表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第二章、変態吸血鬼の奇行に気を取られ過ぎて、謎の誘拐事件に巻き込まれた結果がコレだよ!
35/137

33、水棲水精

「ふむ。濡れ濡れで透け透け――、ムフフな感じだね。アリーマにコトーミ」


 水が引いたのを見計らって、キルメヒアは華麗に逆さツララの岩の先端に着地を決める。


 地面に立たなかったのは、恐らく同じような失敗をウンディーネの女王がやると睨んでのことだろう。


 そもそも、彼女(キルメヒア)は図ったように女王の登場を予知して、上空へと飛び去っていた。


 前に来た時も、同じような危地を脱していたのかもしれない。


「テメェ、ひとりだけ避けやがって……」

「被ったら、溶けて、再生まで時間が掛かるからな。すまないが、勘弁してくれ」

「でも、こうなることを予期していたような動きだったッスよね? キルメヒアさんは予想できてたんじゃないッスか?」

「フハハハ、それは変態の秘密だ!」

「コイツ、ついに自分から変態って言い始めたぞ……」


 げんなりしながら、浩助はボロボロだった制服の上着を脱ぐ。


 溶岩で焦げて、今度は湖の水に浸かり、さすがに最早服とも呼べない状態だ。


 ねこしぇに頼んで収納して貰い、彼はワシャワシャと髪を掻き毟っていた。


「――で、女王さんよ。アンタ、自分の娘が行方不明だっていうのに、随分とはしゃいでるんだな?」

「うぅ、すみません……」


 水の精霊の女王は平身低頭で、浩助に頭を下げる。


 その姿からは威厳も何もあったものではない。


「まぁ、俺たちを水浸しにしたことは、百歩譲って許すとしよう。……だけどよ、実の娘の行方が知れねーってのに、そのはしゃぎようはどーよ? 娘さんが知ったら泣くんじゃねーの?」

「うぅ、蜘蛛の魔物がウロウロしているせいで、洞窟の外に出られず、フラストレーションが溜まっていたんです……。少しはしゃぎ過ぎてしまいました……。って、――ハッ! 何で貴方は、そんな我々の事情を知っているんですか!? まさか、娘の家出を唆した犯人!?」

「違ぇよ! そこの変態に聞いたんだよ!」

「フハハハ、ウンディーネの女王よ! 安心し給え、彼らは自分の友人だ! つまり、キミの友人の友人と言うわけだ! 怪しい者ではないぞ!」


 変態が大きな胸を逸らしながら、逆さツララの上で高笑いをしている。


 何か、転びそうだなーと浩助が見ていたら、案の定、足を滑らせて流水に転げ落ちそうになっている。


 どうやら、根っからのギャグ体質らしい。


「そうだったのですか! なら安心ですね!」


 女王の頭の中はどういう構造をしているのだろう。


 かち割って中を見てみたい気もするぐらいアレだ。


 いや、この純粋というか……、阿呆というか……、な性格は精霊由来のものなのだろうか?


 浩助には比較対象がなさすぎて判断が出来ないが、そう思っておいた方が精神衛生上良さそうではあった。


「蜘蛛の魔物ッスか……」


 琴美が呟くのを聞いて、浩助も我に返る。


 そうだ。今重要なのはそこだ。


 どうやら、キルメヒアの言っていた通り、この湖を中心としてスフレ・スパイダーが暴れているようである。


 その裏が取れただけでも、此処にきた甲斐はあるのだろう。


「その蜘蛛の魔物が出現する位置は分かるか?」

「えぇっと、大体でしたらですけど……。あの、ところでお聞きしたいのですが……」

「何だ?」

「えぇっと、貴方がたは一体……?」


 まぁ、その辺は疑問に思うことだろう。


 キルメヒアの説明で完全に納得してしまうほど、女王は阿呆ではなかったようだ。


 それに敬意を表して名乗ろうとしたところで、浩助もまた女王の名前すら聞いていないことに気付く。


 出会いが衝撃的過ぎて、色々と端折り過ぎたか。


 コホン、と小さく咳払いすることで、一区切りを付けて続ける。


「あー、遅くなったが……、俺の名前は有馬浩助。んで、こっちは、美丘琴美。両方共ただの人間だ」

「ただの人間に、有馬先輩を含まないで欲しいッス……」


 琴美の呟きについて、浩助はあえて聞こえなかった振りをする。


 本人としては、脱人間を特に目指していないので、それに言及する気はないのだろう。


 あくまで、スルーだ。


「こっちから名乗ったんだ。アンタの名前も聞かせちゃくれねーか?」

「あーっと、申し遅れました! 私、ウンディーネの長をやっております、ティアと申します! よろしくお願い致します!」

「おう。夜露死苦な」

「あ、宜しくお願いしますッス」

「それで、今回はどのようなご用件で参られたのでしょう? そちらの吸血鬼さんと同じで家を建てに?」


 キルメヒアに視線をやる。


 彼女は、ウンディーネと交渉して、姫の確保と交換条件で、館を建てる許しを得たといっていたが、どう考えても、このゆるゆるな雰囲気だと許可など取らなくとも建てさせて貰えそうだ。


