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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第三章、不良に好き勝手に町を作らせたら、想像以上に自由過ぎる町になっちゃった結果がコレだよ!
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60、揚げる拘り

 翌日――。


 浩助は寝ぼけ眼を擦りながら、建設中の異世界武道館の敷地内へと訪れる。


 そこには、既に湖畔の町の面々が集合しており、思い思いに準備体操やらお喋りやらを実施している様子が窺えた。


 そんな光景を半分しか開かない目で確認しながら、浩助はふらふらと皆の前に進み出る。


 その後ろ姿を視線で追う沙也加の表情は「大丈夫かしら」と露骨に語っており、思わず気になった拓斗が声を掛けていた。


「浩助、凄く眠そうだけど、何かあったの?」


 昨晩の拓斗は、慶次と空中移動に耐えられる調理器具の打ち合わせを行っており、浩助たちとは一緒の部屋ではなかったのだ。


 思わず気になって尋ねてしまう。


「うーん、ちょっとね……」

「もしかして、娼館に行こうとして、水原さんに鉄拳制裁を食らったとか?」

「ちょっと? 鈴木君の中の私のイメージについて詳しい話を聞きたいんだけど?」


 背筋も凍るような満面の笑みに、拓斗は意地の悪そうな笑みで返す。


「え? いいの?」

「……え?」

「俺の目の前での水原さんの行動って、浩助を痛めつけているイメージしか無いんだけど?」

「…………。……うん。公表しないでくれると嬉しいかな?」


 頬に一筋の汗を垂らしながら、沙也加は瞬時に態度を改める。


 臨機応変――、それが水原沙也加のモットーであった。


 ちなみに、拓斗のモットーは『長いものには巻かれろ』――。


 沙也加のお願いにあっさりと首を縦に振る。


「別に構わないよ。……それで、何があったの?」


 その問いの答えに、沙也加は視線を以って返す。


 沙也加の視線の先には、どこか眠そうな表情をした小さな女の子――アンの姿があった。


 それだけで、何となく拓斗は察してしまう。


「昨日、アンちゃんがスキルの修行に出たっきり、ずっと帰ってこなくてね」

「あー、浩助のことだから、ずっと待ってたのかな?」

「そうなのよ。しかも、深夜に帰ってくるから、お腹空かせてるかもしれないとか言い出してねぇ」

「……アンちゃんのお母さんか何かだね。もう」

「それで、延々と夜中にフライドチキンを揚げ続けていたのよ」

「……ゴメン。何て?」


 耳は悪くないはずだが、聞き違えたかとばかりに拓斗はもう一度聞き返す。


「だから、フライドチキンを揚げていたのよ」

「うん。聞き違いじゃなかったね。……一つ言っていい?」

「何かしら?」

「馬鹿でしょ」

「それは有馬(バカ)に言って。……いや、言ったのよ?」


 少し涙ぐんでしまう沙也加を見て、拓斗は察する。


 浩助ならきっと、「アンなら一二〇ピースぐらいペロリと食べるに違いない! 俺は寝る間も惜しんで鶏肉を揚げるぞぉぉぉぉ!」とか言い出すに違いない。


 そして、それを止める術が沙也加にはなかったようである。


 全体的に疲れた顔を見せて、「言ったのよ……」と肩を落とす。


 拓斗としては、もう、ご愁傷様としか言いようがない状況だ。


「でも、何でフライドチキンなんだろう?」

「汐ちゃんが好きだったらしいわ」

「浩助らしいというか、何というか……」


 欠伸を噛み殺す浩助を見ながら、「ちなみにアンちゃんは食べたの?」その辺はどうなんだろうとばかりに、拓斗は尋ねる。


「明け方に帰ってきてね。十二ピースをペロリだったわ。残りは後で食べるみたい」

「そりゃあ、浩助も浮かばれるな」

「死んでないけどね」


 沙也加は嘆息を吐き出す。


 彼女も睡眠時間は少ないはずなのだが、刀モードを通すと状態がリセットされるという特性がある。


 それでも、疲れた顔をみせるのは、精神的なものにやられているからだろう。


 ぐったりしている沙也加を前にして、浩助は同じく覇気のない声で本日のメニューを伝える。


「よーし、今日のメニューは精神修養すっぞー、おらー。皆並べー」


 どうやら、スキル習得訓練の記念すべき初日のメニューは手抜きから始まるようであった。


     ●


「何故かは分からんが、精神修養の修行をしていたら頭がスッキリして、瞼も重くなくなったぞ。いやぁ、何故だろうな~。何故だか分からんなぁ~」

「船を漕ぐのが精神修養だっていうのなら、それはもうとても立派な精神修養だったわよ?」

「はっはっはっ、水原はどうも朝から寝ぼけているようだ」

