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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第三章、不良に好き勝手に町を作らせたら、想像以上に自由過ぎる町になっちゃった結果がコレだよ!
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62、協力毒

「どうした、タクト! こんな所に呼び出して!」

「本当、日本語が上手くなったよね、洛ちゃん……」


 本日もスキル習得の朝練を終え、昼まで建築作業を手伝っていた拓斗は自由時間に入るなり、旅館の一室へと洛を連れ込んでいた。


 湖畔の町中でもトップ2に入る二人の会合は見る者がみれば興味を引いたのかもしれないが、生憎と周囲も忙しいらしく、それに注意を払う者はいない。


 拓斗は部屋の片隅に積まれていた座布団を二つ敷くと洛に座るように勧め、自身も腰を下ろす。


 ……どうやら、それなりに長く真面目な話になりそうであった。


「ありがとう! でも、日本語を褒めるために、此処に呼んだの?」

「そうじゃないよ」


 苦笑を零しながら、拓斗はどう言ったものかと思案し、言葉を続ける。


「最近の浩助ってどう思う?」

「ですニャー? ですニャーは色々やってて凄い頑張ってると思うよ!」

「うん、だよね。……それも全部この町の人達を強くしてどうにか生き残らせたいって思ってるからだと思うんだよね。スキルを教えたりして、ステータスを上げているのなんて、まさにそうだし」

「良いことだと思う! ……いけないの?」


 洛の声のトーンが落ちたことで、拓斗は慌てて目の前で両手を振る。


 別にそれを否定するつもりは欠片もない。


「いや、良いことだと思うよ。でも、浩助一人が頑張ってる姿を見て、俺も何か協力できないかなと思ったんだ……」

「協力か! 良いな!」


 破顔一笑。洛は豪快に膝を叩いて笑う。


 とりあえずの同意を得られたことで、拓斗もほっと胸を撫で下ろす。


 だが、安堵している暇もない。ここからが交渉の本番だ。


「それで、俺からの提案なんだけど、一緒に武器屋を開かないかなと思って」

「武器屋?」

「うん、正確に言えば武器防具屋かな? 質の良い装備品を町の皆に安価で提供することによって、飛躍的にステータスが上昇すると思うんだ。そうすれば、浩助が目指しているものに少しは近付くかな、ってね」

「装備で、すてーたすを補うのか! すきるを覚えるよりも早いかもしれないな!」


 装備品によるステータスの上昇値は、粗悪な物では十ぐらいだ。


 だが、一級品なら万単位で能力が上がるものもある。


 素材次第な部分はあるとは思うが、それをある程度安価に町中に提供することによって、人々のステータスを上昇させようというのが拓斗の狙いである。


 それは、浩助の目的の手助けになるものでもあった。


「それに、初級スキルの習得で増えるのは、HPやMPがほとんどみたいだし、攻撃力や防御力が直接上がる装備品の質の向上は急務だと思うんだよね。今までは、装備品を強くしてもそれを扱うだけの体力や力がなくて、装備者が振り回されているような状態だったけど、浩助の改革が進めば、きっと高いステータスに見合った装備品が求められるようになる。俺は洛ちゃんと技術競争して良い物を作っても良かったんだけど……、近い未来を考えた時、二人で競争して作るよりも、二人で協力して作った方が生産体制の面でもアイデアの面でも、きっと上手くいくと思ったんだ」

「それで、協力か! 面白いな! ――となると、これも拓斗に見せないとだな!」


 洛がそう言って袂から出したのは、まだどこか荒いデザインをした作りかけの靴であった。


 それを見た拓斗は首を傾げるが、その靴に触れることで理解する。


 この靴は恐ろしく軽く、そして複雑な素材を必要とし、そして何よりも……。


「これを量産する気なのかい?」

「本当は店を建てたらレア物として販売する予定だった! でも、タクトが手伝ってくれるなら、量産も視野に入れるぞ!」

「……分かった。やろう。特にその靴にはとんでもない価値がある。多分、この町の切り札になると思うよ」

「にししっ! きっとですニャーもビックリするぞ!」


 二人は暗い室内で人知れず笑い合い、がっしりと握手を交わす。


 その結果がもたらすものを、今の彼らが知る由もなかった。


     ●


「うーんと、一応、少しだけだけど上がったみたいだよ?」

「そうッスか! 良かったッス! 後は、ギリギリ中毒にならない量を割り出さないと駄目ッスね」

「でも、本当に大丈夫なのかな?」


 旅館に据え付けられた厨房の中で密やかに会話をしているのは、柳田美優と美丘琴美の二人であった。


 彼女たちは、自分たちで作った料理を持ち寄って仲良く試食会をしているのかと思いきや、その会話の内容は至極物騒極まりない。


 曰く――、


「やっぱり、アクリタの葉は毒性が強いッスから一日三食の中に混ぜるのは危険ッスね。せいぜいが二食だと思うッス」

「でも、効果は一番高かったよね? 一食食べるだけで全ステータスが五も上がるんだよね? 一日二食ってことだと、十上がるってことかな? 三食だと十五……。三食なんとかいけないかな?」

