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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第二章、変態吸血鬼の奇行に気を取られ過ぎて、謎の誘拐事件に巻き込まれた結果がコレだよ!
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32、勇気の単車

 生徒会室での会議の後、とりあえずの方針として、まずはウンディーネに会って話を聞こうということでまとまった。


 冒険者と連絡が取れず、行方が分からなくなっているにも関わらず、随分とのんびりとした初動だとは思うが、ウンディーネと冒険者が(いさか)いを起こしたパターンもないとは言い切れないため、念の為に確認しておこうとなったのだ。


「随分とのんびりとしてるように思うんだが、大丈夫なのかこれ?」

「不安は皆同じよ。でも、手掛かりが少ないんだもの。やれることからやっていくしかないと思うわ」


 心の奥底に言い知れぬものを抱えているのは浩助だけではないというのか。

 

 沙也加の声も、どことなく固く感じる。


 新校舎の一階にある、彼らに割り当てられた生活スペースという名の教室――。


 そこに、浩助と沙也加は居た。


 未だ、彼らが出発していないのは、ひとえに生徒会長からの要請に他ならない。


『もし、連絡の付かなくなった冒険者パーティーがスフレ・スパイダーに襲われていたとした場合、どうしても怪我を直す回復魔法の使い手が必要になってくることだろう。その人材を用意するために、少し時間をくれないか?』


 流石に、そう言われてしまっては、浩助も待たざるを得ない。


 特に、浩助の場合は、攻撃能力に関しては学園の他の者の追随を許さないのだが、味方を治療したり、状態異常を回復したりといった回復系スキルの事となると途端に役立たずとなってしまう。


 それを考えた上でのサポートメンバーの選定だったのだろうが……。


 三十分後、教室に現れたのはキルメヒアと琴美の二人を連れた忍の姿であった。


「回復役を連れてくるから待てみてーな話だったと思ったんだが?」


 少し不機嫌そうな視線を忍に向けると、彼女はあからさまにビクリと背を震わせていた。


 その顔はとても申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「えぇっと、その……、目ぼしい方には連絡したんですが、今は手が離せないと断られてしまったり、来て頂いても協力者が吸血鬼だと聞くと尻込んでしまいまして……。その、美丘さんしか手伝ってくれる方がおりませんでした……」

「まぁ、一応、毒の知識があれば、薬の知識もあるってことッスし、聖魔法もレベル2までは使えるッスから、回復役としては何とかなると思うッスよ?」

「美丘の回復魔法には、そんなに疑問は挟んでねーんだけどな。どっちかってぇと、俺は体力的な面を不安視してんだよ」

「う……。えーっと、それはッスね……」


 琴美の目がどことも知れぬ宙を彷徨うようにして泳ぐ。

 

 彼女は生粋の魔法使いタイプだ。


 浩助が蜘蛛如きに遅れを取ることはないだろうが、それでも複数体の蜘蛛を相手にしながら、HPの少ない味方を守るというのは骨の折れる仕事である。


 更に言えば、浩助は壁役(タンク)ではない。


 相手の攻撃を受けずに躱し、相手が攻撃するよりも早く、相手を斃す――、それが浩助の戦闘スタイルに他ならない。


 味方を庇って盾になるなど、彼の貧弱な防御力では自殺行為になりかねなかった。


 故に、足手まといになるというのなら、この場に置いていこうと思っていたのだが……。


「……それについては問題ない。コトーミは自分が守ろう」

「テメェが?」


 ……頭痛の種に対し、そこは問題ないとばかりにキルメヒアが指を振る。


 言外に足手まといにならないのか、と含んだつもりだったが、キルメヒアは鷹揚に頷く。


「コトーミには、現代貨幣の調達や、日本の常識、最近の時事についてまで詳しく教えてもらったからな。恩を返すチャンスだと思って張り切らせて貰うよ。それに、自分で言うのもなんだが、結構頑丈なんでね。自分は」

