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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第三章、不良に好き勝手に町を作らせたら、想像以上に自由過ぎる町になっちゃった結果がコレだよ!
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46、これから存分に楽しめばいーだろ

「どうも初めまして、人間の皆様方――。私、悪魔のアスタロテと申しますわ。キルメヒアの友人で、魔界では貴族をしていますの。どうぞ、宜しくお願い致しますわ」


 そう言って優雅に礼をする姿に思わず見惚れてしまったのか、歓迎の拍手は一拍遅れてからその場に響いていた。


 その拍手に応えるようにして、アスタロテは優雅に微笑む。


 その魔性の美貌は非常に美しかったのだが、相手が悪魔ということが分かっているので、諸手を上げて歓迎している者は少ないようであった。


 おっかなびっくりといった感じが強いか。


「魔界の貴族というと、具体的には何をして過ごしているんですか? お茶を飲みながら読書とかですか?」


 ふと疑問に思ったのか、美優(みう)がそんなことを尋ねる。


 すると、アスタロテは口元を手で隠すと可笑しそうに笑う。


「ふふふ……。あぁ、ごめんなさい。少々、貴族という認識に誤解があったものですから、それが可笑しくて」

「誤解、ですか?」


 まだ分かっていないのか、美優は首を傾げる。


 そんな彼女に助け舟を出すように、簀巻のままのキルメヒアが口を開く。


「魔界では強さが全ての基準になるのだよ、ミウ。そんな世界で、他者の上に立つということがどういうことか分かるかね」

「えーっと、とても強いということですか?」

「そうじゃない。ずっと戦いに明け暮れているということさ」

「え……?」


 思いがけない言葉に美優は言葉に詰まる。


 彼女の頭の中では、貴族社会というものはもっと優雅で華やいでいたのだろう。


 それが、認識の違い――誤解となり、戸惑いを隠せない。


「考えてもみるといい。力こそが至上主義な世界で自分の力を認めさせようと思ったら、喧嘩とか戦争が絶えるわけがない。当然、他者の上に立つ者は、それらを止める義務や責務があるから、優雅に御茶や読書を楽しむ時間なんてないのさ。そんな事をやっているぐらいなら新たな魔術や技の習得、軍事訓練なんかに精を出すことになるだろうね」