 これは、流水に恐れを為して、自分から交換条件に姫の救出を申し出たな――、と浩助はそんなことを考える。


「いんや、今回は俺の仲間を探しに来たんだ。俺と同じような人間が湖の調査に来ていたことは知っているか?」

「いえ、存じかねます」

「そっか。そいつが俺達の仲間なんだが、湖の調査に来て行方が分からなくなっちまってよ。アンタんトコとトラブってねーか調べに来たんだが……、その必要はねーみてーだな」

「えぇっと、有馬様と同じような生物は見かけておりませんね」

「それだけ聞ければ十分だ。……んで、もうひとつの方だ。蜘蛛型の魔物の大体の生息地みてーなのが分かるって言ってたな?」

「は、はい。大体ですけど……」

「それを教えてくれねーか?」

「えーっと、それでしたら、案内の者を付けましょう」


 ティアが精霊語で、ひとりのウンディーネを呼び出す。


 彼女は三日月型の湖に素早く飛び込むと、上半身だけを水面に浮かべて、浩助たちを見上げていた。


「彼女が案内してくれますので、その後を追って下さい」

「分かった」

「あの……、それと私の娘を見つけましたら、ちゃんと帰るように言って貰えないでしょうか? お母さん、もう怒ってないからと付け加えてくれると、なお、より一層嬉しいです」

「お、おう……」


 この様子だと、もしかしたらティアは娘がちょっと家出しているぐらいの認識なのかもしれない。


 そもそも行方不明というだけであって、まだ誘拐されたとは決まっていない。


 蜘蛛が誘拐したのではないかと言っているのも、キルメヒアだけなのだ。


 まぁ、その辺の疑問は、実際に謎の行動を行っている蜘蛛を見てみればはっきりするのかもしれない。


 ティアがぷち家出程度の認識で、気楽な気持ちで過ごせているなら、それはそれで良いのではないだろうか。


 浩助はあえて、ティアの認識を正すことはしなかった。


「もののついでで探して、見つかったら帰るように言ってやるよ」

「あ、ありがとうございますっ!」

「その代わり、娘さんを見つけたら何か礼をくれよ?」

「は、はい! も、もちろんですっ! 水の精霊の名にかけて!」

《やってることがアコギなのよね……》


 沙也加の言葉はもっともだったが、貰えるものが貰えるというなら、きちんとその権利を主張することも必要なことだ。


 単純に浩助がガメついだけではない。


「んじゃ、邪魔したな、ティア。……よし、すまねーが、案内頼む」


 湖に浸かっていたウンディーネがこくりと頷いて、小さな川を下っていく。


 下半身が引っ掛かって泳げないんじゃないかとも思ったが、そうでもないようだ。


 元々、不定形な生物だから、水のかさはあまり関係がないのだろう。


 のんびりしていては、見失ってしまいそうな速さでウンディーネは先行する。


「あ、はい。有馬様も。また遊びに来て下さいね~」


 最後までのんびりとした女王を背に、浩助たちは忙しなくウンディーネの洞窟を後にする。


 案内役に任命されたウンディーネは、浩助たちの事情などお構いなしとばかりに湖を突っ切っていく。


 もしかしたら、人間という種が泳ぎに優れていないということを知らないのかもしれない。


 仕方がないので、浩助はねこしぇに頼んで風火輪バイクを用意すると、それに乗ってウンディーネを追う。


 琴美は相変わらずシートで窮屈そうだったが、仕方がない。


 水面を蹴立てて進みながら、浩助は「傷は付けてねーけど、錆びたらやっぱりぶっ殺されるんだろーか……」と、割とどうでも良い心配をする。


 そんな妄想を掻き消すようにウンディーネの動きが止まり、浩助たちも慌てて湖畔にバイクを止めていた。


『この辺、蜘蛛、いる』


 ウンディーネが導き、指し示した場所はウンディーネの洞窟の丁度、対岸付近だ。


 こんな場所の動向を何故ウンディーネが知っているのかはさておき、浩助はバイクからおりて、ねこしぇの収納スキルで風火輪バイクを収納する。


『あんがとよ、助かった』


 浩助が精霊語で、そう感謝を返すと、案内のウンディーネは驚いたように目を見開き、そして嬉しそうに水に潜るなり、尻尾を水面に上げて、手のように振って棲家へと帰っていく。