「それは、毒耐性がないと割りとキツイッスよ? 微々たる量のステータスを上げるために体調を崩して、有馬先輩の足を引っ張るようになったら本末転倒ッス……」

「そうだね。有馬君も沙也加ちゃんも頑張ってくれてるんだから、私達も私たちにできる精一杯のことをやらないとね!」

「……まぁ、その結果が食堂の料理に毒を混ぜ込むって言うんスから、なかなか琴美たちも外道なことをやってると思うッス」


 そう、琴美たちは色々な食材の試食を繰り返す内に、一部の毒草にステータスアップの効果があることを知ったのである。


 元々は完全毒耐性を持つ琴美が試食して、その結果を美優が鑑定するといった流れであったのだが、その時に琴美のステータスが上昇していることに気付いたのだ。


 そこからまず思い付いたのが、瞬間的な能力上昇薬の開発である。


 短時間の肉体強化、魔力強化など、汎用性が高そうな薬を生み出そうとしたのだが、どうにも繊細な部分があるせいか、中毒にならない量の見極めというものが難しかった。


 そして、その作業を繰り返している内に、彼女たちはある一定の――、ごく少量の毒を体内に取り入れ、排出することによって、恒久的なステータス上昇が図れることに気付いてしまう。


 これはまさに画期的な発見と言っても良いものであったが、如何せん毒を体内に取り入れるということで聞こえが悪い。


 一度はこの研究を封じようとした彼女たちであったが、浩助が毎日のように先陣を切ってこの町の為に働いているのをみて、決意を改めたようだ。


 どのような形であれ、この町の発展に寄与しよう――。


 そう考えて、食事に混ぜ込む丁度良い毒の量を見極めようと最近は実験を繰り返しているのだ。


「正直、短期間の研究成果ッスから、これを長期的に続けた場合にどんな副作用が起きるのか予想できないのが怖いところッスね」

「うん。でも、いざとなったら状態異常回復の魔法もあるし……」

「とりあえず、食事に混ぜるとなったら有馬先輩に許可を貰って、毒混ぜ込みと無毒の両方を用意しないと駄目だと思うッスよ」

「そうだよね……。いきなり毒の御飯とかになったら、やっぱり皆抵抗あるよね……」

「でも、御飯を食べるだけで、ステータスの全パラメータが五上がると考えたら、それを食べようって物好きも出てくるかもしれないッス。何せ、一週間も食べていれば、全パラメータが一気に七十も上がるわけッスからね」

「効率で言えば、確かにそうなのかもしれないけど、やっぱり難しい部分もあるんじゃないかな……」


 美優はどこか浮かない顔をしている。


 浩助や沙也加の熱に絆されて、勢い余って琴美の研究に乗ってしまった部分はあるのだが、これが果たして良いことだったのかと問われた場合には未だ疑問が残る。


 それでも、この町のために何とかしたいと彼女が思ったのは事実であり、結果はどうあれ、動いたのも事実なのだ。


 それはそれだけ、湖畔の町の人々の間に活気がでてきているということであり、同時に人々が活き活きとしているということに他ならない。


 美優は思い悩んでいる自分自身を律する為に、自身の頬を張る。


 琴美はその光景に驚いたような表情を見せるが、次の瞬間には引き締まった美優の顔を見て、小さく息を吐き出していた。


 ……その様子なら問題ない、とでも言いたげである。


「うん。そうやって悩む人もいるだろうから、私が先頭に立って食べてみたりしないとね。必要なのは多分アピール力なんだよ」

「まぁ、毒を食べ続けることで、毒耐性が付くかもしれないってことも、おまけで言っておけば食べてくれる人もいるんじゃないかと思うッスよ。まずは有馬先輩に相談ッスね」

「うん、そうだね。でも……」


 そこで、キリっとしていた美優の顔がヘニャと崩れる。


「……琴美ちゃん、一緒に行ってくれない?」

「へ? どうしてッスか?」

「有馬君、顔怖いから、一人だと上手く喋れないの……」


 その弱々しい呟きを聞いて、琴美は後輩ながら軽く吹き出してしまっていた。

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