「まぁ、ギャグキャラだしな」

「ギャグキャラだもんね」

「あぁっ! キミらの侮蔑の言葉が子宮にズキューーーンしてくるぅ~!?」


 一人で身悶えている吸血鬼(へんたい)は放っておいて、浩助は琴美の正面に立ち、真っ直ぐにその瞳を見据える。


「これから向かう場所は、何が起こるか分かんねー場所だ。それこそ、身の危険だって沢山あるだろーよ。それでも、そこに行くのに躊躇いはねーのか?」

「そんなの……、あるッスよ。でも――」


 琴美は浩助の瞳をしっかりと見つめ返して、曇りのない眼でこう言った。


「――人に頼られたの久しぶりなんスよ……。ずっと避けられて、一人で居たッスから……。だから、なんていうんスかね……。勿論、行くのは怖いんスけど……、それ以上に心がポカポカして……、やってやろうって思うんスよ!」


 瞳だけは真っ直ぐに、だが顔は泣き笑いのような表情になりながら琴美は言う。


 恐らくは、自分の中で揺れ動く気持ちに、上手く整理がついていないのだろう。


 おかしくなってしまったかのような感情を前にして、戸惑っているのを見た浩助はぽんっと琴美の頭に手を乗せる。


 妹をあやす時に良くやっていた癖だが、思わず出てしまったようだ。


 気恥ずかしさから、少しだけ耳先を赤く染めながら立ち上がる。


「ちゃんと、そういう気持ちがあって付いて来ようってんなら、問題ねーよ」

「でも、琴美は本当は怖いッス……。死ぬのは嫌ッスし……」

「それでも、頼られたからやってみよう、ってなったんだろ?」

「お人好し、ってことッスかね……」

「ちげーだろ」


 自嘲気味に笑う琴美に対して、それこそ浩助は呆れた表情を見せる。


「それは、勇気があるって言うんだよ」


 浩助の言葉に、じわりと滲むような笑顔を浮かべて、琴美は頷いてみせていた。


     ●


「――で、洛の奴は何処行ったんだ?」

「さぁ? そもそも生徒会室にも居なかったわよね」


 浩助たちは、ようやく準備が整ったとばかりに出発しようとしたのだが、そこで洛が居ないことにようやく気が付いた。


 現在は二手に分かれて、学内を捜索中である。


 見つかり次第、沙也加の念話、あるいは、忍の念話によって連絡を取る手筈となっている。


 浩助たちは下履きに着替え、校舎外を巡って洛を探す。


 逆に、忍と琴美、キルメヒアは校内を巡っていた。


「まぁ、別に連れて行く必要はねーんだけどさ」

「放っておくと、何しでかすか分からないところがあるから、ちゃんと言い聞かせておかないと不安なのよね」


 二人の顔はどちらも苦い笑みを湛えている。


 グラウンドへと、とりあえず足を向けて確認。


 ……洛はいないようだ。


 では、体育館裏はどうだろうか?


 浩助が踵を返そうとしたところで、彼の耳に鎚が金属を叩く音が聞こえてきた。


 何となく、洛がろくでもないことをやっている予感がする。


「……こっちだ。行ってみるぞ」

「……何か音が聞こえた気がしたけど?」

「だから行くんだよ!」


 浩助は走る。


 沙也加も走る。


 やがて、二人が辿り着いたのは自転車置場であった。


 そこには、生徒たちの自転車に混じって、原付きも混じって……。


 ――いや、どう見ても、原付きレベルじゃない立派な単車が混じっている。


 そして、それを、洛がコンコンコンコン好き勝手に鎚で叩いている。


「おま――、なにやってんだ、洛!? それ、慶次の単車じゃねーか!? 殺されっぞ!?」

「え、国崎君って、バイクで学校来てるの!?」

「驚くトコそこじゃねーだろ!? ってか、本人は単車も原付きもエンジン積んでるから一緒じゃねーかって言い張ってんだよ! じゃなくて、マジでそれはヤベーって! アイツ切れると手が付けられ――」


