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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第三章、不良に好き勝手に町を作らせたら、想像以上に自由過ぎる町になっちゃった結果がコレだよ!
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66、灰色執念

「はぁっ、はぁっ――、まだ出てくるのかよ、クソッタレ! もう二十は倒してんぞ!?」

「何かおかしいって、龍一! コレ、ゼッテーヤベェ奴だって! オークの色も違うし! いつもより、数も多いし!」


 刃こぼれして、もう斬れなくなってきた鋼で出来た剣をオークの横っ面に叩き付け、中村は叫ぶ。


 だが、中村に言われるまでもなく、龍一もその異変には気が付いていた。


「こいつら、オークじゃねぇのかもしれねぇ! 誰か、鑑定スキルは持ってねぇのか!?」

「そんなスキル持っているなら、職人ギルドに回ってるって!」


 ズタ袋を担いだ男子生徒が悲鳴のように叫び、護身用に持っていたであろう短刀を振り回して答える。


 ちぃ、と小さく舌打ちして、龍一は自身の斬れなくなってきた鋼の剣に、風の魔法を纏い付かせていた。


 それをすることで、剣の斬れ味が良くなるわけではない。


 だが、風の加護を纏った一撃は、龍一の膂力に上乗せして剣を加速してくれるため、より強烈な打撃をオークに与えることができるのだ。


(斬れなくなってきたのなら、鈍器としての有用性を伸ばせば良いんだよ……!)


