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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第二章、変態吸血鬼の奇行に気を取られ過ぎて、謎の誘拐事件に巻き込まれた結果がコレだよ!
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37、欠損の冒険者

「お仕置き、ねぇ……」


 浩助はイウダ・ジ・オールの言葉を反芻しつつ、やれやれとばかりに(かぶり)を振る。


「……俺には世の中に(きれ)ぇなものが三つある。何か分かるか?」

「お仕置き、とでも言うのかな?」


 イウダ・ジ・オールの言葉に、呆れた嘆息を吐き出す浩助。


 そんな単純なものではないとでも言いたげだ。


「人混みと、裏切り者と、そして上から目線のクソヤローが大嫌(だいきれ)ぇなんだよ! 死に晒せッ!」


 闇具作成(ダーククリエイト)で、即座にガトリング砲を作り出し、浩助は弾幕を張る。


 一瞬で魔物の群れすらも壊滅させるだけの殲滅力を持っていたはずだった『それ』も、イウダ・ジ・オールの手前、一メートルほどの距離で紫色の光と共に虚空へと消え去ってしまっていた。


 まるで、闇の弾丸が元から夢幻であったかのように、綺麗さっぱりその姿がかき消されてしまう。


「チッ――」


 思わず、浩助の口から舌打ちが漏れる。


「君は馬鹿なのかね、有馬浩助? 言っただろう、私にはテュールシステムがあると」


 紫色の光が一瞬可視化する。


 それは、イウダ・ジ・オールの周囲一メートルを覆う球状の形をしていた。


 いや、イウダ・ジ・オールだけではない。


 彼が放つ光に呼応するようにして、壁や天井、更には床までもが紫色の光を発する。


 まさか、と思い、浩助は無詠唱のままに影走りを行使するが、その身が影の中に沈むことはなかった。


「こいつは……」

「物理攻撃も、魔法攻撃も無効化する不可視の盾、それがテュールシステムだ。それは、私だけではない。この部屋の壁や床や天井に至るまで、全てがテュールシステムを搭載している。つまり、君はこの部屋から魔法を使って逃げることもできないし、この部屋を壊すこともできない、そして、当然ながら、私を倒すこともできないというわけだ」


 だだっ広い、白を基調とした部屋は、四方を壁に囲まれ、入ってきた際の入り口さえも――今まさに隔壁で閉じられてしまった。


 そして、それらの壁は、今は薄っすらと紫色の光を放ち、イウダ・ジ・オールの言葉がハッタリではないことを如実に伝えている。


 つまり、浩助はこの部屋の中で、猫に追いかけられる鼠の如く、気が済むまでイウダ・ジ・オールにいたぶられなければならないということらしい。


「さて、君は馬鹿のようなので、もう一度言おう」


 イウダ・ジ・オールの表情は変わらない。


 そもそも表情など付いていない。


 だというのに、彼は実に愉しそうにしていると、浩助は感じていた。


「少々キツイお仕置きをしようか」

「…………。チッ、嫌な野郎だ」


 せめてもの抵抗とばかりに、浩助はその場に唾を吐き捨てるのであった。


     ●


「何がどうなったら、こうなるんスかねぇ……」

「まるで、怪獣が暴れた後だな。其処彼処に金属片が落ちていて歩き難くて敵わん。コトーミ、尖った金属片は踏まないように気をつけるのだぞ」

了解(ラジャ)ッス! しかし、有馬先輩……、本当に暴れたッスねぇ……」


 壁といい、扉といい、怪獣の爪痕と説明されても納得してしまいそうな、引き裂いた跡が其処彼処に残っている。


 それだけではない。


 廊下にはズタボロになって機能を停止した機械人形の姿も数多く見られた。


 湖の半ば辺りに入り口を構える、機甲種の地下拠点の通路を進みながら、キルメヒアと琴美は惨状を確認するように見て回る。


 最初は影走りなどで姿を隠しながらの潜入であったのだが、警備システム自体が死んでいるのか、防衛機能も働いていなかった為に、今では堂々と通路を歩いている程だ。


 ちなみに、現状までで機械人形との接敵はない。


 ただし――。


『キュィィィィ……ッ!』


 派手な音を立てて、半壊していた通路左側の扉から立派な甲殻を持った巨大な蟹のバケモノが現れる。


 いや、元々は立派だった甲殻――という方が正しいのだろう。


 今はその甲殻の半分が、削られるか、溶かされるかしたのか、青黒い脳の一部と紫色の筋肉を外気に晒している。


 これでは、如何に硬い甲殻といえども、意味を持たないことだろう。


『キュィィィィ……ッ!』


 蟹のバケモノのその大きな叫びは、気が狂いそうになる痛みによるものか、それとも仲間に助けを求める救難信号か。


 どちらにせよ、事が起こるよりも早く、キルメヒアは素手で蟹の脳味噌に腕を突っ込んでこねくり回し、その叫びを終わらせていた。


「うむ。腕が蟹臭くなってしまった。アリーマに嫌われないだろうか。少し心配だ」

「良くそんなことできるッスね……」


 琴美の表情は少し青い。


「魔族なら、この程度は当然だ。むしろ、魔術師の家系に生まれたキミが、死体を見慣れないというのはどうなのだ? 鶏や牛ぐらいなら、平気で儀式の為に殺しているのではないのか?」

