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フラれて自暴自棄になっていたところを異世界召喚された結果がコレだよ!  作者: 荒薙裕也
第二章、変態吸血鬼の奇行に気を取られ過ぎて、謎の誘拐事件に巻き込まれた結果がコレだよ!
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31、湖畔行方不明事件

「キミたちは、森の湖の調査をしていたようだが、どの程度まで調べたのだ?」


 まず、キルメヒアは鼻息荒く、そんな事を問う。


 だが、その質問の意図するところを掴みかねたのであろう。


 聖也が眉を寄せるのが見えた。


「それは、湖に棲んでいる魔物の種類や、湖の形、水質のことなどを言っているのかな?」


 生徒会室――もとい、ギルドマスターの部屋のスチール机を挟んで、聖也とキルメヒアの視線が真っ向からぶつかりあう。


 ともに思うところはあるのだろうが、今はその思いを胸に秘めて、口に登らせる気はないのだろう。


 いつまでも、睨み合っていても埒が明かないと思ったのか、聖也は忍に視線を向ける。


「…………。……大道寺君、彼女の質問に答えてあげられるかい?」

「はい。一応、危険ですので湖底に関しては調べていませんが、水質は魚が棲める程度には澄んでおり、また複数種の魔物が棲んでいるということも確認されています。湖の大きさは割と大きく、霧の出ていない時でないと、対岸が見えない程に広いと聞いていますが……」

「いや、そうじゃない。……うん、質問を変えよう。湖の(ほとり)にある洞窟は見つけたかね?」

「洞窟? そんな報告は受けていないが……、サブマスはどうかね?」

「こちらでも確認していません」


 生徒会役員二人が首を横に振ったのを見て、キルメヒアは「そうか」とばかりに椅子に深く座り込む。


 少し、気が抜けたといったところか。


「では、キミたちが認識していなかったとして教えよう。そこには、ウンディーネという種の水の精霊が棲んでいる。湖がそこに形成されているのは、彼女たちがそこに棲んでいるからだよ。彼女たちが棲むところは、大体、水が豊富に湧き出してくるらしいからね」

(水の精霊……っつーことは、妖精界の住人か? しかし、何でコイツはそんなに詳しいんだよ……)


 浩助の考えを知ることもなく、キルメヒアは実に吸血鬼らしい厭らしい笑みを浮かべて、クククッと笑う。


 その様は心底楽しそうで、底意地が悪そうだ。


「あぁ、ついでにもう一つ。湖の調査をするのであれば、まずは彼女たちに話を通すことから始めることをお勧めするよ。怒らせてからでは、大変なことになるからね。彼女たちは大自然の化身のようなものだ。気分一つで川が氾濫し、地形が変わる――、ゆめゆめ、軽く捉えぬことだよ」


 生唾を飲んだ音は、一体誰の喉元からだろうか。


 静かな緊張感が走る中、その空気を破ったのは浩助であった。


「つーことは、湖の調査に向かったパーティーから連絡が途絶えたのは、その水の精霊とやらを怒らせたから、その怒りを買ったってことか?」

「まぁ、その可能性はゼロとは言えないけど……、多分そうじゃないと自分は考えている」

「……その根拠を聞いても良いかね?」


 聖也が尋ねると、キルメヒアは鷹揚に頷き、続ける。


「まず、第一にウンディーネは、そこまで好戦的な種族でないということが挙げられる。彼女たちに対して、完全な敵対行動を取っていなければ、彼女(ウンディーネ)たちから積極的に仕掛けてくることはまずないだろう。まさか、キミたちもそこまで馬鹿ではないだろうしね」