 龍一は歯噛みをする思いで、目の前に迫り来るオークの胴を薙ぐ。


 棒で肉を打ったような鈍い音が響き、オークが痛みに顔を歪ませる。


 ――が、それだけだ。


 厚い脂肪で覆われた天然の鎧を武器に、オークは力任せに龍一を棍棒で殴ろうとしてくる。


 それを軽いステップで後ろに下がって躱しながら、龍一は鋭い声を発していた。


「普通のオークは肌色っぽい色をしてやがるのに、こいつらは緑色だ……! やっぱり違う種類のオークじゃねぇのか!? 亜種って奴か!?」

「もう、そういうのが存在するのが分かっただけでもいいじゃねぇか! 退こうぜ、龍一! クエストのノルマも達成してるし、これ以上、此処に長居する理由もねぇよ!」


 クエストのノルマはオークの肉五体分だ。既に十分過ぎる程の肉は手に入れている。


 引き際としては十分過ぎるだろう。


 だが――。


「眠てぇこと言ってんじゃねぇよ! コイツらを放置して、俺たちよりも弱いパーティーが襲われたらどうする! テメェ、責任取れるのか!」

「そりゃ、そういうことになっちまったら申し訳ねぇけど……。俺たちが死んじまったら意味ねぇだろぉ!?」

「そ、そうだよ! 小日向君、退こう!」

「…………。悪ぃな。俺はやれることは、やれる内にやるタイプなんだよ……ッ!」


 憤怒の表情で襲いかかってくるオークの打撃を素早く避け、龍一はオークの顔面に向かって剣を突き刺す。


 ピギッという短い悲鳴を上げてよろめくオークの頭頂部に、渾身の力を込めて剣を振り下ろすとオークは蛙が潰れたような声を上げて息絶えていた。


 これで、オークの数は残り四体。


 龍一はどこか執念めいたやる気の炎を漲らせ、剣を構える。


「逃げてぇなら、逃げていいぜ! 俺はこいつらを倒してから行くからよ!」

「馬鹿野郎、んなこと言われて逃げちまったらカッコワリィじゃねぇかよ……!」


 中村は自身が握る剣の柄に力を込める。


 掌の中から返ってくるのは、思ったよりも冷たい感触――。


 それが、返ってきたことで、中村は自分の握力がまだそれなりに残っていることを確かめる。


「いいぜ……、俺だって野球部で二年からレギュラー張ってきたんだ! 掌の豆がダテじゃないってとこ見せてやるよ!」


 豪快なスイングで剣をぶん回しながら、中村もやる気を見せる。


 二人についていく形であった男子生徒二人もお互いに顔を見合わせて頷き合うと、しっかりと短剣を構えていた。


「お前ら……」

「俺たちだって、冒険者だ! 戦う覚悟ができてないわけじゃない!」

「あぁ、やろう! 小日向君! 全員で力を合わせれば、きっとやれるさ!」

「……あぁ! 勿論だ! テメェら、気合入れていくぞ!」


『応――ッ!』


 森に、冒険者の決起の声が響き、オークたちの雄叫びがそれを上回るように響き渡る。


 やがて、二つの勢力はその力を誇示するかのように、どちらともなく走り出し――。


 ――その力と思いの全てをぶつけるかのように激突するのであった。


     ●


「――ったぞ! コラァ! 見たか、豚野郎ォォォォォォッ!」


 勝利の雄叫びもかくやの大声を上げ、龍一は足元のなんでもない草を斬れなくなった剣で薙ぎ倒す。


 その目の前には、息絶えたオークの死体の山が出来上がっており、龍一たちが倒した数が、四体ではきかなかったことを如実に示していた。


 その証拠に、途中でレベルアップしたにも関わらず、龍一の体は悲鳴を上げ、満身創痍の一歩手前にまで突入しかけている。


「はぁっ――、はぁっ――、くっそ疲れた……。おう、お前ら、生きてるかー……」

「死んじゃねぇよ……。けど、もう戦えねぇ……。それぐらい疲れた……」


 中村がそう答え、他の二人も言葉にならない呻き声を上げて同調する。


 どちらにせよ、これ以上の戦闘継続は困難だ。


 取得できるオークの素材をできるだけ集めて、さっさと撤退するに限る。


 龍一は、その指示を出そうとしたところで、背に怖気を覚えて後ろを振り向いていた。


「PUGY……」


 そこに居たのは、肌色のオークでも、緑色のオークでもない、灰色の肌をしたオークだ。


 龍一はそれを見た瞬間、足元から震えが上がってくるのを感じていた。


 意地で支えていたはずの膝が、いつの間にか恐ろしさにガクガクと震え始める。


 先程までは頑張れば何とかなるだろうと思えていたものを一切感じない――。


 それだけの実力差がある相手だというのか、龍一は震える声を抑えるように低く皆に告げる。


「――逃げろ、テメェら。全力だ」

「何言ってんだよ。此処まで来たら、一匹でも二匹でも関係ねーよ。コイツも倒して、学園の連中に自慢してやろう――」


 言葉を続けていた中村の体が一瞬で『く』の字に折れ曲がる。


 風の魔法を身に纏った龍一でさえ反応できるかどうかといった速度で近付いた灰色のオークは、中村を棍棒の一撃で弾き飛ばしていた。


 悲鳴を上げることさえできなかった中村は、地面を激しく転がって、やがて樹の幹にぶつかって止まる。


 その口腔からは血が大量に流れだしており、ひと目で危険な状態であることが分かった。


「中村君!?」

「テメェら! 素材は捨ててもいいから中村を連れて逃げろ! チィ、頼りたくはねぇが……、オタナカのトコまで行けば、アイツが回復魔法を使えるはずだ! 急げ! 早くしろ!」

「わ、分かったけど……、小日向君はどうするのさっ!?」

「……やるしかねぇだろ。誰かが、コイツを引きつけて逃げる時間を稼がなきゃいけねぇ!」


 疲れていた体に鞭を打って、龍一は武器を構える。


 灰色のオークもそれに気がついたようで、闘志を剥き出しのままに龍一との距離を詰めてくる。


(俺は逃げねぇ……! 俺はオタナカとは違う……!)


 龍一の視界の片隅で、中村に肩を貸して逃げ始める三人組の姿が映る。


 ……それでいい。


 あとは、龍一が持ちこたえて、隙を見て逃げ出すだけだ。


 風魔法を習得している龍一は、風を纏わせることによって速度が上昇する副次的な効果がある。


 彼一人であれば、逃げ切ることも容易になることだろう。


「……行くぜ、豚野郎ッ!」


 龍一はそう言い捨て、灰色のオークに向かって駆け出すのであった。

これ、閑話にしても良かったなぁと今更ながらに思います。

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