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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第三章、不良に好き勝手に町を作らせたら、想像以上に自由過ぎる町になっちゃった結果がコレだよ!
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56、娼館の汚水

 さて、浩助が呼んだ影分身たちが勝手に異世界武道館(浩助命名)を作っている間、彼は二番目に建築優先権を得られる人間が誰かを確認しようとしていた。


 勿論、影分身が総動員されている現在、回せる労働力はないのだが、簡単に作れるような建物であるのなら、浩助自身が作ってしまおうという思いがあったからである。


 だが、その行動に待ったを掛けるものがいる。


「なぁ、浩助、ちょっといいか?」


 右手を上げながら、おずおずと立ち上がった拓斗は、強くなってきた日差しに額の汗を拭いつつ、強い眼差しを向けていた。


 この幼馴染は何だかんだ言って、大事なことを話したい時は目に力を込めて喋るということを、浩助は良く知っている。


 それを茶化すことなく、浩助が聞く体勢を作り上げたのは、拓斗のこれまでの行いというものであろう。


 それとも、二人の絆とでもいうべきものか。


 何にせよ、浩助は拓斗の言葉を待つ。


「浩助は俺達に強くなって欲しいんだろ? それなのに、全部自分でやろうとしちゃあ駄目だ。もっと人を使って、人を育てないと」


 んなことを言われても――、と返そうとして浩助は思いとどまる。


 それは、誰がどう聞いた所で仲間を軽んじる言葉だ。


 ……実力が突出しているが故の傲慢に陥っていたか。


 浩助は自分の態度を省みて、パンっと景気よく自分の頬を叩く。


 自分は普通なのだ、特別などではないのだ、――それを自らに言い聞かせて意識を切り替える。


「――だな。……うっし、それじゃあ、俺も協力するから皆で作っていこうじゃねぇか! そっちの方がスキルも覚えられるし、一石二鳥って奴だ! まぁ、分かんない所があっても、俺がカバーするから、皆でやってみようぜ!」


 白い歯を光らせつつ、爽やかな笑顔で言う浩助。


 浩助としては、一人でも多くの人に参加してもらうために、目一杯愛想を振り撒いたつもりだが、見ている者には逆に不信感を覚えさせたようだ。


 ひそひそと、何を企んでいるのかだの、気味が悪いだの、といった凡そプラスイメージとは真逆の感想が漏れ聞こえてくる。


 そんな意見を聞いた浩助は、体操のお兄さんばりに明るい笑顔を見せて頷くと――。


「よし、分かった! お前ら昼飯抜きな!」

『精一杯協力させて貰いますッ!』


 理不尽には理不尽を以って対抗する――。


 それが、どうやら浩助流ということらしかった。


     ●


「さて、三軒目の建物だが――」


 あみだくじを遡って辿り着いた名前を見て、浩助は言葉に詰まる。


「誰だよ、この名前書いたの……」


 蚯蚓がのたくったような、象形文字のような何かが記載されている。


 正直、浩助には読めそうにもない。


 試しに沙也加にも見せてみるが、判別不能とばかりにへの字に口を引き結ぶばかりだ。


《それは、リリィと書いてありますですニャー》


 やはり、困った時はねこしぇ大先生か。


 どうやら、魔族の公用語で記載されていたらしい名前を判別し、浩助はリリィに視線を向ける。


 サキュバスである彼女は、何処か影のある美しさを湛えており――。


(……っていうか、弱ってね?)


 元々、サキュバスは夜半に行動するのが主だ。


 それが、朝のまだ涼しい時間帯だとはいえ、日光の下に晒され続けられているのだから、弱っていて当然だろう。


 そもそも、彼女たちは既に空腹というバッドコンディションを抱えているため、それも弱体化に拍車を掛けている状況だ。


 そんな彼女たちに救いの手を差し伸べるかのように、浩助はゆっくりと当選者の名前を告げる。


「サキュバスのリリィ。三軒目の建築希望の建物を教えてくれ」


 浩助がそうリリィに告げると、複数人の男子生徒が女子生徒に分からないように、ひっそりとガッツポーズを行う。


 最早、何ができるかは周知の事実なのだろう。


 リリィも迷うことなく、それを口にする。


「では、娼館をお願い致します」

  「皆様が頑張って昼間に娼館を造ってくれることで」

     「私達も夜中に頑張って働くことができますので」

        「どうぞ、娼館の建築を――」

           「どうぞ、娼館に通うことを――」

              「「よろしくお願い致します。でゅわ~」」

「……相変わらず鬱陶しい奴らだが、目的は一貫してやがるんだよな。よし、んじゃ、テメェら、娼館造んぞ! まずは、木の伐採からだ! 拓斗、斧を用意してくれ!」

「いや、いきなり言われてもないからね? ……とりあえず、作成(クリエイト)系の魔法を使える人は自分で作ってくれないかな? 一応、ある分の斧は用意するつもりだけど……」


