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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第三章、不良に好き勝手に町を作らせたら、想像以上に自由過ぎる町になっちゃった結果がコレだよ!
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68、恋のハンカチ

新キャラによる一人称視点です。

折角、学校ごと転移してきたのですから、色んなキャラを出してみるのも面白いですね。

「はぁ……」


 私は何度目になるか分からない溜息をつきます。


 お母さんには『絶対にしてはならない』と何度も注意をされていたのですが、どうやら異世界生活からくるストレスと、異常な環境下による吊橋効果も相まってしまったようで……。


 どうやら落ちてしまったようなのです……。


 アレに……。


「――その溜息は、ズバリ『恋』だね!」

「はわわっ!? あ、明菜ちゃん!? お、脅かさないでよ~!?」


 私は座り込んでいた椅子ごと倒れるぐらい驚いた後で、いつの間にか背後に立っていた同級生に文句を言っていました。


 いや、同級生じゃないです。


 ……同僚でした。


「面白そうな御話をしていますわね。(わたくし)も混ぜてもらっても宜しいかしら?」


 そう言って店の奥から顔を覗かせたのは、オーナーであるアスタロテさんです。


 私と、早川明菜(はやかわあきな)ちゃんとアスタロテさん、この三人が働いているお店が『フラワーアレンジメントショップ・サザンカ』というお店なのです。


 簡単に言っちゃうとお花屋さんです。


 勿論、お客さんは普通にお花を買って帰ることもできるんですが、ご注文のあったお客様のところには、私達が花を届けて飾り付けまでしなくちゃいけないんです。


 割と体力勝負のしんどい仕事ですね……。


 そんなお店で私こと――、川端棗(かわばたなつめ)は日夜頑張っているわけで……。


 本日はお客さんがこないなぁ。暇だなぁ――って気を抜いていたところ、ちょっとした弾みで、熱っぽい吐息が出ちゃったみたいですね……。


 そこを見逃さない明菜ちゃんもさすが過ぎるんですけど……。


「あ、どうぞどうぞ、アスタさん。――で、誰なのよ? その好きな人って?」


 私は許可してないのに、明菜ちゃんはアスタさんを手招きして、あまつさえ椅子まで用意しちゃう始末。


 このお店のオーナー兼家主さんなのだから、気を使うのは当然なんだろうけど、明菜ちゃんはそういうところ、世渡り上手というか、用意周到というか、気配り上手というか、……マメなんだなぁといつも思います。


 私がそういうのはできないっていうのもあるんですけど……。


「あら、有難う。……それで、本当のところ、どうなのかしら? 恋とかじゃなくて何か悩んでいるというのなら相談に乗るのだけど?」


 あ、どうやら、アスタさんは私が恋じゃなくて、悩みを抱えているんじゃないかと心配してくれているみたいです。


 雇用主としては当然の行いなのかもしれないけど、そういうところをさり気なくフォローしてくれるのが、本当に上手い人だと思うんですよね。


 鼻につかないというか、何をやるにも上品に感じちゃいます。


 そして、アスタさんに心配そうな視線で見られちゃうと、私も話さざるを得ない状況になるわけで――。


「えーっと、実はちょっと困った事態になっているんです……」


 ――私はそう二人に打ち明けてしまっていました。


「恋? やっぱり恋なの?」

「困っていると言っていたのだから、恋ではないのではないかしら?」

「えーっと、非常に説明が難しいのですけど、恋です……」


 私がそう言うと、二人は目を丸くして驚く。


 期待と興奮、そして、少しの羨望が入り混じった視線がむず痒いです……。


 私はそんな視線を浴びながら、その人との出会いを思い返していくことにしました。


     ●


 私がその人と出会ったのは二週間前――。


 いや、正確にはもっと前なのですが、ちゃんと意識し始めたのがそれぐらいだったので、その時のことを出会いとしたかったのです。


 ――というか、やはり出会いはドラマチックであるべきだと私は思っているので、その時のことを私は初めての出会いだと思い込むことにしています。


 病は気からのような言葉もありますし、そういうのは大事だと思うんですよね。うん。


 その日、私は冒険者ギルドに向かうために町中を歩いていたんです。


 湖畔の町が作られ始めて二週間程の時間が経っていましたが、当初からは考えられない程、その土地は様変わりしていました。


 その光景を私が表現するのなら、作りかけのテーマパーク、でしょうか?