 浩助が警告を終えるよりも早く、彼は見てしまう。


 慶次の単車の両輪が外されて、地面に転がっているところを――。


「あばばばばばばばばばばば馬鹿ァァァァァァァァ――ッ!?」

「ちょ、ちょっとどうするのよっ!?」

「おう、浩助か。どうした――」

「ゲェ!? 慶次ッ!?」


 いつの間に背後にいたのだろうか。


 浩助は即座に移動し、変わり果てた姿になった単車の姿を自分の身で隠しつつ、表面上の笑顔を取り繕う。


「お、おう。ちょっとな――」

「ん? そこにあるのは、俺の単車じゃねぇのか?」

「き、気のせいじゃねーか……? よ、良くある単車だろ……?」

「誤魔化すってことは、俺の単車だな……。テメェ、俺と何年付き合ってっと思ってんだ……」


 急速なフェイントを混ぜつつ、慶次は浩助を躱す。


 それを阻止しようとした浩助だったが、慶次の急激な変化についていけず、その身を彼の視線から外していた。


 思わず体勢を崩し、尻もちをつきそうになる。


「うおっ!?」

「お前は昔からパワーはあるけど、考えなしなんだよ。こんなフェイントにすぐ引っ掛かる。強くなっても根本が変わってねーよ」

「それは、テメーが格闘スキル持ってるからだろーが!?」

「んで? 何で俺の単車を隠して――」

「――出来た!」


 洛が歓喜の声を上げ、慶次が凍りつく。


 そこにあったのは、単車の両輪を外され、その代わりに丸い球体がくっ付けられた、奇妙な乗り物であった。


 見栄え的には三百六十度、全方向に自走可能なデザインに見える。


 慶次はそれを見て、わなわなと震え、洛は自分の出来に満足なのか、胸を張る。


 一瞬で動き出したのは慶次だ。


 浩助が止める間もない動きで、慶次は洛の道服の胸倉を掴んで引き寄せる。


「テメェ、俺の相棒に何してやがんだ……!」


 ライダースジャケットが魂なら、単車は相棒か。


 思い切り洛を睨みつけるが、洛はきょとんとした顔で慶次を見つめる。


「泣いてた」

「アァッ!?」

「走れない、泣いてた、走りたい、泣いてた」

「テメェ、俺の相棒の声が……?」


 いやいやいや、騙されてるぞ、慶次! とは、流石の浩助も言えない。


 ただただ、話が変な方向に逸れないことを祈る。


「だから、走る、直した、早く、早く」

「俺の相棒の望みを叶えたっていうのか……?」

「相棒、乗って」


 洛に促され、慶次は変わり果てた姿となった相棒に跨る。


 エンジンを動かすために、キーを差し込もうとするが、それは洛に止められる。


「思うだけ、動く」

「相棒が、俺の意志に反応する……、と?」


 慶次がそれを理解するよりも早く、バイクが宙に浮く。


 普通なら、そのまま支えを失って転げてしまいそうなものだが、慶次は妙な安定感と共に座席に座ってハンドルを握り締めていた。


 宙に浮くバイク。


 エンジン音は特になく、安定性も高そうな足回りを確認して、浩助はようやくその球体が何であるのかに気付く。


「それ、もしかして、風火輪か!?」

「洛、付けた!」

「コイツは……、こうか……?」


 慶次がアクセルを回すと、それに呼応して、バイクはゆっくりと宙を滑るようにして前に進み始める。


 エンジンは動いていない。


 だが、恐らくは慶次の意志を汲み取って動いているのだろう。


 バイクは、彼の手足のように、思いを受け取って動く。


「なら、これならどうだ?」


 フロントを力任せに持ち上げると、バイクは徐々に上昇していく。


 逆に下げれば下降――。


 実に思い通りに、慶次の意志に沿ってバイクは動く。


「そうか。この世界でも風を切って走れるのか……」


 感慨深げにそう行って、慶次は地上に舞い戻る。


 サングラス越しの視線はしっかりと、ドヤ顔を崩さない洛の姿を捉えている。


「ルゥ、とか言ったか。テメェ……」


