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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第三章、不良に好き勝手に町を作らせたら、想像以上に自由過ぎる町になっちゃった結果がコレだよ!
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47、もう一人残ってんぞ

「それじゃあ、次はそちらの従姉妹共だが……、どちらから先に自己紹介するんだ?」

「「私たちは、二人同時に自己紹介させて頂きます」」


 一言一句ズレることなくハモる様子は、まさに職人芸のようだ。


 少女二人は左右対称の動きでゆったりと礼をすると、やはり寸分違わぬ動作で頭を上げていた。


 アイコンタクトも何もない。


 ある意味、職人芸も真っ青な不可思議な行動である。


「私はサキュバスのベティ――」

「私はサキュバスのリリィ――」

「「――どうぞお見知り置きを」」

「サキュバス……?」


 どこかで聞いたことがある単語に浩助は眉根を寄せ、沙也加は頬を染める。


 どう説明したら良いものか。


 沙也加が説明に難儀している間にもサキュバスの従姉妹は二人で歌うようにして言葉を紡ぎ出す。


「――私達はサキュバス」

    「――殿方の精気を放ち、沈める淫魔」

        「若く抑えられぬ悶々とした気分をお抱えの方々」

            「快楽の夢の中で、私達とえっちぃことをして色々放出しましょう」

                「「でゅ~わ~♪」」

「何だ、この鬱陶しい二人組は……。ちゃんと喋れよ……」

 

 半眼で睨む浩助だが、ベティとリリィのコンビは顔色ひとつ変えることなく強い視線を返す。


 美少女二人の注目を集めるのは悪くない気分だが、それがガン見ともなると話が違ってくるだろう。


 どこか落ち着かない気分になりながら、浩助は苦し紛れのように声を上げていた。


「な、何だよ……?」

「アリマ様は溜まっていらっしゃいますね」

   「だから、カリカリしていらっしゃいますね」

       「今なら初回記念で二人同時にお相手致します」

           「アリマ様もスッキリ」

               「私達もツヤツヤ」

                   「「でゅ~わ~♪」」

「そのでゅ~わ~言うのをヤメロ! 面倒臭ぇな、コイツら!?」


 怒鳴る浩助だが、二人の淫魔は全く動じていないようだ。


 浩助の反応が鈍いと見るや、今度は休憩している男子生徒に向かって歌うように言葉を紡ぐ。


「私達は皆様の精気を吸わないと生きられない身」

   「若い皆様の活きの良い精気を吸わせてもらうため」

       「私達はこの町造りに参加することを決めました」

           「ムラムラしたら犯罪に走る前に」

               「私達の元に着て下さい」

                   「愉しい夢を見て発散しましょう」

                       「「でゅ~わ~♪」」

「…………。言い方は惚けてやがるが、割とまともな自己紹介になってんのがムカつくな」


 要するに、彼女たちは精気を吸収しなければ生きていられない存在なのだろう。


 それ故に、精気を持て余す若くて活きの良い男が沢山居る此処までやってきたのだ。


 それは、若さを持て余す男子生徒にとっても救いの手であることは間違いない。


 何せ、学園では居住スペースが狭すぎて、『自家発電』もまともにできない状態である。


 女子生徒も多くいる中で、心の奥底に色々と溜め込みながらの生活はいつ爆発してもおかしくないようなものであった。


 そこに期せずして救いの手が差し伸べられたのだ。


 淫魔二人を見る男子生徒の視線がどことなくほっこりしていたのは、気のせいではないだろう。


「うむ、彼女たちが精気不足でお腹を空かせているという話は聞いていたからな。彼女たちも助かり、アリーマたちも助かる道を探した結果、こうなった次第だ。ちなみに町作りの際には、彼女たちが経営する娼館を作るつもりだ」

「えぇっと、そういうのはちょっと……」


 異を唱えたのは、伊角真砂子だ。


 教育者という立場上、娼館の設立にはさすがに反対せざるを得ないのだろう。


 男子生徒たちから白い目線で見られることは分かっているのだが、そこは大人として凛とした対応をみせなければならない。


「彼らはまだ学生なんですよ? それが、いきなり娼館通いなんて話になったりしたら、世間的にも問題ありますし、家族の方々も悲しまれます。そこを考えて物事を仰って下さい」