「あら? でも私は御茶も読書も好きですわよ。まぁ、あまり没頭するだけの時間が取れなかったのは確かでしたけど……」

「なら、これから存分に楽しめばいーだろ。此処に作る町は魔界じゃねーんだからよ」


 少しだけ、しょげたような顔をアスタロテが見せたのを見て、浩助は思わず馴れ馴れしく言ってしまう。


 折角の初顔合わせなのだから、陰鬱な雰囲気は持ち込みたくない――、そんな思いでも働いたのだろう。


 アスタロテは一瞬きょとんとした表情を見せると、頬を染めて「そうですわね」と気品ある笑顔を見せてくれていた。


 それを見て、自分の言ったことは決して間違いではなかったと浩助も笑みを刻む。


「……となると、得意なのは戦闘かな? 物を作ったりはできませんか?」


 疑問の声を上げたのは拓斗だ。


 彼は、職人ギルドを率いていた時の癖なのか、他人の生産スキルをきちんと把握しようとするところがある。


 その不躾な質問に対しても、アスタロテは気を悪くすることもなく優雅に微笑んでみせていた。


「今は特に何かを作れるわけではありませんわ。ですが、興味はありますので、是非教えて頂きたく存じますわ」

「お! こりゃ、職人ギルドに新星現るかな? ……っていうか、職人ギルドって作る気なのか、浩助?」

「いや、拓斗がまた取り仕切る予定だったんだが? 言ってなかったか?」

「聞いてないよ! それに、また俺!?」

「じゃあ、今言ったわ」

「…………。慶次といい、浩助といい、事後報告が多過ぎるんだけど……」


 結局、引退して一週間ともたずに職人ギルドのマスターに返り咲いてしまった拓斗。


 元々、それなりに人望はあったのか、まばらな拍手と就任おめでとうと茶化すような声が響く。


 それが気になったのか、アスタロテは興味深げな視線を拓斗へと向ける。


「あら、責任ある立場の方でしたのね? 宜しければ、お名前を伺っても?」

「あぁ、鈴木拓斗だ。宜しく、アスタロテさん」

「こちらこそ、宜しくお願い致しますわ」


 差し出す拓斗の手をしっかりと握り返すアスタロテ。


 その優雅な仕草や、柔らかな物腰からは、どうしても彼女が魔界で荒くれ者共を抑えている実力者には見えない。


 だが、そんな実力者がわざわざキルメヒアの声に応じてくれたということは、頼もしくもあるわけで――、浩助としては嬉しい思いでいっぱいであった。


《あのさ、有馬……》

(何だよ?)


 そんな気持ちに水を差すようにして、沙也加から念話が届く。


《アスタロテさんって、魔界の貴族ってことは、それなりの地位に居る人でしょ? そんな人が勝手に魔界陣営を抜け出してきちゃって、こっちに来て良いのかな? 魔界の方で混乱とか起こりそうなんだけど……》

(その辺は、向こうも上と掛け合って、上手くやってるんじゃねーの? 人間側と友好を深めてきますとか何とか言ってさ。そんで、許可が降りたから、此処まで来てんじゃねーの?)

《……それなら良いんだけど、黙って出てきちゃったとかだったら、凄くトラブルの種になりそうだったから、一応尋ねてみたんだけど……。後で、キルメヒアさんに確認しておいてね?》

(分かったよ。心配性だな……)