 慶次はビッと親指を上に立てていた。


「――良い腕してやがんぜ!」

「あんがと!」


 ビッと親指を立て返して、洛は満面の笑みを浮かべるのであった。


     ●


「おいっ、浩助! テメー、俺の相棒、ぶっ壊したらぶっ殺すからな!」

「分かってるって! ちょっと借りるだけだって何度も言ってんだろ! 傷一つ付けやしねーよ!」


 洛曰く、風火輪バイクと命名された単車に跨りながら、後ろでしがみついている二人に視線を向ける。


「やっぱ、三ケツはキツくねーか? ……変態は飛ぶかなんかしろよ!」

「フハハハ、そういう加虐趣味も嫌いじゃないが、今は一刻を争う事態かもしれぬ! 早く出発し給え!」

「うー、狭いッスぅぅ……」


 シートの上で身動ぎする琴美の色々な部分が浩助に密着する。


 彼女が一番後ろだと、非力過ぎて振り落とされかねないので、浩助とキルメヒアが挟む形で座っているのだが、これはこれで色々と問題がある気がしてならない。


「おい、浩助! 本当に、分かってんだろーな!?」

「分かってらぁ! それに、今は人命第一だ! 問答してる暇もねーよ! 傷付けずに綺麗に返してやるから、ちょっと待ってろ! ――んじゃ、行くぜ!」


 アクセルを握り込み、前輪を浮かせると、浩助たちを乗せたバイクは一気に上空へと飛び上がる。


 このバイクを作成したせいで、洛が付いて来られなくなったが、誰にでも使える長距離移動手段が増えたのは喜ぶべきことだろう。


 エンジン音もなく、快適に、浩助は空の上をぶっ飛ばす。


「変態! 湖はどっちにある!」

「もう見えている! 左手側の下だ!」


 上空から視線を落とすと、確かに黒くまっ平らな地形が見える。


 あれが、湖ということなのだろう。


 浩助はバイクのハンドルを切り、体を引き倒して急旋回する。


「あっ、あっ、安全運転で行って欲しいッス~!」

「急いでるんだ! 少しは目を瞑れ! で、ウンディーネの棲む洞窟っていうのは!?」

「湖の畔にあるのは確かなのだがな……。むぅ……、おっ! 多分、あそこだな! そのまま真っすぐ進み給え。そうすれば、山に面した、岩が折り重なったような洞窟の入り口が見えてくるはずだ」

《この距離で見えるの? 吸血鬼って、耳だけじゃなくて目も凄いのね……》

「目だけじゃないぞ! 色々と凄いのだよ! アレとか、アレもね!」

「まぁ、脳は残念だけどな」

「おぅふ!? 相変わらずアリーマの辛辣さは五臓六腑に染み渡るエクスタシーだッ!」

「喋るのは勝手だが、舌噛むなよ? 琴美が血でびちゃびちゃになるからな」

「自分ではなく、コトーミの心配とは! 自分妬けちゃうぞっ!」

「バイクに乗りながら、くねくねとした動きはやめて欲しいッス!?」


 ぎゃあぎゃあと後ろが五月蝿いのを放置しつつ、浩助はキルメヒアが指定した地点に向けてバイクを進めていく。


 やがて、周りの景色がはっきりと分かる頃合いになって、浩助はキルメヒアが言っていたように、岩が重なりあう洞窟の入り口を発見していた。


 ゆっくりとバイクの速度を落とし、その洞窟の手前で停車する。


「これか? ねこしぇ、皆が降りたらバイクをしまってくれ」

《はいですニャー》


 マントを翻し、下着姿を披露しながら飛び降りるキルメヒア。


 スカートの端を押さえながら、恐る恐る降りる琴美。


 その対応はまるで正反対であったが、二人が降りた途端、バイクが地面に飲まれるようにして消えてしまったのは変わらない。


 どうやら、収納スキルをバイクの下で発動したらしい。


 物を放り入れる手間が省ける、といったところだ。


「うっし、んじゃ入るか。……で? この洞窟は一体どれぐらいの長さがあるんだ?」

「そこまでではないぞ。大体五十メートルの一本道でそこから開けた場所へと繋がっている。ただ、足場は流水が流れていたりするから注意が必要だ。体が溶けてしまうからな!」