「寝ぼけているのはアンタでしょ!?」


 水原に叱られながらも、浩助は本日の建築優先権獲得者の発表を行う。


 本日のスケジュールは、異世界武道館が引き続きに、新たに優先権を獲得する者二名の建物を造り、時間が余っていたらもう一軒建ててみようという感じである。


 基本的に灯りに乏しいので、作業は余裕をもって終わらせ、夜間作業にならないよう留意する必要があった。


「えーっと、それじゃあ、本日一軒目だが……。えーっと、あれ? 真砂子センセー?」

「何かしら?」


 スキル修練が終わった後でも、地味に精神修養を続けていた真砂子が顔を上げる。


 彼女は何か質問があって声を掛けられたのだろうと思って顔を上げたようだが、そうではない。


「あぁ、違ぇ。次の選択権が真砂子センセーだってこと」

「え? 私?」


 全員の注目が一斉に集まり、真砂子は戸惑ったように目を瞬かせる。


 彼女は教師という立場ながら、生徒に頼み事をするのに抵抗があるのか、若干渋い顔を見せていたが、やがて諦念の表情を浮かべる。


「じゃあ、立派な建物じゃなくて良いので、冒険者ギルドを建ててもらえないかしら」


 真砂子の答えは、彼女にしてみれば当然の帰結ではあったのだろうが、それを聞いた周囲の反応は様々だ。


 驚いたような、感心したようなそんな反応である。


 その反応具合に、真砂子は今度こそ本当に戸惑った表情を浮かべていた。


「え? 何? 私、何か変なこと言っちゃったかしら?」

「いや、どっちかってぇと本当に造るんだ~って気持ちが強ぇんじゃねーの?」


 浩助の言葉に大勢の生徒たちが頷く。


「何ていうか、元生徒会長が始めた時は、ごっこ遊びの延長みたいな感じだったしなぁ……」

「学園の冒険者ギルドも、名前ばかりで教室だったしねぇ」

「ラノベじゃあ、良くあるけど、実際にこう本当に造るんだとなると、なぁ?」

「何か、スゲーって思うっていうか……」


 どうやら、生徒たちの中でも冒険者ギルドの建物が実際に作られるというのは、現実感に乏しいものであったらしい。


 とりあえず、そっち方面に詳しい有識者が集まって、簡単な建物の構造を決めていく。


 真砂子に決めさせたら、それこそ冒険者ギルドというよりも宝くじ売り場のような小ぢんまりとしたものができかねない。


「やっぱ、ベテラン冒険者がひよっこに絡む為の待合スペースみたいなのが必要だろ?」

「それは、一階だよな? 酒場とかはどうするんだ? 併設しちゃうか?」

「手が足りないんじゃね? あと、二階にはギルドマスターの部屋な!」

「それって、真砂子先生の部屋ってこと?」

「何か、あまり威厳ないなぁ……。あ。二階には要人からの依頼を受けるために、個室を何部屋か用意しようぜ」

「要人って……誰?」

「この場合、有馬じゃね?」

「有馬に安全のための個室とか要らないと思うんだけど……」

「いや、守秘義務的な話だから!?」


 数人が盛り上がりながら、こうあるべきという冒険者ギルドの構造を練っていく。


 その数人の中に、何故か沙也加が混ざっているのは謎であったが、浩助は特にツッコミもせずに影分身を作り出して、異世界武道館の建築を続行し始める。


 議論が収束したのは、それから二十分後のことであった。


 結局、構造自体はオーソドックスな造りに落ち着いたようだ。


 一階には受付と待合スペースが広く取られ、魔物の素材などを格納する倉庫や訓練場のスペースなども造る予定だ。


 土地の有効活用に五月蝿い北山が「場所を取り過ぎる」と苦言を呈したようだが、そこはオーソドックスな冒険者ギルドとしては譲れないラインらしく、有識者の熱弁を前に、最後には北山も引き下がるしかなかったようだ。


 そして、二階にはお約束のギルドマスターの部屋に、要人との相談用に使われる予定の個室が用意され、一応住み込みで何人かは働ける造りに落ち着いたようだ。


「旅館ばりに立派な建物だな、おい?」

「冒険者ギルドってのは、街の顔みたいなものだからね? それぐらい立派じゃないといけないのよ」


 何やら興奮冷めやらぬ様子で語る沙也加を前にして、浩助も「お、おう」としか言い返すことができない。


 どうやら、妙なこだわりがありそうだし、触らぬ神に祟りなしである。


 妙にやる気をみせる沙也加たちと協力して建築すること四時間――。


 その立派な建物が完成し、人々は満足感に浸る。


 やり遂げた、完璧な仕事だ、見事な拘りだ――。


 賛辞は色々とあっただろうが、真砂子はこの言葉を一言、皆に捧げる。


「うん。私、立派な建物じゃなくて良いって言ったよね?」


 彼女の顔が何処か引き攣っているように見えたのは気のせいではないだろう。

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