「その辺は重々承知だ。洛君の一件で懲りたからね。異種族との交流が考えられる場合、無闇矢鱈(むやみやたら)な敵対行動は慎むように周知しているよ」


 肩を竦める聖也。


 実際、湖の調査部隊には、異種族との交流の際にはトラブルになるような過激な行動は取るなと言い含めている。


 そして、判断に困った時は冒険者ギルド側に念話を送って、相談することまで義務付けていた。


 その状態で、冒険者たちが勝手にウンディーネと事を構えるとは、とてもではないが考え難い。


 その回答に満足したのか、キルメヒアは大きく頷いていた。


「そうか、なら問題はないのだろうな」

「……引っ掛かる言い方だが、今は追及する気はない。それで、二つ目の理由は?」


 少し憮然とした表情の聖也を見て、キルメヒアは満足気な笑みを浮かべる。


「ふむ、それでは第二の理由なのだが……、彼女たちは今、他種族に構っている程、暇ではないということが挙げられるだろう」

「はぁ? 何だそりゃ?」


 水の精霊が忙しいとなれば、豪雨でも訪れるのか。


 浩助はそんな適当な理由を思い描くが、沙也加は違ったらしい。


 ハッとして、顔をあげる。


「もしかして、それが、キルメヒアちゃんが言っていた、蜘蛛の親玉になっていたことに関係してくるの……?」

「フハハハ、サヤーカ嬢は察しが良いな! 思わず股間が濡れてきてしまいそうだよ!」

「本当に濡らしてやろーか? テメェの血で?」


 浩助の凄んだ視線に「あぁ、言葉責めも有りだな!」とトキメキながらキルメヒアは続ける。


「まぁ、自分の知るところによると、どうやらウンディーネの女王とも呼べる個体の娘――要するに姫だな――が、スフレ・スパイダーの手によって(さら)われてしまったらしい。正直、彼女たちにとっては、そちらの方の捜索に手一杯で他種族の相手をしている暇もない。だから、人間の調査隊と進んで事を構える気もないだろうということさ」

「スフレ・スパイダーが、ウンディーネの姫を攫った? ……何でまた?」


 答えを求める浩助だが、これにはキルメヒアも肩を竦めるばかりだ。


「分からん。……分からなかったので、彼らの気持ちになってみるために、スフレ・スパイダーマッにまで扮装していたのだが、さっぱり分からなかった」

「発想が斜め上過ぎんだろッ!?」


 浩助が突っ込む中、話を冷静に聞いていた忍が、良く分からないとばかりに口を開く。


「えぇっと、キルメヒア、さんでしたか? 少し疑問に思ったのですけれど、何故、貴女はそんなにもウンディーネたちの実情に対して詳しいのですか?」


 それは、最もな疑問だ。


 浩助でさえも、その事情通ぶりに不信感を覚えた程である。


 疑念が視線となって集まったのに気付いたのか、キルメヒアは体をくねらせながら悶える。


「んんっ! あぁ~ッ! 皆の蔑むような視線が気持ちイィ~~――ッ! ……アリーマ、笑顔で銃口をこめかみに押し付けるのはやめてくれ。絶頂昇天してしまうぞ?」

「安心しろ、焼きつくして灰にしてグラウンドに撒いてやる」

「フハハハ、まぁ、冗談はこのくらいにして――」


 とても冗談とは聞こえない浩助の声音にビビったのか、キルメヒアは頬に一筋の汗を垂らしつつ、続ける。


「私がウンディーネの実情に詳しいのは当然だよ。私はウンディーネたちに会ってきたのだからね」


 キルメヒアはドヤ顔でそう言う。


「はぁ? 何でテメェが、水の精霊に会う必要があんだよ!? 湖に毒でも流そーってのか!?」

「失敬な! そんなことをしたら、ウンディーネたちに怒られてしまうだろう! そもそも、自分は流水が苦手なのだ! 彼女たちを怒らせて損になりこそすれ、得になることなど、ひとつもない!」


 ちょっと涙目になりながら、キルメヒアは語る。


 この様子を見る限りだと、本当にウンディーネを怖れているようだ。


 だが、それでは、何故、ウンディーネに会いに行ったのかという疑問が残る。


「じゃあ、何しに行ったんだよ……」


 浩助が代表して聞くと、キルメヒアはよくぞ聞いてくれたとばかりに、恍惚とした表情を見せていた。


「それは、勿論、館を作りたかったのだよ!」

「館だぁ~? テメェには魔王城とかに自分の居場所があんじゃねーのか?」

「勿論ある! だが――、湖があって! 妖精が居て! 吸血鬼も此処にいてッ! ――それなのに無いんだぞ!? だったら、建てなきゃ駄目だろう!? コウマ――、痛ッ!? な、何をする、アリーマ!?」

