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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第三章、不良に好き勝手に町を作らせたら、想像以上に自由過ぎる町になっちゃった結果がコレだよ!
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57、娼館単位

「完っ、成っ、だッ! 皆おめでとう! そして、頑張った俺に、アンよ、褒めてくれ!」

「……嫌」


 きっぱりはっきりと拒否され、浩助は落成式も終わっていない娼館の前で人生が終わったかのような表情を見せていた。


 これから商売繁盛を目指そうという建物に向かって、その不景気な表情の投影は先行きを暗示させるようで、実に不吉に思えることこの上ない。


 まさに、営業妨害甚だしい。


 ……まぁ、まだ営業はしていないのだが。


「有馬様、完成した建物の前でそんな顔をされては――」

   「有馬様、完成した建物の前でそんな態度を示されては――」

      「魔族的には大成功と言わざるを得ない」

         「アンちゃんは夢魔の資質があると言わざるを得ない」」

            「「でゅわ~」」

「俺の気持ちをズタボロにするのが魔族だって言うのなら、アンは超一流の魔族やでぇ……」


 ガックリと打ちひしがれたポーズから、五体投地にまで至った浩助はゆっくりと起き出す。


 とにかく、娼館の建設は終わった。


 リリィとベティだけが住むには大き過ぎるであろう、木造の二階建ての建物の一階には、広い受付と二人の私室があり、二階には商売に使用するであろう個室が複数用意されている。


 リリィの要求を飲む形で作成された間取りではあるが、正直、浩助にはどのような目論見があって、そのような構造にしたのかはさっぱり分からない。


 ただ仕事上、そうして欲しいと言われたのでそうしただけだ。


 興味という名の鎌首がもたげてきたので、浩助はリリィとベティに視線を向ける。


 相変わらずの布地面積が少ない衣装は建築で疲れた男子生徒の視線を釘付けにし、今夜のお楽しみへと妄想を膨らませる要因になっていることだろう。


 そもそもそんな思いが彼女たちの栄養源にもなっているようで、顔色が少しだけ良くなっているのだから、律するのもお門違いなのだろう、と浩助は思うことにした。


「なぁ、淫乱姉妹、ちょっといいか?」

「私達は淫乱ではありません」

   「むしろ姉妹でもありません」

      「夢魔は人の夢にて精を絞りとる魔族」

         「よく間違われるけど、私達は従姉妹」

            「直接の肉体関係はないので私達はとても純潔」

               「姉妹ではないけど純潔姉妹という渾名なら許容します」

                  「「でゅわ~」」

「あー、もういい。この建物の利用方法を聞いてみようと思ったんだが、面倒臭いからもういい。……って、水原、なんだそのつめてー視線は?」


 刺すような視線を向けられ、浩助は背に嫌な汗が流れるのを覚える。


 沙也加から呆れられるのは毎度のことだが、ここまでキツイ視線は久し振りだ。


 浩助でさえも思わず狼狽えてしまうところであった。


「いや、別にぃ? アンタがどれだけ溜まってるのかは知らないけどぉ? 十五メートル規定に付き合わされる身にもなって欲しいなぁって? 耳栓でも用意しておいた方が快適なのかしらねぇ~?」

「何で、俺が利用するの前提になってんだよ!?」

「そうですよ、サヤーカ! アリーマは私とランデブーするのです! 淫乱姉妹になど渡すわけがないでしょう!」

「ははは、そうそう! 俺には変態吸血鬼がいるからな~! 娼館なんかよりもよっぽど濃ゆい変態プレイが楽しめる――って、何でだよ! ホント、っざけんなよ、この雌豚ッ!?」