「そりゃ、お前だけの注意ポイントだ!? 濡れて足元が滑るから、転ばないよーにぐらい言えねーのかよ、ったく……」


 浩助は洞窟の中を覗き込む。


 洞窟は僅かばかりの角度の坂道となっており、そこから水がちょろちょろと流れ出ているのが見えた。


 その流れ出ている水が湖へと入り込み、その結果、幾つもの支流が森に流れ出ているといった仕組みになっているらしい。


 よくよく見ると、石が積み重なった洞窟の入り口も、先は山の中に続いている。


 この調子だと洞窟の中の開けた場所というのは、山の中腹辺りにでもあるのかもしれない。


「本当に水の精霊なのか? 山の精霊じゃないのか?」

「山の精霊は存在しないよ、アリーマ。居るのは、火、水、風、木、光、闇の六属性の精霊たちだけだ」

「ふーん。全員が全員、こっちの世界にいるとは限らねーとは思うけどな」


 軽口を返しながら、浩助はウンディーネの棲家に警戒しながら侵入していく。


 確率的に低いとはいえ、行方不明になった冒険者がウンディーネと敵対してしまった可能性だってある。


 いきなり襲われる危険性だって無いわけではないのだ。


 浩助はなるべく神経を尖らせつつ、坂道を登っていく。


「これは……」


 だが、結局、浩助の危惧するような結果にはならなかった。


 五十メートルほど坂道を登ったところで、目の前が突然開け、そこに広大な空間が広がっていたからだ。


 池のような小さな――言っても幅だけで五十メートルはありそうだが――三日月型の湖が存在し、至る所に鍾乳洞のような逆さのツララ岩が立っている。


 足元は、割と岩がゴツゴツして歩き難いのだが、水の精霊や水の妖精にとっては遊び場なのか、淡い水色の光が舞うようにして、追いかけっこをしているのが見かけられた。


 いや、それだけではない。


 岩場に、下半身が魚でできた女性が何人も寛いでいる。


 水が跳ねる音が聞こえたと思ったら、湖の中からも下半身が魚の女性――要するに、人魚だ――が、踊り出てくるのが見えた。


 それは、多分、形だけを見れば人魚なのだろうが、その全体像は大分違う。


 彼女たちの体は青白く透け、そして、淡く水色の光を発光していた。


 ともすれば、ぐにゃりと歪んで違う形にさえ変化しそうな雰囲気さえもある。


 それを神秘的と形容するのか、不気味と形容するのかは人の感性によって違うだろう。


 ウンディーネたちが物珍しげに、浩助たちを見て呟く。


『人間、だ』

『人間、ね』

『吸血鬼、いる』

『姫様、見つかった、かも?』

『とても、怖い、顔』

『ちっちゃい、女の子、可愛い』


 多分、彼女たちにしてみれば、素直な感想なのだろうが、浩助は微妙に怒りで肩を震わせていた。


 琴美は言語翻訳スキルがないため、彼女たちの言っている言葉の意味が分かっていない。


 それが、今は良い方向に進んでいるので、浩助はあえて通訳はしない。


 でも、顔面偏差値について言及した奴の顔はきっちり記憶に焼き付ける。


「ふむ。相も変わらず、何を言っているのか分からんな」


 腕を組んで、難しい顔と共にキルメヒアはうんうんと唸る。


 驚愕の事実に、浩助は思わず彼女の顔を見返してしまう。


「分からねーって……!? お前、ウンディーネと交渉したんじゃなかったのかよ!?」

「人族の言葉を解するのは、女王だけだ。有象無象に話しかけても、意思疎通が成り立つことはあるまい。おい、女王、居るのなら姿を現せ! 少し話がしたい!」

「意思疎通ができない……?」


 低レベルながら、言語翻訳スキルを取得している浩助にはウンディーネたちの言葉の意味が何となく通じている。


 意志の疎通をしようと思えば、多分、できるだろう。


 それよりも、今はウンディーネの女王とやらとの面会が先か。


 果たして、どのような相手が出てくることやら。


 浩助が身構える先で、湖の奥底から巨大な気配が上がってくるのを感じた。


 それは、とんでもないスピードで急浮上してきており――、


 ――気付いた時には、派手に水飛沫を上げて湖面に姿を現していた。


 小規模の津波のようなものが浩助たちを飲み込む。


「うえるか~む! ようこそ、ウンディーネの里にお越し下さいました~♪ ……あら?」


 キルメヒアは蝙蝠になって上空へと逃げ、浩助と琴美はずぶ濡れになった頭から水滴を払う。


 波に足を取られないために、岩場に突き刺した沙也加が《うわー、濡れたー》と嘆くのが聞こえる。


「随分なご挨拶だな……?」


 浩助のこめかみに青筋が浮かび、ウンディーネの王女は少しだけ乾いた笑いと共に、一筋の汗を頬に垂れ流すと――。


「ご、ごめんなさい……」


 そう言って頭を下げるのであった。

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