 さすがにそれはまさかという思いはあるものの、相手はキルメヒアだ。


 もしかしたら、やりかねないという思いもある。


 この辺は、確かに、後で確認する必要があるだろう。


 今は、疲労感のある人々を徒に不安にさせないためにも、表立っては尋ねないことにする。


 とりあえず、和やかなムードを保ったままに、次の人物の紹介に移る。


「そんじゃ、次、頼むわ」

「――私の名は、ウエンディだ。宜しく頼む」

「…………。終わりかよ!?」


 え、それだけ? と人間側のみならず、魔族側からも驚きの視線を向けられて、ウエンディは逆に焦ったように辺りをキョロキョロと見回す。


 どうやら、自己紹介(こういったもの)に慣れていないらしい。


 助け舟を出すつもりはなかったのだが、それでもキルメヒアを此処まで運ぶのを手伝ってもらった義理もある。


 浩助は自ら進んで、ウエンディに対して質問を行っていた。


「魔界では何をやっていたんだ? やはり、アンタも戦闘が得意な部類なのか? それと、自己紹介なんだから顔ぐらい見せてくれねーか?」

「む、顔は確かにそうだな。いつもこの姿なので、時折忘れてしまうのだ。許して欲しい」


 そう言って、ウエンディは白銀の兜を脱ぐ。


 そこから現れたのは、長い金髪を団子状にして結った凛々しい表情をした少女の顔だ。


 ほう、と一部の女子から溜息が漏れ、一部の男子生徒からも「綺麗だ」などといった感嘆の声が漏れる。


 やはり、魔族は魔性の美貌を備えているという浩助の予想はあながち外れていなかったようである。


「あ、あまり、ジロジロ見ないで頂きたい!? わ、私はアスタロテ殿やキルメヒア殿と違って、そこまで美しくはないのだからな!?」


 ウエンディはそう言うとすぐに兜を被ってしまう。


 どうやら、自分の容姿にコンプレックスがあるようだが、それは人間の感性からしたらどの辺に劣等感を抱くのか分からないレベルの話だ。


 わざわざ兜を被って下を俯いてしまうウエンディを前にして、簀巻(キルメヒア)が補足する。


「あぁ、彼女は極度の照れ屋兼謙遜家なのだ。だから、からかうと面白いぞ」

「キルメヒア殿!?」

「なるほど、そいつは面白ぇな」

「貴殿までも!?」


 舌舐めずりする性悪二人に、ウエンディは背筋が震えるのを止められない。


 それを見兼ねたのか、浩助の持つ刀が光を放ち、直ぐ様、人間形態へと姿を変える。


 そして、現れた少女はそのままツカツカと浩助に近付くと、その頭をポカリとやっていた。


「痛えっ!?」

「調子に乗らないの! そもそも、キルメヒアさんを運ぶのを手伝って貰ったんだから、恩を仇で返すような真似はやめなさいよね! ……あ、ウチの有馬がご迷惑をお掛けしました」


 ペコリと頭を下げる沙也加を前にして、ウエンディは震える指先で沙也加を指し示した後、一旦、深呼吸をしてから再度疑問の声を投げかけていた。


「剣に化ける同族の方でしょうか……?」

「ブフーッ! お前、魔族に間違えられてやんの! 凶悪さは確かに魔族レベルだけどよぉ!」

「うっさい! 腕へし折るわよ!」


 軽く腕を取られて極められ、浩助はギブギブ言う羽目になる。


 何故か、速度が上がったはずの浩助でも、沙也加の関節技だけは躱すことができない。


 それだけ、洗練された技ということなのだろう。


 恐らくきっと。


「えぇっと、私は水原沙也加。普通の人間で、ちょっと刀に変身してしまうスキルがあるだけの女の子よ」

「おー、痛……。っていうか、普通ってなんだっけ?」

「……アンタがそれ言う?」


 思い切り沙也加に睨みつけられ、浩助は冷や汗を垂らしながら半歩後退る。


 まぁ、今はそんなことよりもウエンディの自己紹介の方が優先だろう。


 気を取り直して、視線をウエンディに向ける。


「――でだ。ウエンディは魔界では何をやってたんだ? やっぱり貴族だったりすんのか?」

「話、誤魔化す気ね……」


 視線を明後日の方向に向けて、浩助は華麗にスルー。


 この異世界に飛ばされてからというもの、浩助のスルースキルは日増しに磨かれているような気がしてならない。


「いや、それは違う。私はアスタロテ殿やキルメヒア殿と違って人の上に立つのが苦手だったからな。流しの傭兵のようなものをやっていた」


 ウエンディは生真面目にも、浩助の質問に答えてくれていた。


 どうやら、彼女は生真面目過ぎて、空気が読めないタイプらしい。


 それはそれで困る場面もあるだろうが、今だけは彼女が救いの女神のように見えて、浩助は心の中で思わず拝んでしまう。


 ちょっと、感謝の仕方が誤っている気がしないでもなかったが、まぁこの際細かいことは良いだろう。


「傭兵っていうと、やっぱり腕自慢なのか……」

「彼女は強いぞ~! 単体の戦闘能力でいえば魔界四天王と同格と評されている程だからな! 下手をすると自分でも討伐されかねないぞ~! ちなみに、自分もその魔界四天王の一人なのだよ! 驚いたかね? フハハハッ!」

「……今のキルメヒア殿でしたら、いざ知らず、本気のキルメヒア殿が相手となりましたら、私では及びませぬよ」

「し、四天王、かぁ……。うん……」


 キルメヒアの褒め言葉に、ウエンディは謙遜する。


 というか、魔界にも四天王という存在がいるのか、と浩助は渋い顔を見せていた。


 ちなみに、学園の方にも不良四天王とかいう恥ずかしいレッテルが存在し、浩助も不本意ながら頭数に数えられている。


 それ故の渋い顔であった。


「フハハハ! そんな私もアリーマに比べれば、雑魚同然なのだがな!」

『……はい?』

「さぁ、次の紹介に行ってみようかぁッ!?」


 アスタロテとウエンディが同時に上げた疑問の声を遮るようにして、浩助は元気良く続けるのであった。

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