那は柔らかく微笑む。


 その笑顔には、妹の言いたいことなどお見通しだよ、と書いてあるようであり、蒔菜は頬が熱くなる思いで俯いてしまうのであった。


 と――。


「――ッテェ! 何すんだ、このガキ!」

「え? あ、ご、ゴメンナサイですわ……?」


 突如、向けられた憤怒に対して思わず謝ってしまうのは、日本人としての性か。


 そもそも、蒔菜は自分が誰かに当たったという感覚は覚えていない。


 だが、彼女が背中に提げている戦斧の大きさは彼女の体をゆうに超えており、その刃がすれ違う人に当たったという可能性は否定できないのだ。


 事実、学園の時にも気付かずに周囲の人間に斧の刃をぶつけて傷付けてしまうことが、二度ほど起きている。


 だが、謝った蒔菜に対して、相手は怒りの矛先を収めることなく突っかかる。


 それは、体躯の差による優位性からなる嗜虐心のなせる業であったか。


 蒔菜より二倍以上の身長差を持つ狼人が、食っちまうぞとばかりに大口を開けて喚き散らす。


「おい、このチビ助! いっちょ前にデカイ得物なんざ持ちやがって! 通行の邪魔だ! チビはチビなりにもっと小さい得物を持って歩け!」

「え――? 当たったのは謝りますけど、武器の選択は私の勝手ではありませんか! そんなこと、貴方に指図されるいわれはありませんわ!」

「は? ……はぁ!? 人が親切心で言ってやってんのに、言うに事欠いてテメェの勝手だと!? その通りだが、腹立つな! いいぜ! 勝手に取り扱えない武器に振り回されて、路傍で死んじまえ!」

「えぇぇっ!? 今のお節介のつもりでしたの!? どれだけ、狼人というのは素直に忠告できない種族ですの!? ツンデレも真っ青ですわよ!?」

「る、るせー! これは、狼人の特性じゃなくて、俺の性格だ!」


 通りの真ん中でぎゃあぎゃあとやり合う少女と狼人を人々は遠巻きに見つめる。


 このままでは、そう遠くない内に誰かしらの介入が入るのは必至だろう。


 それを考えると動かざるを得ないのか、まぁまぁとばかりに神那が割って入る。


「蒔菜、そんなに大きな声を出すものではないよ。淑女は淑女らしく振る舞わないとね。そこの狼人の方も親切な忠告有難うございます。ですが、僕達のこの武器はユニークスキルですので、得物を変更するのは難しいのですよ」

「はぁ? 何しゃしゃり出て……」

「――どうした、カタート」


 蒔菜に絡んでいた狼人が喚き声を上げようとするのと同時、彼の背後から一際大きく、雰囲気のある狼人が声を掛けてくる。


 その狼人の声に、カタートと呼ばれた狼人は慌てて振り返ると、「あ、いや何でもねぇです」と言葉を濁していた。


 そのカタートの言葉に納得したわけではないだろうが、雰囲気を持つ狼人は前に進み出ると、神那と蒔菜の格好を上から下まで眺め回した後で口を開く。


「ウチのモンが何か粗相をしたってんなら謝るが、そうでねぇなら、そろそろ解放しちゃあくれねぇか? コイツには町の案内を頼んでいるんでな」

「いえ、特にはトラブルはありませんでしたよ。ちょっと親切な忠告を頂いたというだけで」


 神那の返しに、狼人の視線が鋭くなる。


 その視線はまるで神那の実力を計るかのようで、彼は寒くもないのに背をぶるりと震わせる。


「そういうことなら、問題ねぇな。おい、カタート行くぞ」

「へい、若頭」

 そう言って、若頭ことカーティスは、カタートを連れて去っていく。


 その後ろ姿を見送りながら、神那は自身の掌がじわりと汗で湿っていることに気が付いていた。


「……参ったな。この町には、有馬先輩以外にもあんなバケモノがゴロゴロしているのか」

「お兄様?」

「あぁ、うん。なんでもないよ。とりあえず、今日のところは町を見て回って、その後で宿で休憩を取ろうか」

「お兄様の仰る通りに致しますわ」


 素直に頷く妹の姿に笑顔を返しながら、神那たちはゆっくりと町を巡るため、歩き出す。


 その後、先の狼人たちと町の方々で鉢合わせをして、非常に気まずい空気になったりするのだが、今の彼らには知る由もない話ではあった……。

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