「そんなレトロな魔術儀式なんてやってないッス。魔法陣描いたり、魔道書読んだりッスね。血が必要な時も自分の血をちょっとだけ使うぐらいッスし」

「ふむ、由緒正しき魔術師の家系が嘆かわしいものだ」

「日本に来て、オタク文化にハマって堕落した吸血鬼に言われたくはないッス」

「コトーミ、自分を詰るなら、もっと激しく詰ってくれないと困る!」

「そういう意味では言ってないッス! ……って、また来たッスよ!」


 またもや、半壊した扉の奥から、腕の長いゴリラのような生物が這い出してくる。


 キルメヒアは、一瞬でそのバケモノに近付くと、頭を掴むなり、硬い床に思い切り叩き付けていた。


 それだけで、バケモノの頭は高い所からトマトを落としたようになって動かなくなる。


 ……甲殻を半分失った蟹同様、そのゴリラには左腕が欠損していた。


「ふむ、考えたくはないことだが、コトーミ。……どうやら、彼らはこの施設内で生物実験のための試験体として扱われていたのではないだろうか? どうも、先程からの様子を見るに、自分にはそう見えて仕方がないのだが?」

「……それは、琴美も思ったッス。さっきから出てくるバケモノには統一性がないッスし、彼らは十全とした状態のものが少なかったッス……。でも、そう考えると……」


 湖の調査に出かけた冒険者たちの末路はどうなってしまったのか?


 自然とそこに帰結してしまうことを恐れて、琴美は言葉の先を言うことができなかった。


「……先に進むッス」

「そうだな」


 今も生きていれば良いのだがな――。


 キルメヒアはその言葉を喉の奥に飲み込むと、施設の中をじっくりと見て回る。


 場所によっては、壊れていない扉もあったため、キルメヒアの力でねじ開けたのだが、出てくるのは部位欠損した多様な魔物たちばかりであり、全てがキルメヒアの一撃によって等しく死を与えられるばかりだ。


「大丈夫か、コトーミ? 顔色が悪そうだが?」

「……キルメヒアさんは、強いッスね」

「まぁ、腐っても真祖だからな。腐女子力は高めだ」

「そういう意味じゃないッス……。琴美は、何だか出会う魔物に同情しちゃって、躊躇いを覚えてしまってるッス……」

「まぁ、それが普通の人間の心理だろう。知能ある生き物をいたぶって遊ぶのは、加虐趣味でもなければ愉しめんよ」

「キルメヒアさんも、その……、生き物をいたぶることに抵抗がない感じッスか……?」


 容赦なく魔物を殺して回るキルメヒアは、琴美の目にはそう映るのか。


 彼女は大袈裟に肩を竦めると、ぽんっと琴美の頭に手を置く。


「まさか、忘れたわけではないだろう」

「へ?」

「アリーマは、自分にコトーミを頼むと言っていたんだ」

「あっ……、つまり、琴美の身の安全を守るためにッスか?」

「違う。キミが酷く泣きそうで辛そうだったから、思いつめる時間を短くしているだけだ」


 キルメヒアはそう飄々と言い放つと――。


「あ、今のは良い台詞だと思うから、アリーマにアピールしてくれると嬉しいぞ」


 ――と続けていた。


 そんな冗談に、クスリと笑みを零し、琴美は自分の心が少しだけ軽くなったことを感じる。


 浩助は、キルメヒアのことをギャグキャラだの、お笑い芸人だのと言っていたが、気分が塞ぎがちな時は、本当にその個性(キャラクター)に救われることもあるのだ。


 それを琴美は、心の底から助かると思うのである。


「キルメヒアさんは、本当オイシイ性格してると思うッス」

「ふむ。これは食べられてしまうのかな? ……性的な意味で」

「そういう美味しいじゃないッス! ……あれ? 今、声が聞こえなかったッスか?」

「魔物ではないのか? ――おい、誰かいるのか!」


 キルメヒアが誰何の声を上げ、琴美の足が止まる。


 また、部位欠損をした魔物であろうか?


 それとも、生き残っていた防衛のための機械人形?


 だが、琴美の予想は大きく外れる。


「誰か、居るの……?」


 それは、琴美にも意味の分かる日本語であり、彼女はハッと驚きに満ちた表情をみせる。


 廊下に並ぶ半壊した扉のひとつから、ゆっくりと頭を巡らせ、少女が姿を現す。


 茶色がかった髪に、三つ編みと眼鏡といった姿は、キルメヒアでも良く分かる、人間の姿そのものだ。


「冒険者の……、生き残りッス、か……?」


 まさに信じられないものを見たといった様子の琴美の目が思わず潤む。


 最悪の想像すらしていた中、それこそ神の奇跡のように現れた少女は、手術衣のように簡素な布を纏い、戸惑った視線を琴美とキルメヒアに向けていた。


「あっ、怖がらなくて良いッス! 自分は美丘琴美って言うッス! 行方不明になっていた冒険者の皆を助けに来た……、味方ッス!」

「助けに……? 助けに来てくれたの……? 本当に……?」


 少女の顔が一瞬でくしゃくしゃに歪む。


 その表情が、彼女の今までの苦境を如実に語っているのは言うまでもないだろう。


「ありがとう……、ありがとう……、ありがとう……!」

「お礼を言いたいのは、こっちの方ッス……。生きていてくれて、本当に良かったッス……!」


 しゃくりをあげる少女を自然と抱きかかえる琴美。


 それを見るキルメヒアは、塔を建てるか、などと全く自重しないことを考えていたのだが、言葉には出さないで、それっぽい神妙な表情を見せていた。


 ……それで正解である。


「大丈夫ッス。もう、大丈夫ッスよ……! あと、すみませんッスがお名前を聞かせて貰っても宜しいッスか……?」

「私……、私は……、――加藤久美子と言います」


 加藤久美子――。


 ……そう、少女は名乗った。

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