「何か、ろくでもない気配を感じた気がしたので、とりあえず殴っておいた!」

「理不尽だ! でも、そんなサディスティックな所も……、素敵だ……!」

「気持ち悪いわ! サブイボ出来るだろーが!」


 全身をワシャワシャと掻き毟る浩助。


 その様子を半眼で見つめながら、沙也加は尋ねる。


「それで? 湖の畔に館を建てて住みたかったから、ウンディーネに許可を取りに行って、実情を知ったということかしら?」

「ふむ。概ね正解だがひとつ違う。自分はウンディーネに姫を探すように頼まれた。そして、その報酬に湖の畔に館を建てる許可を貰ったのだ。善意ではなく、ギブアンドテイクの関係だな」

「それが、本当だとしたら、我々も恩を売っておいた方が良いだろうね」


 聖也がキルメヒアの言葉に乗る意向を見せるが、それとは別の問題が今は立ち上がっている。


「んな事よりも、連絡が取れなくなった冒険者の安否を確認する方が先じゃねーの? ウンディーネだかの姫さん探しは、後回しにすべきだろーよ」

「ふむ、アリーマよ。キミの友を(おもんばか)る友情……、腐としては大好物だが……、大好物だがっ! 少し察しが悪くもあるのだな? ――つまり、キミはネコ側だ!」

「さすが、キルメヒアさんッス! 琴美も有馬先輩はネコ側だと思ってたッス!」

「おぉ! 流石だ、同士コトーミよ!」

「キルメヒアさんこそ、流石ッス!」


 ガッチリと友情の握手を交わす二人を白けた視線で眺めながら、「それで?」と浩助は続きを促す。


 正直、浩助は彼女たちの言葉を一割も理解していない。


 いや、したくないというべきか。


「自分は最初に神隠しが起きている、と言ったはずだ。ウンディーネ側の証言から、『蜘蛛型の魔物が姫を攫った』という話だったので、自分は蜘蛛たちの動向を見守るために、スフレ・スパイダーを一箇所に集めながらスフレ・スパイダーマッとなっていたわけだが、その一方で、湖の畔に眷属を呼び出し、現場を見張らせていたのだ。犯人は現場に舞い戻るという有名な格言もあるわけだしな」

「それって、格言ってわけじゃないと思うんだけど……」


 沙也加がポツリと零すが、キルメヒアは聞いていないようであった。


 自分の言葉に酔うかの如く、バサリと外套を翻して腕を広げる。


「そうしたところ、湖周辺でスフレ・スパイダーが生物を襲い、その生物を何処かに持ち去っていくという目撃情報が得られたのだ!」

「スフレ・スパイダーが……、ですか?」


 忍は口元に手を当てて考えを絞りだすようにして、言葉を紡ぎ出す。


「でも、キルメヒアさんはスフレ・スパイダーの動向を見るために、一箇所に集めたと言っていましたよね? 彼らとは、また違う個体……、別の群れということなのでしょうか?」

「その辺は良く分からない。ただ、自分が見張っていたスフレ・スパイダーは、そういった奇妙な動作は欠片も見せなかったのは保証しよう」

「つまり、調査中だった冒険者たちも、そのスフレ・スパイダーに襲われて連れ去られたってことか? ついでに、ウンディーネとやらの姫さんも、か?」

「自分は、その可能性が高いと考えているよ」


 そう言って、キルメヒアは話を締め括る。


 湖周辺で起きている、スフレ・スパイダーによる無差別連続誘拐事件――。


 それが、一体何を指し示しているのかは分からないが、それに学園の冒険者たちが巻き込まれた可能性があるのは確かだろう。


 そして、その可能性を探るために、浩助たちは動かなければならない。


「そのスフレ・スパイダーの数や、どの辺に居たかといった情報は分かるのか?」

「眷属に詳しく聞いてみないと分からないな。だが、そう尋ねるということは、アリーマは自分の話を信じてくれたということで良いのかな?」


 試すような問いかけ。


 だが、浩助はそんな質問を鼻で笑うようにして一蹴する。


「騙すつもりなら、もう少し利口なやり方でやってんだろ。それに、俺は馬鹿だが、お前さんは馬鹿じゃねーからな」

「……?」

「誰に恩を売っといた方が良いか。……言うまでもなく理解してんだろ?」

「フハハッ、なるほど! 違いない!」


 破顔一笑。


 キルメヒアはとても愉快そうに笑い声を上げるのであった。

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