 尻尾の『バイバイ』など、初めて見たがやられた側としては案外悪くない。


 浩助の口元に自然と笑みが浮かんでいた。


「さぁて、この辺で蜘蛛が出てくるらしーから探すぞ。――って、お前ら、何、変なもん見る目でこっち見てんだよ」

「いえ、有馬先輩って、語学堪能だったんッスね……。ちょっと吃驚しただけッス」

「うむ。自分も思わずアリーマを二度見してしまった」

「テメェらが、俺のことをどう思っているかはよーくわかった。後で、覚悟しとけよ」


 凄んでそう答えると、彼女たちは「ひぃぃっ」と言って互いに抱きつく。


 そういう態度が、浩助の癪に触るのだが、最早、このリアクションには慣れるしかないのだろう。


《大変ねぇ、有馬も》

「お前の性格ほどじゃねーよ」

《私は性格だけかもしれないけど、有馬は顔と性格の両方が残念じゃない》

「いんや、お前の性格は俺の四倍は悪い。だから、お前のほうが残念だ」

《女の子にそんなこと言ってる時点で、私の百倍は性格悪いわよ》

「……あのー、お二人共、底辺の争いはその辺にして頂けないッスか?」

『誰が底辺だ(よ)っ!』


 浩助と沙也加の声がハモる。


 そして、その二人の声に間髪入れずに追従する声が――。


「待ち給え! 底辺の会話ということなら、自分も含めてもらおうか!」

「「……がんばれ、変態。お前がナンバーワンだ」」


 図らずとも二人の声がハモる。


 そこまで同列に扱われたくはなかったのだろうか。


 キルメヒアが、「な、何故だ~!?」と芝居がかった動きをするのを完全スルーしながら、浩助は周囲を見回す。


 湖の畔ということで、そこまで背の高い樹が生えているわけでもなく、見晴らしはそこそこ良さそうだ。


 一歩踏み込めば、森林地帯に迷い込むだろうが、景色だけを見るなら静養地辺りを彷彿とさせる光景ではある。


 こんな場所にスフレ・スパイダーがウロウロしているのだろうか?


 違和感を覚えた浩助は連れに問う。


「水場に蜘蛛って棲むもんなのか?」

《私に聞かれても困るわよ。女ファーブルこと、琴美ちゃんなら知ってるんじゃないの?》

「変なアダ名付けないで欲しいッス。でも、蜘蛛はあんまり水場に巣は張らないッスよ。落ちたらヤバイッスしね。木の枝がよっぽど張り出しているとかでもない限り、ないと思うッス」

「ふむ……。だとしたら、あれはなんだ? 目の錯覚か何かか?」


 キルメヒアの言葉に振り向くと、そこには水面から続々と這い上がってくる蜘蛛の群れの姿が――。


「なるほど。そりゃ、水の精霊も水を介して、この辺に出てくるって察知するわけだ」

《感心している場合じゃないでしょ!? 蜘蛛が水から上がってくるなんて、絶対何かあるわよ!》

「フハハハ、とりあえず、探す手間が省けたのならば、問題あるまい! さぁ、我が愉快な仲間たちよ、その力を昆虫共に教えてやるのだ!」

《何か、そう聞くと自分たちが凄くしょっぱく聞こえるのは何でなのかしら?》

「気にすんな。気にしたら負けだ……。――来るぞ!」


 水から上がってきた水棲のスフレ・スパイダーたちは浩助たちの姿を見定めると同時に襲い掛かってくる。


 キルメヒアが琴美を背後に庇い、浩助が細雪を抜いて構える。


「昆虫相手じゃ、尋問もできやしねぇ……。さて、お仲間を何処に運んだのか、どうやって聞き出したもんかねぇ……」

「なぁに、少し痛めつければ、親分の所に泣きつきに行くだろうさ」

《つまり、変態スパイダーマッのところにまで行くのね……。――って、ここじゃない!》

「フハハハ! 風評被害甚だしくて、目からおツユが溢れてきちゃうぞ!」

「その流水で死なねーかな……」

「アリーマの言葉のナイフは、時に木の杭より鋭いなっ!? 子宮どっきんこだよ!?」


 割と本気で呟いていたのだが、今はそんな場合でもないか。


 謎が多い水棲スフレ・スパイダーを前に、浩助は緩みかけていた気持ちを改めて引き締め直すのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