 何というか、大きくて目を引く建物が沢山あるんだけど、人がいない――そんな感じです。


 その時の私は、まだアスタさんのお店で働いているわけじゃなかったので、お金を稼ぐために毎日のように冒険者ギルドに足を運んでいました。


 冒険者ギルドと聞くと、魔物と戦って、その魔物を倒してね、みたいな依頼しかないように思われがちですけど、実際に行ってみて仕事の内容を見てみると結構色んなものがあるんです。


 例えば、お店を手伝って欲しいだとか、畑を耕すのを手伝って欲しいだとか、牛舎で牛の世話をして欲しいだとか……、私でもできそうなものが結構揃っているんですね。


 そんな中から、割と条件の良さそうなものを、私はチョイスして選んでいたんですけど……、その日もそんな感じで冒険者ギルドへ向かっていたんです。


 そして、運命の出会いは、異世界武道館と呼ばれる大きな施設の近くを通りかかった時に訪れたのです。


「危ない! 避けろ!」

「――え?」


 何処からか響いた大声に私が視線を向けた時には、私の目の前に巨大な氷の塊が迫ってきていました。


 どうやら、異世界武道館の近くで誰かが魔法の練習を行っていたようなのですが、それが流れ弾としてこちらに飛んできたようなのです。


 私はそんな事を知るわけもなかったので、驚きに目を丸くし、その魔法が直撃するのを、ただただ待つしかありませんでした。


 本当に吃驚した時って、それこそ指の一本も動かせなくなっちゃうんですよね……。


 私はまさしくその状態になってしまったのですが――、逆にそれが良かったのかも、と後になって思います。


 ……だって、私をお姫様抱っこで救い出してくれた王子様の顔がまじまじと見られたのですから。


     ●


「――はぁ!? それが、有馬浩助!? いやいやいや、無いでしょ!?」


 明菜ちゃんはいきなり全否定してくれます。


 でも、有馬さんは本当優しいんです。


 顔は怖いですけど、とても親切で優しいんですよ。


 あまり話したことはないんですけど、見ている限りはそれが良く伝わってきます。


「うふふ、素敵な体験をしたのね」


 アスタさんは上品に微笑んで、そう言ってくれました。


 何というか、大人の余裕のようなものを感じます。


 見た目はゴスロリの美少女なんですけど、魔族という話ですから実年齢は結構高いのではないでしょうか?


 とにかく、二者二様でしたけど、私もこんなことになってしまって、とても困っているのです……。


 どうしたら良いのかと、熱と冷の狭間で悩んでいるのです……。


「それで? 困っているということは告白するかどうか悩んでいるということなのかしら?」

「あ、そうだった! 恋で困っているっていうとやっぱり告白のシチュエーションとかで困っているってことだよね!」

「えーっと……」


 私は言葉を濁す。


 これを言っても平気なのでしょうか……。


 ……熟考しなくても分かりますね。


 絶対駄目です……。


 お母さんにも散々注意されてきたし、正直墓にまで持って行きたいと思っているんです。


 でも、この問題を相談することで解決する方法が思い浮かぶというのなら……。


 私は……。


「あ――っ! 無理です! 話せません! 絶対無理ですもん!」

「何なに? そう言われると余計気になるじゃん?」


 明菜ちゃんがそっと近づいてきて脇をくすぐり始める。


 いや、駄目だよ! 明菜ちゃん! 私、脇は本当に弱いんだから!


「だ、駄目ぇ! 駄目だから、明菜ちゃん!?」

「そらそらぁ! 隠していることを教えないともっとくすぐっちゃうぞ~!」

「あ、あはははっ! だ、駄目! 苦しい! 本当もうやめてぇ~!」


 私は明菜ちゃんの魔の手から逃れようとして身を捻るのですが、明菜ちゃんもさるもの、くすぐりの刑をやめることがありません。


 やがて、暴れる私のポケットから『アレ』が零れ落ちます。


 それは、一見すると柄物のハンカチでしょう。


 それを、アスタさんが手にとって広げてみた瞬間――。


 ――明菜ちゃんとアスタさんの動きが止まりました。


「…………。うぅ、酷いよぅ……、だから、絶対言いたくなかったのにぃぃぃ……」

「えぇっと……、ゴメン、棗、どういうこと……?」


 アスタさんの手によって広げられたのは、どう見ても男性用の下着だったのですから、それは固まっても仕方ないと思います。


 私は消え入りそうな声で、ポツリと零します。


「私、ストーカーなの……」

 

 二人の引き攣ったような表情を、私は生涯忘れることはできないかもしれません……。

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