 そう告げながら、拓斗は旅館の中にまで戻っていく。


 どうやら、持ち込んだ荷物の中には作成済みの武器も幾つかあるようだ。


 拓斗はそれを取りに行ったのだろう。


 そして、浩助は伐採の指示を出すと共に、伐採した木の加工作業を行うチームも選抜する。


「木を切り出したんなら、木の加工だ。乾燥させるのはウンディーネに任せるとして、枝を落としたり、均一な長さや太さにしたりは魔法が使える奴がメインで動いてくれ。作成系の魔法なら木の加工も簡単にできるだろうしな。まぁ、この辺の作業は俺も協力する。……後は組み立てだな。そっちは力仕事が得意そうな奴が入ってくれ。北山センセーはどの程度の広さの土地に建てたら良いか教えてくれねーか? それに合わせて、材木を用意していっからよ」

「分かった。きっちりと測れないのが癪だが、その場にあるものを使ってきちんとした計測方法を確立するのも面白そうだ。期待していてくれ」

「…………。まぁ、何でも良いけど、早めに頼むぜ?」


 浩助が掛けた言葉は届いたのか、どうなのか。


 北山は後ろ手に手を振ると測量のために歩き出す。


 それを見送りながら、浩助も昨日同様にウンディーネたちを呼び出していた。


 湖面をバシャバシャと叩くと、昨日見たウンディーネと何処かで見た御立派なウンディーネが姿を現す。


「おはよう御座います。有馬様」

「ウンディーネの女王? 確か、ティアとか言ったか? 何で女王が自ら現れる?」


 浩助としては下っ端のウンディーネを呼んだつもりであった。


 それが、いきなりトップが現れるのでは、寝耳に水である。


 正直、責められてもいないのに、思わず反省してしまうほどだ。


「昨日、里の者がお世話になりましたので、その御礼を。――それと、ひとつ提案をしに来ました」

「礼を言うのはこっちの方の気もするが……。とりあえず、その提案っていう奴を聞こうか」

「はい」


 ティアは水辺から上半身だけを浮き上がらせると、とても素敵な提案を行うのだとばかりに和やかな笑顔を浮かべる。


「有馬様の都市に私達も棲めるように、是非、水路と水辺に近い棲家を作って頂けたらと思いまして、提案しにあがりました」

「……こっちの家屋は木造が多いんでな。木が(たわ)んで建物が歪むからあんまりやりたくないんだが……。それを覆すだけのメリットが提示できるのか?」

「――汚水を流しても良いですよ」

「……はあ?」


 あまりといえば、あまりの申し出に浩助は思わず聞き返してしまう。


 ウンディーネといえば、水の精霊というだけあって、水を穢されるのを嫌うイメージがあったのだが、この水の精霊の女王様は事もあろうに、汚水を流されても問題ないという立ち位置を打ち出してきた。


 それだけ、浩助たちの町に魅力を感じているのか、他種族との繋がりを強化しようとしてういるのかは分からないが、人間側としては大分オイシイ話ではある。


 何せ、労せずして下水道が完備されるようなものだ。


 汚水の処理をどうしようか、などと悩む必要もなくなる。


 要件としては、二つ返事で引き受けても問題ないように思える。


「私達が居れば、汚水も完全に分解されて綺麗な水になりますので、毒素さえ混ぜられなければ、汚水を水路に流して貰って構いません」

「……毒素は駄目なのか?」


 浩助の視線がちらりと琴美に向く。


 確か、彼女は毒のスペシャリストだったはずだ。


 間違いが起こった場合に起こる惨事を想像して、浩助は一応の確認をティアに取る。


「私たちには大して効きませんけど、お魚が死んじゃって生態系も崩れちゃうので、なるべくならやめて頂きたいな、と」

「魚が死んだら、こっちも食料的な意味で困る。やらねーようにするよ」

「でしたら、どうでしょう? 飲んで頂けませんか?」


 引き受けて貰えるのか、ティアは期待を込めた目で浩助を見つめる。


 その視線の真っ直ぐさと、女性恐怖症の気が出てきた浩助は若干引き気味に後退る。


「分かった! 分かったから! だけど、くじをやってないから一番最後だからな!」

「作って頂けるだけでも、嬉しいので多くは望みませんよ」


 柔和な笑顔で応える。これが大人の余裕というものか。


 浩助は照れ臭そうに鼻の下を指で擦って、何とか苦手意識を誤魔化すのであった。

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