 真砂子の意見は最もだ。


 最もなのだが、男子生徒にも退っ引きならない事情がある。


 彼らの熱のこもった視線がキルメヒアを捉え、キルメヒアも任せ給えとばかりに鼻息を荒くする。


「ならば、貴女はお腹を空かせた夢魔二人に、このまま餓死しろと仰られるのか?」

「え? いえ、私はそんなことは一言も……」

「言っているも同じなのだよ、ティーチャーマサーコ」


 責めるように、詰るようにキルメヒアは続ける。


「自分が彼女たちを此処に呼んだのは、彼女たちを飢えから救うためだ。娼館といえば、確かに聞こえは悪いかもしれない。だが、彼らは決して愉しむために娼館を訪れるのではない。あくまで、夢魔助(ひとだす)けのために通うのだ。そこにやましい気持ちなどあろうはずもないだろう」

「い、いや、でもそれとこれとは……」

「それとも、キミが教えてきた生徒たちは、困った人が居たら見捨てるような薄情な生徒なのかね?」

「そ、そんなことありません!」

「なら、何の問題もないだろう? 彼らは夢魔助(ひとだす)けをするだけなのだから」


 教鞭をとる者も、悪魔の詭弁には勝てないか。


 熱っぽい視線でキルメヒアを見る男子生徒に向けて、キルメヒアが親指を立ててみせるとそこかしこからざわめきが沸き起こっていた。


「ヤッベー、キルメヒアさんカッケー……」

「俺ら、男子生徒の救世主だわ……」

「そう、人助けだよ、人助け! だから、全然問題ないって真砂子先生!」

「うぅ、うぅぅぅ~~~~~……!」


 なおも食い下がろうとする真砂子ではあったが、真剣な目で見つめてくる夢魔二人に気付き、続く言葉を失ってしまう。


 ここで娼館は作らせませんと言うのは簡単だ。


 その意見が通るかどうかはともかくとして、言うのは確かに簡単なのだ。


 だが、それは同時に、ここまでわざわざ出向いてくれた夢魔二人を見捨てるのも同然だ。


 人に物事を教える者が、そんな残忍な真似をしたら、教えを請う者たちはどう思うだろうか。


 信用は失くなり、蔑まれ、軽んじられることは自明の理――。


 そして、そうなってしまったら、そんな人間の言葉に一体誰が耳を貸すというのか。


 彼女は人に教えるのが好きで教師になったのだ。


 それが、無視されてしまうと考えた時、真砂子はそれ以上何も言うことが出来なかった。


 ただひとつ大きく嘆息を吐き出すと、「個人の判断に委ねます……」と自分の意見を取り下げたのである。


 これで、娼館の設立に一歩前進というわけだ。


「ふむ、これでウインウインの関係ということだな! 一件落着めでたしめでたし! では、アリーマ。自分たちもこの後しっぽりと夜の街に消えようじゃないか!」

「……街なんてねぇし、テメェの存在ごと消えてみるか? あぁん?」

「ハッハッハ! 冗談だよ! 冗談! さて、これで全員の紹介が終わったな!」

「いや、もう一人残ってんぞ」


 浩助の視線の先にはボロい外套を頭から被った背の低い人影が居た。


 だが、その人影を見ても、キルメヒアは首を傾げるばかりである。


「いや、自分が呼んだのは今紹介した四人だけだぞ?」

「あら? てっきり、この子もキルメヒアが誘ったものだとばかり思っていましたわ」


 アスタロテに事情を聞いてみると、どうやらこの背の低いボロを纏った者はキルメヒアの邸宅の前で膝を抱えて蹲っていたらしい。


 丁度、キルメヒアが邸宅前を待ち合わせ場所にしていたのと、ボロの事情を聞いてみたところ、どうやらキルメヒアに用事があるとのことだったので、同行者と早合点してしまったようだ。


 アスタロテが申し訳ないと頭を下げるのを押し留め、キルメヒアは謎のボロに視線を向けていた。


「自分に用事ということだが一体何用かな? それに、そのままの姿では顔が見えない。せめて、外套を脱いではくれないだろうか?」


 キルメヒアの言葉に反応するように、ボロはゆっくりと外套を脱ぐ。


 それは、まるで敵意はないというアピールのように見えて、浩助は逆に警戒するのだが……。


「…………」


 外套の下に隠されていたのは、まだ幼い少女の姿であった。


 目立つ白銀色の髪に真っ赤な瞳、そして青白い皮膚は悪魔らしい凄絶さを醸し出しているものの、悪魔特有の魔性の美しさにより、見事に二律背反を生み出している。


 少女はペコリと一度頭を下げるものの、一言も語らずにそこに居るだけであった。


 周囲が、少女が何者か、何を説明するのか、と好奇の視線を向けている最中、一人だけ驚愕に目を見開く者がいる。


 その者は、喉の渇きを潤すかのように必死で唾を嚥下してから、その名前を呼ぶ。


(しお)……?」


 驚きに声を上擦らせながら、浩助は最愛の妹の名を呼んでいた。

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