「ぶ、ぶひぃぃぃっ! 私は雌豚でございます! ですから、もっと罵って下さいぃぃぃっ!」


 嬌声を上げる変態吸血鬼を遠目で見ながら、アスタロテは自ら淹れた紅茶を優雅に啜る。


「……うん。アタックをけしかけた身としては、複雑ね」


 まぁ、これはこれで見世物としては面白いかとアスタロテは放置することにする。


 何だかんだ言って彼女もやはり悪魔なのである。


「ちなみに、娼館は一時間三十ゴルモア」

   「オプションを付けることで、貴方のお好みのシチュエーションで淫夢がみられます」

      「オプション料金は別料金となりますので」

         「娼館においでの際は沢山のお金を持ってきて下さいね」

            「「でゅわ~」」

「三十ってぇと、オーク五体分か? 割りとボるな……。――ってか、ゴルモア?」


 初めて聞く単位に、浩助は首を捻る。


 そういえば、ステータス画面のお金の単位表示にもGという記載表示があった。


 もしかしたら、ゴルモアという単位の頭文字をとってのGなのかもしれない。


「魔族の間の通貨はゴルモアって名前なのか?」

「いえ、そうではございませんわ」


 その質問に答えたのは優雅に紅茶を啜るアスタロテだ。


 彼女は何故か木材で組み立てられた立派な椅子に座っており、その傍らにはカウンターテーブルと紅茶セットが用意されている。


 テーブルの上には深めの皿に山盛りで盛られたクッキーが置かれており、アンが紅茶も嗜まずにひょいひょいと口に運んでいる。


 それでも、クッキーの総量が減ることは一切ない。


 どういう原理の食べ物なのか、少し気になったので浩助はねこしぇに鑑定してもらう。


【道具】無尽蔵のクッキー皿【上級道具】

 説明:所有者のMPを消費することで、クッキーを生み出すことができる道具。クッキー以外も生み出すことができるが、その場合は余計にMPを消費することになる。


(なんつーか、無駄に便利な皿だな、オイ……)


 魔法力さえあれば、国一つを飢饉から救えそうな皿ではある。


 量産できたりしたら便利だなーと思いつつ、浩助はアスタロテの椅子や机に視線をやる。


 それにアスタロテも気付いたようで、紅茶を飲む手を止めつつ嫋やかに微笑んでみせていた。


「余った木材で作ったのか?」

(わたくし)は良いと言ったんですが、どうしても捧げたいと仰って下さる方がいまして……」

「貢物って奴か。アンタも大概魔性の女だな」

「褒め言葉――、として受け取っておきます」


 アスタロテはクスリと微笑む。


 その挙動のひとつひとつが緻密に計算され尽くした動きなのではないかと思ってしまう程に、アスタロテの所作は美しい。


 貢物のひとつも贈りたくなってしまうのも無理からぬことだろう、と浩助も思ってしまう。


 それだけ、彼女は洗練されていた。


「んで? ゴルモアが魔界の金の単位じゃねーってのはどういうことだ?」

「魔界では金銭の取引にはリルクという通貨単位を用いますわ。ですが、この世界では新たな通貨が流通していますでしょう? 二つも通貨があると混乱を引き起こす元だとして、魔王様が新たな通貨の方をゴルモアと呼ぶように公布なされましたの」

「ちなみに、魔界では国内ではリルクを用い、国外ではゴルモアを用いて交渉事を進めるよう奨励されている。だから、リリィとベティもゴルモアという言葉をわざわざ使ったのだろう」


 傍らに居たウエンディが補足してくれる。


 なるほど、と納得しかけた浩助だが、いや待てよと思い直す。


「――ってか、お前らの所には金――リルクが残っていたのか? 俺達のところの金は全部このゴルモアとかいう金に変わっちまったんだが?」

「召喚の際の機微については、私には分かりかねますわ」

「それもそうか。……ねこしぇ、何か分かるか?」


 とりあえず、困った時はねこしぇ大先生だ。


 基本的に分からないということがない。


《恐らくは、異世界召喚の際に八界様が仕掛けた妨害によって、召喚条件が変わってしまったため人間界の通貨が全てこちらの通貨に適用されたのかもしれませんニャー》

(それも予想ってやつだろ? ハッキリとは言えねーって奴だよな?)

《申し訳ないですニャが、その通りですニャー》


 なんと。


 ねこしぇ大先生でも分からないということはあるらしい。


 多少の驚きを覚えながらも、浩助は肩を竦める。


「どうやら、こっちも詳しくは分からねぇようだ」

「そうですの……」


 眉を潜め、秀麗な顔に残念そうな表情を浮かべるアスタロテ。


 だが、浩助は別の思いを抱き、アスタロテ同様に沈む。


 ――それはまだ、ひとつの可能性というものであるので、浩助はあえて口にすることはなかった。


「まぁ、そんな深くしょげることでもねーやな。それよりもテメェら! まだ元気はあるか!?」


 浩助が喝を入れると、その場でぐったりと休んでいた生徒たちがゾンビのように立ち上がる。


 何だかんだで一時間以上の建築業務や運搬業務を経て、彼らのスキルはレベル1に上がっていた。


 レベルが上がることにより、パラメータボーナスとしてHPも百二十程度は上昇する。


 それは、彼らに倦怠感を覚えさせてはいたものの、体力の向上を自覚させ、自信を付けさせることに成功する。


 疲労感はあるものの、確実な成果を上げる作業に彼らの目はいつしかギラついていたのである。

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